クリスマスソング

白川ちさと

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遊び。

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 空の弁当箱やペットボトルが転がるワンルーム。

 ベッドの上で薄っすら目を開けると、カーテンの向こうは白い。身じろぎして、スマホを手にした。時刻は午後四時過ぎ。また大学の授業をサボってしまった。

 スマホがポコンと間の抜けた音を鳴らした。見てみると、同じ学部の友人、彰《あきら》からメッセージだ。



『今日の飲み会来るよな』



 彰とこの日、大学近くの居酒屋で飲みに行く約束をしている。わざわざ念を押すような言葉に首を捻るも、端的に返事を送る。



『行く』



 酒でも何でもいいから、何か入れるべきだと身体が訴えている。



『太田教授怒っていたぞ』



 当たり前だ。授業に出ていない上に提出すべきレポートも出していない。まだ後期の授業は半分あるとはいえ、これで単位を貰えるとは思わなかった。それも、取れない単位は一つや二つではない。それでも大学に行きたいとは思えなかった。

 二時間ほど経って、大学の近くの居酒屋に行く。小さな造りの建物に赤ちょうちんがかかっていた。扉をガラガラと音を立てて開けると、中は既に学生たちで賑わっている。古臭い居酒屋だが、メニューはどれも安く量も多い。学生たちのたまり場になっていた。



「ルイ。こっち」



 座敷から彰が手招きしている。靴を脱いで上がり向かい側に座ると、こっちだと隣を指された。他に誰か来るのだろうか。



「原田さん、こっちこっち!」



 彰は後から入ってきた女性二人を手招きする。



「おい。聞いてないぞ」



 向こうは女子二人で、こちらも男子二人。彰に誘われてきただろう二人は派手な感じではなく、コートを脱ぐと地味なワンピースを着ていた。



「こちら、原田さん。高校のときの友人。で、原田さんの友達の磯井さん。二人とも俺らと同じ大学の教育学部だって。で、こっちがルイ。ルイくんって呼んでやってくれ」

「どうも」



 申し訳程度に頭を下げると、はじめまして、よろしくお願いいたしますと作り込んだ高い声が返ってきた。合コンと言うよりも、彰は彼女のいない俺に磯井さんを紹介したかったようだ。彰は彼女がいるし、原田さんにも彼氏がいるそうだ。

 適当にから揚げやサラダを注文し、ジョッキで乾杯をする。



「彰くん、昔から頭良かったよね」

「そんなことないよ。入試のとき必死で勉強していたし」



 彰が話を二人に振る。それをなんだか、別世界の話のことのように聞いていた。俺は既に飲み干したレモンサワーのおかわりを頼み、から揚げに箸を伸ばす。



「あの、ここのから揚げ美味しいですよね」



 あんぐり口を開けていると、目の前の磯野さんが声を掛けてきた。



「えっと、やっぱりルイくんの学部は課題多いですか」

「まぁ、うん」



 去年のことを思い出して頷く。あの頃は真面目に大学にも通っていた。



「ルイくんって、駅前でストリートミュージシャンをしているんでしょ」



 原田さんが身を乗り出すように聞いてくる。その眼はどこか珍しい動物でも見るような眼をしていた。



「人前で歌うのって、恥ずかしくない?」

「別に。昔から家で歌っていたから、どこでも変わらない」

「でも……」



 磯井さんが小首をかしげた。



「ただの遊びですよね」



 遊び。



「ただギターをただかき鳴らす場所が欲しいんですよね。一人暮らしの家じゃ苦情がきますもん。ミュージシャンって、ルイくんっぽくないし」

「ぽくないって、何で会ったばかりのあんたが言うのさ」



 いら立ちを込めて磯井さんを睨みつける。全く伝わっていないようで、磯井さんはまた小首をかしげた。



「えっ、だってルイくんって」

「帰る」



 俺は立ち上がって、適当に金を置いて店を出た。彰が何か言っていたが、女の子たちの手前追いかけては来ない。



『二人には事情を話しておいたから』



 家に帰るとスマホに彰からメッセージが入っていた。別に特別事情を話す必要はない。あの二人に会うことはもうないだろう。



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