わたしが知らない未来の友だち

白川ちさと

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第七話 文化祭準備の波乱

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「ねえ、日曜日にみんなでお菓子作らないかな」


 そう金曜日の帰り道に提案したのは海美だ。お菓子作りが趣味の海美がこういうことは珍しくない。


「みんな、文化祭の準備で大変だからその息抜きに!」


 文化祭という言葉を聞いて、わたしはあることを閃いた。


「あ! じゃあ、そのお菓子、クラスみんなに配る? クッキーだったら、簡単にたくさんできて、みんなに配れるぐらい作れるよね」


 すごく名案だと思った。「でも……」と珍しく翔子が心もとない様子で言う。


「お菓子を学校に持って行って大丈夫? 先生に見つかったら、大目玉だよ」


 いつになく弱気な翔子に「ははっ」と笑う。


「大丈夫だよ。一人一枚にすれば、すぐに食べられるし。見つかっても、多めに見てもらえるよ」


「そうだよ、翔子ちゃん。きっとみんな喜ぶから」


 海美も笑って賛成してくれる。


「そうそう。みんなと仲良くなるためには絶対必要だよ」


 作戦は継続中だ。きっと、これでもう一段階みんなとの仲も深まるに違いない。


「……そうかな」


 結局は翔子も折れて、日曜日に三人でクッキーを焼くことにした。


 クラスの人数は三十二人。一人十枚と考えると、それほど大変な量ではない。余ったクッキーは紅茶と一緒に美味しくいただいた。









 次の日。昼休みになると、わたしたちは急いでお弁当を食べる。校庭に遊びに行ったりする前にクッキーを配らないといけないからだ。席を立つと、クラスのみんなにクッキーを配り出した。みんな、快く受け取ってくれた。


「はい。高来さんも。どう? ライオンの衣装づくり進んでいる?」


「ありがとう。うん、一応たてがみは出来たし、あとは黄色っぽい服を探すだけだから簡単だと思う」


「良かった」


 思えば、以前は全く話さなかった高来さんとも、文化祭の準備を通して話をするようになった。クッキーだって、受け取って嬉しそうだ。


「あの。三浦さん」


「ん? なに?」


 高来さんが何かを言おうとしたときだ。


「ちょ、ちょっと何するの!」


「こんなの配っていいと思っているの!?」


 大きな声に振り向くと、クラスの委員長、桐生さんがクッキーの入った袋を掲げていた。桐生さんの前には海美と翔子が硬直した様子で立っている。


 予期せぬ異常事態にわたしはすぐに近づいた。


「ど、どうしたの?」


 桐生さんはわたしが持っている紙袋に視線を落とす。


「三浦さん。あなたもね。こんなお菓子を学校に持って来るなんて、非常識です。先生に言いつけますから、没収します」


「え、あ……」


 クッキーを入れていた紙袋を奪い取られてしまった。


 これぐらいみんな大丈夫だ笑ってくれると思っていたけれど、桐生さんの考えではアウトだったみたいだ。


 先生に言われたら、すごく怒られるだろう。先生だって委員長にそう言われたら、立場上そうせざるを得ないんだ。


 大丈夫だと思っていたわたしの考えが浅はかだったみたい。


「わ、わたしが! わたしが二人にクッキーをみんなに配ろうって言ったの、これぐらいなら大丈夫だろうからって。だから、言うならわたしだけにして!」


 わたしは二人をかばうように前に出た。だけど、横から二人とも出てきてしまう。


「ち、違うよ。香菜ちゃんだけのせいじゃない。わたしがお菓子作りが好きだから、積極的に作ろうって言ったの」


「わ、わたしだって! いけないんじゃないかと思いながら、二人をちゃんと止めなかったもん!」


「海美、翔子……」


 わたしだけに責任がかからないようにしてくれる。三人一緒に罰を受けることになるだろう。出来るだけ、軽くすむように先生に進言しようと思っているときだ。


「なんだよ。これぐらいで。委員長お硬すぎじゃないか」


「そうだよ。三浦さんたちはみんなが頑張っているから、労ってくれているんじゃないか。自分だって忙しいのにさ」


「先生だって、委員長がチクらなければ見逃してくれるようなもんだし。クッキーすごく美味しいじゃん」


 小峰くんと男子たちが渡したクッキーをかじりながら、わたしたちをかばってくれている。女子たちからも「そうだよね」とひそひそ声が聞こえて来た。


 立場が一気に逆転してしまった桐生さんは、拳を握って震え出している。


「な、なによ。わたしは別に間違ったこと言っていないんだから!」


「あ、……桐生さん」


 教室を出て行ってしまった桐生さん。その眼には涙が光っているように見えた。追いかけたいけれど、きっとわたしじゃ逆効果だ。


 昼休みの終わりの頃になると、桐生さんは教室に戻って来た。目元が赤くなっている。


 この日の授業はもちろん、劇の準備もクラス中の空気が沈んでいた。

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