広くて狭いQの上で

白川ちさと

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第二章 オランダ旅行編

第八話 やっと一個

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 帰りはゆっくりと津川先輩のペースに合わせる。古い街並みを眺めながらのサイクリングは快適だ。多少暑いが、日本ほどじめっとしていない。

「おかえりー」

 帰り着くと、すでにバートさんが先に帰っていた。また、お酒を飲んでいる。

「今日はありがとうございました」

 僕らは送ってくれたり、お昼を用意してくれたりしたバートさんに頭を下げた。

「こんなときぐらいしか、アナベルに何か出来ないからな」

 確かに全寮制だと、夏休みとクリスマスしか帰ることが出来ない。夏休みにオランダにいる内に、可愛い姪を構っておこうというとことだろう。

「とはいえ、ホームシックになると困る」

「ホームシックなんてならない!」

「分からないよ。これまでは、部活で忙しかったけれど」

「部活なくても忙しい。毎日電話している。それにオパに会えなくて寂しいことはあっても、叔父さんに会えなくて寂しいなんてことない!」

 腰に手を当てて言う様は、さすがに女王さまだ。さすがに反論せず、肩を落とすバートさん。

「バート叔父さん、寂しいな」

 いつものように茶化しているような言い方だ。倉野さんも満足気にお母さんの手伝いに向かう。
だけど、僕は見てしまった。

「バートさん?」

 再びビールの瓶に口をつけたバートさんの表情は、どこか物憂げだった。





 その日の夜。

 僕らはリビングに集まって、撮った写真をチェックしていく。協力してもらった人物の写真が多い。あとは公園内の池の写真や空の写真だ。子供たちが楽しそうに遊んでいるものもある。

 それらをあてはまる惑星にドロップさせた。疲れない程度にタブレットを回して、単純作業をこなしていく。

 あ、と水上くんが声を上げた。

「これ、数字がゼロになるよ」

 黄色い惑星の数字が1だ。つまり、そこに指定された黄色いTシャツの子供の写真をドロップすると、数字がゼロになる。ゼロになるのははじめてだ。

「どうなるんだろう」

「やってみたら分かるさ」

 みんなが注目するなか、水上くんが惑星へ写真をドロップする。いつものように輪をクルクルと回ると、惑星は光り出した。

「何が始まるんだろ」

 ワクワクしていると、ひゅんと上へ登っていく。白い惑星がたくさんある空間から消えてしまった。

「これだけ?」

「あ、上になにか出来ているよ」

 上にバーが出来た。下げると、右端に黄色い球体ポツンとある。土星の輪っかは消えていた。文字もない。

 もう一度倉野さんが言う。

「これだけ?」

「うーん。写真を吸い込ませて、ゼロにして、ここに星をストックしていくんだろうね」

「その後は?」

「そんなの分かるはずないじゃないか」

 理事長の考えていることなんて分かるはずがない。ストックしていったあと、どうなるかも検討がつかなかった。


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