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1 お隣の黒川さん
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「ずっと会えなくてさみしかっただろう? もう大丈夫だよ」
「こ、来ないで!」
雪子はとっさにスマホの上にかぶせてあったクッションをつかみ、男に投げた。だが、それは男の体をすっとすり抜けてしまった。実体がない存在のようだった。
「雪子、さあこっちにおいで。しばらく会えなかったぶん、たくさんかわいがってあげるから……」
男はそのままゆっくりと雪子のほうに近づいてくる。
「い、いや――」
どうしたらいいんだろう。怖い。雪子はさらに震え上がるばかりだった。
だが、そこで、近くに転がっているスマホが目に飛び込んできた。
そうだ、今度こそ、助けを呼べるかも――。
あわててそれを手に取り、発信履歴からその番号、そう、黒川に教えてもらった電話番号に電話した。
今度こそ、つながって! 誰か電話に出て! 藁をもつかむ思いだった。
呼び出し音は一回しか鳴らなかった。電話はすぐにつながった。
「はいはーい。ちょうど今、そちらに向かっているところですよー」
と、スマホから聞こえたのは、聞き覚えのある男の声だった。
「え、黒川さん?」
「はい、実はこれ、僕の番号だったんですねえ」
そう、電話に出たのは黒川だった。しかも実にのんきな声である。しかもしかも、なんか声が異常に近くに聞こえる。というか、呼び出し音からしてすぐ近くで鳴っていたような――。
雪子ははっとして、その音がしたほうを見た。すると、そこはベランダで、なんとそこに黒川が立っていた! 昨日と同じジャージ姿で、手にはスマホを握っている。
「な、なんで黒川さんも、そこに――」
「いやあ、ついさっき赤城さんの悲鳴が聞こえたもので」
黒川は開け放たれた窓からゆっくりと室内に入ってきた。
「だ、誰だ、キサマ!」
先に部屋に上がりこんでいた男は、黒川の突然の乱入に激怒したようだった。
「俺と雪子との時間を邪魔するな! 消えろ!」
と、男が強く叫んだ瞬間だった。室内にあるさまざまなものがいっせいに宙に浮き、黒川めがけて飛びかかった。中には台所の包丁など、物騒なものも混じっていた。
「く、黒川さん、あぶない! 逃げて!」
雪子はとっさに叫んだが、黒川はノーガードだった。
まず、その華奢な体にベッドのシーツが覆いかぶさり、そのあと、本やら食器やら電化製品やらがぶつかり、仕上げにボールペンやら包丁やらの先端がぐさぐさとその体に突き立てられた。当然、普通の人間なら半端無いダメージを受ける――はずだ。
だが、黒川はシーツを被ったまま、平然と直立不動の姿勢のままでいた。包丁などの先端も、その体に刺さらずに寸前で止まっているようだった。当然、流血もしていない。いったいこれは……?
「なるほど、ポルターガイストかあ。実にいい感じの悪霊に成長していますね」
黒川は先ほどと同様、緊張感のかけらもないのんきな声で言うと、シーツの下で腕を水平に払った。たちまち、シーツは彼の身からはがれ、その姿が再びあらわになった。
だが、そこに現れたのは、先ほどまでこの場にいたはずの陰気で冴えない風貌の青年ではなかった。長身細身の二十歳前後くらいの男で、黒い髪は長く、腰の辺りまで流れている。顔立ちはひときわ端正で、切れ長の瞳の、凛とした繊細な雰囲気があった。肌は石膏のように白くなめらかだ。
また、その美貌の男には常人ならざる奇妙な特徴もあった。二つの瞳は赤く光っており、額の両端には謎の突起が二本あった。あれはもしかして……ツノ? というか、この人っていったい?
「あの、あなたは――」
「あー、はい。僕ですよ。黒川一夜です」
額にツノを生やした赤い瞳の美男は、間髪を入れず雪子に自己紹介してきた――って、あれ? この人、あの黒川さんなの? 雪子はびっくりした。
だが、よく見ると、着ているのは貧乏臭いジャージのままで、確かに黒川本人に違いなさそうだった。声も同じだし。
「な、なんでそんな姿に?」
「そりゃあ、普段からツノとか牙とか晒してるわけにもいきませんしね。目も赤いですし」
と、答える黒川の口の中には、確かに立派な牙が生えているようだった。これも、さっきまではなかったものだ。
「いや、そうじゃなくて! なんでいきなり姿が変わるんですか! それに、なんでツノとか牙とかナチュラルに生えてるんですか! 目も赤すぎますよ! それじゃ、まるで雪ウサギ――」
と、雪子が怒涛のツッコミを入れ始めたところで、
「雪子! 俺以外の男と口を聞くなあっ!」
悪霊が再びぶち切れたようだった。今度は雪子めがけてポルターガイスト現象でモノを飛ばしてきた!
「きゃあっ!」
突然のことに、雪子は当然何の対処も出来なかった。とっさに身を固くし、目をつむった。
「こ、来ないで!」
雪子はとっさにスマホの上にかぶせてあったクッションをつかみ、男に投げた。だが、それは男の体をすっとすり抜けてしまった。実体がない存在のようだった。
「雪子、さあこっちにおいで。しばらく会えなかったぶん、たくさんかわいがってあげるから……」
男はそのままゆっくりと雪子のほうに近づいてくる。
「い、いや――」
どうしたらいいんだろう。怖い。雪子はさらに震え上がるばかりだった。
だが、そこで、近くに転がっているスマホが目に飛び込んできた。
そうだ、今度こそ、助けを呼べるかも――。
あわててそれを手に取り、発信履歴からその番号、そう、黒川に教えてもらった電話番号に電話した。
今度こそ、つながって! 誰か電話に出て! 藁をもつかむ思いだった。
呼び出し音は一回しか鳴らなかった。電話はすぐにつながった。
「はいはーい。ちょうど今、そちらに向かっているところですよー」
と、スマホから聞こえたのは、聞き覚えのある男の声だった。
「え、黒川さん?」
「はい、実はこれ、僕の番号だったんですねえ」
そう、電話に出たのは黒川だった。しかも実にのんきな声である。しかもしかも、なんか声が異常に近くに聞こえる。というか、呼び出し音からしてすぐ近くで鳴っていたような――。
雪子ははっとして、その音がしたほうを見た。すると、そこはベランダで、なんとそこに黒川が立っていた! 昨日と同じジャージ姿で、手にはスマホを握っている。
「な、なんで黒川さんも、そこに――」
「いやあ、ついさっき赤城さんの悲鳴が聞こえたもので」
黒川は開け放たれた窓からゆっくりと室内に入ってきた。
「だ、誰だ、キサマ!」
先に部屋に上がりこんでいた男は、黒川の突然の乱入に激怒したようだった。
「俺と雪子との時間を邪魔するな! 消えろ!」
と、男が強く叫んだ瞬間だった。室内にあるさまざまなものがいっせいに宙に浮き、黒川めがけて飛びかかった。中には台所の包丁など、物騒なものも混じっていた。
「く、黒川さん、あぶない! 逃げて!」
雪子はとっさに叫んだが、黒川はノーガードだった。
まず、その華奢な体にベッドのシーツが覆いかぶさり、そのあと、本やら食器やら電化製品やらがぶつかり、仕上げにボールペンやら包丁やらの先端がぐさぐさとその体に突き立てられた。当然、普通の人間なら半端無いダメージを受ける――はずだ。
だが、黒川はシーツを被ったまま、平然と直立不動の姿勢のままでいた。包丁などの先端も、その体に刺さらずに寸前で止まっているようだった。当然、流血もしていない。いったいこれは……?
「なるほど、ポルターガイストかあ。実にいい感じの悪霊に成長していますね」
黒川は先ほどと同様、緊張感のかけらもないのんきな声で言うと、シーツの下で腕を水平に払った。たちまち、シーツは彼の身からはがれ、その姿が再びあらわになった。
だが、そこに現れたのは、先ほどまでこの場にいたはずの陰気で冴えない風貌の青年ではなかった。長身細身の二十歳前後くらいの男で、黒い髪は長く、腰の辺りまで流れている。顔立ちはひときわ端正で、切れ長の瞳の、凛とした繊細な雰囲気があった。肌は石膏のように白くなめらかだ。
また、その美貌の男には常人ならざる奇妙な特徴もあった。二つの瞳は赤く光っており、額の両端には謎の突起が二本あった。あれはもしかして……ツノ? というか、この人っていったい?
「あの、あなたは――」
「あー、はい。僕ですよ。黒川一夜です」
額にツノを生やした赤い瞳の美男は、間髪を入れず雪子に自己紹介してきた――って、あれ? この人、あの黒川さんなの? 雪子はびっくりした。
だが、よく見ると、着ているのは貧乏臭いジャージのままで、確かに黒川本人に違いなさそうだった。声も同じだし。
「な、なんでそんな姿に?」
「そりゃあ、普段からツノとか牙とか晒してるわけにもいきませんしね。目も赤いですし」
と、答える黒川の口の中には、確かに立派な牙が生えているようだった。これも、さっきまではなかったものだ。
「いや、そうじゃなくて! なんでいきなり姿が変わるんですか! それに、なんでツノとか牙とかナチュラルに生えてるんですか! 目も赤すぎますよ! それじゃ、まるで雪ウサギ――」
と、雪子が怒涛のツッコミを入れ始めたところで、
「雪子! 俺以外の男と口を聞くなあっ!」
悪霊が再びぶち切れたようだった。今度は雪子めがけてポルターガイスト現象でモノを飛ばしてきた!
「きゃあっ!」
突然のことに、雪子は当然何の対処も出来なかった。とっさに身を固くし、目をつむった。
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