少女漫画と君と巡る四季

白川ちさと

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第四十話 

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 連載会議の翌日。



 爽次郎は真咲に呼び出されていた。



 昼食がまだだったので、いつものファミレスでハンバーグステーキを一緒に食べる。ジュウジュウと肉が焼ける中、真咲は黙々とナイフとフォークを動かしていた。



「えーと、どうしましょうか。次に会議に出すとしたら、また一から新しい作品を考えますか?」



 先に食べ終わった爽次郎は、何故か全く話さない真咲に恐る恐る尋ねてみる。



「……題材は変えない。新体操」



 まぁ、そうだろうなと爽次郎は思っていた。あれだけ、熱中して絵を描いていた題材だ。真咲は口をもぐもぐさせながら付け足す。



「でも、やるからにはもっと新体操のことを知らないといけない。資料集めはしているけど、そっちもよろしく」



「はい。もちろんです」



 編集者の仕事でもある。しかし、さらにどっぷりと新体操に浸かるともっとスポコンになってしまうのではと不安になった。



「問題は編集長も指摘していたことなんだけど」



 真咲は食べ終わり、ナイフとフォークを斜めに置く。



 爽次郎を正面から真っ直ぐ見つめた。



「熱血過ぎる。ヒーロー不在。つまり、恋愛をもっと押していけってことよね」



「……そうだと思います」



 やっぱり何と言ってもシュシュは少女漫画雑誌だ。



 その看板を背負うつもりならば、恋愛要素は必須だろう。真咲も何だかんだ言っても分かっていたのだと、爽次郎はホッとする。



 しかし、ホッとしたのは一瞬だった。真咲の次の言葉に一瞬固まる。



「ねぇ、恋愛ってどう描けばいいの?」



「ん? どう描けばいいの?」



 爽次郎は首を捻る。真咲はずっと恋愛漫画を描いてきた。



 それをなぜ編集者の爽次郎に尋ねてくるのだろうか。



「新体操を描きつつ、恋愛を描くってどうするの?」



「あ、ああ」



 少しだけ納得する。



 少しは想定内の質問だったので、言葉を少し選んで丁寧に自分の考えを話す。



「難しく考える必要はないと思います。新体操のシーンはもちろん新体操のことで悩む、恋愛の部分は普通の女の子のように悩む。たまに部活と恋愛の両立に悩んだりするシーンがあるぐらいでしょうか。混ぜて考えないで、別々に考えればいいと僕は思いますよ」



「……。」



 しかし、真咲の返事はない。



 何かおかしなことを言ってしまったのだろうかと変な汗が額ににじみ出る。しばらく黙って見つめ合っていると、やっと真咲が口を開く。



「その、恋愛ってどう描けばいいの?」



 数分前に言った言葉を繰り返す真咲。



「……どういう意味ですか?」



「だから、そのままの意味」



 さっきから一歩も進んでいない問答に、爽次郎は額を手で押さえた。



 なんだ? 質問の真意が見えない。



「真咲さん、春リボでも夏ハダでも恋愛描いていたじゃないですか。何でいまさら」



 そう。全ていまさらな質問なのだ。



「春リボは恋愛っていうかラブコメで、楽しい雰囲気でたまにドキドキするイベントを入れればいい程度だったじゃない」



「ああ。まぁ、確かに」



 春リボは最後にヒロインの想いが通じても、手を繋ぐ程度で終わっていた。恋愛のドキドキよりも、登場人物の間で起こるトラブルのドタバタ劇を楽しむ作品だった。



「でも、夏ハダはしっかり恋愛だったじゃないですか。ヒロインの切ない恋心に共感する女の子も多かったみたいでしたし」



「そりゃ、周りに恋愛話を聞きまくったからね。友達にもアシさんにも」



 実体験が伴った話だったようだ。女の子達が共感するのも頷ける。



「今回もそうすればいいじゃないですか」



「無理。ウザかられるほど友達には聞きまくったし、アシさんはもう誰もいないし。もうネタはない」



 爽次郎は思わず頭を抱えたくなった。だから、真咲は熱血もののスポコンを描いたのだ。もう、恋愛物のネタがないから。読み切り程度なら乗り切れるが、連載するとなるとこの状態では絶対に始められない。なにより、本人に恋愛に絶対的苦手意識があることが問題だ。



 ふと、爽次郎にあることが思い浮かぶ。



「別に人の恋愛話を元にする必要はありませんよ。真咲さん本人の恋したときの気持ちを元にしたらどうですか?」



 すごく当たり前の話だと思った。人から聞くより、自分の心の変化が自分で一番分かる。観察対象は自分だ。



 しかし、真咲はふいと横を向く。



「……嫌なんですか? 人のネタは散々使っておいて」



「……違う」



 じゃあ何なのだろうか。



「わたしは恋人なんていたことないの」



 あれ? 真尋の話だと男女で遊んでいたって言っていたけれど。



 そこで恋に発展したりしなかったのだろうか。



「でも片思いならありますよね」



「あるような、ないような」



「恥ずかしがっている場合じゃないですよ」



 そこにファミレスの店員が「空いたお皿おさげします」とやって来る。



「別に恥ずかしがってなんかない! 本当にないの!」



 ドンッとテーブルを拳で叩く真咲。店員は驚いて「失礼しました」と去って行く。



「いや! あるはずです!」



「ない人だっていますー」



 しらばっくれる真咲にぐぬぬと爽次郎は眉を寄せた。



「じゃあ、なんでカナデさんと男性の好みの話をしているんですか!」



「そ、そりゃ、そこはノリで」



 あさっての方向を見る真咲は、どう見ても逃げているようにしか見えなかった。



「大体、真咲さんは恋愛でも何でも大ざっぱなんですよ! もっと繊細に何でも見直してください! 絵は繊細に描けるんだから、心の中も繊細な目で見つめられるはずです! 話はそれからです!」



 こんな調子で納得のいく新作が描けるのだろうか。



 しかし、真咲に恋愛の機微をマスターさせなければ、春リボを超えることなど到底不可能だろう。爽次郎はそう思った。


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