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第五話
しおりを挟む可愛いものが好きそうな先生だったから、きっと家の中はレースの小物であふれているのだろう。外からの風に真っ白なカーテンはふんわりと膨らむ。
爽次郎はあまりにも美しい部屋を想像していた。
――しかし、見事に覆される。
「へっ」
一歩入った途端、最初に目に入ったのはゴミ袋だ。
パンパンに詰まった透明なそれが壁に積み上げられている。リビングなのだろうが、その片鱗は見えない。ホコリを被った大型テレビ、ローテーブルと床には漫画が大量に平積みされている。
本棚はあるにはあるが、無造作に突っ込まれていて、本を整理するという本来の機能をはたしていない。
「夢咲先生は……」
もしかして、ここは修羅場の後で夢咲真子は別の部屋にいるのではないか。
扉がもう一つあるので、他に部屋があるのは間違いない。
「真咲さん。昨日、新人が一緒に来るって言ったじゃないの。ちょっとは片付けていると思ったのに」
アシスタントの人は真咲というらしい。注意された真咲はボリボリと頭を掻きながら仕方なさそうに答える。
「片付けているじゃないですか。ゴミの日じゃないから、ゴミは出せなかったけれど。しょうがないじゃないですか」
「だ、駄目だよ。夢咲先生はこれを許しているの?」
爽次郎は思わず口を挟んだ。
「は?」
真咲は口をポカンと開ける。
「夢咲先生は優しいかもしれないけれど。こんなに散らかしておいて帰るなんて絶対に駄目だよ」
アシスタントの仕事が終わって、この有様のまま帰るとはあんまりだろう。足元を見ると、正体不明の菓子くずがパラパラと落ちていた。
「何言っているの。帰るってどこに。ここ、わたしの家」
「は?」
今度は爽次郎が口をポカンとさせる番だ。すると瀬戸原がクスリと笑う。
「もしかして真咲さんのことをアシスタントか何かと勘違いしている? 改めて紹介するわね。こちら尾形爽次郎くん。シュシュ編集部に配属された新人編集者よ」
「ど、どうも」
戸惑いながらも爽次郎は軽く頭を下げる。
「そして、こちらが小野田真咲さん。夢咲真子のペンネームで少女漫画を描いているわ」
「え!」
まさか。そんなはずはない。
夢咲真子は眼鏡を掛けていなかったし、もっとふわふわした雰囲気だった。
服装はもとより、こんなにピリピリした空気をまとった人ではない。目の前の彼女はツンと鼻先を上げている。
爽次郎はついジロジロと無遠慮に顔を見てしまう。
「どうも」
とげとげしい声で言われて、慌てて視線をそらした。
「言ったでしょ。期待するなって」
瀬戸原がこっそり耳打ちしてくる。確かに二十二歳の若い女性の部屋とは思えない。
憧れの夢咲真子ともしかしたらいい雰囲気になれるのではという、密かな爽次郎の甘い期待は思わぬ形で脆く崩れ去ったのだった。
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