9 / 11
大将軍は怖かったです
しおりを挟む
今日は練武視察。
国王は武術が好きで、修練をよく視察される。ただ今日はいつもと違う。国王のお気に入りの武将は一緒に出陣してしまっているので、残っているのはどちらかというと干された武将たち。ただそんな中で飛び切りの大物がいる。
孫龍大将軍。
筆頭大将軍の地位にありながら、若い国王とはあまり馬が合わないため最近は冷遇されている。今回の遠征から外されて黙っているのは、国王も国に残っていると思っているから。一人だけ置いて行かれたとバレたら、どれほどの怒りを買うかしれない。
幸い国王と親しくないため、見破られる危険性は少ない。ただバレたときは覚悟を決めた方が良い。
櫂寧さんのあまりうれしくない説明を受け、練武場に向かう。
練武場へは女性はついていけないので、一緒に来てくれるのは趙子光様のみ。というか、女だってばれたら、二重の意味でヤバいんじゃね、と思った。
練武場に着くと、明らかに他の人と違う異彩をはなっている人がいた。
年齢は50歳くらいか。虎のようなひげを蓄えている。身体は熊みたいに大きく、丸太のような腕をしている。大鉾を持った姿は武神と呼ぶにふさわしい。
こっわ。マジやべえ奴だ。説明を受けなくても、この人が孫龍大将軍だとわかる。なるべく目を合わせないようにして、時間をやりすごそう。
練武が始まると、孫龍大将軍は精力的に若い武将に稽古をつけ始めた。ちなみにここでいう稽古は、孫龍大将軍が大鉾一振りで若い武将を吹き飛ばし、失神させることです。めっちゃ強いです。やはり人間ではない。目を合わせてよい人種ではない。私の少ない人生経験でも、明確にそれはわかった。
一通り相手を吹き飛ばし、立っているものも少なくなってきたころ、孫龍大将軍が近づいてきて口を開いた。
「陛下のわざわざの御視察、恐悦にございます。ですが、座ってばかりではお身体も鈍りましょう。この孫龍がお相手いたしますゆえ、少し動かれてはいかがですか。」
心の中でピシッとガラスが割れたような音がした。この人何言ってんの。私におりてきて戦えって?。頭おかしいんじゃないの。虎と戦いたいウサギなんているわけないだろう。
心臓がドキドキしてきた。あんまり鼓動が激しくなって吐きそうだ。下もヤバい、ちょとちびった。恐怖ってこういうのを言うんだ。初めて知った。
それでも一応平静を装い返事をしようとした。もちろんお断りだ。声が出ない、早く言わなきゃ・・。
「陛下の剣技、拝見したくもありますが、ここはこの趙子光にお譲りいただけませんでしょうか。天下の大将軍に稽古をつけていただく機会などそうございません。なにとぞお許しを。」
趙子光様あああぁ。身代わりになってくれるのですね。やっぱりあなたはやさしいお方です。でも死なないでくださいね。
「ゆるす。存分にせよ」
なんとかもっともらしい返事ができた。もし私があの大将軍の前に立ったら、オシッコ漏らしながら、涙と鼻水まみれでガタガタ震えてたでしょう。そしたらきっと偽物だってバレてこの世とはおさらばでした。
とにかく稽古なんだから、度が過ぎたら止めます。もう大丈夫。それくらい私にもできます。死なないように頑張って。
「ハッ!」
気合いとともに練武が始まった。
趙子光様は双剣、孫龍大将軍は大鉾、お互い得意の得物だ。
「キン!、キン!」
趙子光様が双剣をくりだす。速い!目で追えないほどのスピードで繰り出される剣を、しかし孫龍大将軍はさすがに捌いている。
孫龍大将軍も大鉾を振るうが、スピードで勝る趙子光様がこれを巧みによける。
すごい!。軍神孫龍の名はこの国では子供でも知っている。そのお方と互角に渡り合うなんて。
趙子光様の剣はいよいよ冴え、孫龍大将軍に襲い掛かる。
孫龍大将軍が押し込まれたと見えた瞬間、大鉾の柄の部分で趙子光様の腹部を突き上げた。うまい!さすがに百戦錬磨。趙子光様の動きが止まる。
その隙を逃さず、大鉾が趙子光様の身体を薙ぎ払う。趙子光様は吹き飛ばされ意識を飛ばしてしまったようだ。
「そこまで!。さすがは孫龍将軍!見事である」
一瞬のことに止めそこなったが、何とか言えた。
趙子光様はもう息を吹き返した。かなりお辛そうに肩で息をしている。
孫龍大将軍は、まったく息も乱れていない。互角というのは少し贔屓目に過ぎたかもしれない。
しかしその表情はかなり和んでいる。
「いや、さすがは趙子光殿。その若さで目を見張る剣技。そこらの千人将よりよほど強い。これはこの先楽しみじゃ」
おそらく本音だろう。上機嫌である。もう孫龍大将軍の目には趙子光様しか映っていないようだ。
とりあえず危機は去った。何とか無事練武場より生還できた。
国王は武術が好きで、修練をよく視察される。ただ今日はいつもと違う。国王のお気に入りの武将は一緒に出陣してしまっているので、残っているのはどちらかというと干された武将たち。ただそんな中で飛び切りの大物がいる。
孫龍大将軍。
筆頭大将軍の地位にありながら、若い国王とはあまり馬が合わないため最近は冷遇されている。今回の遠征から外されて黙っているのは、国王も国に残っていると思っているから。一人だけ置いて行かれたとバレたら、どれほどの怒りを買うかしれない。
幸い国王と親しくないため、見破られる危険性は少ない。ただバレたときは覚悟を決めた方が良い。
櫂寧さんのあまりうれしくない説明を受け、練武場に向かう。
練武場へは女性はついていけないので、一緒に来てくれるのは趙子光様のみ。というか、女だってばれたら、二重の意味でヤバいんじゃね、と思った。
練武場に着くと、明らかに他の人と違う異彩をはなっている人がいた。
年齢は50歳くらいか。虎のようなひげを蓄えている。身体は熊みたいに大きく、丸太のような腕をしている。大鉾を持った姿は武神と呼ぶにふさわしい。
こっわ。マジやべえ奴だ。説明を受けなくても、この人が孫龍大将軍だとわかる。なるべく目を合わせないようにして、時間をやりすごそう。
練武が始まると、孫龍大将軍は精力的に若い武将に稽古をつけ始めた。ちなみにここでいう稽古は、孫龍大将軍が大鉾一振りで若い武将を吹き飛ばし、失神させることです。めっちゃ強いです。やはり人間ではない。目を合わせてよい人種ではない。私の少ない人生経験でも、明確にそれはわかった。
一通り相手を吹き飛ばし、立っているものも少なくなってきたころ、孫龍大将軍が近づいてきて口を開いた。
「陛下のわざわざの御視察、恐悦にございます。ですが、座ってばかりではお身体も鈍りましょう。この孫龍がお相手いたしますゆえ、少し動かれてはいかがですか。」
心の中でピシッとガラスが割れたような音がした。この人何言ってんの。私におりてきて戦えって?。頭おかしいんじゃないの。虎と戦いたいウサギなんているわけないだろう。
心臓がドキドキしてきた。あんまり鼓動が激しくなって吐きそうだ。下もヤバい、ちょとちびった。恐怖ってこういうのを言うんだ。初めて知った。
それでも一応平静を装い返事をしようとした。もちろんお断りだ。声が出ない、早く言わなきゃ・・。
「陛下の剣技、拝見したくもありますが、ここはこの趙子光にお譲りいただけませんでしょうか。天下の大将軍に稽古をつけていただく機会などそうございません。なにとぞお許しを。」
趙子光様あああぁ。身代わりになってくれるのですね。やっぱりあなたはやさしいお方です。でも死なないでくださいね。
「ゆるす。存分にせよ」
なんとかもっともらしい返事ができた。もし私があの大将軍の前に立ったら、オシッコ漏らしながら、涙と鼻水まみれでガタガタ震えてたでしょう。そしたらきっと偽物だってバレてこの世とはおさらばでした。
とにかく稽古なんだから、度が過ぎたら止めます。もう大丈夫。それくらい私にもできます。死なないように頑張って。
「ハッ!」
気合いとともに練武が始まった。
趙子光様は双剣、孫龍大将軍は大鉾、お互い得意の得物だ。
「キン!、キン!」
趙子光様が双剣をくりだす。速い!目で追えないほどのスピードで繰り出される剣を、しかし孫龍大将軍はさすがに捌いている。
孫龍大将軍も大鉾を振るうが、スピードで勝る趙子光様がこれを巧みによける。
すごい!。軍神孫龍の名はこの国では子供でも知っている。そのお方と互角に渡り合うなんて。
趙子光様の剣はいよいよ冴え、孫龍大将軍に襲い掛かる。
孫龍大将軍が押し込まれたと見えた瞬間、大鉾の柄の部分で趙子光様の腹部を突き上げた。うまい!さすがに百戦錬磨。趙子光様の動きが止まる。
その隙を逃さず、大鉾が趙子光様の身体を薙ぎ払う。趙子光様は吹き飛ばされ意識を飛ばしてしまったようだ。
「そこまで!。さすがは孫龍将軍!見事である」
一瞬のことに止めそこなったが、何とか言えた。
趙子光様はもう息を吹き返した。かなりお辛そうに肩で息をしている。
孫龍大将軍は、まったく息も乱れていない。互角というのは少し贔屓目に過ぎたかもしれない。
しかしその表情はかなり和んでいる。
「いや、さすがは趙子光殿。その若さで目を見張る剣技。そこらの千人将よりよほど強い。これはこの先楽しみじゃ」
おそらく本音だろう。上機嫌である。もう孫龍大将軍の目には趙子光様しか映っていないようだ。
とりあえず危機は去った。何とか無事練武場より生還できた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました
cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。
そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。
双子の妹、澪に縁談を押し付ける。
両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。
「はじめまして」
そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。
なんてカッコイイ人なの……。
戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。
「澪、キミを探していたんだ」
「キミ以外はいらない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる