囚われの姫はまだ自分の正体を知らない

織本紗綾(おりもとさや)

文字の大きさ
22 / 22
1.姫の章

21.私も

しおりを挟む

 迷い込んだ異世界は、私のいた世界よりとても暖かい所だったようで。

 (寒いの苦手だし、よかった…のかな)

 ふとした時に感じる世界の違いに、戸惑ったり驚いたり。でもそれは三人も同じみたいで。

「姫様……いえ、愛様はとても過酷な環境下で生きてこられたのですね」
「とりあえず、寒がりラピスには無理だな」
「む、昔の話だ。今はもう…はっ、はっ、はっくしょんっ!! 」

 (過酷な環境……か……)

 寒さはともかくとして、過酷だった事は確かな気がする。他の誰かなら簡単に超えられるような事。でも私にとっては……それだけ、私は無能で役立たずだった。

 そんな事を思ううちにルチルが煎じ薬を用意して、休む環境まで整えてくれている。

「まぁ、美味いめし食って、どっぷり寝りゃあ頭痛なんてすぐ治るだろ。行くぞ、ラピス」
「な、いま暖まったばかりだと言うのにどこへ」
「狩りに決まってんだろ、バカ。いい狩場を知ってんだ。俺が美味い肉食わしてやる。それからお前、ピンクのお前だよ。一緒に行くぞ」
「ルルルゥ~♪」

「ありがとう…無理しないでね」
「あぁ」

 ラピスとスピネル、それからモモルーを見送って、ルチルと二人になった。

「騒がしくてすみません」
「ううん、みんなすごく優しくて申し訳ないくらい……」
「姫様……」
「皆が姫様の事を好きな気持ちがね、すごく伝わってくるんだ……ちょっと…うらやましいくらいにね」

 優しくされたいとか、守られたいなんて思った事ないのに……ほろ苦い煎じ薬が喉を通っていく。

「そんな風に、思われていたのですね」

 器を置くと、ルチルが私の手をそっと包む。

「突然すみません……おいやだったら言ってください」

「ううん……大丈夫」

 不思議な事に今はもう、触れられても怖いと思わない。

「私達にとって……」

 音のない、静かな小屋の中でルチルはゆっくりと口を開く。

「姫様は恩人であり、とても大切な存在です。ですが今、貴女様あなたさまを大事にしたいと思うのは……あなたが姫様だからではありません」

 宝石のような灰色の瞳は、じっと私を見つめていて……その眼差しからは強い意志が伝わってくる。

「今の貴女様あなたさまが愛様かロゼッタ様か……それは私達にもわかりません。ですが私達は貴女様が誰であっても、今の貴女様に……すみません、回りくどくなってしまいましたね」

「ううん、大丈夫」

「いつか……愛様として元の世界に戻られるのか、もしくは記憶が戻られて姫様として宮殿に戻られるか……そのどちらであっても、私達は貴女様が望む道を進む事が出来るように、お助け致します」

「望む……道? 」

「はい。スピネルに心当たりがあるようで、異世界を行き来する方法について、今調べてくれています」

「そうなの……? 」

「はい。少しでも疑問の解消になれば、お心も楽になるかと思いまして」

 そう言って照れくさそうに……三人で夜中に相談したのだとルチルははにかむ。ルチルもスピネルも、そしてラピスも……思った以上に私の事を考えてくれていた。

 そう思うと、胸が熱くなってくる。

「ありがとう」

「何でも、言ってください。思う事はすべて。そして一緒に闘っていきましょう」

 ルチルは手を離すと、少し休むよう優しく促してくれる。

 何も心配しなくていい……その言葉に心は暖まり、安心した私は深い眠りに落ちていった。


 目が覚めると、スピネルの言葉通りお肉の串焼きやスープが用意されていて。

「美味しい……」
「だろ? 」
「噛めば噛むほど味が出てくるし、このスパイスも香りとピリッとした後味がすごく合ってる」
「これは私が調合したものですね。胡椒こしょうをベースにタラゴンやパセリ、チャイブ、岩塩などお肉の旨味をより引き立たせてくれる配合に」
「それを持ち歩いてるってんだから、ルチルも変なとこあるよな」
「まぁ、それで俺等も美味い食事が出来ているのだからな」
「違うだろ、俺が獲物を仕留めてきてやったから、今お前らが美味い肉を食えてんだって」

 スパイスについて語り出すルチルにからかうスピネル。そこにラピスが入るとムキになって、子供みたいに言い合ったりして。

「なんだか、兄弟みたいね」

 つい、面白くなって笑ってしまう。

「はぁ!? 俺とこいつが兄弟? あり得ねぇだろ」
「それはこっちのセリフだ、スピネルみたいな弟がいたら心配でいくつ身体があってももたない」
「ふざけんな、何でお前が兄なんだよ。どう考えても俺が兄でお前が弟だろ」
「二人とも、今のはそういう所が子供っぽいって意味だと思うよ」
「は!? 」
「こ、子供……」

「ふふ……」

 コントみたいにテンポのいい会話と関係性に面白くなってつい笑ってしまう。

「姫様……」
「な、なに笑ってんだよ……」

「ごめんごめん、にぎやかで楽しいなって思ったらつい。こんな風に楽しく食事するなんて……元いた世界ではあり得なかったから……」

 先の事はまだ何も分からない。

 元の世界に帰る日が来るのか、それとも……姫様としてこのままこの世界で生きていくことになるのか。

 まだ、全部を納得できたわけじゃない。

 それでも。

 “皆と闘うために強くなる”

 守ろうとしてくれるみんなの為、それだけは心に誓った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

能天気な私は今日も愛される

具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。 はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。 ※表紙はAI画像です

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

乙女ゲームのモブに転生していると断罪イベント当日に自覚した者ですが、ようやく再会できた初恋の男の子が悪役令嬢に攻略され済みなんてあんまりだ

弥生 真由
恋愛
『貴女との婚約は今夜を持って破棄させて貰おう!』  学園卒業祝いの夜会の場に、凛と響いた王太子殿下の一声。  その瞬間、私は全てを思い出した。  私が前世ではただの手芸とゲームが好きなインドア派女子大生だったこと。そして、ゲーム世界に転生して尚も趣味は変わらず、ライバルキャラですらないモブになってしまっていたことを。  幼い頃に一度出会ったきりの初恋の彼と学園で再会出来たらなぁ、なんて淡い期待を抱いて通っていたのに、道理で卒業式までなんにも起きなかったわけだ。  ーーなんて、ひとり納得していたら。  何故だが私が悪役令嬢の断罪イベントの目撃者として名指しされ、一気に渦中の人物に!?  更に、王太子以外の男性陣は皆様悪役令嬢に骨抜き。なので自然と私には、彼女の潔白に繋がる証言が求められる。  しかしながら、私は肝心の事件の日の記憶が訳あって曖昧だったので、致し方なく記憶を呼び覚ます治療を受けさせられる羽目に。  タイムリミットは1年間。  その1年間の私への護衛につけられたのは、悪役令嬢に心奪われた初恋の彼でした。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

異世界転移して冒険者のイケメンとご飯食べるだけの話

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 社畜系OLの主人公は、ある日終電を逃し、仕方なく徒歩で家に帰ることに。しかし、その際帰路を歩いていたはずが、謎の小道へと出てしまい、そのまま異世界へと迷い込んでしまう。  持ち前の適応力の高さからか、それとも社畜生活で思考能力が低下していたのか、いずれにせよあっという間に異世界生活へと慣れていた。そのうち家に帰れるかも、まあ帰れなかったら帰れなかったで、と楽観視しながらその日暮らしの冒険者生活を楽しむ彼女。  一番の楽しみは、おいしい異世界のご飯とお酒、それからイケメン冒険者仲間の話を聞くことだった。  年下のあざとい系先輩冒険者、頼れる兄貴分なエルフの剣士、口の悪いツンデレ薬師、女好きな元最強冒険者のギルド長、四人と恋愛フラグを立てたり折ったりしながら主人公は今日も異世界でご飯を食べる。 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『Pixiv』にも掲載しています】 【途中から各ルート・エンドに入ります。特に正解ルートはないので、自分の好みのキャラのルート・エンドを正規だと思ってもらって大丈夫です】

処理中です...