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第10部 ボクの弟がこんなにシスコンなわけがない!
第19話 幸せ家族計画(ガチ)
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古羊家で朝食をいただいた俺は、満腹感と幸福感を同時に味わいつつ、古羊弟に導かれるように、とある店へと足を運んでいた。
「弟よ、ここは?」
「ここはウチの両親が経営している店だ。ここの奥まった席なら、誰にも聞かれることなく、秘密裏に会話することが可能だ」
「ちなみに名前はね、『オールドシープ』って言うんだよ!」
「どうよ? レトロでいい雰囲気のお店でしょ、士狼?」
「……というか、なんでヨーコ姉とメイ姉まで、ココに居るんだよ?」
弟は俺の両隣に陣取っている双子姫に、湿った視線を送っていた。
その言動から「どっか行ってくれ。ヨーコ姉以外」という思いが節々と感じられたが、その程度でコイツらが腰をあげるワケもなく、終始ニコニコ♪ したまま、お店の中を見渡していた。
さすがは森実が誇るメンタル☆ダイヤモンドなだけはある。
もうふてぶてしさの塊じゃん、コイツら。
「ご、ごめんねヨーくん? お話の邪魔しちゃって? でも、お姉ちゃんも、ちょっと理由があってね? ししょー……オオカミくんと離れるワケには、いかないんだよ」
わかって? と、弟に優しい目を向けるラブリー☆マイエンジェルよこたん。
そんな姉とは対照的に、弟は怪訝そうな瞳のまま、俺とよこたんの繋がっている手を、青い顔を浮かべて凝視していた。
「な、なぁヨーコ姉? ずっと疑問に思っていたんだけどさ? ヨーコ姉と喧嘩狼は、その……どういう関係なワケ? ま、まままっ!? まさか、その……こ、ここここここここっ!? 恋人、的なアレじゃないよね!? ねっ!?」
「ほへっ!? ちちち、違うよぉっ!? ま、まだ恋人じゃないよぉっ!?」
「ま、『まだ』!? 『まだ』ということは、今度その予定があると!? そういう事なの、ヨーコ姉!?」
「はうぅっ!?」
えっと、えっとぉっ!? と、お目々(めめ)をグルグルッ!? させながら、顔をトマトのように真っ赤にさせ、ポピーっ!? と頭上から湯気を発散させる、大天使よこたん。
すげぇ、どうやってんのソレ?
今度教えて?
よこたんの周りだけ、ほんのり温かいので、思わず微睡んでしまいそうになるが、反対側を陣取っている芽衣のブリザードの如き威圧感により、一瞬で目が覚める。
なんでこの女は、ニコニコしながら絶対零度よろしく、身体から冷気を発散させることが出来るのだろうか?
ヤダ、冷たきこと氷の如しじゃん、コイツ?
芽衣と雪の女王じゃん。
ヤッベ、映画化しそう。
「洋介、違うわよ? 洋子と士狼は同じ生徒会役員同士というだけで、それ以上でも、それ以下でもないわ。ね、士狼?」
もはや脅迫に誓いプレッシャーを放つ芽衣に、自然と生唾を飲みこんでしまう。
確かに爆乳わん娘は同じ生徒会役員同士だが、ぶっちゃけそれ以上の気持ちを抱いていない事はない。
ただ、そこから先へ1歩踏み出そうとすると、どうしても鹿目ちゃんの顔がチラついて、足が竦んでしまう。
そんな状態で彼女に好意を伝えるのは、なんだか失礼なような気がするのだ。
だから俺は言う。
全ての気持ちを胸の奥底に沈めこんで、いつも通りの俺――大神士狼として、爽やかに、クールに、イケメンボイスで、ロマンティックさを演出しながら、卓抜なる台詞回しで、
「よく分かったな弟よ。そうだぞ。おまえの姉ちゃんはな、俺と結婚して、温かな家庭を築いていくんだ。おまえの姉ちゃんみたいな可愛い娘を3人作って、一緒にお風呂を入っているときに全員から『将来はパパのお嫁さんになるのぉ~♪』なんて言われてさっ! 俺は涙を流しながら幸せを噛みしめて――」
――怖いっ! 自分が怖いっ!?
いやいや待て、待ってくれ!?
胸に秘めたハズの俺の気持ちが、全て漏れなく駄々漏れどころか、トップギアのままアクセル吹かして、どっか飛んで行ったぞ!?
なんだよ、よこたんみたいな可愛い3姉妹って?
マジのガチで幸せ家族計画じゃないか!
そりゃ、よこたん似のというか、俺とラブリー☆マイエンジェルの愛の結晶である美少女3姉妹から『将来はパパのお嫁さんになるのぉ~♪』とか言われようものなら、大神士狼史上、類を見ないほどの幸せを噛みしめる事になるのは間違いないのだろうが、いかんせん、それを未だ穢れを知らない童貞野郎が口にする事の気持ち悪さと言ったら……もう他の追随を許さないレベルだ!
真冬だというのに、全身の毛穴から変な汗がフォンデュのように溢れ出てくる。
俺はおそるおそるといった様子で、よこたんの顔をチラッ! と盗み見た。
告白どころかプロポーズ以上の言葉を、半ば奇襲的に喰らった爆乳わん娘は「は、はふぅ……」と妙な呻き声と共に俯(うつむ)いてしまい、よく見れば耳朶まで真っ赤に染まっていて……アレ?
も、もしかしてコレ、まさかの成功じゃね?
コレはアレですか?
三姉妹を作るとなると早い方がいいから、さっそくこの場で「レッツコンバインしましょ♪」ってなるのか?
いやでも、ココには芽衣も弟も居るわけで、みんなに見られながらなんて、そんなマニアックな。
最初はロマンティックにイクのがシロウ・オオカミスタイルなのだが……まぁそのアンタッチャブルぶりも、嫌いじゃないぜ?
どぉれ! さっそくレッツコンバインへと洒落こむ――
「ふふっ、相変わらず士狼は面白い冗談が大好きねぇ~?」
……うん、分かってた。
『そういう展開は無いんだろうなぁ』って事くらい、シロウ知ってた。
スカジャンのジッパーを下ろそうとした俺の手を、芽衣が尋常ならざる力もって握り締めてくる。
もうね、このままじゃ邪神が生まれちゃうんじゃねぇの? って、コッチが心配になるくらい、黒くてドロドロしい雰囲気をまき散らしてるのよね、彼女。
おかげで俺はおろか、よこたんや弟くん、果ては席から溢れ出た邪気に当てられたお客さんまでもが、ブルブルッ!? と可哀そうなくらい震えている始末っていうね。
芽衣はそのどこまでも暗い瞳で、まっすぐ俺だけを射抜きながら。
「いやぁ、まさか士狼にそんな迫真の演技が出来ただなんて、驚いちゃったわ、アタシ。ほんと驚き過ぎて、殺してやろうかと思ちゃったくらいよ。……というか、演技なのよねアレ? 演技じゃなかったらどうしようアレ? 演技だと言いなさい。演技だと、言え」
「あ、当たり前田のクラッカーじゃ~ん! 『敵を欺くには、まず芽衣ちゃんから』って言葉を知らねぇの、おまえ!?」
アハハハハッ! と、笑い合う俺たち。
ほんと楽しそうに笑うよなぁ、芽衣のヤツ♪
……目以外は。
いやぁ、もうビビるよ?
口元は綺麗な弧を描いている癖に、瞳は爛々と血走っているんだぜ?
小学生が見たら全力で号泣しているところだわ。
まるで「男なんて発情期のバカなワンちゃん」とでも言いたげな瞳を前に、笑う事しか出来ないシロウ・オオカミ。
あぁっ! ヘタレだと罵るがいいさ!
醜かろうが何だろうが、俺は泥水を啜ってでも生きてやるぞ!
「つ、つまり、どういうことだ……? 結局、喧嘩狼とヨーコ姉は付き合ってるの?」
「まさか! 2人ともイイ友人関係よ。ね、洋子?」
「ほえっ? そ、それはそのぉ――」
「……ね、洋子?」
「う、うん……ソウデス。その通りデス!」
ギギギギッ! と、錆びたブリキのオモチャのように、首を縦に振る、よこたん。
うんうん♪
分かる、分かるぞぉ。
今の芽衣には逆らえる気がしないよな?
俺もだ❤
「ほ、本当に? 嘘じゃない? 嘘だったら自殺するよ、オレ?」
「本当よ。それよりも、いいの? 洋介、何か士狼にお願いがあったんじゃないの?」
「あっ、そうだった! ……あの、メイ姉もヨーコ姉も、今から言うことは他言無用で頼むな?」
「う、うん! お姉ちゃん口は固いからね! 絶対に誰にも言わないよ!」
「同じく、アタシも口は固い方だから大丈夫よ」
「うんうん。芽衣は口も固ければ、胸も固い拳が肩を抉ってきて痛いぃぃぃぃぃぃっ!?」
「あら、ごめんなさい士狼? 肩に蚊が止まっていたものだから、つい」
うふふっ♪ と、微笑を浮かべながら、ゴキゴキッ! と拳を握りしめるマイ・マスター。
なるほど。
余計なコトは言うなと、そういうことですね? 分かります。
古羊弟はしばし困惑したように俺たちを見つめていたが、やがて覚悟を決めたのか、やけにシリアス全開の口調で唇を動かした。
「喧嘩狼は【鬼人會】という組織を知ってるか?」
「キジンカイ? キカ●ダーなら知ってるけど」
「キカ……えっ? なにそれ? メイ姉、知ってる?」
「知らね」
「世代の差を感じてムカついたから、もう帰るわ」
「わぁ~っ!? 待って、待って!? ししょー待って!?」
席を立とうとする俺の身体にしがみつく、大天使よこたん。
すまんな、よこたん?
キカ●ダーを知らないヤツに話すことなんて、もう何も無いんだわ。
というか、なんでキカ●ダー知らないんだよ?
キカ●ダーって義務教育で習うもんじゃないの?
もしかしてウチだけですか?
ちょっとしたジェネエーションギャップを味わっていると、弟は俺たちの様子をガン無視して、丁寧に今、星美町が置かれている状況を説明してくれた。
「【鬼人會】っていうのは、【東京卍帝国】の主要チームの1つにして、『ハニービー』と並んで最凶最悪の喧嘩屋集団と言われている組織のことだよ。……実は、その鬼人會が今、この星美町に滞在していて、『不良狩り』と称して星美に住む半グレ集団を片っ端から掃討し、自分たちのチームに強制的に入会させているんだよ」
もうこの一帯の男たちは、みんな鬼人會に吸収されちまった。
と難しい顔をしてそう宣、弟。
「残されているのは、オレたち星美男子高校だけ……。でも、このままじゃ確実にウチは鬼人會に吸収されてしまう。そうなったらもう、オレたちの星美は……」
頼む、喧嘩狼!
オレに、オレたちに『喧嘩狼』の力を貸してくれ!
謝礼ならいくらでもする!
だからどうか、どうか!
と、机に額を擦りつけながら、搾り出すような声音で俺に頭を下げる古羊弟。
そんな弟を前に「ヨーくん!?」と取り乱す実姉。
2人とも、今にも泣き出しそうなくら切羽詰っているのが分かった。
その瞬間、俺の中でカチリッ! と何かのスイッチの入る音がした。
「……よし、わかった。俺に何が出来るか分からんが、俺の持てる限りの力を全部貸してやるよ」
「ッ!? マジでか! 助かるっ!」
「ちょっ!? 待ちなさい士狼! そんな簡単に決めてもいいの? もっとジックリ時間をかけて、精査した方がよくない?」
「いいんだよ。男がプライドを捨ててまで、頭を下げてるんだぞ? なら、その心意気を買ってやるのが、人情ってもんだろうが」
それに、と俺は今にも泣き出しそうだった我が1番弟子に親指を向けながら、芽衣に言ってやった。
「よこたんの弟は俺の弟分。コイツの彼氏は俺のアニキ分。コイツの友達は俺の友達。生徒会に関わる全ての身内は、俺の身内だ。その身内にちょっかい出して、タダで済ませるワケがないだろう?」
「あ、アンタは……ハァ~。……まぁ、士狼はそういう男よね。ほんとバカ真っ直ぐな男なんだから」
「惚れた?」
「~~~~っ!? ば、バーカっ!」
ニッ! と笑みを浮かべて見せると、何故か頬を赤らめそっぽを向いてしまう芽衣。
えぇ~っ?
ちょっとしたお茶目なジョークじゃ~ん?
そんな怒らないでよぉ。
ふぇぇぇ~んっ!? と、心の中で萌え萌えしい声を出していると、クイクイッ! とスカジャンの裾を爆乳わん娘に引っ張られた。
見ると、よこたんがほにゃっ! とした笑みを浮かべて、小さく頭を下げてきた。
「し、ししょー、ありがとうね……?」
「おうっ。あとは俺に任せてっ! よこたんは、いつも通り、アホっぽい笑みを浮かべとけ! そっちの方が俺は落ち着く」
「あ、アホっぽいって!? 酷いよ、ししょ~っ!」
ぷくぅ~っ! と、風船のようにマイ☆エンジェルの頬が膨らむ。
すかさず俺がそのぷっくり膨らんだ頬を、人差し指でブスッ! と押しつぶした。
途端に、ぷすぅ~っ! と、よこたんの唇から情けない音が漏れる。
「もうっ! もうっ! 酷いよ、ししょーっ!」
「ガハハハハッ! これだから、よこたんをイジるのは止められない!」
「おい、喧嘩狼? もう1度確認しとくが……ヨーコ姉とは付き合ってないんだよな?」
何故か再び、敵意と疑惑の視線を向けてくる古羊弟。
その瞳は獲物を前にした狩人のソレで……おいおい?
心配せんでも、ちゃんと結婚式には呼んでやるら!
だから安心しろって?
と、俺が口を開くよりも早く、店の方から学ランに顎鬚という、アンタッチャブルな出で立ちをした男がやってきた。
「た、大変だ、洋! 大変な事になっちまった!?」
「小太郎? どうした? そんなに息を切らして?」
古羊弟は、顎髭こと小太郎少年の顔を怪訝そうに見上げる。
もちろん俺たちも同じような顔をして、小太郎少年の方を見上げていた。
小太郎少年は俺たちの方など見向きもせず、まっすぐ古羊弟だけを見据えて、震える唇を必死に統率し、こう言った。
「あ、アフロがっ! アフロが【東京卍帝国】に……鬼人會のヤツらに捕まった!」
瞬間、弟は顔色を変え、席を立ち上がっていた。
「弟よ、ここは?」
「ここはウチの両親が経営している店だ。ここの奥まった席なら、誰にも聞かれることなく、秘密裏に会話することが可能だ」
「ちなみに名前はね、『オールドシープ』って言うんだよ!」
「どうよ? レトロでいい雰囲気のお店でしょ、士狼?」
「……というか、なんでヨーコ姉とメイ姉まで、ココに居るんだよ?」
弟は俺の両隣に陣取っている双子姫に、湿った視線を送っていた。
その言動から「どっか行ってくれ。ヨーコ姉以外」という思いが節々と感じられたが、その程度でコイツらが腰をあげるワケもなく、終始ニコニコ♪ したまま、お店の中を見渡していた。
さすがは森実が誇るメンタル☆ダイヤモンドなだけはある。
もうふてぶてしさの塊じゃん、コイツら。
「ご、ごめんねヨーくん? お話の邪魔しちゃって? でも、お姉ちゃんも、ちょっと理由があってね? ししょー……オオカミくんと離れるワケには、いかないんだよ」
わかって? と、弟に優しい目を向けるラブリー☆マイエンジェルよこたん。
そんな姉とは対照的に、弟は怪訝そうな瞳のまま、俺とよこたんの繋がっている手を、青い顔を浮かべて凝視していた。
「な、なぁヨーコ姉? ずっと疑問に思っていたんだけどさ? ヨーコ姉と喧嘩狼は、その……どういう関係なワケ? ま、まままっ!? まさか、その……こ、ここここここここっ!? 恋人、的なアレじゃないよね!? ねっ!?」
「ほへっ!? ちちち、違うよぉっ!? ま、まだ恋人じゃないよぉっ!?」
「ま、『まだ』!? 『まだ』ということは、今度その予定があると!? そういう事なの、ヨーコ姉!?」
「はうぅっ!?」
えっと、えっとぉっ!? と、お目々(めめ)をグルグルッ!? させながら、顔をトマトのように真っ赤にさせ、ポピーっ!? と頭上から湯気を発散させる、大天使よこたん。
すげぇ、どうやってんのソレ?
今度教えて?
よこたんの周りだけ、ほんのり温かいので、思わず微睡んでしまいそうになるが、反対側を陣取っている芽衣のブリザードの如き威圧感により、一瞬で目が覚める。
なんでこの女は、ニコニコしながら絶対零度よろしく、身体から冷気を発散させることが出来るのだろうか?
ヤダ、冷たきこと氷の如しじゃん、コイツ?
芽衣と雪の女王じゃん。
ヤッベ、映画化しそう。
「洋介、違うわよ? 洋子と士狼は同じ生徒会役員同士というだけで、それ以上でも、それ以下でもないわ。ね、士狼?」
もはや脅迫に誓いプレッシャーを放つ芽衣に、自然と生唾を飲みこんでしまう。
確かに爆乳わん娘は同じ生徒会役員同士だが、ぶっちゃけそれ以上の気持ちを抱いていない事はない。
ただ、そこから先へ1歩踏み出そうとすると、どうしても鹿目ちゃんの顔がチラついて、足が竦んでしまう。
そんな状態で彼女に好意を伝えるのは、なんだか失礼なような気がするのだ。
だから俺は言う。
全ての気持ちを胸の奥底に沈めこんで、いつも通りの俺――大神士狼として、爽やかに、クールに、イケメンボイスで、ロマンティックさを演出しながら、卓抜なる台詞回しで、
「よく分かったな弟よ。そうだぞ。おまえの姉ちゃんはな、俺と結婚して、温かな家庭を築いていくんだ。おまえの姉ちゃんみたいな可愛い娘を3人作って、一緒にお風呂を入っているときに全員から『将来はパパのお嫁さんになるのぉ~♪』なんて言われてさっ! 俺は涙を流しながら幸せを噛みしめて――」
――怖いっ! 自分が怖いっ!?
いやいや待て、待ってくれ!?
胸に秘めたハズの俺の気持ちが、全て漏れなく駄々漏れどころか、トップギアのままアクセル吹かして、どっか飛んで行ったぞ!?
なんだよ、よこたんみたいな可愛い3姉妹って?
マジのガチで幸せ家族計画じゃないか!
そりゃ、よこたん似のというか、俺とラブリー☆マイエンジェルの愛の結晶である美少女3姉妹から『将来はパパのお嫁さんになるのぉ~♪』とか言われようものなら、大神士狼史上、類を見ないほどの幸せを噛みしめる事になるのは間違いないのだろうが、いかんせん、それを未だ穢れを知らない童貞野郎が口にする事の気持ち悪さと言ったら……もう他の追随を許さないレベルだ!
真冬だというのに、全身の毛穴から変な汗がフォンデュのように溢れ出てくる。
俺はおそるおそるといった様子で、よこたんの顔をチラッ! と盗み見た。
告白どころかプロポーズ以上の言葉を、半ば奇襲的に喰らった爆乳わん娘は「は、はふぅ……」と妙な呻き声と共に俯(うつむ)いてしまい、よく見れば耳朶まで真っ赤に染まっていて……アレ?
も、もしかしてコレ、まさかの成功じゃね?
コレはアレですか?
三姉妹を作るとなると早い方がいいから、さっそくこの場で「レッツコンバインしましょ♪」ってなるのか?
いやでも、ココには芽衣も弟も居るわけで、みんなに見られながらなんて、そんなマニアックな。
最初はロマンティックにイクのがシロウ・オオカミスタイルなのだが……まぁそのアンタッチャブルぶりも、嫌いじゃないぜ?
どぉれ! さっそくレッツコンバインへと洒落こむ――
「ふふっ、相変わらず士狼は面白い冗談が大好きねぇ~?」
……うん、分かってた。
『そういう展開は無いんだろうなぁ』って事くらい、シロウ知ってた。
スカジャンのジッパーを下ろそうとした俺の手を、芽衣が尋常ならざる力もって握り締めてくる。
もうね、このままじゃ邪神が生まれちゃうんじゃねぇの? って、コッチが心配になるくらい、黒くてドロドロしい雰囲気をまき散らしてるのよね、彼女。
おかげで俺はおろか、よこたんや弟くん、果ては席から溢れ出た邪気に当てられたお客さんまでもが、ブルブルッ!? と可哀そうなくらい震えている始末っていうね。
芽衣はそのどこまでも暗い瞳で、まっすぐ俺だけを射抜きながら。
「いやぁ、まさか士狼にそんな迫真の演技が出来ただなんて、驚いちゃったわ、アタシ。ほんと驚き過ぎて、殺してやろうかと思ちゃったくらいよ。……というか、演技なのよねアレ? 演技じゃなかったらどうしようアレ? 演技だと言いなさい。演技だと、言え」
「あ、当たり前田のクラッカーじゃ~ん! 『敵を欺くには、まず芽衣ちゃんから』って言葉を知らねぇの、おまえ!?」
アハハハハッ! と、笑い合う俺たち。
ほんと楽しそうに笑うよなぁ、芽衣のヤツ♪
……目以外は。
いやぁ、もうビビるよ?
口元は綺麗な弧を描いている癖に、瞳は爛々と血走っているんだぜ?
小学生が見たら全力で号泣しているところだわ。
まるで「男なんて発情期のバカなワンちゃん」とでも言いたげな瞳を前に、笑う事しか出来ないシロウ・オオカミ。
あぁっ! ヘタレだと罵るがいいさ!
醜かろうが何だろうが、俺は泥水を啜ってでも生きてやるぞ!
「つ、つまり、どういうことだ……? 結局、喧嘩狼とヨーコ姉は付き合ってるの?」
「まさか! 2人ともイイ友人関係よ。ね、洋子?」
「ほえっ? そ、それはそのぉ――」
「……ね、洋子?」
「う、うん……ソウデス。その通りデス!」
ギギギギッ! と、錆びたブリキのオモチャのように、首を縦に振る、よこたん。
うんうん♪
分かる、分かるぞぉ。
今の芽衣には逆らえる気がしないよな?
俺もだ❤
「ほ、本当に? 嘘じゃない? 嘘だったら自殺するよ、オレ?」
「本当よ。それよりも、いいの? 洋介、何か士狼にお願いがあったんじゃないの?」
「あっ、そうだった! ……あの、メイ姉もヨーコ姉も、今から言うことは他言無用で頼むな?」
「う、うん! お姉ちゃん口は固いからね! 絶対に誰にも言わないよ!」
「同じく、アタシも口は固い方だから大丈夫よ」
「うんうん。芽衣は口も固ければ、胸も固い拳が肩を抉ってきて痛いぃぃぃぃぃぃっ!?」
「あら、ごめんなさい士狼? 肩に蚊が止まっていたものだから、つい」
うふふっ♪ と、微笑を浮かべながら、ゴキゴキッ! と拳を握りしめるマイ・マスター。
なるほど。
余計なコトは言うなと、そういうことですね? 分かります。
古羊弟はしばし困惑したように俺たちを見つめていたが、やがて覚悟を決めたのか、やけにシリアス全開の口調で唇を動かした。
「喧嘩狼は【鬼人會】という組織を知ってるか?」
「キジンカイ? キカ●ダーなら知ってるけど」
「キカ……えっ? なにそれ? メイ姉、知ってる?」
「知らね」
「世代の差を感じてムカついたから、もう帰るわ」
「わぁ~っ!? 待って、待って!? ししょー待って!?」
席を立とうとする俺の身体にしがみつく、大天使よこたん。
すまんな、よこたん?
キカ●ダーを知らないヤツに話すことなんて、もう何も無いんだわ。
というか、なんでキカ●ダー知らないんだよ?
キカ●ダーって義務教育で習うもんじゃないの?
もしかしてウチだけですか?
ちょっとしたジェネエーションギャップを味わっていると、弟は俺たちの様子をガン無視して、丁寧に今、星美町が置かれている状況を説明してくれた。
「【鬼人會】っていうのは、【東京卍帝国】の主要チームの1つにして、『ハニービー』と並んで最凶最悪の喧嘩屋集団と言われている組織のことだよ。……実は、その鬼人會が今、この星美町に滞在していて、『不良狩り』と称して星美に住む半グレ集団を片っ端から掃討し、自分たちのチームに強制的に入会させているんだよ」
もうこの一帯の男たちは、みんな鬼人會に吸収されちまった。
と難しい顔をしてそう宣、弟。
「残されているのは、オレたち星美男子高校だけ……。でも、このままじゃ確実にウチは鬼人會に吸収されてしまう。そうなったらもう、オレたちの星美は……」
頼む、喧嘩狼!
オレに、オレたちに『喧嘩狼』の力を貸してくれ!
謝礼ならいくらでもする!
だからどうか、どうか!
と、机に額を擦りつけながら、搾り出すような声音で俺に頭を下げる古羊弟。
そんな弟を前に「ヨーくん!?」と取り乱す実姉。
2人とも、今にも泣き出しそうなくら切羽詰っているのが分かった。
その瞬間、俺の中でカチリッ! と何かのスイッチの入る音がした。
「……よし、わかった。俺に何が出来るか分からんが、俺の持てる限りの力を全部貸してやるよ」
「ッ!? マジでか! 助かるっ!」
「ちょっ!? 待ちなさい士狼! そんな簡単に決めてもいいの? もっとジックリ時間をかけて、精査した方がよくない?」
「いいんだよ。男がプライドを捨ててまで、頭を下げてるんだぞ? なら、その心意気を買ってやるのが、人情ってもんだろうが」
それに、と俺は今にも泣き出しそうだった我が1番弟子に親指を向けながら、芽衣に言ってやった。
「よこたんの弟は俺の弟分。コイツの彼氏は俺のアニキ分。コイツの友達は俺の友達。生徒会に関わる全ての身内は、俺の身内だ。その身内にちょっかい出して、タダで済ませるワケがないだろう?」
「あ、アンタは……ハァ~。……まぁ、士狼はそういう男よね。ほんとバカ真っ直ぐな男なんだから」
「惚れた?」
「~~~~っ!? ば、バーカっ!」
ニッ! と笑みを浮かべて見せると、何故か頬を赤らめそっぽを向いてしまう芽衣。
えぇ~っ?
ちょっとしたお茶目なジョークじゃ~ん?
そんな怒らないでよぉ。
ふぇぇぇ~んっ!? と、心の中で萌え萌えしい声を出していると、クイクイッ! とスカジャンの裾を爆乳わん娘に引っ張られた。
見ると、よこたんがほにゃっ! とした笑みを浮かべて、小さく頭を下げてきた。
「し、ししょー、ありがとうね……?」
「おうっ。あとは俺に任せてっ! よこたんは、いつも通り、アホっぽい笑みを浮かべとけ! そっちの方が俺は落ち着く」
「あ、アホっぽいって!? 酷いよ、ししょ~っ!」
ぷくぅ~っ! と、風船のようにマイ☆エンジェルの頬が膨らむ。
すかさず俺がそのぷっくり膨らんだ頬を、人差し指でブスッ! と押しつぶした。
途端に、ぷすぅ~っ! と、よこたんの唇から情けない音が漏れる。
「もうっ! もうっ! 酷いよ、ししょーっ!」
「ガハハハハッ! これだから、よこたんをイジるのは止められない!」
「おい、喧嘩狼? もう1度確認しとくが……ヨーコ姉とは付き合ってないんだよな?」
何故か再び、敵意と疑惑の視線を向けてくる古羊弟。
その瞳は獲物を前にした狩人のソレで……おいおい?
心配せんでも、ちゃんと結婚式には呼んでやるら!
だから安心しろって?
と、俺が口を開くよりも早く、店の方から学ランに顎鬚という、アンタッチャブルな出で立ちをした男がやってきた。
「た、大変だ、洋! 大変な事になっちまった!?」
「小太郎? どうした? そんなに息を切らして?」
古羊弟は、顎髭こと小太郎少年の顔を怪訝そうに見上げる。
もちろん俺たちも同じような顔をして、小太郎少年の方を見上げていた。
小太郎少年は俺たちの方など見向きもせず、まっすぐ古羊弟だけを見据えて、震える唇を必死に統率し、こう言った。
「あ、アフロがっ! アフロが【東京卍帝国】に……鬼人會のヤツらに捕まった!」
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神崎未緒里
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※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
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――結婚しています!
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