あやかし漫画家黒川さんは今日も涙目

真木ハヌイ

文字の大きさ
49 / 62
5 黒川さんの里帰り

5 - 1

しおりを挟む
 やがて月日は流れ、十月になった。雪子はやはり、アパートと勤務先のレストランを往復する毎日だった。ただ、相変わらずの金欠だったので、黒川に紹介してもらった幽世ハロワに定期的に通い、簡単な仕事をすることにしていた。

 最初にそこに行くとき黒川が説明したとおり、普通の人間の雪子にもできる仕事はあったのだ。そのほとんどは人間社会のあれやこれやを買ってきて欲しいという、買い物代行の依頼だった。妖怪の多くは人間に姿を変えられないため、人間社会の現世には出入りができないのだが、人間の文化や文明に興味を持つものも少なくないわけなのだった。

 買い物代行で頼まれる物品は多岐にわたったが、たいていはスーパーに普通に売っているような食べ物で、仕事は簡単だった。他に、服やら本やらゲームやらあったが、ほとんどはネットを駆使すれば入手できないことはなかった。まあ、中には探すだけ探してやっぱり入手無理という、ムダ骨案件もあったが。

 買い物代行の単価は安く、一件当たり五百円から二千円くらいだったが、毎日の買い物のついでに実行できるので悪い仕事ではなかった。幽世ハロワの支払いシステムも妙に洗練されており、報酬が未払いに終わることも特になかった。

 さすがハロワを名乗っているだけのことはある……というか、これはむしろ、ハロワというより派遣会社なのでは? やはり妖怪世界。微妙にネーミングがズレている。


 また、そんななか、幽世ハロワの受付で妖怪たちと話をする機会もあった。

主に話をするのは、雪子の担当になった、馬の頭の妖怪、馬頭《めず》である。

「雪子ちゃんが来てくれて、マジ超助かってるわ。現世とここを気軽に往復できる人って、なかなかいないのよねえ」

 牛頭と同じムキムキマッチョボディをしているが、牛頭と違ってオネエ言葉なのであった。

「私のほうこそ、助かっています。簡単なお使いでお金をいただいちゃって」
「いいのよお。みんな感謝してるんだから、気にしないで」

 オホホ、と、馬頭は笑いながら言う。

 そして、

「ところで、雪子ちゃんって、もう一夜ちゃんとはヤったの?」

 なんかいきなり下品なこと聞いてくるし!

「そ、そんなことするわけないでしょう!」
「えー、なんで? 二人って付き合ってるんでしょ? だったら――」
「付き合ってません! あの人は、恋人でもなんでもないです!」
「そーなの? 雪子ちゃんかわいいし、一夜ちゃんもイケメンで超お似合いのカップルじゃない。付き合っちゃいなさいよ」
「お、お断りです、あんな人!」

 雪子は必死に馬頭の言葉を否定した。この妖怪、見た目は不気味なのに言動はただのコイバナ好きのオカマである。

「もったいないわねえ。噂によると、一夜ちゃんのお父さんって超大物妖怪らしいわよ? 玉の輿のチャンスじゃないのよ」
「超大物妖怪? どんな妖怪なんですか?」
「さあ? みんな詳しくは知らないのよねえ。ただ、お母さんのほうが羅刹で、これまた超一流妖怪でしょ? それとデキちゃったんだから、相当な妖怪じゃないとつり合わないわよね」
「羅刹もそうなんですか」

 知らなかった。ただ、羅刹とは、日常会話レベルでたまに耳にする言葉なので、妖怪としては有名どころであることには違いないだろう。ということは、父親も……。

「でも、いくら妖怪世界の血統エリートだからって、あんな生き方じゃ……」
「まー、そういう考え方もあるわね。オトコはしょせん、顔より、生まれより、年収よね」
「そう! それが一番大事ですよ!」

 ようやく馬頭と意見が一致した雪子だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

処理中です...