あなたの味を教えてください

藤間背骨

文字の大きさ
14 / 26

第十四話

しおりを挟む
「おやおや、帰ってきたばかりなのに精が出るねえ」

 言って紫水は窓際の床に座り込んだ自分に麦茶を淹れてくれた。それを一気飲みする。クロは涼しい顔をしていた。
 朝食のあと、結界の基点に行って応急処置をした。
 車を運転してくれる紫水を待とうとしたのだが、クロが楓がいるから行こう、と言い出したのだ。
 外に出てクロが何かを唱えると、どこからともなく光と風が巻き起こり、光は真紅の毛を持った馬となった。
 クロの乗っていた馬の精霊だ。
 馬に乗るのは初めてだったが、風を感じて気持ちのいいものだった。車では入れない山道もすいすいと登り、ずっとこれで巡回に出たい気持ちになった。
 数か所の基点を周り、その途中にも襲い掛かってきた魔物をクロはあっという間に倒してしまった。
 家に帰った後はこちらの番だ。

 ――クロさん、剣を教えてくれませんか。

 クロがもう記憶を食わせなくていいように。自分が代わりに戦えれば、と。
 クロは少し考えてから頷いた後、強気に笑って言った。

 ――剣の間合いは怖いぞ。お前は槍を持て。

 そうして小一時間、クロに稽古をつけてもらったのである。
 一般家庭に槍などというものはないため、玄関の傘立てにあった金剛杖――登山に使う六根清浄と書いてある長杖を使った。
 クロはいつからか玄関の傘立てにある木刀だ。クロが目覚めてカレーを食べていたとき、環がこれを持ってクロを警戒していたことが懐かしい。
 槍と刀。そのリーチの差は一目瞭然で、無論槍のほうが有利である。
 しかし、クロは片手に持った木刀で自分の槍相手に一本取り続けたのだった。
 悔しい。有利な得物を使っているのに、片手のクロに負けるなんて。
 悔しい。守ってあげたい人に勝てないなんて。
 外でやっていたので家の中に入って小休憩をしていた。

「剣先を見るな。一点を注視せず全体をぼうっと見ろ。そうすると相手の動きが見える」
「そ、そんなことを言われましても……」

 相手は武器を持っているのだ。どうしても軌道が気になって目で追ってしまうのだ。

「はっはっは、人間は動いているものを見てしまうからね。ちゃんと相手を見るには訓練が必要なんだよ。戦闘時には興奮して視野狭窄も起きるから。懐かしいなぁ、近接戦闘訓練。足を悪くしてからやってなかったから」

 そう言って紫水はからからと笑った。

「那恵真が戦う練習をねえ。いいことだよ。鍛え上げてやってね、クロくん」
「わかった。……だが、今のままでは一年経っても一人前になるかわからん」
「そんなに見込みがないんですか⁉」
「冗談だ。休んだらまたやるぞ」

 クロはふっと微笑んでくれた。あのクロが冗談を言ってくれるとは。少しは信頼されているのだろうかと思うと嬉しくなる。

「しかし、得物にばかり頼るのもよくない。そんな棒をいつも持ち歩くわけにもいかないだろう」

 確かにそうだ。木刀程度なら腰に提げられるが、百二十センチはありそうな棒である。

「那恵真は法力? というのが優れているのだったな」

 クロはそう言うとこちらに向かってずかずかと近寄ってきて、手を取った。いきなりの接触に驚いてしまう。
 自分の手を矯めつ眇めつしていた。こちらの体温が上がったことや、脈が速いことがばれていないだろうかと不安になる。クロはやがてうんと頷いた。

「お前ならできそうだ。……手に力を集めるようにして……、こうだ」

 クロは己の手のひらを上にすると、そこに真紅の光球が現れた。光球は縦に伸びて形を変え、それをクロは剣のように握った。

「おや、まだできる人がいるんだねぇ。昔の人はこうやって法力を直接武器にして戦っていたんだよ。武器に法力を纏わせるほうが省エネだからって廃れてしまったけど」

 紫水が懐かしむように言う。
 自分もクロに言われたように、目を閉じて手に法力を集めるイメージをする。微かに手のひらに熱を感じた。
 目を開くと集中が切れてしまったのか、薄紅色の光が花火のように散ってしまった。

「こちらの筋はいい。これを槍の形にできれば、強くなれるぞ」

 強くなれる。そう聞いたらやらないわけにはいかなかった。

「そうですか、頑張ります!」

 自分の言葉にクロは満足そうに頷いた。

「お昼になったら冷やし中華作るから。暑いし、ほどほどにね」
「はい、ありがとうございます」
「肉はあるか?」
「今、一心くんが叉焼煮込んでるよ。いっぱい食べて」

 クロの問いに紫水が答えると、クロは目を輝かせて頷いた。

「ところで、クロさん。この辺りに強い魔物が出るようになったことについて、何かご存知ですか?」
「……思い当たることは、ある。しかし、まだ言う段階ではないだろう」
「どういう意味です?」
「名誉の問題だ」

 よくわからない返答に首を傾げるしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?

藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。 なんで?どうして? そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。 片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。 勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。 お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。 少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。 (R4.11.3 全体に手を入れました) 【ちょこっとネタバレ】 番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。 BL大賞期間内に番外編も完結予定です。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

デコボコな僕ら

天渡清華
BL
スター文具入社2年目の宮本樹は、小柄・顔に自信がない・交際経験なしでコンプレックスだらけ。高身長・イケメン・実家がセレブ(?)でその上優しい同期の大沼清文に内定式で一目惚れしたが、コンプレックスゆえに仲のいい同期以上になれずにいた。 そんな2人がグズグズしながらもくっつくまでのお話です。

朝目覚めたら横に悪魔がいたんだが・・・告白されても困る!

渋川宙
BL
目覚めたら横に悪魔がいた! しかもそいつは自分に惚れたと言いだし、悪魔になれと囁いてくる!さらに魔界で結婚しようと言い出す!! 至って普通の大学生だったというのに、一体どうなってしまうんだ!?

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

恋文より、先にレポートが届いた~監視対象と監視官、感情に名前をつけるまで

中岡 始
BL
政府による極秘監視プロジェクト──その対象は、元・天才ハッカーで現在は無職&生活能力ゼロの和泉義人(32歳・超絶美形)。 かつて国の防衛システムに“うっかり”侵入してしまった過去を持つ彼は、現在、監視付きの同居生活を送ることに。 監視官として派遣されたのは、真面目で融通のきかないエリート捜査官・大宮陸斗(28歳)。 だが任務初日から、冷蔵庫にタマゴはない、洗濯は丸一週間回されない、寝ながらコードを落書き…と、和泉のダメ人間っぷりが炸裂。 「この部屋の秩序、いつ崩壊したんですか」 「うまく立ち上げられんかっただけや、たぶん」 生活を“管理”するはずが、いつの間にか“世話”してるし… しかもレポートは、だんだん恋文っぽくなっていくし…? 冷静な大宮の表情が、気づけば少しずつ揺らぎはじめる。 そして和泉もまた、自分のために用意された朝ごはんや、一緒に過ごすことが当たり前になった日常…心の中のコードが、少しずつ書き換えられていく。 ──これは「監視」から始まった、ふたりの“生活の記録”。 堅物世話焼き×ツンデレ変人、心がじわじわ溶けていく、静かで可笑しな同居BL。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...