魔法使いの少年と二人の女神様【R18】

龍 翠玉

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4.一ノ瀬と夕食

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 さて、家に帰ってきたのはいいが、これはどうしたものか。


 清浦との出会いがあってすっかり忘れていたが、浩介と部屋の掃除の話をしていたことを思い出した。

 だが、床一面に散乱した衣類や雑誌、タンスの引き出しが全段引き出されて適当に突っ込まれた衣類、90リットルのごみ袋から溢れてる空のペットボトル、無造作に積み上げられたスポーツドリンクの空の段ボール、ごみ箱を覆うように積み上げられているコンビニ弁当の残骸。改めて、客観的に見ると、これはなかなか凄い状態だ。

 うん、これは無理だな。俺の実力では倒せない敵がここにいる。こういうことには魔法は全く役に立たないし、どうしたものか。全部吹っ飛ばすならできるんだけどな。地道に片付けていけばいいのかもしれないが、最早どこから手を付けていいのかすらわからない状態である。

 仕方ない、人生諦めが肝心だ……というわけで夕食だ、コンビニ弁当でも買いに行こう。


 そう思って家を出たはずなのに、俺は現在最寄りのスーパーに来ていた。コンビニの方が近いからコンビニに行ったのはいいのだが、タイミング悪く弁当類が片っ端から売り切れていたのだ。仕方なく、もう少し歩いてスーパーにやってきたのだ。

 俺は料理は全然できない――炊飯器でご飯炊くとかカップラーメン程度が限界なので、基本的に外食か弁当を買って食べている。親もそれがわかっているし、学校がバイト禁止なので生活費などは余分に貰ってはいるが、勿体ないのはわかっているつもりだ。

 浩介には早く料理が得意で世話好きの彼女を作れとは言われたりするが、都合よくそんないい彼女ができるはずもない。ただ、俺がこんなだから、料理と掃除スキル持ちの人が望ましいのはわかる。

 店内に入ると、野菜や魚、肉などの売場はスルーして総菜売場で向かうのが俺の基本的な買い回りだ。素材など買っても何にもできないからな。いつも通り総菜売場へ向かう時、後ろから声を掛けられた。

「あれ? 相沢君?」

 振り返ると、買い物かごを持った一ノ瀬が立っていた。一度家に帰ってから買い物に来たのだろう。白い薄手のセーターとニットスカートという比較的ラフな格好ではあるが、私服姿の一ノ瀬も美人だ。普段見かけても制服姿が多いからか、とても新鮮な感じがする。

「ああ、一ノ瀬か……夕食の買い物か?」

 一ノ瀬の持っているかごの中には野菜や肉などが入っていた。なんというか、やはり普通に料理できるのだろう。

「うん、相沢君は? まだ何もかごの中に入ってないみたいだけど……」
「俺も夕食だ……と言っても、弁当や総菜を買うだけだけどな」
「ん~相沢君、料理は?」
「しない……というよりできないと言った方がいいな。夕食は基本的にコンビニ弁当かスーパーの総菜だ」
「……毎日?」
「ああ、そうだな」

 俺がそう言うと、一ノ瀬は少しの間何か考えてから言った。

「……相沢君は食べ物の好き嫌いとかはあるの?」
「いや、何もないな。食べたことないものについてはわからないが、一般的なものについては大丈夫なはずだ」
「じゃあ、この前のお礼も何もできていないし……今夜、私の部屋にご飯食べに来て?」
「え!? いいのか? それは素直に嬉しいが……」
「うん、いいよ。それに、そんな食生活してるのを知っちゃったら見過ごせないもの」

 そんなわけで一ノ瀬の手料理をいただくことになった。正直言ってめっちゃラッキーだ。

 
 ◇◇◇◇◇


 一ノ瀬の部屋にやってきた。俺の部屋の丁度真上の部屋になるみたいだな。初めて知った。入り口から入った瞬間から何か良い匂いがする。そして、部屋は綺麗に片付いている。俺の部屋とは大違いだ。

「準備するから、こっちで待っててね」

 というわけでリビングで食事ができるのを待つことになった。なんというか、もっと女の子らしい部屋というのを想像していたのだが、余分なものがないすっきりとした感じの部屋だ。ただ、本棚の方は参考書などが目立つ。やはり、普段から勉強はしっかりしているのだろう。

「なんか恥ずかしいから、あんまりキョロキョロしないで。どうせあまり女の子っぽい部屋じゃないとか思ってたんでしょ?」

 この部屋は対面式キッチンなので、料理をしている一ノ瀬からも俺の事が丸見えだ。

「い、いや、そんなことは……」
「いいのよ、友達にも言われたし、自分でもそう思っているから……あ、ちなみに、男の子でここに入ったのは相沢君だけだからね」
「そうなのか……それは、何というか……光栄だな」
「ふふふっ、そんな大したものじゃないよ。じゃあ、出来上がるまでもう少し待っててね」

 今日はハンバーグらしい。肉の焼ける良い匂いが漂ってくる。それにしても、一ノ瀬みたいな美人の同級生がエプロン姿で、俺のために料理を作ってくれるとか……明日辺り何かとんでもないことが起きたりしないだろうな?

 ただ、これを誰にも言えないのが辛いな。浩介になら言ってもいいかもしれないが、他の誰かに知られでもしたら、俺は学校から生きて帰れないかもしれない。

 そんなことを考えているうちに、俺の目の前にはハンバーグをはじめ、ご飯やみそ汁、サラダなど次々と料理が運ばれてくる。とりあえず、すごいとしか言いようがない。こいつ、本当に俺と同い年なんだろうな?

「はい、どうぞ。口に合うかわからないけど、おかわりもあるからたくさん食べてね」
「おお、すげぇ……いただきます」

 どれも美味そうに見えて、どれから食べるか悩んでいたが……結果から言うと、どれも最高に美味かった。

「ヤバいくらい美味い」
「ふふっ、良かった~」

 食べ始めてすぐに、思わず本音を呟いてしまったが、それを聞いた一ノ瀬は安心した表情を見せた。

「誰かに料理を食べてもらう事なんてあまりないから、ちょっと心配だったの」
「これだけ美味かったら心配なんてする必要ないぞ。正直毎日食べたいくらいだ」
「……え?」
「あ……」

 しまった。思わず言ってしまったが、これは気まずいな。よく考えたら毎日食べたいなんて、半分告白みたいなものじゃないか。

「……いいよ」
「え?」
「相沢君の食生活は見過ごせないくらいのものだし、食べに来てくれるならいいよ」
「マジか!? でも、いいのか? 二人分とか作るのも大変だろ?」
「そんなことないわ。料理って一人前をキッチリ作るより、二人前とか三人前作った方が材料も無駄なく使えるし、作りやすいの……それに、いつも一人で食べるのって寂しいし、相沢君は沢山、美味しそうに食べてくれるから、作ってる側としても嬉しいのよ。料理すること自体も好きだしね」

 なるほど、そういうものなのか? 俺は全く料理しないからその感覚はわからないが、一ノ瀬が言うならそうなんだろう。

「そうか……だが一ノ瀬よ、一人暮らしの女子の部屋に毎晩俺が来るのはどうかと…一応俺も男だし、何かあったらとか考えないのか?」
「ん~その時はその時かな……相沢君にその気があったなら、もう私って襲われてると思うよ? だって、助けてもらった時にお礼に何でもするって言ったのに、そういう事も何も言ってこなかったでしょ?」
「ああ……まぁ、そういうやり方はなんか違うって思ったからな……」
「ふふっ……だから大丈夫なのよ……ねぇ、相沢君、連絡先交換しよ?」
「あ、そうだな」

 さっきの一ノ瀬の言い方だと、俺が何かエロい事要求しても大丈夫だったのだろうか? いや、そんなことはないか……だが、これから先、いつまでかはわからないが、一ノ瀬の美味い手料理を食えるのは最高だ。

 そして、一ノ瀬の連絡先もゲットした。これで、一ノ瀬と清浦の二人の女神様の連絡先を手に入れたことになる。すぐにでも浩介に自慢したいが、ここは我慢だ。

 結局、部屋の掃除の事はすっかり忘れてしまっていた。そんな事はどうでもよくなるくらいの出来事だったからな。
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