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第15話
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二週間の旅の後、ナエマとシーリュウの二人は祓魔院に到着した。辺りは真っ暗になっており、敷地内に据えられた松明の明かりの中を歩いていた。
シーリュウの体も落ち着いて饕餮号も脱げるようになり、新しい服も調達した。
上下ともに黒革で仕立てられた服はとある騎士の着ていたという古着だったが、シーリュウによく似合っている。
大聖堂の敷地内にひっそりと建てられている石造りの建物が、祓魔院。
その建物の前に立ったシーリュウはぽつりと零した。
「地味……」
人を脅かす悪魔を退治する部署というから、さぞ大事に扱われているのだろうなとシーリュウは勝手に思っていた。
「じ、地味とは失礼な! 魔物や悪魔の増えている昨今、ここはいずれ重要な部署になるのですよ。あと何年もすれば聖堂内に移れるのですから。今は祓魔院と聖騎士団で縄張り争いが発生しているというか、あっちが勝手にこっちを冷遇してくるというか……」
「……なるほど。祓魔院、聖騎士団、役目、同じ」
シーリュウは得心がいったように頷いた。
「そうなのです。魔物や悪魔を倒すのはどちらも同じ。しかし教会も近年は財政厳しく、七つもある聖騎士団を抱えるのが難しいのですよ。そこで聖騎士団の出征を控えて、祓魔院に魔物退治や悪魔祓いの仕事が回ってくるようになっているのです。こちらは人数が少なくて小回りが利きますから。花形の聖騎士団からしたら面白くない話でしょう? あっちのほうが歴史もありますし、表立って活躍してきましたからね。それが今更裏方の祓魔院にお鉢を奪われるなど……と敵視されているのです」
「祓魔院、聖騎士団、一緒にする、無理か?」
「無理ですね。聖騎士団というのは、まあ……団長級ともなれば別ですが、基本的には訓練を受けて、上級司祭の推薦を受けて試験に合格すれば誰でも――普通の人間でもなれます。しかし、祓魔院は能力主義でして。単独で悪魔と戦えるような強い能力を持った人間だけが入れるというか、勝手に入れられるというか……。だから今は十人もいませんよ。まあ、今の院長は今後を考えて、もっと大きな組織にして後方支援の普通の人間を入れると言っていますが。どうなることやら。おっと、話が長くなりましたね。早く入りましょう」
言ってナエマは両開きの扉を開いて中に入った。シーリュウもそれに続く。
中は回廊があり、中庭に面していくつかの部屋がある。
硝子玉に入った光球の明かりを頼りに回廊の一番奥まで進むと、彫刻の彫られた木の扉があった。ナエマはその中に入る。
中は蝋燭の明かりで明るい。
青の織物の絨毯が敷かれ、その上に長椅子と机が置かれている。
壁際には棚や書棚が置かれており、冊子や巻物が所狭しと収められている。
中も思ったより地味――というより、自分の家のほうが華やかだったとシーリュウは思った。
「ナエマです! ただいま帰りました!」
ナエマはそう言って奥に入っていく。
――そうか。ここは"ただいま"を言う場所なのか。
ナエマの後姿を見ながらシーリュウは思う。
「あっ、ナエマだ! イングヴァルさん! ナエマが帰ってきたー!」
ナエマの声を聞いて奥の続き間から顔を出した金髪の青年は、すぐに顔を引っ込めて奥にいる誰かに声をかけた。
「こら、アウレリオ。院長と呼びなさいと言ってるだろう」
「自分で似合ってないって言ってたくせに」
アウレリオと呼ばれた金髪の青年に手を引かれながらやってきた法衣姿の司祭――イングヴァルと呼ばれた、長い前髪をした黒髪の男が、どうやらここの院長らしい。首からかけた帯には三本線の刺繍が入れられており、上級司祭とわかる。
祓魔院を束ねる長だという割にはおっとりとしているが、妙な気配だとシーリュウは感じていた。
「院長! ただいま帰りました!」
「はは、ナエマはいつも元気だなぁ。見習いたいよ」
言ってイングヴァルはナエマを出迎えると、その後ろに控えているシーリュウに目をやった。
「彼が、例の商人かい? よく連れてきてくれたね。聞きたいことがいっぱいあるんだ」
「ええ、シーリュウさんです。それより院長! 報告したいことがございます!」
言ってナエマは持っていたトランクを机に置き、中から大きな瓶を取り出して置いた。
その中には、饕餮号の匕首に貫かれた悪魔の心臓がどくどくと脈打っている。
「えっ、な、何だい、悪魔の心臓じゃないか! 倒してきたっていうのかい?」
「ええええっ!? ナエマが悪魔倒したの!?」
アウレリオは信じられないといった様子で大きな声を上げる。
「ふっふっふ、その通りです!」
困惑するイングヴァルとアウレリオに、ナエマはにこにことした笑顔で頷いた。
「でも、君は……」
「私とシーリュウさんで、悪魔を倒したのです! そうですよね!」
言ってナエマはシーリュウに笑いかけた。
「ああ。ワタシとナエマで、悪魔、倒した」
シーリュウも自信ありげに頷いた。
「……へえ、そうなのかい」
言ってイングヴァルはナエマの顔を見て笑った。
「なんだか、憑き物が落ちたような顔をしているね、ナエマ」
「そ、そうですか?」
イングヴァルの言葉にぴんと来ないとナエマは問い返す。
「前の君は明るいけど陰のある色男……って感じだったのが、なんだかその陰がなくなった気がするよ。男前が上がった、って言うのかな」
「そ、そんな……。褒めても何も出ませんよ」
「でも、報告書は出してもらうよ」
「うっ……」
イングヴァルが返すとナエマは言葉に詰まった。
「まあ、あれだけ悪魔を怖がっていた君が悪魔を倒したんだから、よっぽどのことがあったんだろうね」
それからイングヴァルはシーリュウに話しかけた。
「やあ、シーリュウさん。僕は少し前からここの院長になったイングヴァル・イースグレンという。あなたには聞きたいことがあるんだけど、協力してもらえるかな?」
イングヴァルの言葉に、シーリュウはナエマのほうを見た。
「大丈夫ですよ、シーリュウさん。ここにいる方は癖がありますが、みんないい人です。それに、あなたも仲間入りしたようなものですから」
「仲間入り?」
協力者としてシーリュウを連れて来いという話でナエマを送り出したがどういうことだ、とイングヴァルはナエマとシーリュウの顔を交互に見た。
「ワタシとナエマ、主従の誓い、結んだ。ナエマ、ワタシの主」
シーリュウははっきりと言ってのけた。
「ナエマ、一体何がどうなったのかな?」
苦笑しながらイングヴァルはナエマに尋ねる。
「そ、それが、話が長くなるのですが……」
「まあいい、今日はもう遅いから休みなさい。明日ゆっくりと話を聞こう。報告書を書きながらね」
「お心遣いありがとうございます。では部屋に行きましょう、シーリュウさん」
ナエマは言い、部屋から出て脇にあった階段を上がる。シーリュウは一応イングヴァルに頭を下げ、ナエマの後に続いた。
「二階が我々の住居です」
言いながらナエマは階段を上がって二階に出る。一階と同じように中庭に面した回廊があり、それを取り囲むように部屋があった。
「使っている部屋には札がかかっています。何部屋か空いているので好きなところを使ってください」
言いながらナエマは自分の部屋に向かう。シーリュウもその後に着いてきた。
「シーリュウさん、どういうおつもりで?」
「主の命守る、一緒の部屋、寝る」
「またそういうことを……」
ナエマは呆れるように言った。
ここに来るまでもシーリュウの従順な従者っぷりに困らされたのだ。毒見をするだの、ナエマに文句を言う者でもいたら無言で殴りかかったりだのと。
「ここは安全です。それに、シーリュウさんだって一人のほうが落ち着くでしょう?」
「……じゃあ、隣の部屋、使う」
「そうしてください」
不満げに言ったシーリュウが渋々隣の部屋に入っていくのを見届けてから、ナエマは自室に入った。
書き物机と棚、窓、寝台があるだけの質素な部屋だが、住めば都というものだ。今ではこの部屋が自分の城である。
一か月ぶりに帰ってきたからか、やけに落ち着く。
法衣を脱いで部屋着に着替え、疲れのままに寝台に沈み込む。もう起き上がれない。夕食も食べていないが、このまま朝まで寝てしまおう。
そう思ったとき。
「ナエマ!」
シーリュウの声がし、慌ただしく戸が叩かれる。
このまま寝ようとしていたところだったのに、とナエマは起き上がって戸を開けた。
「外、見る、どこ」
「外を見る……? テラスですか?」
慌てた様子のシーリュウを怪訝に思いながら、ナエマは少し歩いて回廊の奥、テラスに続く戸を開けた。
そして、目の前に広がった景色に目を瞠った。
「これは……」
夜空に数えきれないほどの流れ星が尾を引いている。
まるで、空の全ての星が落ちてしまうのではないかと思ってしまうくらいの流星だった。
「すごい……!」
ナエマは思わずテラスの端まで駆け寄った。そのあとをシーリュウが歩く。
「こんなに綺麗な流れ星、初めて見ました! 教えてくれたのですね!」
「ワタシ一人で見る、もったいない」
シーリュウに起こされなかったらこの光景は見られなかっただろう。
ナエマが星空を見ているとシーリュウが星を掴むように手を伸ばした。
「シーリュウさん?」
「ワタシの国、言い伝え、ある。流れ星見たら、掴む真似する。流れ星の力、もらえる。願い叶う」
「そうなのですか。こちらでは、神が天から地上を覗いているときに零れる光と言います」
言ってナエマも空に手を伸ばし、流れ星を掴むように握った。そして拳を見つめる。
「私の願いも、叶うでしょうか」
「何、願った」
シーリュウはナエマに尋ねる。
「かけがえのない友と、一秒でも長くいられますように、と」
ナエマはシーリュウに笑いかけた。
「シーリュウさんは何を願いましたか?」
「同じ。ナエマとずっと一緒にいられるように」
シーリュウも目を閉じて笑みを返した。
それから、二人はずっと夜空を見上げていた。
輝く星の導の下、苦しみも喜びも分かち合いながら、共に歩く光景を思い描いて。
シーリュウの体も落ち着いて饕餮号も脱げるようになり、新しい服も調達した。
上下ともに黒革で仕立てられた服はとある騎士の着ていたという古着だったが、シーリュウによく似合っている。
大聖堂の敷地内にひっそりと建てられている石造りの建物が、祓魔院。
その建物の前に立ったシーリュウはぽつりと零した。
「地味……」
人を脅かす悪魔を退治する部署というから、さぞ大事に扱われているのだろうなとシーリュウは勝手に思っていた。
「じ、地味とは失礼な! 魔物や悪魔の増えている昨今、ここはいずれ重要な部署になるのですよ。あと何年もすれば聖堂内に移れるのですから。今は祓魔院と聖騎士団で縄張り争いが発生しているというか、あっちが勝手にこっちを冷遇してくるというか……」
「……なるほど。祓魔院、聖騎士団、役目、同じ」
シーリュウは得心がいったように頷いた。
「そうなのです。魔物や悪魔を倒すのはどちらも同じ。しかし教会も近年は財政厳しく、七つもある聖騎士団を抱えるのが難しいのですよ。そこで聖騎士団の出征を控えて、祓魔院に魔物退治や悪魔祓いの仕事が回ってくるようになっているのです。こちらは人数が少なくて小回りが利きますから。花形の聖騎士団からしたら面白くない話でしょう? あっちのほうが歴史もありますし、表立って活躍してきましたからね。それが今更裏方の祓魔院にお鉢を奪われるなど……と敵視されているのです」
「祓魔院、聖騎士団、一緒にする、無理か?」
「無理ですね。聖騎士団というのは、まあ……団長級ともなれば別ですが、基本的には訓練を受けて、上級司祭の推薦を受けて試験に合格すれば誰でも――普通の人間でもなれます。しかし、祓魔院は能力主義でして。単独で悪魔と戦えるような強い能力を持った人間だけが入れるというか、勝手に入れられるというか……。だから今は十人もいませんよ。まあ、今の院長は今後を考えて、もっと大きな組織にして後方支援の普通の人間を入れると言っていますが。どうなることやら。おっと、話が長くなりましたね。早く入りましょう」
言ってナエマは両開きの扉を開いて中に入った。シーリュウもそれに続く。
中は回廊があり、中庭に面していくつかの部屋がある。
硝子玉に入った光球の明かりを頼りに回廊の一番奥まで進むと、彫刻の彫られた木の扉があった。ナエマはその中に入る。
中は蝋燭の明かりで明るい。
青の織物の絨毯が敷かれ、その上に長椅子と机が置かれている。
壁際には棚や書棚が置かれており、冊子や巻物が所狭しと収められている。
中も思ったより地味――というより、自分の家のほうが華やかだったとシーリュウは思った。
「ナエマです! ただいま帰りました!」
ナエマはそう言って奥に入っていく。
――そうか。ここは"ただいま"を言う場所なのか。
ナエマの後姿を見ながらシーリュウは思う。
「あっ、ナエマだ! イングヴァルさん! ナエマが帰ってきたー!」
ナエマの声を聞いて奥の続き間から顔を出した金髪の青年は、すぐに顔を引っ込めて奥にいる誰かに声をかけた。
「こら、アウレリオ。院長と呼びなさいと言ってるだろう」
「自分で似合ってないって言ってたくせに」
アウレリオと呼ばれた金髪の青年に手を引かれながらやってきた法衣姿の司祭――イングヴァルと呼ばれた、長い前髪をした黒髪の男が、どうやらここの院長らしい。首からかけた帯には三本線の刺繍が入れられており、上級司祭とわかる。
祓魔院を束ねる長だという割にはおっとりとしているが、妙な気配だとシーリュウは感じていた。
「院長! ただいま帰りました!」
「はは、ナエマはいつも元気だなぁ。見習いたいよ」
言ってイングヴァルはナエマを出迎えると、その後ろに控えているシーリュウに目をやった。
「彼が、例の商人かい? よく連れてきてくれたね。聞きたいことがいっぱいあるんだ」
「ええ、シーリュウさんです。それより院長! 報告したいことがございます!」
言ってナエマは持っていたトランクを机に置き、中から大きな瓶を取り出して置いた。
その中には、饕餮号の匕首に貫かれた悪魔の心臓がどくどくと脈打っている。
「えっ、な、何だい、悪魔の心臓じゃないか! 倒してきたっていうのかい?」
「ええええっ!? ナエマが悪魔倒したの!?」
アウレリオは信じられないといった様子で大きな声を上げる。
「ふっふっふ、その通りです!」
困惑するイングヴァルとアウレリオに、ナエマはにこにことした笑顔で頷いた。
「でも、君は……」
「私とシーリュウさんで、悪魔を倒したのです! そうですよね!」
言ってナエマはシーリュウに笑いかけた。
「ああ。ワタシとナエマで、悪魔、倒した」
シーリュウも自信ありげに頷いた。
「……へえ、そうなのかい」
言ってイングヴァルはナエマの顔を見て笑った。
「なんだか、憑き物が落ちたような顔をしているね、ナエマ」
「そ、そうですか?」
イングヴァルの言葉にぴんと来ないとナエマは問い返す。
「前の君は明るいけど陰のある色男……って感じだったのが、なんだかその陰がなくなった気がするよ。男前が上がった、って言うのかな」
「そ、そんな……。褒めても何も出ませんよ」
「でも、報告書は出してもらうよ」
「うっ……」
イングヴァルが返すとナエマは言葉に詰まった。
「まあ、あれだけ悪魔を怖がっていた君が悪魔を倒したんだから、よっぽどのことがあったんだろうね」
それからイングヴァルはシーリュウに話しかけた。
「やあ、シーリュウさん。僕は少し前からここの院長になったイングヴァル・イースグレンという。あなたには聞きたいことがあるんだけど、協力してもらえるかな?」
イングヴァルの言葉に、シーリュウはナエマのほうを見た。
「大丈夫ですよ、シーリュウさん。ここにいる方は癖がありますが、みんないい人です。それに、あなたも仲間入りしたようなものですから」
「仲間入り?」
協力者としてシーリュウを連れて来いという話でナエマを送り出したがどういうことだ、とイングヴァルはナエマとシーリュウの顔を交互に見た。
「ワタシとナエマ、主従の誓い、結んだ。ナエマ、ワタシの主」
シーリュウははっきりと言ってのけた。
「ナエマ、一体何がどうなったのかな?」
苦笑しながらイングヴァルはナエマに尋ねる。
「そ、それが、話が長くなるのですが……」
「まあいい、今日はもう遅いから休みなさい。明日ゆっくりと話を聞こう。報告書を書きながらね」
「お心遣いありがとうございます。では部屋に行きましょう、シーリュウさん」
ナエマは言い、部屋から出て脇にあった階段を上がる。シーリュウは一応イングヴァルに頭を下げ、ナエマの後に続いた。
「二階が我々の住居です」
言いながらナエマは階段を上がって二階に出る。一階と同じように中庭に面した回廊があり、それを取り囲むように部屋があった。
「使っている部屋には札がかかっています。何部屋か空いているので好きなところを使ってください」
言いながらナエマは自分の部屋に向かう。シーリュウもその後に着いてきた。
「シーリュウさん、どういうおつもりで?」
「主の命守る、一緒の部屋、寝る」
「またそういうことを……」
ナエマは呆れるように言った。
ここに来るまでもシーリュウの従順な従者っぷりに困らされたのだ。毒見をするだの、ナエマに文句を言う者でもいたら無言で殴りかかったりだのと。
「ここは安全です。それに、シーリュウさんだって一人のほうが落ち着くでしょう?」
「……じゃあ、隣の部屋、使う」
「そうしてください」
不満げに言ったシーリュウが渋々隣の部屋に入っていくのを見届けてから、ナエマは自室に入った。
書き物机と棚、窓、寝台があるだけの質素な部屋だが、住めば都というものだ。今ではこの部屋が自分の城である。
一か月ぶりに帰ってきたからか、やけに落ち着く。
法衣を脱いで部屋着に着替え、疲れのままに寝台に沈み込む。もう起き上がれない。夕食も食べていないが、このまま朝まで寝てしまおう。
そう思ったとき。
「ナエマ!」
シーリュウの声がし、慌ただしく戸が叩かれる。
このまま寝ようとしていたところだったのに、とナエマは起き上がって戸を開けた。
「外、見る、どこ」
「外を見る……? テラスですか?」
慌てた様子のシーリュウを怪訝に思いながら、ナエマは少し歩いて回廊の奥、テラスに続く戸を開けた。
そして、目の前に広がった景色に目を瞠った。
「これは……」
夜空に数えきれないほどの流れ星が尾を引いている。
まるで、空の全ての星が落ちてしまうのではないかと思ってしまうくらいの流星だった。
「すごい……!」
ナエマは思わずテラスの端まで駆け寄った。そのあとをシーリュウが歩く。
「こんなに綺麗な流れ星、初めて見ました! 教えてくれたのですね!」
「ワタシ一人で見る、もったいない」
シーリュウに起こされなかったらこの光景は見られなかっただろう。
ナエマが星空を見ているとシーリュウが星を掴むように手を伸ばした。
「シーリュウさん?」
「ワタシの国、言い伝え、ある。流れ星見たら、掴む真似する。流れ星の力、もらえる。願い叶う」
「そうなのですか。こちらでは、神が天から地上を覗いているときに零れる光と言います」
言ってナエマも空に手を伸ばし、流れ星を掴むように握った。そして拳を見つめる。
「私の願いも、叶うでしょうか」
「何、願った」
シーリュウはナエマに尋ねる。
「かけがえのない友と、一秒でも長くいられますように、と」
ナエマはシーリュウに笑いかけた。
「シーリュウさんは何を願いましたか?」
「同じ。ナエマとずっと一緒にいられるように」
シーリュウも目を閉じて笑みを返した。
それから、二人はずっと夜空を見上げていた。
輝く星の導の下、苦しみも喜びも分かち合いながら、共に歩く光景を思い描いて。
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