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1 お隣の黒川さん
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「いやでも、幽霊なんて、そんな……」
いったいどうしたらいいんだろう。
考えれば考えるほど、恐怖と不安は強まるばかりだった。まさか幽霊になってまでストーカーされるとは。しかも相手が幽霊なら、もう警察どころか、誰にも頼れない――。
「って、そういえば」
雪子はそこではっと思い出した。ゆうべ、黒川に、頼りになるという霊媒師か何かの連絡先を教えてもらったことを。
そのときはまるであてにしていなかったが、今となってはそれにすがるしかない気がする。一応、ちゃんとした社会的な身分のある人物からの紹介だし。一応。
雪子はすぐに昨日もらった紙切れをゴミ箱から回収し、そこに書かれている番号に電話した。迷っている暇はなかった。
だが、
「おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためつながりません――」
なんで、電話つながらないのよ! やっぱり頼りにならない、この番号! 光の速さで紙切れをゴミ箱に捨てなおす雪子であった。
やがて、日も落ち、そろそろ就寝する時間になったが、雪子はその晩はベッドに入らなかった。昨日までの怪奇体験を思い返してみたからだ。
そう、昨夜もおとといも、怪奇現象に遭遇したのは、悪夢から目覚めた直後だった。つまり、眠らなければ何も起きないのではと、彼女なりにそう考えてのことであった。
「れ、霊なんて、この世にいるはずないし? しょせん、寝ぼけていただけだし?」
さらに強がって、こんなふうに自分に言い聞かせた。なお、このオカルト格安事故物件から出て、どこかのホテルにでも泊まればと一瞬考えたが、超金欠なのでそれはあきらめた。今は、霊なんてこの世にいるわけないと考えるのが彼女のせいいっぱいであった。
そんなこんなで、夜は刻一刻と更けていった。雪子はスマホをいじりながら、霊のことを考えないようにつとめた。だが、それはそれでスマホの通信量のキャパがやばくて恐怖な体験であった。
ぶっちゃけ、今月は色々あってギガ死寸前である。新しい仕事が決まった暁には、固定回線を契約しよう。そんでもって、wi-fi環境を手に入れよう。そう固く決意する雪子であった……。
やがて午前零時を過ぎ、一時を過ぎ、二時を過ぎ、何事もなく時間は過ぎていった。
今夜はもう怪奇現象は起きないのかも? いや、そもそも昨日までのアレは何かの錯覚だったのかも?
次第に眠気にあらがうのが難しくなってきて、そう考え始める雪子であった。そう、今夜はこのまま眠っちゃっていいんじゃないかな……。ゾンビのようにふらふらと立ち上がり、キョンシーのように両手を前に突き出してベッドに向かった。眠い。
だが、そこで、急に彼女のスマホが鳴った。彼女ははっと我に返った。こんな時間に誰だろう?
あわててスマホを見ると、奇妙なことに電話をかけてきた相手の番号も何も画面に表示されてなかった。そう、ただ呼び出し音が鳴っているだけの状態だった。
「……なに、これ?」
どうして発信者が表示されないのだろう。単なる故障か。それとも……? たちまち不安と恐怖がこみあげてきた。
「こ、こんな時間に誰だか知らないけど、またかけなおしなさいよねっ!」
そう叫ぶやいなや、彼女はスマホに飛びつき、電源を切った。よし、これで万事解決。自分は今、何も見なかったし、聞かなかった! そう強く自分に言い聞かせた。
だが、直後――切ったはずのスマホの電源が入った。そう、ひとりでに。
さらに、
「……雪子、俺だよ」
と、声が聞こえるではないか……。
「きゃあっ」
とたんに、悲鳴を上げ、震えおののく雪子であった。それは昨日聞いた声と同じだった。そう、バイク事故で死んだはずの男の声――。
「雪子、どうして俺を無視するんだ? 俺たちはこんなにも愛しあってるのに――」
「や、やめてっ!」
恐怖と嫌悪感に耐え切れず、雪子はただちに近くにあったクッションをスマホの上にかぶせ、音を遮断した。あんな男の声は一秒たりとも聞いていたくなかった。悪霊のものならなおのことだ。
だが、それで男の亡霊の気配が消えたわけではなかった。
次の瞬間――、
「雪子、なぜそんなにおびえてるんだい?」
スマホとは違う場所から声がした。はっとして、声のしたほうを見ると、そこは窓際だった。そう、カーテンの開け放たれた窓のガラスの向こう、ベランダに一人の男が立っている。黒い皮のライダースーツを着て、ヘルメットを被った男だ……。
「な、なんで――」
もはや恐怖で悲鳴すら上げられない。体の芯から怖気が走るようだった。
「雪子。ダメじゃないか、鍵なんかかけちゃ」
男がそう言ったとたん、窓の鍵はひとりでに動き、開錠された。直後、窓は同様に勝手に開かれ、男はゆっくりと室内に入ってきた。
いったいどうしたらいいんだろう。
考えれば考えるほど、恐怖と不安は強まるばかりだった。まさか幽霊になってまでストーカーされるとは。しかも相手が幽霊なら、もう警察どころか、誰にも頼れない――。
「って、そういえば」
雪子はそこではっと思い出した。ゆうべ、黒川に、頼りになるという霊媒師か何かの連絡先を教えてもらったことを。
そのときはまるであてにしていなかったが、今となってはそれにすがるしかない気がする。一応、ちゃんとした社会的な身分のある人物からの紹介だし。一応。
雪子はすぐに昨日もらった紙切れをゴミ箱から回収し、そこに書かれている番号に電話した。迷っている暇はなかった。
だが、
「おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためつながりません――」
なんで、電話つながらないのよ! やっぱり頼りにならない、この番号! 光の速さで紙切れをゴミ箱に捨てなおす雪子であった。
やがて、日も落ち、そろそろ就寝する時間になったが、雪子はその晩はベッドに入らなかった。昨日までの怪奇体験を思い返してみたからだ。
そう、昨夜もおとといも、怪奇現象に遭遇したのは、悪夢から目覚めた直後だった。つまり、眠らなければ何も起きないのではと、彼女なりにそう考えてのことであった。
「れ、霊なんて、この世にいるはずないし? しょせん、寝ぼけていただけだし?」
さらに強がって、こんなふうに自分に言い聞かせた。なお、このオカルト格安事故物件から出て、どこかのホテルにでも泊まればと一瞬考えたが、超金欠なのでそれはあきらめた。今は、霊なんてこの世にいるわけないと考えるのが彼女のせいいっぱいであった。
そんなこんなで、夜は刻一刻と更けていった。雪子はスマホをいじりながら、霊のことを考えないようにつとめた。だが、それはそれでスマホの通信量のキャパがやばくて恐怖な体験であった。
ぶっちゃけ、今月は色々あってギガ死寸前である。新しい仕事が決まった暁には、固定回線を契約しよう。そんでもって、wi-fi環境を手に入れよう。そう固く決意する雪子であった……。
やがて午前零時を過ぎ、一時を過ぎ、二時を過ぎ、何事もなく時間は過ぎていった。
今夜はもう怪奇現象は起きないのかも? いや、そもそも昨日までのアレは何かの錯覚だったのかも?
次第に眠気にあらがうのが難しくなってきて、そう考え始める雪子であった。そう、今夜はこのまま眠っちゃっていいんじゃないかな……。ゾンビのようにふらふらと立ち上がり、キョンシーのように両手を前に突き出してベッドに向かった。眠い。
だが、そこで、急に彼女のスマホが鳴った。彼女ははっと我に返った。こんな時間に誰だろう?
あわててスマホを見ると、奇妙なことに電話をかけてきた相手の番号も何も画面に表示されてなかった。そう、ただ呼び出し音が鳴っているだけの状態だった。
「……なに、これ?」
どうして発信者が表示されないのだろう。単なる故障か。それとも……? たちまち不安と恐怖がこみあげてきた。
「こ、こんな時間に誰だか知らないけど、またかけなおしなさいよねっ!」
そう叫ぶやいなや、彼女はスマホに飛びつき、電源を切った。よし、これで万事解決。自分は今、何も見なかったし、聞かなかった! そう強く自分に言い聞かせた。
だが、直後――切ったはずのスマホの電源が入った。そう、ひとりでに。
さらに、
「……雪子、俺だよ」
と、声が聞こえるではないか……。
「きゃあっ」
とたんに、悲鳴を上げ、震えおののく雪子であった。それは昨日聞いた声と同じだった。そう、バイク事故で死んだはずの男の声――。
「雪子、どうして俺を無視するんだ? 俺たちはこんなにも愛しあってるのに――」
「や、やめてっ!」
恐怖と嫌悪感に耐え切れず、雪子はただちに近くにあったクッションをスマホの上にかぶせ、音を遮断した。あんな男の声は一秒たりとも聞いていたくなかった。悪霊のものならなおのことだ。
だが、それで男の亡霊の気配が消えたわけではなかった。
次の瞬間――、
「雪子、なぜそんなにおびえてるんだい?」
スマホとは違う場所から声がした。はっとして、声のしたほうを見ると、そこは窓際だった。そう、カーテンの開け放たれた窓のガラスの向こう、ベランダに一人の男が立っている。黒い皮のライダースーツを着て、ヘルメットを被った男だ……。
「な、なんで――」
もはや恐怖で悲鳴すら上げられない。体の芯から怖気が走るようだった。
「雪子。ダメじゃないか、鍵なんかかけちゃ」
男がそう言ったとたん、窓の鍵はひとりでに動き、開錠された。直後、窓は同様に勝手に開かれ、男はゆっくりと室内に入ってきた。
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