みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第10部 ボクの弟がこんなにシスコンなわけがない!

第11話 星美町へようこちょ♪

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士狼『自分を見つめ直す旅に出ます。探さないでください』


◇◇◇◇


「――よしっ、と。まあ大和田ちゃんへの連絡は、コレくらいで大丈夫だろう」
「何をしてるの士狼? さっさと降りないと置いて行くわよ?」
「ししょー、早くしないと降り損ねちゃうよ?」



 へぇーい、と生返事を返しながらスマホをポケットへと仕舞い込む。

 そのままラブリー☆マイエンジェルの手を1度だけ強く握り返しながら、先に駅のホームへと降り立った芽衣のもとへと駆けだす。

 途端にプシューッ! と電車のドアが閉まり、そのままガタンゴトンと次の駅へと発車していく。

 俺は今しがた降りたばかりの電車を見送りながら、肩にかかっているボストンバックをかけ直しつつ、ピュ~♪ と口笛を吹いてみせた。



「あっぶねぇ~。危うくワケの分からん町へと行くところだったわぁ」

「もう、士狼はココの土地勘が無いんだから、あまりアタシから離れるんじゃなわよ? 迷子になったら探すの大変なんだから」

「大丈夫だよ、メイちゃん。ボクも着いてるし、そう簡単に迷子にはならないよ!」



 だといいけど、と仲良く会話をしていく姉妹を無視して、俺は一通り駅のホームを――星美駅のホームをグルリッ! と見渡していた。



「はぁ~。流石は日本有数の観光地、星美町。森実駅と比べても比較にならないくらいバカデケェなぁ」



 そう、俺たちは今、森実の大地から離れ、双子姫の生まれ故郷にして、日本有数の観光地である星美町へとやってきていた。

 というのも、事の発端は3時間前。

 大和田ちゃんの『遊び』と言う名の強制家宅捜査から身を守るため、俺たちは芽衣の提案により、星美町にある古羊家でお世話になることになったのだ。

 もともと2人の両親が「年末くらい帰っておいで?」と言っていたこともあり、特にトラブルも何もなく、あれよあれよという間に、俺たちは星美駅へと到着していた。



「森実も森実でいい所じゃない。まぁ、地元を褒められて悪い気はしないけどね」



 そう言って、上機嫌に微笑むのは、もちろん我らが女神さまこと、古羊芽衣その人である。

 芽衣はいつか見た白のニットに白のニーハイ、そして頭にちょこんと乗っかっている真っ白なふわふわのベレー帽を身に纏い、上品にクスクス♪ と笑ってみせる。

 途端に駅のホームを歩いていた男たちが、芽衣の妖艶な姿に釘づけになってしまう。

 芽衣に夢中で柱にぶつかる者もいれば、盛大にコケる者など、ちょっとしたテロリズムが発生するが、当の本人は全くもって気づいていないからたちが悪い。



「んん~っ! なんだか我が家に帰ってきたって感じがするよね! って、まだ気が早いかな?」



 ふふっ! と、心底楽しそうに笑みを深める爆乳わん娘の服装は、いつもの童貞には刺激が強すぎる装いではなかった。

 こちらもクリスマス前に見た、ふわふわ♪ のキャラメルカラーのコートに、黒の縦縞のワンピースと、どことなく上品で清潔感を与えてくる装いだ。

 そんな美少女2人を侍らせるイケメンな俺に、男たちの視線が矢のようにザクザク刺さる。

 ソレが余計に俺の優越感を高めてくれる。



「ふっふっふっ! 貴様らの非難がましい視線なんぞ、そよ風のようなもの……むしろ心地良いわい! ガッハッハッハッハッ!」

「……ナニを急に1人で笑い出しているのよ、士狼?」
「ど、どうしたの、ししょー? ど、どこか具合悪いの?」
「いやなに、ちょっとこの世の最上級の優越感を味わっていただけだ。問題ない」



 何言ってんだコイツ? と、呆れた瞳を向けてくる美少女2人を尻目に、俺はブルリッ!?と身体を震わせた。



「それにしても、ココさみぃなぁ。この一帯だけ氷河期なんじゃねぇの?」

「いや、士狼の格好のせいでしょ? 何でカーゴパンツに上半身裸のまま、スカジャンだけ羽織るスタイルなワケ? どういうファッションセンスしてるのよ?」

「えっ? カッコよくない、コレ? なぁ、よこたん?」
「あ、あはは……ノーコメントで」



 白い息を口から吐きながら、サッ! と目を逸らす、我らがマイエンジェル。

 どうやら、あまりの俺のカッコよさに直視できないらしい。

 またしても幼気いたいけな少女を虜にしてしまった……。

 まったく、罪な男だなぁ、俺は。

 自分の溢れんばかりの魅力に罪悪感を抱いていると、芽衣がグッ! と俺の背中を強めに押してきた。



「ほらほらっ! こんな所で立ち止まってないで、早く行くわよ。歩けば少しは温まるハズでしょ?」

「ほいほい。よしっ! 行こうぜ、よこたん」
「う、うんっ!」



 俺たちは他愛もない雑談を交わしつつ、階段を上り改札口の方へと歩いて行く。

 それにしてもさすがは観光地……人がゴミのようだ!

 未来のラピュタ王のような事を内心つぶやきながら、俺たちは改札口を抜けた。

 途端に、いつも見ている森実の町並みとはまったく違う風景に、思わず感嘆の声をあげてしまう。



「おぉ~っ!? すごい景色だぁ!」



 大き目なバスターミナルのすぐ脇に降り立った俺の目に飛び込んできたのは、まさにTHE・都会と言わんばかりのビル群であった。

 まさに『大都会岡山(笑)』ではお目にかかる事ができない光景である。

 感動的だぁっ!



「ここら辺は土地開発が進んでいるから、ちょっと近代的だけど、もう少し歩けば、こんな所と比較にならないくらい凄いわよ? なんせ昔ながらの町並みが見られる、日本でも有数の観光名所なんだから」
「マジでか!? メッチャ気になる! 行こう、行こう! すぐに行こう!」
「お、落ち着いて、ししょー? 明日ちゃんと案内してあげるから。だからまずは、ボクたちのお家に行こう、ね?」
「わかったよ……。でも、明日絶対に案内しろよ! 約束だぞ!?」



「わかったよぉ」と苦笑を浮かべる爆乳わんから視線を切り、再びターミナルの方へと意識を向ける。

 心なしかターミナルの後ろからご来光が見えるかのようだ。

 やはり新しい土地というのは気持ちがワクワク♪ してしまうもので、気がつくと、俺のテンションは限界突破の天井知らずとなっていた。



「へへっ、今年の冬休みは楽しい休みになりそうだ!」



 期待を胸に、大きく息を吸い込む。

 途端に鼻腔に甘酸っぱい匂いが突き抜けていく。

 俺は、この星美の町で、どんな出会いをするんだろう?

 わくわくっ! に突き動かされるように、俺は大きく1歩踏み出した。



「おろっ!? おろろろろろろろろぉ~っ!?」


 

 ――瞬間、すぐ傍でうずくまっていた男の吐瀉物としゃぶつエックスのビチビチビチッ♪ と言う音が、鼓膜を蹂躙じゅうりんした。




「……台無しだぜボーイ……っ!」

「ちょっ!? 言ってる場合じゃないでしょ士狼!? あの人、大丈夫なの!? マーライオンのごとく口から物体Xを出し続けてるけど!?」

「か、体が痙攣し始めたよ!? きゅ、救急車を呼んだ方がいいかな!?」



 うめいてガックリ頭を抱える俺。

 おののく芽衣。

 スマホ片手にオロオロする爆乳わん娘。

 そしていまだに死にかけのゴキブリよろしく、口からハイドロポンプし続ける謎の男。

 今日も今日とて、俺の周りは平常運転である。
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