魔法使いの少年と二人の女神様【R18】

龍 翠玉

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5.放課後は菜摘と

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 数日が経ち、俺の学校での生活が劇的に変わったかというと、そうでもなかった。
 放課後は清浦と屋上で会い、夜は一ノ瀬と夕食を食べる――これが追加されただけで、他に変わったことはあまりないのが現状だ。

 そして、今日も清浦が屋上にやってきた。雨が降ればこの場所は使えないが、ありがたいことに最近は晴天続きだ。

「こんにちは、相沢さん。今日はおんぶして連れて行ってもらえますか?」
「ああ、わかった」

 周りに誰もいないのをしっかり確認してからしゃがむと、清浦が俺の背中におぶさってきた。それと同時に、俺の背中にやわらかな感触が伝わってくる。以前、浩介と話した時に話題に出た事があるが、お互いに服着ているのだから、背中に伝わる胸の感触なんてわからないだろうと思っていた。

 まだ上着を着るような気温でもないので、お互いに薄着なのもあるだろう。だが、思っていた以上の感触に、清浦の胸が結構あるということもわかってしまった。

 上に上がると、清浦は微妙に不機嫌な表情を見せた。

「む~、誰もいないとわかっていても後ろから丸見えなのはいただけませんね……」

 どうやら、飛び上がるときに後ろからスカートの中が丸見えになるのが嫌らしい。
 俺からも全く見えないのも残念だが。

 いつもここで清浦と何を話しているかというと――特に決まってなかったりする。今日何があったとか、他愛もない世間話ばかりだ。ただ、一ノ瀬の部屋で夕食を作ってもらって一緒に食べていることは言っていない。

「なぁ、清浦。俺と会ってることは一ノ瀬は知っているのか?」
「いえ? 知らないと思いますよ? どうしてですか?」
「いや、俺と一ノ瀬は同じマンションに住んでいることもあるし、前から顔見知りだったからいいんだけど、俺と清浦って一ノ瀬から見たら全く接点がないだろ? たまたまどこかで三人がばったり出会ったりしたら、どうしたものかと思ってな」
「あ~それなら……普通に友達って言えばいいんじゃないですかね?」
「そうか……まぁ、そうだよな」

 別に俺達が付き合ってるとかそういういう関係じゃないから、何も気にする必要ないよな。

「そうですよ。あ、それで思いつきました。私のこと、名前で呼ぶようにしてもらえませんか? 私も名前で呼びますから、優希さん」

 いきなり何を言い出すかと思ったら、名前で呼べだと? 今まで仲の良い幼馴染とかもいず、彼女いない歴=年齢の俺にいきなりそれはキツくないか?

 そして、名前で呼ばれたことに鼓動が早くなっているのも事実だ。

「な……菜摘……これでいいか? なんかやたらと緊張するが」
「その内慣れると思いますよ。ちなみに、今後、清浦って呼んでも一切返事しませんから、そのつもりでいてくださいね」
「な!? マジか?」
「はい、マジです」

 まぁ、学校で呼ぶこともそうそうないだろうし、大丈夫か……もし、誰かに聞かれたら騒ぎになりそうだ。ただ、慣れてきた頃にやらかしてしまいそうな予感しかしないな。
 しかし、菜摘って大人しそうな感じなのに結構グイグイくるよな。俺としては気を使わなくていいし、話しやすいからいいけどな。
 横に座っている菜摘を見ると、鞄からイチゴオレを取り出して飲んでいる。まだ、知り合って数日だが、これ以外の飲み物飲んでるところ見たことない気がする。

「? どうしましたか?」
「なんかいつもそれ飲んでるような気がしてな……」
「これ、好きなんですよ。それに、そういう優希さんこそいつもブラック珈琲飲んでるじゃないですか?」
「あ~そう言われるとそうだな」

 確かに、俺はブラック珈琲飲むことが多い。甘いのが苦手とかそういうわけじゃないが、いつもこれを選んでしまう。

「だから、それと同じですよ。私は珈琲飲むときはカフェオレみたいなのばかりですが……それって美味しいんですか?」
「俺はいつもこれだからな……飲んでみるか?」

 菜摘はコクンと頷くと、俺が持っていた缶珈琲を受け取った。そして、俺の飲みかけのそれに口を付けた。

「んっ……苦いですね、これ……私は無理です」

 と、俺に残りを返してきたが、これって……普通に間接キスだよな。まぁ、菜摘は見る限り気にしていないようだ……と思っていたが、少し頬が赤い。

「そ、そうか? 俺は普段からブラックばかりだから気にならないけどな……」
 そう言って、受け取った珈琲に口を付ける――なんだかほんのり甘い気がするのは気のせいだろう。その様子を菜摘がじっと見つめていた。

「どうかしたか?」
「いえ……何でもないですよ……ところで、優希さんは穂香さんと同じマンションに住んでいるんですよね?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、今度、遊びに行ってもいいですか?」
「え……あ、ああ……それは別に構わないんだが……」
「何かあるんですか?」
「全く掃除ができていなくてだな……とてもじゃないが人を呼べるような状態ではない」

 俺の言葉に、菜摘は少しだけ顔をしかめた。形のいい眉がぴくっと動いた気がする。

「……そんなに酷いのですか?」
「……ああ、そんなにだ」
「掃除しないのですか?」
「しようとは思っているが……なかなか……な」
「……優希さんって、しっかりしているようで、掃除ができない人でしたか……」

 菜摘はイチゴオレをストローで吸いながら、呆れたような視線を俺に向けてきた。

「まぁ、そういうわけで、掃除が終わるま……」
「ダメです! 優希さんが自主的に掃除を完了させるの待っていたら、確実に卒業してしまいます。というわけで、今度の土曜日、予定入れないで家にいて下さい。掃除しに行きますので」
「え? 本気で来るのか!?」
「はい、雨降ったらこの場所は使えませんから、放課後の憩いの場を確保しておかないといけません」
「菜摘……お前、放課後、俺の部屋に入り浸る気か?」
「入り浸るなんて人聞きの悪い……穂香さんの所にもよく遊びに行きますし、それに……あのマンション、私の家から歩いて五分なんですよ? 近いからいいじゃないですか」

 そう言ってニコっと笑顔になる菜摘はとても可愛くて、思わず見惚れてしまったが、それ以上に何か菜摘に企みがあるのではないかと思ってしまう。こいつ、何だかんだ言って結構計算高いからな。ただ、好意的なのはありがたい。
 一ノ瀬もだが、これだけの美少女と毎日のように二人きりで会って話すなんて以前は全く考えられなかったからな。
今も、学校の連中には見つからないように気を付けながらではあるが。

「今日はそろそろ帰りますね。また下ろしてもらえますか?」
「ああ、わかった」

 俺は周りを確認したが、屋上には他の生徒はいないようだ。今の内だな。上ってくる時と同じでとりあえずおんぶかと思ったが、正面から抱き着いてきた。

「今日はこれでお願いします」

 俺の胸に顔を埋めるように抱き着くのが恥ずかしいのだろう、顔が赤い。こんな抱き着き方を誰かに見られたら、絶対に誤魔化すことなどできないな。そう思いながら、菜摘を支えるように腰に手を回すと、菜摘が俺の手を掴んできた。

「飛び降りる時にスカートが捲れるのが嫌なので、押さえてて下さい」

 俺の胸から少し顔を離してから、上目遣いで言ってきた。あっ、これはヤバい。菜摘みたいな美少女に頬を赤らめながらそんなことされたら普通に惚れてしまいそうだ。更に、追い打ちで掴んだ俺の手を、スカートのお尻の部分に移動させてきた。
押さえるってそういうことか。俺の右手に緊張が走る。スカート越しなのではっきりとはわからないが、少しでも手に力を入れて指を内側に曲げれば、菜摘のお尻の感触を感じることができるだろう。
だが、さすがにそんなことをしてしまうわけにはいかないな。俺は湧き上がる煩悩を抑え込み、菜摘を抱いて下に飛び降りた。

「ありがとうございます。恥ずかしいですが、これが一番いいですね。では、また明日」

 菜摘はそう言って去っていったが、俺は菜摘の残り香とやわらかな感触の余韻からしばらく立ち尽くしていた。
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