声優召喚!~異世界に召喚された声優は最強の精霊使いです~

白川ちさと

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ウンディーネ編

第百話 エルメラの想い

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 天井からしずくが落ちてくるが、湖に波紋を作ることはない。エルメラは湖の底に映し出される自分の過去を食い入るように見つめていた。



「ごめんなさい。……お父さん、お母さん……」



 誰もいない洞窟にエルメラの声だけが響く。しかし、問いかけるような静かな声がどこからか聞こえてきた。



「なぜ、あなたが謝るのですか」

「だって、わたしのせいでお父さんが……。わたしがお母さんのそばを離れなければ、こんなことにはならなかったのに」



 いつの間にか天井の穴からの光が無くなっている。洞窟内は霧のような暗闇に包まれていたが、エルメラはそれには気づかない。流れる涙は湖面に落ちてはすぐに凍り付く。



「だけど、あなたが森に向かわなければ追い返せなかった精霊が村を襲ったでしょう。これは仕方のないことだったのです」



 黒い霧がエルメラの頬を撫でた。ひんやりとしたその手にエルメラは顔を上げる。



「仕方がなかった……?」



 黒い霧は神殿で見たウンディーネとよく似た形をしていた。



「ええ。この世には誰にも、どうしようもないことがあります。それは悲しいことだけど、運命なのです。受け入れるしかありません」

「そう、だよね」



 エルメラが何をしようと、両親が帰って来るわけではない。



「ただ、わたしと一緒に悲しみに寄り添いましょう」



 黒い霧がエルメラを包み込む。エルメラの身体は足元から次第に凍っていく。



「そうだよね。わたしが今更何をしたって……」



 ――どうにもならない。



「本当にそう思うか? エルメラ」

「だ、誰?!」



 真下から声がした。そこには赤い光がポツンと浮かんでいる。



「吾輩の声が分からぬとは。共に旅をした仲ではないか」

「サラマンダー……」



 声の主はサラマンダーだ。ユメノと共に湖の底にいるに違いない。小さいが確かな声が届く。



「エルメラ。お主は確かに巫女としての責任をユメノに押し付けてしまった。だが、共に旅をして見て来たであろう。どんな困難にも立ち向かい、手を取り合って戦う仲間たちの姿を。悲しみに沈むことは自分の心にとっては、よい選択なのかもしれない。しかし、沈んだままでは大事な仲間たちを救うことなど出来ぬ」



 エルメラはユメノたちのことを思う。強引に召喚したユメノはエルメラを怒りはしたけれど、この世界のために戦っている。イオやルーシャも、悲しい過去があっても立ち向かっている。



「わたしも、……戦えるかな?」



 エルメラはそっと自分の喉を触る。いつしか、声に魂を込めることが怖くなっていた。でも、ユメノと物語を語ることで声の新しい魅力にも気づいた。この巫女として鍛えた声を使って人々を笑顔に出来るのだ。



「お止めなさい。戦ってもまた悲しみの連鎖を引き起こすだけです。そうでしょう?」



 黒い霧がエルメラに問いかける。確かに、ユメノを召喚したときはそうだった。逃げ出すだけで必死だった。だけど、エルメラは首を横に振る。



「それじゃ、また逃げるだけだよ。わたしは……!」



 エルメラはいつの間にか身体についていた氷の粒を振り払いながら立ち上がった。



「そうである、エルメラ! 妖精になろうとも、声が出なくなったわけではあるまい!」



 サラマンダーの鼓舞にエルメラは黒い霧を睨みつける。



「ウンディーネの影よ! ユメノたちを水の中に引きずり込んだのは、あなたの仕業ね! 今すぐみんなを元に戻して!」



 しかし、黒い霧は理解できないという様子でエルメラを見つめる。



「なぜですか? 心に悲しみが巣くっているというのに、それを無理に戦わせようなどと、なぜお思いになるのです」



 よく見ると黒い霧は泣いているようだ。きっと共に悲しんでくれる人を求めて、こんなことをしているのではないか。エルメラはそう思った。



「わたしたちの心は悲しみだけで出来ているわけじゃないよ。確かに悲しいことがあると、全ての心が悲しみで満ちているように思える。寄り添ってくれる人が居て欲しいって思える。でも、だからってずっと逃げていちゃいけないんだ!」



 黒い霧は揺らめく。



「でも、でも、わたしは……あの子は……」

「あの子?」

「せめて、わたしだけでも悲しまなくては……」



 ウンディーネの過去にも何かあったのだろうか。



「エルメラ! 今は三人を助け出すことを優先するのである!」



 水の底からサラマンダーが叫ぶ。



「う、うん。でも、どうやって」

「悲しみに沈んでいる皆に声を掛けるのである! 影の力が弱まっている今なら自力で脱出できるであろう!」



 サラマンダーの言う通り、黒い霧の力が弱まったのか水の底に沈んでいる三人が見えた。凍っている湖面にエルメラは手をつく。



「みんな、悲しい過去を見せられているんだよね。忘れたくても忘れられないこと。わたしにもある。でも、みんながいたからまた前に進めた。――ううん。進むんだ。わたしにはみんなが必要なの! だから、戻って来て!」



 エルメラは思いの丈を思い切り叫んだ。



「みんな……」



 エルメラは指を組んで祈る。



「だめ、だめよ。みんな、一緒にいて」



 黒い霧が湖面を覆った。しかし、次の瞬間、凍っていた湖面に亀裂が走る。それと同時に剣が黒い霧を斬りつけた。



「イオ!」



 水から飛び出て来たのはイオだ。土の地面を精霊のキツネが作って、その上に立つ。霧が少し晴れて、洞窟内に再び光が差した。



「声が聞こえた。昔のように、また、妖精に救われたようだ」



 そして、亀裂の入った湖面は渦を巻く。水の底から風が吹いているように見える。エルメラが底を覗き込むと、手を広げたルーシャが立っていた。



「ルーシャ!」

「お兄さまの優しさを忘れていたことは悲しいですけれど、わたしはもう誰も傷つけられて欲しくありませんの!」



 エルメラはユメノの姿を探す。でも、水の底には居ない。



「エルメラ!」



 声をした方を見上げる。ルーシャの風に押し上げられたのだろう。ユメノは宙を飛んで来た。



「ユメノ!?」



 水に濡れたユメノが思い切り抱き着き、エルメラもびしょびしょになる。



「エルメラ。わたし、エルメラの過去を見たよ」

「あ……」



 さっきまで、自分が見ていた過去のことだろう。きっとユメノは怒っている。エルメラはユメノに巫女の責任を押し付けたのだから。しかし、ユメノは涙を流しながら言う。



「エルメラ、すごく悲しかったね。よくわたしを呼んでくれたよ! ずっと一緒だったけれど、エルメラが前に進むって言うなら、当然、わたしも隣を歩くよ!」

「ユメノ……!」



 エルメラもユメノを強く抱きしめた。



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