クリスマスソング

白川ちさと

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関係ない

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 それから風子は毎日のように来るようになった。毎回ドリンクやプリンなど、百円ぐらいで買えるものを差し入れてくれる。しかし、リクエストをしたのは最初の一回だけだった。

 あれ以来前には回らず、横に座って俺の歌を聞いている。



「このチキン美味しい!」



 この日はコンビニのチキンを買って来てくれた。風子は自分の分も買ってきていて、砂漠で数日ぶりにありつけた水のように頬張っている。



「チキンぐらいで大げさだな。ほら、衣が口についている」

 唇の端についている茶色いカスを指で拭ってやった。すると、風子は俺をじっと見つめたまま、頬を赤く染める。



「あ、ありがと」



 風子は正面を向いてうつむいてしまった。残りのチキンをすぐには食べようとはしない。

 俺も、それほど鈍くない。風子は俺のことが気になって声を掛けてきたのかもしれない。歌っているのを見かけて、一目惚れしたとか言うのはうぬぼれだろうか。

 ……まあ。普通口についているカスを取られたら、誰でも恥ずかしくなるかと思い直す。



「なぁ、友達と遊ばないのか?」



 年上のよく分からない奴と一緒にいるより楽しいだろう。



「学校以外では遊ばないかな」

「お前、寂しい女子高生だったんだな。派手なのに」



 そんなことない。そう反論されるかと思った。



「本当? 派手に見える? やった!」

「なんで喜ぶんだよ。どちらかというと嫌味の派手だぞ」

「えー。褒めているでしょ」



 風子は嬉しそうににんまりした頬に手を当てている。



「どっちでもいいけどな。じゃあ、そこで見ていろ」



 俺はこの日も、空へと歌う。










 クリスマスまであと五日。リクエストもされないので、いつものように好きな曲を歌っていた。少し古い曲が多い。



「そろそろ時間じゃないか」



 スマホで時刻を見る。七時二十五分。隣に座る風子は左手首の袖をめくった。白くて細い腕に華奢な腕時計が見える。



「本当だ! じゃあまたね、ルイ」



 風子は立ち上がり、雑踏の中へ駆けて行った。騒がしいやつだ。風子は毎日やってくるが、三十分ほどで帰る。それぐらいの時間で帰ってくれた方が気も楽だし、酔っ払いに絡まれたら面倒だ。

 ふと隣を見ると、揃えられた赤い手袋が置かれていた。いつも風子がしている手袋だ。



「たく。このくそ寒いのに忘れるなよな」



 俺は手袋を取って、盗まれないようギターを持ったまま走り出す。風子は駅とは反対側に向かった。長い髪の後ろ姿が見える。



「風……」



 手袋を掲げて名前を呼ぼうとしたが、途中で止めた。風子だけではない。隣にはスーツを着た中年男性が隣を歩いていた。

 隣の中年男性に話しかける横顔は間違いなく風子だ。二人は楽し気に話している。行く先はホテルが密集している通りだ。

 俺は風子たちに背を向けた。



「どうせ、父親ってオチだろ」



 そうつぶやくけれど、そうとは信じられなかった。

 風子はいつも同じような時間に来て、決まった時間に去って行く。俺は長い時間あそこに立っているのだから、会いに来るならいつ来てもいいはずだ。

 学校終わりに駅前までやって来て、あいつと会うまでの暇つぶしに俺の歌を聞いている。といった方がつじつまに合っている。



「まあ、何にしても俺には関係ない」



 しかし、この日はもう歌う気にはなれなかった。



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