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1.姫の章
5.黒髪の騎士
しおりを挟む「あいつと間違えるなんて、本当に忘れてんだな」
わざとらしい溜息、でも声のトーンは低く、心から残念に思っている事が伝わってくる。
「ごめんなさい……」
至近距離で見つめられ、思わず謝ってしまう。
よく見れば前髪も短いし、ちょっとツリ目でやんちゃそうで、記憶にあるラピスとは似ても似つかない。
「ラピスに似て見えたのかもよ」
「やめろよ。だいたいあいつの髪は青だろ」
「それもそうだね……あぁ、牢の中が暗かったから黒髪に見えたのかもね」
(なるほど……)
ルチルの言葉に私が納得してしまう。
あの時は暗くて、顔もよく見えていなかった。
「スピネル・カーディーだ」
「スピネル……あなたが……」
でもその名前はよく覚えている。
「何が……あったんですか。教えてください。何で国王暗殺なんて事を」
「まぁ、待て。これには理由が……って、頼んだ張本人に説明するのも変な話だがな」
悪びれる素振りもなくスピネルは、ベッドの側に椅子を持ってきてドカッと座る。
「原因は……恐らくこれだ」
スピネルが取り出したのは白い石の欠片。
「これは……古代文字」
ルチルが呟いた。
「これは、宝玉の間の地下で見つけた石盤の欠片だ」
「宝玉の間……」
「…………なるほどね。それでスピネルは鳳耀殿に忍び込んだと」
「あぁ、抜かりはなかったはずだがな」
「情報が漏れていたんだろうね、それより宝玉の間に地下なんてないはずだけど……」
「ロゼが見つけたんだ。護り石をはめ込むと開く隠し扉があった」
「へぇ~、なるほど。それが二人の隠し事ね」
「はぁ……巻き込みたくなかっただけだ。俺もロゼも大事にする気はなかった」
「でもその結果がこれだよ。次からは、隠し事なしだからね」
「わかってるよ」
話がまったく見えなかった。
宝玉《ほうぎょく》の間に隠し扉……目の前に出された瓦みたいな石の欠片に、何の意味があるのかもよくわからない。
「これは返しとく。記憶がなかろうが何だろうがあんたが持ってなきゃならないもんだ」
白い袋を差し出すスピネル。慎重に袋を開けると深緑の宝石が。光もないのにきらりと光った気がして温もりまで感じる。
「あんたは憶えてないだろうが、これはロゼが祖母から受け継いだ護り石のエメラルドだ。扉を開けるために預かってた。言っておくが、そいつとあんたは一心同体だから、どんな時も肌身離さず身に着けていてくれ」
「これ……」
「ん? 」
「何か思い出したか」
「あ、いえ……」
気絶していた時に見た夢の中で、あの女の子かおばあさまから受け取った首飾りと同じ。
(あの子がロゼッタ……でも……)
なぜ私の中にロゼッタという姫様の記憶があるのかわからない……でも確かに私は、この石を知っているし大切に……してきた。
「姫様」
「ごめんなさい……どう捉えたらいいかわからなくて」
謎が謎を呼んで、わからない事ばかり増えていく。
(私がここに存在する事自体、理解できてないのに……)
私は愛なのかロゼッタなのか、それすらわからなくなってくる。
(何が書いてあるんだろう……)
見覚えのない、駐車場の塀にでも使われていそうな平たい石の欠片。でも、なぜか胸が熱くなる。
「姫様? 」
「おい、どうした」
「あ……いえ……」
目を離すとなぜか息が切れていた。
「まぁ……詳しい話はまた次の機会、だな。とりあえず今は早く支度しねぇと」
「支度? 」
「医者を呼んだ。馴染みの奴だから心配ないとは思うが一応な。そいつの安全の為にも変装しといた方がいい」
そう言うとスピネルは石の欠片を懐にしまい、どこかへと出掛けていった。
「姫様、お疲れでしょう。少し横になられては」
「いえ……混乱していて、眠れそうにないので」
自然な仕草で身体に触れ、横たわるよう支えてくれるけれど、それを断る。
気持ちがざわついて、胸の鼓動もまだ少し早い。ルチルは嫌な顔もせずそうですかと言って、さっきまでスピネルが座っていた場所に座る。
「色々、受け止めるのが難しい事もありましょう……私も、胸にもやのようなものが。スピネルは少し言葉足らずなので、いつも言いたい事だけ言って、ああしていなくなるのです。あれには我々も姫様もよく困らされました。恐らく、昔から諜報などで城を出ての単独行動が多かったせいでしょう」
「諜報? 」
「えぇ、密かに忍び込んで情報を得る、密偵のような仕事です」
「密偵……」
「スピネルは武芸に長け、逃げ足も天下一品。おまけに変装の達人なので、その才を買われ、宮殿での護衛より忍びの仕事の方が多いのです」
「そう……なんですね(逃げ足……褒めているのか、けなしているのか)」
胸にもやがと言いつつ、私から見た彼はとても冷静で落ち着き払っているように見える。
(仲間への信頼……か)
親しい人に裏切られて捕まり、ひどい目に遭ったはずなのに。そして彼等の仲間は今も……ひどい目に遭っているかもしれないのに。
「どうして、そんなに信じられるんですか」
「姫様……? 」
「だって姫様とあのスピネルという人のせいで皆、囚われたんでしょう? 酷い目に遭わされて仲間は今もどこかで拷問されてるかもしれないのにどうして? あなただってあの時、怒ってるって……それともあれは嘘だったの? 」
「あの……」
「それを謝りもせずにあんな態度……私だったら赦せないし、もう信じられない」
つい、腹立たしくなって勢い任せに言ってしまった。騎士の皆からすれば裏切った姫は私なのに。
呆気にとられたルチルの顔、生まれた沈黙はとても気まずくて。
「ごめんなさい……でも、裏切る人は嫌い」
裏切ったり、隠し事をする人は必ず言い訳をする。自分が一番大事なだけのくせに……守りたいのは相手でも関係性でもなく、自分だから嘘をつく。
「姫様」
「ごめんなさい、忘れてください」
「無理に信じようとする必要はありません。それから赦す必要も。ですが私は、姫様とスピネルを信じていますし、先程の話でおおよその概要は掴めました」
「え……」
「私ども五騎士は、姫様を御守りし、姫様の為に生きるのが使命……スピネルはその信念に従い行動したまで。しかし、それが誰かの怒りをかったのです。まずはその辺りを調べなければなりません」
「調べるってどうやって……」
「ご安心ください。姫様は憶えていらっしゃらないかもしれませんが、これで終わる私達ではございません」
意味ありげなウインクに、すっかり翻弄されている。
「今は一刻も早く、元の世界に戻りたいかもしれませんが今しばらくご辛抱を。しばし我々にお付き合いください」
何も感じない左手に、ルチルはそっと手を添える。微笑む彼の、瞳に吸い込まれそうだった。
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