あなたが頼むから、命をかけることにします

tega

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大将軍は怖かったです

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 今日は練武視察。

 国王は武術が好きで、修練をよく視察される。ただ今日はいつもと違う。国王のお気に入りの武将は一緒に出陣してしまっているので、残っているのはどちらかというと干された武将たち。ただそんな中で飛び切りの大物がいる。

 孫龍大将軍。

 筆頭大将軍の地位にありながら、若い国王とはあまり馬が合わないため最近は冷遇されている。今回の遠征から外されて黙っているのは、国王も国に残っていると思っているから。一人だけ置いて行かれたとバレたら、どれほどの怒りを買うかしれない。

 幸い国王と親しくないため、見破られる危険性は少ない。ただバレたときは覚悟を決めた方が良い。

 櫂寧カイネイさんのあまりうれしくない説明を受け、練武場に向かう。

 練武場へは女性はついていけないので、一緒に来てくれるのは趙子光チョウシコウ様のみ。というか、女だってばれたら、二重の意味でヤバいんじゃね、と思った。

 練武場に着くと、明らかに他の人と違う異彩をはなっている人がいた。

 年齢は50歳くらいか。虎のようなひげを蓄えている。身体は熊みたいに大きく、丸太のような腕をしている。大鉾を持った姿は武神と呼ぶにふさわしい。

 こっわ。マジやべえ奴だ。説明を受けなくても、この人が孫龍大将軍だとわかる。なるべく目を合わせないようにして、時間をやりすごそう。

 練武が始まると、孫龍大将軍は精力的に若い武将に稽古をつけ始めた。ちなみにここでいう稽古は、孫龍大将軍が大鉾一振りで若い武将を吹き飛ばし、失神させることです。めっちゃ強いです。やはり人間ではない。目を合わせてよい人種ではない。私の少ない人生経験でも、明確にそれはわかった。

 一通り相手を吹き飛ばし、立っているものも少なくなってきたころ、孫龍大将軍が近づいてきて口を開いた。

 「陛下のわざわざの御視察、恐悦にございます。ですが、座ってばかりではお身体も鈍りましょう。この孫龍がお相手いたしますゆえ、少し動かれてはいかがですか。」

 心の中でピシッとガラスが割れたような音がした。この人何言ってんの。私におりてきて戦えって?。頭おかしいんじゃないの。虎と戦いたいウサギなんているわけないだろう。


 心臓がドキドキしてきた。あんまり鼓動が激しくなって吐きそうだ。下もヤバい、ちょとちびった。恐怖ってこういうのを言うんだ。初めて知った。

 それでも一応平静を装い返事をしようとした。もちろんお断りだ。声が出ない、早く言わなきゃ・・。

 「陛下の剣技、拝見したくもありますが、ここはこの趙子光チョウシコウにお譲りいただけませんでしょうか。天下の大将軍に稽古をつけていただく機会などそうございません。なにとぞお許しを。」

 趙子光チョウシコウ様あああぁ。身代わりになってくれるのですね。やっぱりあなたはやさしいお方です。でも死なないでくださいね。

 「ゆるす。存分にせよ」

 なんとかもっともらしい返事ができた。もし私があの大将軍の前に立ったら、オシッコ漏らしながら、涙と鼻水まみれでガタガタ震えてたでしょう。そしたらきっと偽物だってバレてこの世とはおさらばでした。

 とにかく稽古なんだから、度が過ぎたら止めます。もう大丈夫。それくらい私にもできます。死なないように頑張って。

 「ハッ!」
 気合いとともに練武が始まった。

 趙子光チョウシコウ様は双剣、孫龍大将軍は大鉾、お互い得意の得物だ。

 「キン!、キン!」
 趙子光チョウシコウ様が双剣をくりだす。速い!目で追えないほどのスピードで繰り出される剣を、しかし孫龍大将軍はさすがに捌いている。

 孫龍大将軍も大鉾を振るうが、スピードで勝る趙子光チョウシコウ様がこれを巧みによける。

 すごい!。軍神孫龍の名はこの国では子供でも知っている。そのお方と互角に渡り合うなんて。

 趙子光チョウシコウ様の剣はいよいよ冴え、孫龍大将軍に襲い掛かる。

 孫龍大将軍が押し込まれたと見えた瞬間、大鉾の柄の部分で趙子光チョウシコウ様の腹部を突き上げた。うまい!さすがに百戦錬磨。趙子光チョウシコウ様の動きが止まる。

 その隙を逃さず、大鉾が趙子光チョウシコウ様の身体を薙ぎ払う。趙子光チョウシコウ様は吹き飛ばされ意識を飛ばしてしまったようだ。

 「そこまで!。さすがは孫龍将軍!見事である」

 一瞬のことに止めそこなったが、何とか言えた。
 趙子光チョウシコウ様はもう息を吹き返した。かなりお辛そうに肩で息をしている。

 孫龍大将軍は、まったく息も乱れていない。互角というのは少し贔屓目に過ぎたかもしれない。

 しかしその表情はかなり和んでいる。

 「いや、さすがは趙子光チョウシコウ殿。その若さで目を見張る剣技。そこらの千人将よりよほど強い。これはこの先楽しみじゃ」
 
 おそらく本音だろう。上機嫌である。もう孫龍大将軍の目には趙子光チョウシコウ様しか映っていないようだ。

 とりあえず危機は去った。何とか無事練武場より生還できた。
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