みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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最終部 シンデレラボーイはこの『最強』を打ち砕く義務がある!

第8話 会長と番犬くん

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 ――小鳥遊たかなし大我たいがは真性のヤリチン野郎で、女子生徒を喰うべく森実高校へやってきた犯罪者に違いない。

 その日の放課後、2年A組だけではなくC組、はては有志により集まってくれた男子生徒たちだけで開かれた会合かいごうでの結論が、コレであった。

 満場一致で「間違いない。ヤツは森高の女子生徒を食い散らかしに来た、性犯罪者だ!」と可決された。

 ちなみに全員何故か「彼女居ない歴=年齢」の奴らが集まったが……まぁ誰か集まったところで結果は同じだっただろう。

 この瞬間、『ヤリチンは殺せ!』のキャッチフレーズのもと、俺たちは小鳥遊大我の魔の手から学校の女の子を守り抜こう! と意志を確認し合った。

 ただ会合が2年A組の教室のど真ん中で行われたため、話し合いの内容がおもっくそ女子に聞かれていたのだが、俺達はそんなこと気にしなかった。

 蛇塚女子からの可愛らしい唇から発せられる「き、キモい……」の一言ですら、俺たちはポジティブに受け入れられた。

 そう、嫌われたとしても構わない。

 いくら彼女たちに嫌われようと、俺達は死んでも彼女たちを守りきる!

 あえて泥を被り正義を貫くダークヒーローとして、自分の幸せではなく、彼女たちの幸せと純潔を守るために、俺たちはスポットライトが当たらない蛇の道をくことを決めた。

 それからの俺たちの行動は早かった。

 俺達は小鳥遊転校生の近くに同士の仲間を配置し、女子生徒との交流を疎外するという合理的かつ神の1手とも言える手段に打って出た。

 とくにコレには女子生徒から圧倒的不人気のアマゾンが多大なる戦果を残したコトを、級友である俺が奴のほまれとして語っておこうと思う。

 このシンプル故に完璧な作戦がこうそうしたのか、小鳥遊大我転校生に喰われたという女子生徒の報告は0。



「――かくして俺達は、この1週間、無事に学校の風紀を守り抜いたのであった、まる!」
「……それはようございましたね、まる」
「もうっ! 真面目に聞いてんのか、芽衣!? 俺の、俺たちの血と汗と涙のヒューマン・ストーリーを!」



 聞いてるわよぉ、といつもの生徒会長の席で頬杖を突きながら、かったるそうな生返事を返す我らが女神さま。

 場所は2年A組の教室から打って変わって生徒会室。

 そこで俺は我が偉大なる仲間にして苦楽を共にしてきた生徒会役員たちを招集し、この1週間、俺達がどれだけ頑張ってきたかを物語調で説明しようとしていたのだが……集まったのは芽衣1人だけっていうね。

 もう自分の人望の無さにビックリだよね!

 みんな、俺のコト嫌いなのかな?



「つぅか何で芽衣しか集まらないんだよ? 俺、キチンと全員に召集をかけたよね?」
「しょうがないでしょ。アタシ以外、みんな予定が入っちゃったんだから」



 そう言って生徒会長の仮面を脱ぎ捨てた芽衣が、曇天の空へと視線を移しながら、その桜色の唇を動かした。



「猿野くん、司馬さん、宇佐美さんは普通に部活動。大和田さんは母親の誕生日を祝うために今日は早めに帰ったし、洋子はまぁ……野暮用よ」

「野暮用ぅ~? んだよ、他の奴らは仕方ないとして、よこたんはナニしてんだよ?」
「さぁ~てね? 今頃スーパーでチョコレートでも買い漁ってるんじゃないの?」
「はぁん? なんでチョコレート?」



 知~らない、と可愛く舌をペロ♪ と出しながら、おちょくるようにチロチロ動かす女神さま。

 チクショウ、可愛いじゃねぇか。

 この場に居たのが紳士日本代表の俺じゃなければ、今頃その舌に吸いついている所だ。

 というか、よこたんの中では優先順位は俺よりもチョコレートの方が上なのか……地味にショックだ。

 まぁ確かに急な召集だった故に、1人だけでも集まってくれたコト事態に感謝するべきなのかもしれないな。

 うん、そう思おう。



「それで? 用は終わった? ……そう、それじゃ帰りましょうか。ポツポツ雨も振り出してきたコトだし」



 そう言って椅子から腰を上げる芽衣。

 もう少し感慨にふけってくれてもいいのになぁ。

 なんて思いながらも、俺も窓の外へと視線を移す。

 そこには鉛色を超えて、もはやドス黒い雲が『ゴロゴロ……』と不気味な音を立てながら、雨を地上へとき散らしていた。



「…………」
「ん? どうしたのよ、士狼? そんな青い顔を浮かべて?」

「は、ハァ!? べ、別にビビってねぇけど!? ただあの雲、絶対に中に滝川ク●ステルがあるなと思ってただけだし!?」

「いや、そこは天空の城でしょうに……本当どうしたのよ? いつもに増して変、というか挙動不審じゃない。お腹でも――」



 痛いの? と、そう続くハズだった芽衣の言葉は、突如生徒会室を包み込んだ発光によって、簡単に掻き消された。

 目の前と思考が真っ白になるほどの光。

 かと思えば、数秒遅れて、


 ――ドォォォォォォォォォンッ! ゴロゴロゴロ……


 爆発音のような雷鳴が、校舎を震わせた。

 途端に芽衣が「おぉ~」と感嘆な声をあげる。



「今の雷、かなり大きかったわねぇ。こりゃどこかに落ちたかしら、ねぇ士狼? ……士狼? どうしたの? お腹を押さえてうずくまったりして?」

「ハァ!? なにが!?」
「いやだから、お腹を押さえてどうしたのよ? というか大丈夫? 顔、真っ青よ?」
「ま、まったく!? まったくもって無問題モーマンタイですが、なにか!?」



 ――ドォンッ! ドォンッ! ドォォォォォォンッ! ゴロゴロゴロ……



「ぴえんっ!?」
「……士狼?」
「ッ!? ば、バカ芽衣! はやくポンポンお腹を隠せ! 雷様に『おへそ』を持って行かれるぞ!?」
「雷様、おへそ……」



 瞬間、芽衣は「まさか……?」といった表情で目を見開いた。

 その瞳は『信じられない!?』とばかりに俺を射抜いていた。

 が同時に、どこまでも強い好奇心が秘められているのが、簡単に見てとれた。

 いまだゴロゴロと鳴り響く鉛空の下、芽衣は確かめるようにゆっくりとその淡い唇を動かした。



「士狼、アンタまさか……雷が怖いの?」

「はぁん!? 怖い? 雷が? なぜ? Why? というか、怖いという気持ちが分からないわ! 誰か俺に『怖い』って感情を教えてくれ!」

「そう、なら1人で帰れるわね。それじゃ雨が本降りにならないうちに、アタシ帰るわね。お疲れさまぁ~」

ウェイト待って! ウェイト待って!? ごめん、ごめん! 怖い! 雷超怖い! だから俺を1人にしないでぇぇぇぇぇぇっ!?」

「最初からそう言えばいいものを……」



 恥も外聞も関係なく、涙目で芽衣の腰に抱き着く俺。

 もう四の五の言っている場合じゃねぇ!

 今、ここで1人にされたら、間違いなくチビる自信がある。

 というかだ、1人で家に帰れる自信がない。

 芽衣は今にも泣き出しそうな俺を見下ろしながら、「でも意外ね」と驚きに満ちた声音で口をひらいた。



「まさか士狼にこんな弱点があっただなんて……。オバケが苦手なのは知ってたけど、雷もダメなの?」



 コクコクコクコクッ! と、高速で首を縦に振る。

 途端に芽衣が「か、可愛いわねアンタ……」と、頬を染めだす。

 どうやら、さっきの仕草が彼女の母性に直撃したらしい。

 相変わらず、訳の分からん所にツボがある女だ。

 なんて気を抜いた一瞬を縫うように、再び雷鳴が俺たちの身体を激しく揺さぶった。



「ふぅ、まったく困った雷だ……。芽衣! 手ぇ握っててくれ! チビりそうだ!」
「強気で弱気なコトを言うんじゃないわよ。ほらっ、立って士狼。雨が小雨のウチに帰るわよ」
「こ、腰が抜けて力が出ない……」
「ビビり過ぎよ……。まさか雷1つで士狼がこんなにカワイ――ごほんっ! ……ポンコツになるだなんて。まぁもとからポンコツなんだけどね」



 ちょっと?

 一言余計ですわよ? 

 と、普段なら軽口を叩いているところだが、残念ながら今の俺にそんな余裕はない!

 だが問題ない! 

 家にさえ帰れば、我が愛しの大神ファミリーが温かく迎えて……あっ。



「どうしたのよ、士狼? そんな『重大な事実に気づいてしまった!?』って顔は?」
「芽衣、いや芽衣さん。お、落ちついて、俺の話を聞いて欲しい」
「いや、まず士狼が落ち着きなさいよ……」



 それで? 話ってなによ?

 ぶっきら棒ながら、話の続きをうながしてくれる女神様。

 どうやら最後まで聞いてくれるらしい。

 俺はそんな女神さまにすがるように、今、現在進行形で我が身に降りかかっている不幸の数々を口にし始めた。



「実はですね? 本日の大神家は、大変アンタッチャブルな有様でございまして……」
「というと?」

「まず父君が会社の研修ということで、東京へ行っております。加えて姉上も、大学のテスト勉強に精を出すべく友人の家に泊まり込んで今、家にはおりません。そして我が偉大な母上に至っては、オールナイトで職場の人間と飲むらしいので、今日は帰って来ません!」

「つまり、今日は家に士狼しか居ないってことね」
「そうなります。そこで! 我が愛しの女神様である芽衣ちゃんに、1つお願いがあります!」
「あぁ~……もう何となくオチは分かったけど、一応聞いてあげる。言ってごらん?」



 ありがたき幸せ! とこうべを垂れながら、俺は我が主君に向かって一世一代の『お願い』を口にした。



「――一生のお願いです! 今夜、我が家に泊まってください!」
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