みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第10部 ボクの弟がこんなにシスコンなわけがない!

第20話 鬼神VS喧嘩狼

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「――アフロっ! 大丈夫か、アフロ!?」



 古羊弟と小太郎少年が、放たれた弓矢のように『オールドシープ』を後にして15分。

 俺と古羊姉妹は、2人の後ろを追うように駆け足で星美駅前まで移動すると、そこには学ランにボリュームたっぷりの黒髪アフロが、血ダルマのまま、複数人の男たちに囲まれてノビている姿があった。

 古羊弟が「アフロッ!」と声を張り上げ、彼のもとまで駆けだそうとするが、ソレを下卑た笑みを浮かべる男達が、肉壁となって阻止してみせる。



「おっとぉ。そう簡単には行かせねぇよ?」
「やっと来たかぁ、待ちわびたぜぇ~?」
「テメェら、昨日の……っ!」



 古羊弟の前に立ち塞がったのは、昨夜、俺が取り逃がした野郎2人であった。

 俺はすぐさまポケットに仕舞いこんでいた単三電池を握り締め、よこたんの手を離す。

 そのままグンッ! と身体を加速させ、立ち止まる弟の脇を弾丸のような速度で駆け抜け――



「動くなよ? 動けばこのアフロ野郎がどうなっても――んごぺっ!?」
「た、たっつぅぅぅぅぅん!?」



 ――加速した勢いのまま、男の腹部めがけて飛び蹴りを繰り出した。

 瞬間、謎の奇声をあげながら、サッカーボールよろしく後ろに控えていた男達もろとも背後へ吹っ飛んで行く、たっつん(他称)。

『たっつん』とやらが白目を剥き横たわると同時に、その横に居た野郎1人が、どこか批難するような瞳を俺に向けてきた。



「ば、バカじゃねぇのか、おまえ!? コッチには人質がいるってんだろうが!? 人の話を聞いてねぇのか、テメェ!?」

「いやだって、俺、そもそもその『アフロくん』の事、1ミリも知らねぇし。つぅか初対面だし。人質だって言われても、感情移入できねぇよ」

「おまえは知らなくても、後ろの奴らは知ってんの! いいのか!? 本当にこのアフロが大変な目に遭うぞ!? それでもいいのか!?」

「望むところだ!」
「望む所なのか!?」



 何故か敵どころか、仲間であるハズの弟たちからも、非難がましい視線を浴びる俺。

 えっ? どうした、みんな?

 なんでそんなヤベェ奴を見る目で、俺を見るの?

 やめてよ。

 芽衣は「まぁ士狼だし」と半ば諦めたような目で俺を見てくるし、よこたんに至っては何も悪くないのに「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」と謝っている始末だ。



「おまえには常識というのが無いのか!?」

「常識が無い~? ハァ? そもそも俺とおまえの常識の定義が違う時点で、説教されるわれなんかねぇっうの! バーカ、バーカっ!」

「む、ムカつくなコイツ!? ……って、あっ! よく見たらおまえ、昨日の喧嘩がバカ強ぇ、イカレファッション野郎じゃねぇか!?」



 イカレポンチからイカレ認定された。

 酷く心外だ。

 心外だったので、とりあえずコイツも蹴り飛ばしておく事にしました、まる。

 俺が右足をジリッ! と後ろへ後退させた、そのときだった。



「――なんや騒がしいのぅ? おっ! もしかして、もう来とぉ~とか?」
「ん? この声は……?」



 やけに聞き覚えのある声音に、思わず眉根をしかめると、男たちの肉壁がモーゼよろしくパカッ! と開かれた。

 その男の肉壁で出来た道を、あくびを噛み殺しながらコチラに歩いてくる男に、思わず自分の目を疑ってしまう。

 銀色に目立つ頭髪に、妙に訛りの入った言動。

 お、おまえは――



「き、キジマーライオンッ!? な、なんでココに!?」

「うん? って、おぉっ! 昨日の童貞臭垂れ流しの赤毛の兄ちゃんやなか! 今日も中々に童貞臭いで?」

「えっ、うそ? そんなにじみ出てる感じなの?」



 クンクンクンクンッ! と、慌てて自分の体臭をチェックする。

 そ、そんなに俺って童貞臭いかな?

 ねぇ芽衣ちゃん、ちょっと1回嗅いでくれないかな?

 と、俺が芽衣たちの居る方へ振り向こうとした矢先、キジマーライオンの「あり?」という声が鼓膜を震わせた。



「今日ここに来るのは、古羊洋介とその愉快な仲間達やったハズ……? どげんして赤毛の兄ちゃんが居るばい?」

「か、會長っ! コイツです! コイツが昨夜話した、喧嘩がバカ強いイカレファッション野郎です!」

「……ほぉ~ん。兄ちゃんが鉄平と錬を……なるほどのぅ。命の恩人やが、こうなってくると事情が変わってくるのぅ」

「??? いや、というか、なんでキジマーライオンがここに居るわけ?」



 いまだ状況が読めない俺に、肉食獣を彷彿とさせる笑みでキジマーライオンがまっすぐ射抜いてくる。

 瞬間、俺の後ろに控えていた古羊弟が、半ば叫ぶように「喧嘩狼っ!」と俺の名前を呼んだ。



「ソイツだ! ソイツが【鬼人會】の首魁しゅかい、『鬼神』――鬼島きじま真人まさとだっ!」



 そう弟が絶叫した瞬間――間髪入れずにキジマーライオンの右フックが、俺のコメカミめがけて放たれた。

 完全な不意打ちに、一瞬だけ身を硬直させてしまうが、身体を後ろに逸らして、鼻先寸前でなんとかかわしきる。

 ヤバいッ、油断した!

 と内心焦りながら、バックステップでキジマーライオンと距離を取ろうとするが、すかさず右フックの回転力を利用して、クルリと1回転。

 そのまま左の裏拳が、俺の顔面めがけて飛んでくる。

 これは……避けられない!

 俺は体勢を崩しながらも、何とか左腕をあげ顔を守ろうとするが、回転力のついた裏拳は思いのほか威力があり、体の芯からズンッ! と響くような鈍い衝撃が俺を襲った。

 痺れる左腕。

 だが、もちろんそんなこと関係ないとばかりに、キジマーライオンは裏拳の回転力を保持したまま、右足の上段回し蹴りの体勢へと入った。



「ッ! 舐めんな!」
「うぉっ!?」



 俺は気合一閃! と、痺れる身体にかつを入れ、キジマーライオンの胴体めがけて前蹴りを繰り出した。

 まさか反撃されるとは思っていなかったらしいキジマーライオンの瞳が、大きく見開かれる。

 途端に超絶反射神経で、素早く繰り出された俺の前蹴りを両手で防ぎながら、軽く後方へ吹き飛ぶキジマーライオン。

 そんなキジマーライオンを見据えながら、俺は内心舌打ちした。

 クソッ!? 体勢が崩れたせいで、蹴りに体重が乗らなかった……。

 大したダメージにはなってないな、と俺の思考が正しかったことを証明するように、ピンピンした状態のキジマーライオンが、プルプルと両手を震わせていた。



「おぉ~、痛ぇのぉ。兄ちゃん、なんて蹴りばしとるばい? 腕がもげたかと思ったで? ……でも、なるほどのぅ。どうやら鉄平とレンを倒したちゅう実力は、ホンモノのようやな。何者なにもんや、兄ちゃん?」

「それはコッチの台詞だ。イテテ……!? テメェ、ただの熟女マニアじゃなかったんだな?」
「熟女マニア? 失礼な言い方やな、ワテは愛に生きるラブハンターやで?」
「な、なに言ってんだコイツ? 頭イカれてんのか……?」



 そう呟いた瞬間、何故かこの場にいる全員の視線が「いや、おまえが言うな」とばかりに俺の身体に突き刺さる。

 なんとも不愉快極まりない視線だ。

 おい、やめろ?

 そんな哀れみのこもった目で、俺を見るな!?



「気をつけろ、喧嘩狼! その男は【東京卍帝国】の7人の大幹部が1人【シックス・ピストルズ】の『鬼神』――鬼島きじま真人まさとだ!」

「うげっ!?【シックス・ピストルズ】って……オカマ姉さんと蜂谷の同類かよ!?」
「油断すんな! ここに居る誰よりも、アイツは強いぞ!?」



 弟が声を張り上げたと同時に、キジマーライオンが「ケンカ、オオカミ……?」と眉根を寄せた。

「その名前、その蹴り、イカれたファッションに狂った言動……。もしかして兄ちゃん、あの『猫脚』と『悪童』を倒した、『喧嘩狼』ばい?」

「イカれファッションって……ねぇ? ずっと気になってたんだけどさ、俺ってどういう噂が流れてるの?」



 もはや全国に不名誉極まりない二つ名が蔓延まんえんしているようで、すごく気になる。

 なんで俺は会う人、会う人に、狂った人間だと認識されているのだろうか?

 ほんと神様の悪意を感じて仕方がない。

 キジマーライオンは困ったような顔を作りながらも、唇は気持ちが悪いくらいり上がり、なんとも不気味な笑顔で俺を見据えていた。



「ほぅか、ほぅか! 兄ちゃんが、あの『喧嘩狼』か! いやはや困ったのぅ。作戦では、まだ『喧嘩狼』が出てくるタイミングやないし。それに『喧嘩狼』は総長の獲物やからのぅ……。ここでワテが手を出しても、ええもんか……う~む」



 熟女マニアは1人勝手に頭を悩ませていたかと思えば、急にポンッ! と手を軽く叩き。



「まぁ、ええか! ワテがぶっ潰して、その首を総長の前に差し出せば、問題ないやろ!」



 と物騒なことを言ってきた。



「総長? ぶっ潰す? よく分からんが、もう俺に勝った気でいるのかよ、テメェ?」

「勝った気も何も、勝つ未来しか見えんばい。兄ちゃんの実力は大体わかったばい。兄ちゃんは確かに強い。それでも、ワテの方が強い」



 キッパリとそうのたまいやがった、キジマーライオン。

 ハッタリでも何でもなく、本気でそう思っているのは簡単に見て取れた。

 たったアレだけのやりとりで、俺の実力の底が分かったとでも言いたげな言動に、イラッ☆ とキテしまう。

 テメェに俺の何が分かるっていうんだよ?

 と、ドスを利かせた声で言い返してやろうかとも思ったが、キジマーライオンは俺が口を開くよりも速く、こう言った。



「本丸とヤる前の、えぇ前哨戦(ぜんしょうせん)になりそうやし――おいっ! そこの星美男子高校の頭張っとる……えっと、古羊洋介、やっけ? アンさんに1つ提案があるばい!」

「て、提案……?」
「おうともさ!」



 キジマーライオンは拳を下げながら、ゆっくりと俺の間合いから離れていく。

 もう視線は俺ではなく、その後ろで硬直していた古羊弟へと注がれていた。



「キサンらも、このままヤリ合ぉうても、鬼人會ウチには勝てん事くらい理解しとろぉて? コレだけの人数差や、いくらソッチに喧嘩狼が居ろぉとも、関係なかばい」

「そんなモン、やってみなきゃ分かんねぇだろ? 俺はな、ピンチになると我が血筋に眠りし戦闘民族の血が覚醒する……気がするんだよ!」

「ソレ錯覚だよ、ししょー?」
「まぁ確かに、士狼の家族は全員ある意味戦闘民族だけどね……」



 呆れた瞳でポショッ! と呟く古羊姉妹。

 ば、バッカおまえ!?

 錯覚じゃねし!

 穏やかな心を持ちし俺が、ピンチにおちいれば、必ず伝説の超戦士『スーパー地球人』に目覚めるハズなんだよ!

 だって何度も妄想の中で変身してるんだから、間違いないんだよ!

 イメージトレーニングはバッチリだから!

 だからさ? そんな残念な子を見るような目で、俺を見ないで?

 居たたまれなくて、泣いちゃうよ?



「まぁまぁ。少し落ち着くべ、喧嘩狼? ワテは別に、挑発しとぉーてそんなコトを言っとるんやなか。むしろこの提案はソッチに有利な話のハズやで?」



 キジマーライオンは何を考えているのか全く読めない笑顔のまま、俺たちに口を開かせることなく、次々と言葉を紡ぎだした。



「ワテの提案はただ1つ。お互いのチームで5人の代表者を決めて、その5人でタイマンを張り合い、先に3勝した方が勝利という簡単なモンや」



 ワテらも本丸を前に、これ以上キサンらに労力を裂きとぉない。

 最高のアイディアやと思わんか?

 と、薄ら笑いを続けて、そう口にするキジマーライオン。

 途端に古羊弟の眉根にシワが寄った。



「もちろんワテらが負けたら、潔くこの星美の地から手を引くばい。どうだべ? 悪い話やなかと?」

「……悪いどころかウチに良すぎる。一体何を考えてやがる?」



 古羊弟が警戒心バリバリの鋭い視線で、キジマーライオンを睨みつけた。

 その視線をキジマーライオンは肩を揺すりながら、受け流し、



「さっきも言ったべ? コレ以上キサンらに労力を割きとぉないって。……まぁもちろん、条件はあるけどのぅ」

「やっぱり……。なんだよ、その条件って?」



 吐き捨てるようにそう呟いた古羊弟から視線を切るなり、キジマーライオンはやたら好戦的な瞳のまま、俺をまっすぐ射抜いてきた。



「条件はただ1つ……この代表戦には必ず喧嘩狼も参加すること。それ以外であれば、誰を参加させても問題ないばい」

「はっ? そ、ソレが条件……?」



 困惑する弟に、キジマーライオンは「どうするべ?」とばかりに視線で語りかけてくる。

 弟はチラッ! と俺の方を一瞥してきたので、俺は無言で小さく頷いた。

 もともと、この場に居る全員ぶっ飛ばす予定だったのだ。

 手間が省けて、ありがたい。

 俺の気持ちを理解してくれたのだろう、弟は力の籠った瞳をキジマーライオンへ向け、



「……わかった。その条件でいい」
「よっしゃ! ほな決まりやな! 日程は明日の午後10時、場所は町はずれのスクラップ置き場ばい!」



 にぃっ! と、いびつな笑みを深めるキジマーライオン。

 俺達から背を向けるようにクルリッ! と反転するなり、「帰るべ、おまえら!」と叫びながら、血塗れのアフロを置いて遠ざかって行く。

 その表情に嫌な気配を感じながらも、俺は黙ってキジマーライオンの後ろ姿を見送り続けた。

 どうやら俺の冬休みは、もう少し先になりそうだ。

 なんてことを考えながら、弟たちと一緒にアフロのもとへと駆けだすのであった。
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