少年王は妖艶な妃に恋をする

歌龍吟伶

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第8話

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いつもならリラフィアの話を素直に聞くだけで深く掘り下げてこないイルヴィンド。

しかし、この日は違った。


「ねえリラフィア、苛められたりしてない?」


「…は?」


予想外の問いに、思わず間抜けな声が出てしまった…リラフィアはコホンと咳払いで誤魔化し、笑顔を作り直す。


「王妃であるわたくしを虐めるものなどおりませんわ。心配してくださってありがとうございます」


「…そっか、大丈夫ならいいんだ」


なぜか浮かない表情のイルヴィンドに、リラフィアは不安になった。


「いかがなさいましたの、陛下。陛下こそどなたかに嫌な事でも?」


また女官長か誰かが嫌味を言ったのか?

僅かに怖い顔になるリラフィアを見て、イルヴィンドは慌てて手を振り否定した。


「ううん、違うんだ!ちょっとね、ケネスと仕事中にバルカンの話をしてたもんだから」


バルカン。その名を聞いてリラフィアの目つきが更に鋭くなる。

長年信頼を得ておきながら裏切り、イルヴィンドを傷つけたクソジジイ。

リラフィアが殺気立ったことに気づき、イルヴィンドは益々慌てる。


(しまった、バルカンの話は禁句だった!)


元宰相の話をするとリラフィアはとても機嫌が悪くなるのだ。

美しい顔を強張らせ、心なしか声も低くなる。


「なぜ、バルカンの話を?」


案の定、美しき妻の目が座ってしまった。


「あ、いや、えっと…ちょっと昔話みたいな感じで!仕事の合間にさ、愚痴っていうかさ!」


アタフタしながらイルヴィンドは懸命に取り繕う。


「毎日毎日すごい量の書類を片付けてるはずなのに、全然終わらないんだもん…何してたのかなーって」


「全ては愚か者のせいですわ。」


ピシャリと言い捨てられ、イルヴィンドは苦笑いするしかない。


「裏切りとかさ、いっぱいあることを知っちゃったから…リラフィアは変なこと言われたりしてないかなって」


イルヴィンドは手を握りしめ、気合いを入れてリラフィアの目をしっかりと見つめた。


「も、もし誰かに虐められたりしたら、僕に言ってね!き…君のこと、守るから!!」


ズキュン


リラフィアは咄嗟に胸を押さえる。

珍しく真っ直ぐ目を見て話してくれただけでなく、そんな事を言われるとは。


「……ありがとう、ございます。頼もしいですわ、陛下」


必死に平静を装いながら礼を言うリラフィアだが、内心ではかなり動揺していた。


(可愛すぎますわ、イルヴィンド!)


リラフィアには以前恋人がいた。

不慮の事故で亡くし、喪が明けても心の傷は少しも癒えず。

失意の中で王妃になれと言われた時は反発し、父と大喧嘩になったけれど。

いつもなら自分を尊重してくれる父が珍しく折れなかったから、余程のことがあるのだろうと引き受けたのだ。

イルヴィンドは可愛らしい。

王としても男としても頼りないし、まだまだ力不足。

しかしリラフィアは嫁いできて良かったと思っている。
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