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最終部 シンデレラボーイはこの『最強』を打ち砕く義務がある!
第7話 陰キャのオモチャ!
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半尻のまま床に寝転がるアマゾンを目視した瞬間、俺は生まれてきたことを後悔しつつ、天井に視線を移した。
「……ふぅ~」
大きく息を吐き捨てながら、ゆっくりと教室のドアを閉じる。
ふむ、なるほどな。
どうやら俺は疲れているらしい。
一瞬のうちに網膜に焼き付いたアマゾンのケツを消去しつつ、再び2年A組へと続く教室のドアを開けた。
「う~すっ、おはろ~」
「だ、大丈夫かアマゾン!? 傷は深いぞ、ガッカリしろ!」
「だ、誰かこの中にお医者様は……お医者様の息子さまは居ますか!?」
「バカ野郎ッ! だからアレほど凝視するなと言っただろうに!」
「なんかスゲェ見たことある光景が広がってる……」
アマゾンの周りを数人の男共が取り囲みながら「帰って来い、アマゾンぁぁぁぁぁっ!」と医療現場もビックリの必死さで、アマゾンの剥き出しのケツに人口マッサージを繰り返していくその姿は、まるで上質な映画を観ているような気分に……ならないわな、うん。
ただただ純粋に、汚ねぇ男の尻が無意味に人口マッサージされている光景を前に、日本の未来が心配になってくる。
それはそれとして、今すぐ眼球を取り外してガンジス川で洗濯したい。超したい。
とりあえず一旦教室の外に出て、水道水で眼球を丸洗いしようと、俺が踵を返そうとした矢先。
「ナイスタイミングです、士狼!」
「やっべ、バレた!?」
先に教室へとやって来ていた芽衣が「士狼っ!」と救いの手を見つけたかのような声をあげた。
うわぁ、見つかちゃった……。
出来れば全力で関わり合いたくなかったが、珍しく芽衣が困った顔を浮かべていたので、しょうがなく彼女のもとまで歩みを進める。
「ちょうどよかったです、士狼! 三橋くんをどうにかして貰えますか? もう朝からずっとこの調子で……。おかげで女の子たちが困惑して、教室に入れないんですよ」
「『朝からずっと』って……アマゾンに何があったんだよ?」
「分かりません。理由を聞こうにも、嗚咽を溢すばかりで……。もうわたしの手には負えません」
あとはよろしくお願いしますね? と、猫を被った芽衣にグイグイッ! と背中を押される。
メンドクセェなぁ、なんて思いながらも、こんな空気で授業を受けたくないのは俺も同じなので、大人しくアマゾンの傍まで近づくと、俺に気づいた周りのカス共が「大神!」と声をあげた。
「た、大変だ大神! アマゾンが死んだ!」
「いや、生きてるけど?」
「つぅか、なんでアマゾンは半ケツのまま寝転がってるワケ? 何があった?」
アマゾンの傍で腰を下ろしながら、直球で核心に切り込んでみると、アマゾンは涙と鼻水でグシャグシャになった顔をこれでもかと歪めながら、
「……失恋した」
「いつもことじゃねぇか」
「違うんだ……そうじゃねぇんだ大神」
「???」
アマゾンの要領を得ない発言に、意味が分からず首を捻っていると、アマゾンはズボンを履き直しながら、ゆっくりと立ち上がり、
「これはもう、見て貰った方が早い。ついて来い、大神。……お前にその覚悟があるならば、な」
妙にカッコつけた台詞を残して、2年A組の教室を後にするアマゾン。
呆気とられる俺を前に、クラスメイト達の「とりあえず行ってあげたら?」という視線が突き刺さる。
俺は周りの生徒たちに背中を押される形で、しぶしぶアマゾンの後を着いて行くことに。
「なぁアマゾン、どこ行くんだよ?」
「……大神。大神は今年の3学期になって、ウチの学校へ編入してきた転校生のコトを知ってるな?」
「転校生? あぁ、ヤマキティーチャーが確か2年C組に転校生が来たって話してたっけ」
それがなんだよ?
と、俺が口にするよりも早く、アマゾンの足がピタリッ! と止まる。
見ると、どうやら俺たちはその噂の2年C組の前へとやって来ていたらしい。
「百聞は一見にしかずだ。まずは黙ってアレを見てくれ」
「アレ? アレってなんだよ?」
「大丈夫、見たら分かる」
やけに神妙な顔を浮かべて、ドアの隙間を指さすアマゾン。
どうやら覗け、ということらしい。
俺は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながらも、言われた通りドアの隙間から2年C組の教室内を覗き見た。
そこは2年A組の教室と変わりなく、机に向かって予習をしている者や、友人とバカ話に花を咲かせる者――など……おらず、全員不自然なくらい黙って『とある』教室の一角を遠巻きに眺めていた。
「??? なんか不自然に静かだ――なぁっ!?」
「どうやら、気がついたらしいな、マイブラザー」
俺が他の生徒たちと同じく、その一角へと視線をやった瞬間、口から変な声が漏れてしまった。
そこには、まるで花に群がる蝶のように、数人の女の子達が机を囲むようにしてキャピキャピ♪ と会話していた。
別にそれだけなら問題ない。
むしろ目の保養になっただろう。
……問題は、その女の子たちが件の机に座って面倒臭そうに眉根を寄せている『とある男子生徒』を取り合うように、激しめのボディタッチをしまくっている事にあった。
もうね、明らかに『あそこ』だけ空気感が違うんだよね。
完全にラブコメの雰囲気を醸し出してるんだよね あそこ!
他の生徒達なんぞ眼中にない! とばかりに、1人の男子生徒の傍に群がる女の子たち。
そんな彼女たちの中心で、ため息をこぼす男子生徒を前に、俺は思わず目を剥きながらアマゾンに声をかけていた。
「お、おいおいアマゾン!? なんだ、あの異世界に行ったら間違いなく玉座に座ってヒロインを侍らかせているであろう、中性的な顔つきをした中肉中背の黒髪の男は!?」
「あのまるでライトノベルから出て来た男こそ、今年急に編入してきた噂の転校生――小鳥遊大我同級生だ!」
「くぅっ!? 名前までカッコいいなんて……なんだアイツは? なろう主人公か?」
戦慄っ!
ま、まさか現実にあんな「なろう」主人公のような男が居ただなんて……っ!?
俺が驚きを隠せずにいると、それに追い打ちをかけるかのように、小鳥遊転校生の周りを囲む女子生徒たちの面々に、鼻水がスプラッシュしそうになった。
「ちょっと待て、アマゾン? あの小鳥遊転校生を囲っている女の子たちって……まさか!?」
「さすが大神、気づいたか。そう、森高期待のテニス部のエースにして弾けんばかりのツインテールがトレードマークの美少女、河内麻衣さんだ」
「そ、それだけじゃねぇ……!『図書室のお姫さま』こと図書委員の古屋佳帆先輩に、『剣道小町』の風紀委員、小豆奈々ちゃんまで居るぞ!?」
「そしてオレのマイ☆スィートエンジェル『吹奏楽部の天使さま』こと、吹田美智ちゃんまで――ブハッ!?」
「ッ!? だ、大丈夫かアマゾン!? あまりムリするな、体に触るぞ!?」
トマトケチャップを口から撒き散らしながら、「すまねぇ……」と弱々しい声で謝る、我らがアマゾン同級生。
今にも消えてなくなりそうなアマゾンから視線を切り、小鳥遊同級生の周りの女子生徒を視姦、もとい観察していく。
「ほかにも『黒髪のプリンセス』こと文芸部の黒部先輩に、バレー部の期待のホープ沢部ちゃん、それから……クソぅっ!? なんだ、あそこの美少女率は!? 男子生徒の間だけで発行されている『森実高校美少女ランキング』トップランカーたちが勢ぞろいじゃねぇか!」
ウチの男子生徒たちの憧れの的であり、オナペットである彼女たちが今、瞳にハートマークを浮かべながら、小鳥遊転校生にベタベタ❤ していた。
小鳥遊転校生は、ソレを鬱陶しそうに引き剥がしながら、またアンニュエイな溜め息を1つ。
「た、小鳥遊転校生はまだ編入して2週間しか経っていないんだろう? それなのに彼女達のあのゾッコンっぷり……。一体どんな黒魔術を使ったというんだ!?」
「まぁ唯一の救いは、我が校の良心にして4大天使である『古羊姉妹』と『大和田信愛』ちゃん、そして『司馬葵』ちゃん達が小鳥遊同級生の魔の手に落ちていないって事くらいだな」
それでも妬ましいのは事実らしく、2年C組の男共の身体からは、これでもかと殺気が溢れ出ていて……うん。
ちょっとした天下一武道会の控室のような独特な空気感になってるね。
とくに小鳥遊転校生の隣に座っている男はヤバいぞ?
瞳のハイライトが消えて、怒りにより筋肉が膨張しているのか、今にもブレザーが弾き跳びそうだ。
今の彼ならば、大神家の悲願である「かめ●め波」も撃てるかもしれない。
あとでお願いしてみよう。
ちなみに、俺たちの心のオアシスことラブリー☆マイエンジェルよこたんは、席が小鳥遊転校生のすぐ真後ろらしく、困った顔を浮かべながら、なるべく小鳥遊ハーレムの方へ視線を向けないように、息を殺して俯いていた。
居心地が悪いのか、ただでさえ小さな身体をさらに小さくして、存在感を消そうと頑張っていた。
が残念ながら、爆乳わん娘が小さくなれば小さくなるほど、彼女のお胸のバイオ兵器がその存在感をおおい主張し、小鳥遊転校生以外の男たちの視線を、これでもかと釘づけにした。
結果、男達は席から立てなくなり、嫌でも小鳥遊転校生とその取り巻きの彼女たちのイチャイチャ❤ を見聞きしなければいけないという、悪循環に陥っていた。
「アカン、アカンでぇ! ここら一帯だけ風紀が乱れに乱れとるでぇ! ……ん? んなっ!?」
下手くそな関西弁を口にしていたアマゾンが、大きく目を見開いた。
アマゾンの視線の先、そこには、そのほど良く発達したパイパイを小鳥遊転校生に見せつけるように胸を反らした河内ちゃんが、
『問題です! あーしのポッチはどこにあるでしょ~か? 触っていいよ~♪』
と宣いやがった!
あ、アレはまさか!?
「あ、アレは彼女持ちのみが遊ぶことが出来ると言われている、失われた闇のゲームが1つ、通称『チチクビ当て♪』ゲーム!? ま、まさかこの衆人観衆の中、ヤル気か!?」
「と、止めなきゃ! あの2人を止めなきゃ!」
でも、と唇を噛みしめながら悔しそうに俯くアマゾン。
その視線の先には、ズボンの上からでもハッキリと分かるくらいパンパンに膨れ上がった、アマゾンジュニアが「おっ、呼んだ?」と鎌首をもたげていた。
「クソぅっ! あの2人の発するエロい雰囲気に当てられて、恥ずかしながらオレの魚肉ソーセージも『取り扱い注意』のテープが貼れそうなくらいビルドアップしちまってる! これじゃ止めるに止められねぇよ!」
どうしたら!? と、血を吐かんばかりに呟くアマゾン。
俺はそんなアマゾンの横を通って、堂々と胸を張って、2年C組の教室へと足を踏み入れた。
「お、大神っ!?」「あ、あれ!? ししょーっ!?」と驚いた声をあげるアマゾンとマイ☆エンジェルを無視して、小鳥遊同級生の席へと近寄って行く。
「やぁ☆ 君が噂の転校生だね?」
「んっ? 誰だ、おまえ?」
「隣のクラスの猿野元気さ♪」
俺の風評被害が広がらないように、偽名を名乗りながら、爽やかな笑みを顔に張り付け、小鳥遊同級生に声をかけた。
途端に、ヤツの周りに羽虫のごとくベタベタ❤ していた美少女たちが、慌てた様子で小鳥遊くん……というより、俺から逃げて行った。
ふぅ、人気者はツライぜ。
「猿野? 隣のクラスのヤツが、俺に何の用だよ?」
「いやぁ、ちょっと小鳥遊くんに対して、気になる噂があったからさ。質問してみようと思って」
「噂?」
不思議そうな顔を浮かべる小鳥遊くんに、俺は「うん」と満面の笑みで頷きながら。
「やっぱり、小鳥遊くんってロリコンなのかなって?」
刹那、教室に居た野郎共がザワッ!? と震えた。
どうやら気づいたらしいな、この技の恐ろしさに。
もちろん小鳥遊転校生に【ロリコン疑惑】なんてモノは無い。
全部俺の嘘っぱちさ。
しかし、例え嘘であろうとも、こんな大勢の前で『おまえロリコンか?』と聞くことで、逃げ場を無くし、かつ周りに『うそっ!? あの人ロリコンなの!?』という疑惑を与える事が出来る!
さらにオーバーリアクションで『お、オレはロリコンじゃないよ!?』と否定しようモノなら、その仕草こそロリコンそのものに周りは見える。
つまり、この質問をされたが最後、本人の意思など関係なく『ロリコン』にされてしまうのだ!
ふふふっ、俺は出る杭は死ぬ気でぶっ叩く男。
さぁ、残りの学生生活を『ロリコン』として過ごすがいい!
勝ちを確信し、内心ほくそ笑んでいた俺に向かって、小鳥遊転校生は小さく微笑みながら、
「さぁ、どうかな」
と、言った。
「なん、だと……っ!?」
瞬間、今度は別の意味で2年C組の野郎共がザワッ!? と震えた。
こ、コイツッ!?
俺の奇跡的かつ致命的になりうる先制の一手を、鮮やかに微笑みだけで躱しただと!?
小鳥遊くんは、自分がかなりの手練れであることを微笑みだけで示し、俺たち男子一同を震え上がらせたのだ。
まずは一撃っ! と身構えていた俺に、小鳥遊くんのカウンターは凄まじい効果を発揮した。
おかげで当初予定していた『やっぱりストライクゾーンは10歳までなの?』という追撃の台詞が口を出て行くことなく、つい「ご趣味は?」と心にもない事を言ってしまった。
結果「趣味はサッカー観戦かな」とか言うくだらない話を、男子全員が静聴してしまうハメに。
これはマズイことになったぞ……。
「猿野? おーい猿野ぉ~?」と声をかけてくる小鳥遊同級生を無視して、俺たちは静かに身体を震わせていた。
「……ふぅ~」
大きく息を吐き捨てながら、ゆっくりと教室のドアを閉じる。
ふむ、なるほどな。
どうやら俺は疲れているらしい。
一瞬のうちに網膜に焼き付いたアマゾンのケツを消去しつつ、再び2年A組へと続く教室のドアを開けた。
「う~すっ、おはろ~」
「だ、大丈夫かアマゾン!? 傷は深いぞ、ガッカリしろ!」
「だ、誰かこの中にお医者様は……お医者様の息子さまは居ますか!?」
「バカ野郎ッ! だからアレほど凝視するなと言っただろうに!」
「なんかスゲェ見たことある光景が広がってる……」
アマゾンの周りを数人の男共が取り囲みながら「帰って来い、アマゾンぁぁぁぁぁっ!」と医療現場もビックリの必死さで、アマゾンの剥き出しのケツに人口マッサージを繰り返していくその姿は、まるで上質な映画を観ているような気分に……ならないわな、うん。
ただただ純粋に、汚ねぇ男の尻が無意味に人口マッサージされている光景を前に、日本の未来が心配になってくる。
それはそれとして、今すぐ眼球を取り外してガンジス川で洗濯したい。超したい。
とりあえず一旦教室の外に出て、水道水で眼球を丸洗いしようと、俺が踵を返そうとした矢先。
「ナイスタイミングです、士狼!」
「やっべ、バレた!?」
先に教室へとやって来ていた芽衣が「士狼っ!」と救いの手を見つけたかのような声をあげた。
うわぁ、見つかちゃった……。
出来れば全力で関わり合いたくなかったが、珍しく芽衣が困った顔を浮かべていたので、しょうがなく彼女のもとまで歩みを進める。
「ちょうどよかったです、士狼! 三橋くんをどうにかして貰えますか? もう朝からずっとこの調子で……。おかげで女の子たちが困惑して、教室に入れないんですよ」
「『朝からずっと』って……アマゾンに何があったんだよ?」
「分かりません。理由を聞こうにも、嗚咽を溢すばかりで……。もうわたしの手には負えません」
あとはよろしくお願いしますね? と、猫を被った芽衣にグイグイッ! と背中を押される。
メンドクセェなぁ、なんて思いながらも、こんな空気で授業を受けたくないのは俺も同じなので、大人しくアマゾンの傍まで近づくと、俺に気づいた周りのカス共が「大神!」と声をあげた。
「た、大変だ大神! アマゾンが死んだ!」
「いや、生きてるけど?」
「つぅか、なんでアマゾンは半ケツのまま寝転がってるワケ? 何があった?」
アマゾンの傍で腰を下ろしながら、直球で核心に切り込んでみると、アマゾンは涙と鼻水でグシャグシャになった顔をこれでもかと歪めながら、
「……失恋した」
「いつもことじゃねぇか」
「違うんだ……そうじゃねぇんだ大神」
「???」
アマゾンの要領を得ない発言に、意味が分からず首を捻っていると、アマゾンはズボンを履き直しながら、ゆっくりと立ち上がり、
「これはもう、見て貰った方が早い。ついて来い、大神。……お前にその覚悟があるならば、な」
妙にカッコつけた台詞を残して、2年A組の教室を後にするアマゾン。
呆気とられる俺を前に、クラスメイト達の「とりあえず行ってあげたら?」という視線が突き刺さる。
俺は周りの生徒たちに背中を押される形で、しぶしぶアマゾンの後を着いて行くことに。
「なぁアマゾン、どこ行くんだよ?」
「……大神。大神は今年の3学期になって、ウチの学校へ編入してきた転校生のコトを知ってるな?」
「転校生? あぁ、ヤマキティーチャーが確か2年C組に転校生が来たって話してたっけ」
それがなんだよ?
と、俺が口にするよりも早く、アマゾンの足がピタリッ! と止まる。
見ると、どうやら俺たちはその噂の2年C組の前へとやって来ていたらしい。
「百聞は一見にしかずだ。まずは黙ってアレを見てくれ」
「アレ? アレってなんだよ?」
「大丈夫、見たら分かる」
やけに神妙な顔を浮かべて、ドアの隙間を指さすアマゾン。
どうやら覗け、ということらしい。
俺は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながらも、言われた通りドアの隙間から2年C組の教室内を覗き見た。
そこは2年A組の教室と変わりなく、机に向かって予習をしている者や、友人とバカ話に花を咲かせる者――など……おらず、全員不自然なくらい黙って『とある』教室の一角を遠巻きに眺めていた。
「??? なんか不自然に静かだ――なぁっ!?」
「どうやら、気がついたらしいな、マイブラザー」
俺が他の生徒たちと同じく、その一角へと視線をやった瞬間、口から変な声が漏れてしまった。
そこには、まるで花に群がる蝶のように、数人の女の子達が机を囲むようにしてキャピキャピ♪ と会話していた。
別にそれだけなら問題ない。
むしろ目の保養になっただろう。
……問題は、その女の子たちが件の机に座って面倒臭そうに眉根を寄せている『とある男子生徒』を取り合うように、激しめのボディタッチをしまくっている事にあった。
もうね、明らかに『あそこ』だけ空気感が違うんだよね。
完全にラブコメの雰囲気を醸し出してるんだよね あそこ!
他の生徒達なんぞ眼中にない! とばかりに、1人の男子生徒の傍に群がる女の子たち。
そんな彼女たちの中心で、ため息をこぼす男子生徒を前に、俺は思わず目を剥きながらアマゾンに声をかけていた。
「お、おいおいアマゾン!? なんだ、あの異世界に行ったら間違いなく玉座に座ってヒロインを侍らかせているであろう、中性的な顔つきをした中肉中背の黒髪の男は!?」
「あのまるでライトノベルから出て来た男こそ、今年急に編入してきた噂の転校生――小鳥遊大我同級生だ!」
「くぅっ!? 名前までカッコいいなんて……なんだアイツは? なろう主人公か?」
戦慄っ!
ま、まさか現実にあんな「なろう」主人公のような男が居ただなんて……っ!?
俺が驚きを隠せずにいると、それに追い打ちをかけるかのように、小鳥遊転校生の周りを囲む女子生徒たちの面々に、鼻水がスプラッシュしそうになった。
「ちょっと待て、アマゾン? あの小鳥遊転校生を囲っている女の子たちって……まさか!?」
「さすが大神、気づいたか。そう、森高期待のテニス部のエースにして弾けんばかりのツインテールがトレードマークの美少女、河内麻衣さんだ」
「そ、それだけじゃねぇ……!『図書室のお姫さま』こと図書委員の古屋佳帆先輩に、『剣道小町』の風紀委員、小豆奈々ちゃんまで居るぞ!?」
「そしてオレのマイ☆スィートエンジェル『吹奏楽部の天使さま』こと、吹田美智ちゃんまで――ブハッ!?」
「ッ!? だ、大丈夫かアマゾン!? あまりムリするな、体に触るぞ!?」
トマトケチャップを口から撒き散らしながら、「すまねぇ……」と弱々しい声で謝る、我らがアマゾン同級生。
今にも消えてなくなりそうなアマゾンから視線を切り、小鳥遊同級生の周りの女子生徒を視姦、もとい観察していく。
「ほかにも『黒髪のプリンセス』こと文芸部の黒部先輩に、バレー部の期待のホープ沢部ちゃん、それから……クソぅっ!? なんだ、あそこの美少女率は!? 男子生徒の間だけで発行されている『森実高校美少女ランキング』トップランカーたちが勢ぞろいじゃねぇか!」
ウチの男子生徒たちの憧れの的であり、オナペットである彼女たちが今、瞳にハートマークを浮かべながら、小鳥遊転校生にベタベタ❤ していた。
小鳥遊転校生は、ソレを鬱陶しそうに引き剥がしながら、またアンニュエイな溜め息を1つ。
「た、小鳥遊転校生はまだ編入して2週間しか経っていないんだろう? それなのに彼女達のあのゾッコンっぷり……。一体どんな黒魔術を使ったというんだ!?」
「まぁ唯一の救いは、我が校の良心にして4大天使である『古羊姉妹』と『大和田信愛』ちゃん、そして『司馬葵』ちゃん達が小鳥遊同級生の魔の手に落ちていないって事くらいだな」
それでも妬ましいのは事実らしく、2年C組の男共の身体からは、これでもかと殺気が溢れ出ていて……うん。
ちょっとした天下一武道会の控室のような独特な空気感になってるね。
とくに小鳥遊転校生の隣に座っている男はヤバいぞ?
瞳のハイライトが消えて、怒りにより筋肉が膨張しているのか、今にもブレザーが弾き跳びそうだ。
今の彼ならば、大神家の悲願である「かめ●め波」も撃てるかもしれない。
あとでお願いしてみよう。
ちなみに、俺たちの心のオアシスことラブリー☆マイエンジェルよこたんは、席が小鳥遊転校生のすぐ真後ろらしく、困った顔を浮かべながら、なるべく小鳥遊ハーレムの方へ視線を向けないように、息を殺して俯いていた。
居心地が悪いのか、ただでさえ小さな身体をさらに小さくして、存在感を消そうと頑張っていた。
が残念ながら、爆乳わん娘が小さくなれば小さくなるほど、彼女のお胸のバイオ兵器がその存在感をおおい主張し、小鳥遊転校生以外の男たちの視線を、これでもかと釘づけにした。
結果、男達は席から立てなくなり、嫌でも小鳥遊転校生とその取り巻きの彼女たちのイチャイチャ❤ を見聞きしなければいけないという、悪循環に陥っていた。
「アカン、アカンでぇ! ここら一帯だけ風紀が乱れに乱れとるでぇ! ……ん? んなっ!?」
下手くそな関西弁を口にしていたアマゾンが、大きく目を見開いた。
アマゾンの視線の先、そこには、そのほど良く発達したパイパイを小鳥遊転校生に見せつけるように胸を反らした河内ちゃんが、
『問題です! あーしのポッチはどこにあるでしょ~か? 触っていいよ~♪』
と宣いやがった!
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「と、止めなきゃ! あの2人を止めなきゃ!」
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その視線の先には、ズボンの上からでもハッキリと分かるくらいパンパンに膨れ上がった、アマゾンジュニアが「おっ、呼んだ?」と鎌首をもたげていた。
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どうしたら!? と、血を吐かんばかりに呟くアマゾン。
俺はそんなアマゾンの横を通って、堂々と胸を張って、2年C組の教室へと足を踏み入れた。
「お、大神っ!?」「あ、あれ!? ししょーっ!?」と驚いた声をあげるアマゾンとマイ☆エンジェルを無視して、小鳥遊同級生の席へと近寄って行く。
「やぁ☆ 君が噂の転校生だね?」
「んっ? 誰だ、おまえ?」
「隣のクラスの猿野元気さ♪」
俺の風評被害が広がらないように、偽名を名乗りながら、爽やかな笑みを顔に張り付け、小鳥遊同級生に声をかけた。
途端に、ヤツの周りに羽虫のごとくベタベタ❤ していた美少女たちが、慌てた様子で小鳥遊くん……というより、俺から逃げて行った。
ふぅ、人気者はツライぜ。
「猿野? 隣のクラスのヤツが、俺に何の用だよ?」
「いやぁ、ちょっと小鳥遊くんに対して、気になる噂があったからさ。質問してみようと思って」
「噂?」
不思議そうな顔を浮かべる小鳥遊くんに、俺は「うん」と満面の笑みで頷きながら。
「やっぱり、小鳥遊くんってロリコンなのかなって?」
刹那、教室に居た野郎共がザワッ!? と震えた。
どうやら気づいたらしいな、この技の恐ろしさに。
もちろん小鳥遊転校生に【ロリコン疑惑】なんてモノは無い。
全部俺の嘘っぱちさ。
しかし、例え嘘であろうとも、こんな大勢の前で『おまえロリコンか?』と聞くことで、逃げ場を無くし、かつ周りに『うそっ!? あの人ロリコンなの!?』という疑惑を与える事が出来る!
さらにオーバーリアクションで『お、オレはロリコンじゃないよ!?』と否定しようモノなら、その仕草こそロリコンそのものに周りは見える。
つまり、この質問をされたが最後、本人の意思など関係なく『ロリコン』にされてしまうのだ!
ふふふっ、俺は出る杭は死ぬ気でぶっ叩く男。
さぁ、残りの学生生活を『ロリコン』として過ごすがいい!
勝ちを確信し、内心ほくそ笑んでいた俺に向かって、小鳥遊転校生は小さく微笑みながら、
「さぁ、どうかな」
と、言った。
「なん、だと……っ!?」
瞬間、今度は別の意味で2年C組の野郎共がザワッ!? と震えた。
こ、コイツッ!?
俺の奇跡的かつ致命的になりうる先制の一手を、鮮やかに微笑みだけで躱しただと!?
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まずは一撃っ! と身構えていた俺に、小鳥遊くんのカウンターは凄まじい効果を発揮した。
おかげで当初予定していた『やっぱりストライクゾーンは10歳までなの?』という追撃の台詞が口を出て行くことなく、つい「ご趣味は?」と心にもない事を言ってしまった。
結果「趣味はサッカー観戦かな」とか言うくだらない話を、男子全員が静聴してしまうハメに。
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ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
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