7 / 8
第七話 文化祭準備の波乱
しおりを挟む
「ねえ、日曜日にみんなでお菓子作らないかな」
そう金曜日の帰り道に提案したのは海美だ。お菓子作りが趣味の海美がこういうことは珍しくない。
「みんな、文化祭の準備で大変だからその息抜きに!」
文化祭という言葉を聞いて、わたしはあることを閃いた。
「あ! じゃあ、そのお菓子、クラスみんなに配る? クッキーだったら、簡単にたくさんできて、みんなに配れるぐらい作れるよね」
すごく名案だと思った。「でも……」と珍しく翔子が心もとない様子で言う。
「お菓子を学校に持って行って大丈夫? 先生に見つかったら、大目玉だよ」
いつになく弱気な翔子に「ははっ」と笑う。
「大丈夫だよ。一人一枚にすれば、すぐに食べられるし。見つかっても、多めに見てもらえるよ」
「そうだよ、翔子ちゃん。きっとみんな喜ぶから」
海美も笑って賛成してくれる。
「そうそう。みんなと仲良くなるためには絶対必要だよ」
作戦は継続中だ。きっと、これでもう一段階みんなとの仲も深まるに違いない。
「……そうかな」
結局は翔子も折れて、日曜日に三人でクッキーを焼くことにした。
クラスの人数は三十二人。一人十枚と考えると、それほど大変な量ではない。余ったクッキーは紅茶と一緒に美味しくいただいた。
次の日。昼休みになると、わたしたちは急いでお弁当を食べる。校庭に遊びに行ったりする前にクッキーを配らないといけないからだ。席を立つと、クラスのみんなにクッキーを配り出した。みんな、快く受け取ってくれた。
「はい。高来さんも。どう? ライオンの衣装づくり進んでいる?」
「ありがとう。うん、一応たてがみは出来たし、あとは黄色っぽい服を探すだけだから簡単だと思う」
「良かった」
思えば、以前は全く話さなかった高来さんとも、文化祭の準備を通して話をするようになった。クッキーだって、受け取って嬉しそうだ。
「あの。三浦さん」
「ん? なに?」
高来さんが何かを言おうとしたときだ。
「ちょ、ちょっと何するの!」
「こんなの配っていいと思っているの!?」
大きな声に振り向くと、クラスの委員長、桐生さんがクッキーの入った袋を掲げていた。桐生さんの前には海美と翔子が硬直した様子で立っている。
予期せぬ異常事態にわたしはすぐに近づいた。
「ど、どうしたの?」
桐生さんはわたしが持っている紙袋に視線を落とす。
「三浦さん。あなたもね。こんなお菓子を学校に持って来るなんて、非常識です。先生に言いつけますから、没収します」
「え、あ……」
クッキーを入れていた紙袋を奪い取られてしまった。
これぐらいみんな大丈夫だ笑ってくれると思っていたけれど、桐生さんの考えではアウトだったみたいだ。
先生に言われたら、すごく怒られるだろう。先生だって委員長にそう言われたら、立場上そうせざるを得ないんだ。
大丈夫だと思っていたわたしの考えが浅はかだったみたい。
「わ、わたしが! わたしが二人にクッキーをみんなに配ろうって言ったの、これぐらいなら大丈夫だろうからって。だから、言うならわたしだけにして!」
わたしは二人をかばうように前に出た。だけど、横から二人とも出てきてしまう。
「ち、違うよ。香菜ちゃんだけのせいじゃない。わたしがお菓子作りが好きだから、積極的に作ろうって言ったの」
「わ、わたしだって! いけないんじゃないかと思いながら、二人をちゃんと止めなかったもん!」
「海美、翔子……」
わたしだけに責任がかからないようにしてくれる。三人一緒に罰を受けることになるだろう。出来るだけ、軽くすむように先生に進言しようと思っているときだ。
「なんだよ。これぐらいで。委員長お硬すぎじゃないか」
「そうだよ。三浦さんたちはみんなが頑張っているから、労ってくれているんじゃないか。自分だって忙しいのにさ」
「先生だって、委員長がチクらなければ見逃してくれるようなもんだし。クッキーすごく美味しいじゃん」
小峰くんと男子たちが渡したクッキーをかじりながら、わたしたちをかばってくれている。女子たちからも「そうだよね」とひそひそ声が聞こえて来た。
立場が一気に逆転してしまった桐生さんは、拳を握って震え出している。
「な、なによ。わたしは別に間違ったこと言っていないんだから!」
「あ、……桐生さん」
教室を出て行ってしまった桐生さん。その眼には涙が光っているように見えた。追いかけたいけれど、きっとわたしじゃ逆効果だ。
昼休みの終わりの頃になると、桐生さんは教室に戻って来た。目元が赤くなっている。
この日の授業はもちろん、劇の準備もクラス中の空気が沈んでいた。
そう金曜日の帰り道に提案したのは海美だ。お菓子作りが趣味の海美がこういうことは珍しくない。
「みんな、文化祭の準備で大変だからその息抜きに!」
文化祭という言葉を聞いて、わたしはあることを閃いた。
「あ! じゃあ、そのお菓子、クラスみんなに配る? クッキーだったら、簡単にたくさんできて、みんなに配れるぐらい作れるよね」
すごく名案だと思った。「でも……」と珍しく翔子が心もとない様子で言う。
「お菓子を学校に持って行って大丈夫? 先生に見つかったら、大目玉だよ」
いつになく弱気な翔子に「ははっ」と笑う。
「大丈夫だよ。一人一枚にすれば、すぐに食べられるし。見つかっても、多めに見てもらえるよ」
「そうだよ、翔子ちゃん。きっとみんな喜ぶから」
海美も笑って賛成してくれる。
「そうそう。みんなと仲良くなるためには絶対必要だよ」
作戦は継続中だ。きっと、これでもう一段階みんなとの仲も深まるに違いない。
「……そうかな」
結局は翔子も折れて、日曜日に三人でクッキーを焼くことにした。
クラスの人数は三十二人。一人十枚と考えると、それほど大変な量ではない。余ったクッキーは紅茶と一緒に美味しくいただいた。
次の日。昼休みになると、わたしたちは急いでお弁当を食べる。校庭に遊びに行ったりする前にクッキーを配らないといけないからだ。席を立つと、クラスのみんなにクッキーを配り出した。みんな、快く受け取ってくれた。
「はい。高来さんも。どう? ライオンの衣装づくり進んでいる?」
「ありがとう。うん、一応たてがみは出来たし、あとは黄色っぽい服を探すだけだから簡単だと思う」
「良かった」
思えば、以前は全く話さなかった高来さんとも、文化祭の準備を通して話をするようになった。クッキーだって、受け取って嬉しそうだ。
「あの。三浦さん」
「ん? なに?」
高来さんが何かを言おうとしたときだ。
「ちょ、ちょっと何するの!」
「こんなの配っていいと思っているの!?」
大きな声に振り向くと、クラスの委員長、桐生さんがクッキーの入った袋を掲げていた。桐生さんの前には海美と翔子が硬直した様子で立っている。
予期せぬ異常事態にわたしはすぐに近づいた。
「ど、どうしたの?」
桐生さんはわたしが持っている紙袋に視線を落とす。
「三浦さん。あなたもね。こんなお菓子を学校に持って来るなんて、非常識です。先生に言いつけますから、没収します」
「え、あ……」
クッキーを入れていた紙袋を奪い取られてしまった。
これぐらいみんな大丈夫だ笑ってくれると思っていたけれど、桐生さんの考えではアウトだったみたいだ。
先生に言われたら、すごく怒られるだろう。先生だって委員長にそう言われたら、立場上そうせざるを得ないんだ。
大丈夫だと思っていたわたしの考えが浅はかだったみたい。
「わ、わたしが! わたしが二人にクッキーをみんなに配ろうって言ったの、これぐらいなら大丈夫だろうからって。だから、言うならわたしだけにして!」
わたしは二人をかばうように前に出た。だけど、横から二人とも出てきてしまう。
「ち、違うよ。香菜ちゃんだけのせいじゃない。わたしがお菓子作りが好きだから、積極的に作ろうって言ったの」
「わ、わたしだって! いけないんじゃないかと思いながら、二人をちゃんと止めなかったもん!」
「海美、翔子……」
わたしだけに責任がかからないようにしてくれる。三人一緒に罰を受けることになるだろう。出来るだけ、軽くすむように先生に進言しようと思っているときだ。
「なんだよ。これぐらいで。委員長お硬すぎじゃないか」
「そうだよ。三浦さんたちはみんなが頑張っているから、労ってくれているんじゃないか。自分だって忙しいのにさ」
「先生だって、委員長がチクらなければ見逃してくれるようなもんだし。クッキーすごく美味しいじゃん」
小峰くんと男子たちが渡したクッキーをかじりながら、わたしたちをかばってくれている。女子たちからも「そうだよね」とひそひそ声が聞こえて来た。
立場が一気に逆転してしまった桐生さんは、拳を握って震え出している。
「な、なによ。わたしは別に間違ったこと言っていないんだから!」
「あ、……桐生さん」
教室を出て行ってしまった桐生さん。その眼には涙が光っているように見えた。追いかけたいけれど、きっとわたしじゃ逆効果だ。
昼休みの終わりの頃になると、桐生さんは教室に戻って来た。目元が赤くなっている。
この日の授業はもちろん、劇の準備もクラス中の空気が沈んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる