少年王は妖艶な妃に恋をする

歌龍吟伶

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第9話

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北方領主家の長女として生まれたリラフィア。

兄がいるため家は継がないけれど、文武両道にとそれなりの教育を受けて育った。

頭の良さは兄より優れていると言われるほどで、気の強さも父親譲り。

いずれは幼馴染と恋愛結婚をして、兄が家督を継いだら支えるつもりだった。


(イルヴィンド陛下の妃に、と言われた時は寝耳に水でしたわ)


恋人アーサーを亡くしてからは家に籠りがちで、人が変わったように大人しく過ごしていたある日。

国王急逝の知らせを受けてからずっと王城に行っていた父が戻ってきて、突然嫁入りを告げられた。


「リラフィア、イルヴィンド陛下に嫁ぎ彼を支えよ」


(初めは何の冗談かと思いましたわね)


父ケルヴィンは、娘の自分が言うのもなんだが優しいほうではない。

常に冷静で、損得を天秤にかけて即座に判断できるような人。

幼く気弱な王に肩入れするなんてどういう風の吹き回しかと思い、何度も理由を聞いたけれど答えてはくれなかった。

ただ決定事項だからと勝手に話を進められ、当時はかなりぶつかり合ったものだ。


(今では感謝していますけれど。お父様に言ったらきっと得意げな顔をするから言わないわ)


思った通りだ、と笑う父の姿が安易に想像できた。


予想以上に腐敗した城内の様子に唖然としたが、忙しくしているおかげでアーサーの死を乗り越えることができたのだ。


(なにより、イルヴィンドが可愛すぎますもの。…なんて言ったら貴方は怒るかしら?)


思いの外イルヴィンドに癒されている。

イルヴィンドとの夕食を終え、リラフィアはチラリと窓の外に目を向けながら亡き恋人を想う。

じゃじゃ馬と呼ばれ呆れられるほどだった自分のことを、可愛い女性だと言ってくれた人。

昔から知っているからこそ全てをさらけ出せたし、気を使わなくていい楽な関係だった。


(貴方ならきっと許してくれるわよね)


優しかったアーサーならきっと、自分の選んだ人を認めてくれる。

きっときっと褒めてくれる…過去の愛が今のリラフィアの背中を押していた。


(見ていてね、アーサー。わたくしはやり遂げてみせるわ…この腐りきった城の中で、イルヴィンドを立派な王にしてみせる)


砂利道を裸足で歩くような痛みに耐え、茨の道を切り開く力を与えてくれているのだ。


(こんな話をしたら、イルヴィンドは妬いてくれるかしら)


先に寝台に腰掛け欠伸を噛み殺している夫を見つめ、リラフィアは結婚式のことを思い出す。

まともに会ったことすらなかったイルヴィンドを、初めて間近で見たときのことを。
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