少年王は妖艶な妃に恋をする

歌龍吟伶

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第52話

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馬車が襲撃されている頃、城ではイルヴィンドがアドラーの謁見に応じていた。


「陛下、働き者で健康な娘達です。少し話をするだけでもお時間を頂けませんか」


アドラーは自分の屋敷で働く侍女や、城内で目をつけた女官をイルヴィンドに会わせようと連れてきていたのだ。


「しつこいぞアドラー侯爵。私は其方との謁見には応じると言ったが彼女らと会うと事は了承していない、下がらせよ」


「そう仰らずに…陛下は王妃様しかご存知ないからそのように拒絶なさるのですよ」


今頃王妃は崖の下。

妻から計画を聞かされているアドラーは、頬を緩めて強引に女達を紹介する。


「陛下も歳の近い娘の方が話しやすいでしょう、読書好きの賢い娘はどうです?」


「いい加減に…」


さすがのイルヴィンドも堪忍袋の尾が切れる、その時部屋の外が慌ただしくなり一人の騎士が駆け込んできた。


「謁見中、御前失礼いたします!」


「何事だ」


そして知らされる、王妃一行襲撃事件。


「王妃様を乗せた馬車が、賊の襲撃を受けたとのことです!」


「…怪我人は」


「現在確認中、第三騎士団を派遣しております!」


アドラーは、イルヴィンドの反応に違和感を抱く。

もっと取り乱すと思ったのに冷静に見える、なにより王妃を心配する様子が感じられない。

しかし計画が上手くいったのだと浮かれるアドラーは、その違和感を深く考えずに笑った。


「おやおや、これは大変だ」


口ではそう言うが笑みが堪えきれない。

そんなアドラーにイルヴィンドは冷たい視線を送る。


「嬉しそうだな、ジョン・アドラー」


「嬉しそう?何をおっしゃいます陛下。これは国の一大事でございましょう、王妃様の身に何かあったやもしれぬのですよ」


徐々に騎士が集まり慌ただしくなっていく、そこへ女官マーサも現れた。


「失礼いたします陛下…なにやら物騒な話が聞こえたのですが」


「おおマーサ!大変なのだ、視察へ向かわれた王妃様が襲撃されたらしい」


大袈裟に驚く妻と夫。

イルヴィンドは深呼吸し、二人を見つめる。

その瞳には悲しみが宿っているが、それはリラフィアを失ったかもしれないから…ではない。


「…これは最後の警告だよ、ジョン・アドラー。そしてマーサ。本当の事を話して欲しい」


「…なんの、事でしょうか」


夫婦の額に汗が滲む。

周囲を見ると、いつのまにか国王の近衛騎士が勢揃いしており更には第一騎士団まで部屋の外に集まっていた。


「お願いだから罪を認めて。今なら話を聞いてあげられる」


生まれた時から世話になっているマーサに対し、イルヴィンドは苦手意識と共に感謝の心も抱いている。

そう、今回の計画はリラフィアによって数日で暴かれ、イルヴィンドにも伝わっていたのだ。

今頃崖下に落とされているのはリラフィアではなく、殺し屋達の方だろう。

そしてリラフィアはこちらへ向かっているはず、戻れば彼女は決してアドラー達を許さない。


「君達の計画は既に知っている。リラフィアは無事のはずだよ、もうすぐ帰ってくる」


王の言葉に呆然とするマーサ。

アドラーは、


「くっ、くくく…バレていたとはな。お前が悪いのだぞイルヴィンド、大人しく傀儡の王であればよかったものを!」


開き直った。


「どうして?君たちはそのままでいても地位と権力を守れたのに。こんな事しなければ、これからも変わらなかったはずなのに」


「今の地位で満足などするものか!私は城の主人になる男だ!」


そして愚かなアドラーは周囲に向けて叫ぶ。


「お前達もこんなガキに従うのは面白くないだろう?!私につけば良い待遇を約束してやるぞ!」


頷く者など、一人もいない。
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