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1.姫の章
21.私も
しおりを挟む迷い込んだ異世界は、私のいた世界よりとても暖かい所だったようで。
(寒いの苦手だし、よかった…のかな)
ふとした時に感じる世界の違いに、戸惑ったり驚いたり。でもそれは三人も同じみたいで。
「姫様……いえ、愛様はとても過酷な環境下で生きてこられたのですね」
「とりあえず、寒がりラピスには無理だな」
「む、昔の話だ。今はもう…はっ、はっ、はっくしょんっ!! 」
(過酷な環境……か……)
寒さはともかくとして、過酷だった事は確かな気がする。他の誰かなら簡単に超えられるような事。でも私にとっては……それだけ、私は無能で役立たずだった。
そんな事を思ううちにルチルが煎じ薬を用意して、休む環境まで整えてくれている。
「まぁ、美味い飯食って、どっぷり寝りゃあ頭痛なんてすぐ治るだろ。行くぞ、ラピス」
「な、いま暖まったばかりだと言うのにどこへ」
「狩りに決まってんだろ、バカ。いい狩場を知ってんだ。俺が美味い肉食わしてやる。それからお前、ピンクのお前だよ。一緒に行くぞ」
「ルルルゥ~♪」
「ありがとう…無理しないでね」
「あぁ」
ラピスとスピネル、それからモモルーを見送って、ルチルと二人になった。
「騒がしくてすみません」
「ううん、みんなすごく優しくて申し訳ないくらい……」
「姫様……」
「皆が姫様の事を好きな気持ちがね、すごく伝わってくるんだ……ちょっと…うらやましいくらいにね」
優しくされたいとか、守られたいなんて思った事ないのに……ほろ苦い煎じ薬が喉を通っていく。
「そんな風に、思われていたのですね」
器を置くと、ルチルが私の手をそっと包む。
「突然すみません……お嫌だったら言ってください」
「ううん……大丈夫」
不思議な事に今はもう、触れられても怖いと思わない。
「私達にとって……」
音のない、静かな小屋の中でルチルはゆっくりと口を開く。
「姫様は恩人であり、とても大切な存在です。ですが今、貴女様を大事にしたいと思うのは……あなたが姫様だからではありません」
宝石のような灰色の瞳は、じっと私を見つめていて……その眼差しからは強い意志が伝わってくる。
「今の貴女様が愛様かロゼッタ様か……それは私達にもわかりません。ですが私達は貴女様が誰であっても、今の貴女様に……すみません、回りくどくなってしまいましたね」
「ううん、大丈夫」
「いつか……愛様として元の世界に戻られるのか、もしくは記憶が戻られて姫様として宮殿に戻られるか……そのどちらであっても、私達は貴女様が望む道を進む事が出来るように、お助け致します」
「望む……道? 」
「はい。スピネルに心当たりがあるようで、異世界を行き来する方法について、今調べてくれています」
「そうなの……? 」
「はい。少しでも疑問の解消になれば、お心も楽になるかと思いまして」
そう言って照れくさそうに……三人で夜中に相談したのだとルチルははにかむ。ルチルもスピネルも、そしてラピスも……思った以上に私の事を考えてくれていた。
そう思うと、胸が熱くなってくる。
「ありがとう」
「何でも、言ってください。思う事はすべて。そして一緒に闘っていきましょう」
ルチルは手を離すと、少し休むよう優しく促してくれる。
何も心配しなくていい……その言葉に心は暖まり、安心した私は深い眠りに落ちていった。
目が覚めると、スピネルの言葉通りお肉の串焼きやスープが用意されていて。
「美味しい……」
「だろ? 」
「噛めば噛むほど味が出てくるし、このスパイスも香りとピリッとした後味がすごく合ってる」
「これは私が調合したものですね。胡椒をベースにタラゴンやパセリ、チャイブ、岩塩などお肉の旨味をより引き立たせてくれる配合に」
「それを持ち歩いてるってんだから、ルチルも変なとこあるよな」
「まぁ、それで俺等も美味い食事が出来ているのだからな」
「違うだろ、俺が獲物を仕留めてきてやったから、今お前らが美味い肉を食えてんだって」
スパイスについて語り出すルチルにからかうスピネル。そこにラピスが入るとムキになって、子供みたいに言い合ったりして。
「なんだか、兄弟みたいね」
つい、面白くなって笑ってしまう。
「はぁ!? 俺とこいつが兄弟? あり得ねぇだろ」
「それはこっちのセリフだ、スピネルみたいな弟がいたら心配でいくつ身体があってももたない」
「ふざけんな、何でお前が兄なんだよ。どう考えても俺が兄でお前が弟だろ」
「二人とも、今のはそういう所が子供っぽいって意味だと思うよ」
「は!? 」
「こ、子供……」
「ふふ……」
コントみたいにテンポのいい会話と関係性に面白くなってつい笑ってしまう。
「姫様……」
「な、なに笑ってんだよ……」
「ごめんごめん、にぎやかで楽しいなって思ったらつい。こんな風に楽しく食事するなんて……元いた世界ではあり得なかったから……」
先の事はまだ何も分からない。
元の世界に帰る日が来るのか、それとも……姫様としてこのままこの世界で生きていくことになるのか。
まだ、全部を納得できたわけじゃない。
それでも。
“皆と闘うために強くなる”
守ろうとしてくれるみんなの為、それだけは心に誓った。
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