囚われの姫はまだ自分の正体を知らない

織本紗綾(おりもとさや)

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1.姫の章

7.五騎士と姫様

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 森を抜けると、のどかな田園風景が広がっていた。広く舗装されていない道を、ただひたすらまっすぐ歩いていく。

「かなり歩きましたね。そろそろお疲れではないですか」
「もう少しだ。市場に出たらどこか店に入る」

 二人ともそれぞれの言葉で私の身体を気遣ってくれるけれど、優しくされるのは慣れていなくてどうしていいかわからない。

「姫様は……」
「ん? 」
「姫様はいつもどうしていたのかなって……」

 言葉が足りなかったのか、ルチルもスピネルも不思議そうな表情。気遣われるのに慣れていないから、こんな時どんな反応をしていいかわからないと伝えてみる。

「ふふ、懐かしいね。確か出逢った頃の姫様も同じ事を言っていたよ。スピネルもおぼえてるでしょ? 」
「あぁ、だから仕えるんじゃなくて友達になってほしい……姫様自ら茶会を開いてな、仕え始めたばかりの俺等を招いてそう言ったんだ」
「友達……」

 スピネルとルチルは姫様の事を色々と教えてくれた。しっかり者で人に頼るのが苦手で、でもちょっとドジで。

「ほんっと……無茶ばっかするんだ。あいつは」

 二人の言葉には姫様への愛情がたくさん詰まっているようで、切なさに覆われる。なぜか私が申し訳ない気持ちに、彼等から姫様を奪ってしまったような気になってくる。

 (フィアンセ……だったんだもんね……)

 特にスピネルの背中は悲しそうで……それ以上、姫様について聞くことは出来なかった。

「そういえば、これから助けに行く仲間についてまだ話してないんじゃない? 」

 沈黙が生まれ、さりげなくルチルが話題を変えてくれる。

「会ってからでいいだろ」
「教えてください。どんな人達なのか。それに、私がしゃべらなかったせいで捕まって大変な目に遭っているならちゃんと謝らないと」
「謝るって……あんたが悪い事なんかないだろ」

 スピネルは溜め息をつきながら、それでもちゃんと教えてくれた。まず最初に助けに行くのは西の果ての国営農場に流刑となったカロン・ウィンター。スイーツ好きで、五人の中では一番のグルメらしい。剣の腕は立つけれど怖がりで幽霊と虫が苦手だとか。

「カロンのまもり石はインカローズと言ってね」
まもり石……」
「おい、その話はまだいい」
「そう? 姫様もエメラルドストーンを持ってる事だし、ちゃんと伝えておいた方がいいと思うけど」
「聞きたいです」

 確か、スピネルは姫様のまもり石がエメラルドストーンだと言っていた。ルチルが石の力を使ったとも。

 そして歩いている今も、この石から温もりを感じている。まるで力を与えられているみたいに。

「何から話すべきかな……うん、昔からこの国は温暖で豊かで、戦争もなくずっと恵まれてきたんだ。そしてそれはこの国が石の力に護られているからだと、考えられてきた」
「そしてその石は持ち主がいてこそ力を発揮できる。先祖から受け継いでまた新たな世代に渡していかなければならない。あんたの持ってるそのエメラルドストーンは特に強力な力があってな、初代国王であるグラウディン・エメラルドがその力でこの地の難を救い国を建て、王朝を築いたらしい。まぁ、この辺は国史の授業で習うから誰でも知ってる」
「そうだね。石の後継者は必ず親族の中に現れるのだけれど、それが必ず親子とは限らない。でもエメラルド家は直系親族に限らず、代々石の持ち主を国王に選んできたからここ何代かは必ず直系に継がれてきた。そして次の跡継ぎ様も……目印である特別なインペリアルエメラルドを持ち産まれてきた」
「それがロゼッタ・アレクス・エメラルド。だが皇子ではなく姫だったがゆえに、石と自分を守る事が出来るかと父である国王は心配した」
「そこで話し相手や学友にもなれるよう、姫様と同じ歳頃の私達が集められ、姫様専属の騎士として仕える事になったんだ」
「あぁ、偶然にも貴族の子息の中に五人も石の持ち主がいてな。ちょうどよかったんだろ……ちなみに俺はブラックスピネル、ルチルはルチルクォーツ、カロンはインカローズ、セドニーはブルーカルセドニー、ラピスはラピスラズリをそれぞれまもり石に持ってる。今の名もまもり石から国王が命名した名だ」

 話し過ぎたな、そう言うとスピネルは歩きながら伸びをする。

「まぁ、気を楽にしてろ。難しい事は俺等で考える。姫様の話も石の話もひとまずここまでだ。人が多くなってきたからな」

 そう言われて道の先を見ると、確かに人通りが多く、にぎわう声が遠くから聞こえる。

 それに……美味しそうな匂いも。

「ぐぅ~~~~~~」

 大きな音を立ててスピネルのお腹が鳴り、私達は顔を見合わせて笑う。

「腹減った、とりあえず何か食うぞ」

 恥ずかしそうに足を速める後ろ姿は耳まで真っ赤で、かなり歩いたはずだけど疲れは感じない。匂いにつられた私達の足は市場へと、足取り軽く進んでいった。



 市場では、様々な物が売られていた。野菜にフルーツ、お肉にお魚。もちろん食べ物だけでなく花や反物も売られているけれど、私達の興味は食べ物に一身に注がれて、目の前で調理される様々な料理はどれも美味しそうに見えた。

「うまっっ、アイラこれ食ってみろよ」
「アイラちゃん、このスープも」

 スピネルは肉の串焼きを、ルチルはシチューのようなスープを差し出して食べさせようとしてくる。

「自分で食べるから……」

 慣れない義手で串をつまむとひと思いにガブリとかじる。

「おいひい!! 」

 そう言えばずっとまともな食事をしていなかった気がする。そもそもこの世界に来る前もかたまりのお肉なんて……最後に食べたのはいつの事だったかな。

 少し堅いけど噛むたびに旨味が出て甘みもあって豚肉みたい。つまむのは難儀だったけれどあっという間に串を1本平らげて、ルチルのくれたスープを飲む。

「ん!! これも、これもすごく美味しい」
「よかった。アイラちゃんが好きだと思ったんだ。アリゲイルの肉は高タンパクで栄養価も高いんだ。このスープはそのテール部分を使っているんだよ」

 よく見ると、店の木製の看板に何かの絵が描かれている。

「そうそう、あれがアリゲイルだよ」
「え………(見た目ワニなんですけど……)」
「この串はそいつの腹肉だ。まぶたがまた美味くてな、一頭にそんな取れる部分でもないから珍味として高く取引されてる」
「ま、まぶた………(異世界ごはん、怖っっ)」

 そういえば、さっき歩きながら見た野菜やフルーツはどれも見覚えのないものばかりだった。空腹に負けて食べてしまった事を少しだけ反省する。

「そういえばさ、アイラちゃんの好物は? 」
「あぁ、ここに売ってるもんなら注文してやるよ。肉か、それとも魚か? 」
「えっと……」

 いきなり聞かれると答えに困る。しばらく旅をするなら知っていてもらった方がいいのかもしれないし、お腹を壊したら旅どころではない。

「お肉は好きです……というか、食べるのが好きなので何でも食べるんですけど貝類だけは苦手で。昔、あたった事があるので。あと好きな物……こっちにあるか分からないですけどフライドポテトとかハンバーガーとか。甘い物ならフィナンシェとシュークリームかな」

 (やっぱり……この世界にはなかったのかも)

 顔を見合わせたスピネルとルチルから、何だそれと心の声が聞こえる。

「……早く、あいつ見つけねぇとな」
「え? 」

 その時。

「見慣れねぇ顔だな。名を名乗れ」

 背後からの声と同時、冷たい何かが首に触れた。
    
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