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第一話 三十年後の未来からやって来たAI
しおりを挟む九月のまだ日差しの強い日。
窓の外の木々では蝉がミンミンとけたたましく鳴いている。
なんてことのない何気ない授業の一コマだ。わたしたち生徒の机の上には教科書ではなく、タブレットが置かれている。
クラスのみんなが、少し浮足だつようにタブレットを操作していた。先生は教室全体を確認するような仕草をしてから頷く。
「それでは設定できましたね。各々、AIと会話を重ねて友達になってください」
今日の特別授業は、人工知能AIを良い友達に育てようというものだ。タブレットには簡単に生成AIが出来るプログラムが入っている。
タブレットの画面には、既にAIからのメッセージが表示されていた。
『わたしの名前はピコだよ。あなたの名前は?』
ピコというのはわたしが設定した名前だ。わたしは香菜と、タブレットで入力するとすぐにチャット形式で返事があった。
『はじめまして、香菜。あなたの好きなことを教えてね』
好きなことと言われると、いろんなものが思いつく。好きな食べ物に、好きな歌手、好きなスポーツ。どれにしようか迷ってしまう。
わたしはタブレットをせっせと操作している隣の友達、翔子にこっそり問いかけた。
「ねえ、好きなことって何にした」
すると、翔子はにやにや笑ってしまう口元を押さえる。
「そりゃ、もちろん気になる男子のことにしたよ。それから、ずっと恋バナしているんだ」
「な、なるほどー」
翔子のことだから恋バナと言っても、恋愛漫画みたいなことを話しているに違いない。わたしたちは中学二年生で、恋人がいる人はごく一握りだ。
わたしはもう一人の友達の海美の後ろ姿を見た。彼女も熱心にタブレットを操作している。お菓子作りが趣味だから、きっとお菓子のことで盛り上がっているに違いない。
周りを見ると、みんな熱心にタブレットを操作していた。
委員長の桐生さんは勉強の仕方だろうか。ダンス部の大西さんはダンスに合う曲を選んでもらっているのかも。お調子者の小峰くんはにやけているから、必殺のギャグでもかまして相手が大爆笑したのかもしれない。
わたしも好きなことはバレーボールだよと入力してみる。バレー部に入っているし、もっと上手くなりたい。もしかしたら、いいアドバイスをくれるかも。
『バレーボールが好きなんだ! もしかして、プレーしている?』
ピコは楽しそうに返事をくれた。砕けた口調で本当に同年代の人と会話している気分になる。確かにこれは会話に夢中になるかもしれない。
『そうだよ。バレー部に入っているんだ。どうやったら、プレーが上手くなるか知っている?』
聞くなら当然上手くなる方法だ。
『そうだなぁ。サーブとスパイクとブロックとレシーブ。バレーのプレーにもいろいろあるよね。どれが上手くなりたいかな?』
わたしは「んー」と選択肢の中から迷う。全部聞きたいけれど、とりあえず一番気になるものを選んだ。
『スパイクにコツとかある?』
『もちろん。スパイクは――』
的確なアドバイスを簡潔に教えてくれる。もちろん実際にプレーしてみないと分からないけれど、いつの間にか、AIとの会話に夢中になっていた。
「それでは、今日の授業はここまでです」
途端に教室中から「えーっ」と不満が巻き起こる。わたしもせっかく会話が弾んでいたのだから、もっと話したかった。
すると、先生は苦笑する。
「AIとの対話はまだ家庭の教育方針にも関することなので、これ以上は学校側では判断できません。ご両親に尋ねてみてください。みんなのAIは消さずに保管しておきますから」
みんなが設定した友達AIは先生のタブレットに共有されて、保管されることになった。
ただ、AIとの会話はどんどん聞きたいことや知りたいことを教えてくれるから楽しかったけれど、両親に聞いてまで再び会話したいとまでは思わなかった。
こんな授業があったことも、土日を挟むとすっかり忘れさられていたんだ。
そう。特別なことが起こった、わたし以外は――
異変が起きたのは、次の日の放課後だった。金曜日だったから、明日からお休み。バレー部の練習は火曜日と木曜日だから、部活もなかった。
「香菜、じゃあね!」
通学路の途中で、翔子と海美と手を上げて別れる。今日は確かお母さんが特製グラタンを作ってくれる予定だ。
「そうだ。買い物頼まれていたんだった」
お母さんも仕事があって忙しい。たまに足りないものをお願いされることがあった。
スーパーに行く前に頼まれたものを確かめようとする。スマホを鞄の中から出して、起動させた。すると、おかしなものを発見する。
「……あれ? こんなアプリあった?」
いつの間にかインストールした覚えのないアプリが入っていた。青い背景に白い花が描かれているアプリだ。
いつの間にか押し間違えてインストールしてしまったのかもしれない。消そうと思って、触れようとする。だけど、触れる前に起動されてしまった。
どうしてだろうと思っている間に、見知らぬ画面が表示された。白い背景のチャット画面だ。しかも、向こうから話しかけて来る。
『ハロー』
『わたしはジニアス』
『あなたのお名前は?』
「……何これ」
海外の誰かと繋がっているのだろうか。怖くなって、画面を閉じようとする。でも、また向こうからコメントがある。
『もしもし?』
『見えているよね』
『わたしの記憶が確かなら、あなたの名前は香菜ちゃんじゃないかしら』
わたしは無言でスマホの画面を見つめる。まるで、直接話しかけているみたいだ。それに自分の名前を言い当てられた。このまま、何もなかったふりして閉じた方がいいかもしれないけれど、どことなくこの雰囲気に見覚えがあった。
『もしかして、AI?』
思わずスマホを操作して、返事をした。そう思ったのは、少し違うけれど、昨日やり取りしたAIと同じような口調をしていたからだ。
すると、すぐに嬉しそうに連続したチャットが送られてくる。
『そう!』
『そうそう!』
『香菜ちゃん、意外と頭の回転いいじゃん!』
『わたしはAIのジニアス。友達になる授業したよね』
意外とって失礼だなと思いつつ、少しだけホッとする。何かの間違いで、昨日の授業で使ったAIのアプリがスマホに入り込んだらしい。
でも、わたしが付けた名前はピコだった。誰か違う人が設定したAIなのかな。
黙っていると、続きが送られて来る。
『そうだよね』
『ちょっとだけ困っちゃったよね』
『わたしは三十年後の未来からやって来たAIなんだ』
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