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王子の城へやってきてからというもの、少し退屈だけれども平穏な日々が過ぎていった。
今日は舞踏会が催されるそうで、そんな退屈も紛れそう。
私は今日着ていくドレスを選ぼうと、部屋のドレッサーを開けた。
けれどそこにあったのは、見事に切り刻まれたドレスの残骸。無事なドレスもあるけれど、私好みのドレスはどれもズタズタだ。
「………………」
ひとまずドレッサーを閉じて考えてみる。
誰がこんなことをしたのだろう。
心当たりといえば、いまだに私に冷たいメイドたち。そこまで嫌われるようなことをした覚えはないのだけど……。
さすがの私もこれにはこたえて、バルコニーへ出て風に当たる。
部屋のバルコニーからはこの国が一望できた。広くて肥沃な土地だ。
でもこの広い国の中で、私のことを知っている人は誰もいない。
「……どうかなさったのですか? まだ着替えも済んでいないようだ」
いつのまにか、私の隣には王子が立っていた。
「少しだけ……寂しくなってしまって。私、起きてから知り合いも誰もいないし……」
「そうか、姫は長い眠りについていたからご家族も友人もすでに……――姫に寄り添うことができておらず、申し訳ない」
まあ家族とは元々不仲だったし、友人もいなかったのだけれど。でもだからこそ、愛し愛される恋人が欲しかった。私のことを大切にしてくれる、王子様と出会いたかったのだ。
そんな昔のことを思い出しかけた時、王子はたくましい腕で私を抱き寄せた。
「――姫、ご安心ください。私がいますから。姫は一人ではありません」
「王子……――」
好みではない筋肉質な腕とがっしりした体つきが、なんだかかっこよく思えてしまう。
王子は私の顔を見つめ、白くきれいな歯を見せながら爽やかに笑いかけてくれた。
やっぱりこの人こそ私の王子様なのかも……――と、思いかけた時。
「――……そうだ!」
王子は急に、がばっと私を腕から離した。
「今日の舞踏会には、私の妻も来る予定なんです。姫の良き話し相手になるかと!」
「…………つ、ま……――?」
思いがけない言葉が王子の口から飛び出して、頭が回らなくなる。
「ええ。今は少し離れた領地にある城に住んでいるんですけどね、今日の舞踏会には来るはずだ。そうそう、この姫の部屋も元は妻の部屋だったんですよ」
「…………え?」
「私が姫を眠りから覚ますにあたって、城を移動してもらったのです。この城のほうが守りを固めやすいですからね」
王子はまた、はははと爽やかに笑う。
「久しぶりに妻に会えると、メイドたちもさっき喜んでいたっけ。姫についているメイドたちから話を聞いていませんか? みな元々妻付きのメイドたちなんですよ」
ちょっと待って。
妻がいるということは、私は妾?
妻を追い出して妾の私をこの城に迎えた?
さらに妻の部屋を私にあてがった?
さらにさらに、仕えていたメイドたちを私付きにしたと?
なんという無神経――――。
そりゃあ、私はメイドたちに嫌われるわけだ。
王子の妻はできる人なのだろう。メイドたちはよく仕込まれているし、きっと主従関係も良好だったはず。
先ほどのドレスも思い返せば、切り刻まれていたのは私がここに来てからプレゼントされたものばかりだった。
無事なドレスはみな、元からドレッサーにあったもの。おそらく王子の正妻の持ち物だ。
「……――というわけですから、今日の舞踏会に魔法使いがやってきても、返り討ちにしてみせますよ。ご安心を」
衝撃を受けている私をよそに、王子は爽やかにまた魔法使いの話をしていた。
今日は舞踏会が催されるそうで、そんな退屈も紛れそう。
私は今日着ていくドレスを選ぼうと、部屋のドレッサーを開けた。
けれどそこにあったのは、見事に切り刻まれたドレスの残骸。無事なドレスもあるけれど、私好みのドレスはどれもズタズタだ。
「………………」
ひとまずドレッサーを閉じて考えてみる。
誰がこんなことをしたのだろう。
心当たりといえば、いまだに私に冷たいメイドたち。そこまで嫌われるようなことをした覚えはないのだけど……。
さすがの私もこれにはこたえて、バルコニーへ出て風に当たる。
部屋のバルコニーからはこの国が一望できた。広くて肥沃な土地だ。
でもこの広い国の中で、私のことを知っている人は誰もいない。
「……どうかなさったのですか? まだ着替えも済んでいないようだ」
いつのまにか、私の隣には王子が立っていた。
「少しだけ……寂しくなってしまって。私、起きてから知り合いも誰もいないし……」
「そうか、姫は長い眠りについていたからご家族も友人もすでに……――姫に寄り添うことができておらず、申し訳ない」
まあ家族とは元々不仲だったし、友人もいなかったのだけれど。でもだからこそ、愛し愛される恋人が欲しかった。私のことを大切にしてくれる、王子様と出会いたかったのだ。
そんな昔のことを思い出しかけた時、王子はたくましい腕で私を抱き寄せた。
「――姫、ご安心ください。私がいますから。姫は一人ではありません」
「王子……――」
好みではない筋肉質な腕とがっしりした体つきが、なんだかかっこよく思えてしまう。
王子は私の顔を見つめ、白くきれいな歯を見せながら爽やかに笑いかけてくれた。
やっぱりこの人こそ私の王子様なのかも……――と、思いかけた時。
「――……そうだ!」
王子は急に、がばっと私を腕から離した。
「今日の舞踏会には、私の妻も来る予定なんです。姫の良き話し相手になるかと!」
「…………つ、ま……――?」
思いがけない言葉が王子の口から飛び出して、頭が回らなくなる。
「ええ。今は少し離れた領地にある城に住んでいるんですけどね、今日の舞踏会には来るはずだ。そうそう、この姫の部屋も元は妻の部屋だったんですよ」
「…………え?」
「私が姫を眠りから覚ますにあたって、城を移動してもらったのです。この城のほうが守りを固めやすいですからね」
王子はまた、はははと爽やかに笑う。
「久しぶりに妻に会えると、メイドたちもさっき喜んでいたっけ。姫についているメイドたちから話を聞いていませんか? みな元々妻付きのメイドたちなんですよ」
ちょっと待って。
妻がいるということは、私は妾?
妻を追い出して妾の私をこの城に迎えた?
さらに妻の部屋を私にあてがった?
さらにさらに、仕えていたメイドたちを私付きにしたと?
なんという無神経――――。
そりゃあ、私はメイドたちに嫌われるわけだ。
王子の妻はできる人なのだろう。メイドたちはよく仕込まれているし、きっと主従関係も良好だったはず。
先ほどのドレスも思い返せば、切り刻まれていたのは私がここに来てからプレゼントされたものばかりだった。
無事なドレスはみな、元からドレッサーにあったもの。おそらく王子の正妻の持ち物だ。
「……――というわけですから、今日の舞踏会に魔法使いがやってきても、返り討ちにしてみせますよ。ご安心を」
衝撃を受けている私をよそに、王子は爽やかにまた魔法使いの話をしていた。
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