幸福の花束を

天空

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蒼い女神とハルジオン

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「お疲れ様でした!」

 夜7時頃、無事に式を終えレストランに着いた私達は椅子に座って立ちんぼだった足を癒した。

「ご注文決まりましたか?」

 私達が席に着いたのを確認した大学生くらいの青年が注文を取りに来た。

「じゃ私はこのトマトスパゲッティで! 先輩はこの古き良きハンバーグ? で大丈夫ですか?」

 男性店員が来たのを確認すると、すぐさま注文を行う町田さん。

「え、えぇ、お願いするわ」

「じゃあ、それで! あ、私のスパゲッティ減塩でいけますか?」

「はい、可能ですよ!」

「じゃあ、それでお願いします!」

「お待たせしました! こちらトマトスパゲッティ減塩と古き良きハンバーグになります!」

「先輩来ましたよ! 美味しそうですねー」

 私は机の三角に畳んだ布巾を横に避けて町田さんからハンバーグを受け取った。近づくと強烈な肉の匂いが私の食欲を掻き立てた。

「ありがとう。頂くわ」

 ナイフとフォークで切り分けると、中から肉汁が溢れ、口に含むと、あの頃の懐かしい優しい味が私の口の中で広がった。

「美味しい」

「本当ですね! 流石先輩です!」

 私がそう漏らすと、町田さんがここぞとばかりに笑顔で話す。

 それからはただ昔の風景を思い出すように静かに食事を行った。

「この時間だとまだ肌寒いわね」

 会計を済ませ店を出た私達を夜風が優しく髪を撫でた。

「ですね、先輩は今日も上着着ないんですか?」

「家にあったんだけど、埃かぶっててクリニーング出さないとなのよね」

「あっそれなら明日買いに行きましょうよ!」

「えっ別に構わないけれど」

 その押しに反射的に了承したが、女の子と休日に買い物に出かけるなんて久しぶりだ。最近は忙しくて、めっきりそういう機会が減ってしまった。

「明日昼過ぎに駅前集合ですよ! 忘れないで下さいね!」

 電灯の下、勢いよく振り返った町田さんは淡く美しくきらきらと輝いていた。

 翌日、白のシャツにジーパン。上から茶色いジャケットを羽織ったシンプルな服で駅前に向かった。

 ちょっと早く着いちゃったかな?

 時計に目をやると、待ち合わせの時間までまだ30分近くあった。

 そこのベンチで座って待ってよう。

 寒さで冷えた手を擦り合わせながらベンチに腰掛けた。

「お姉さん今日は男連れてないの?」

 私がベンチに座ったタイミングで、見計らったように金、茶、白のカラフルな髪色と、沢山のピアスを付けた三人の男達が私の前に壁のように現れた。

「———っ!」

 声が出ない。冬の遠い日差しが覆い隠されていく。

 私を品定めするような焦茶色のカラコンが急激にブレたかと思ったら私の手元にお弁当箱サイズの小さな茶色いバックがどさりと落ちてきた。

「っ先輩! 大丈夫ですか!」

 改札前から正確なコントロールでバックを金髪の男にぶち当てて猛ダッシュで私の前に立った町田さん。

「ってて、いきなり何!? 君も一緒に遊びたいの? なら別に———」

 金髪がそこまで言った所で後ろの茶髪の黒いマスクを付けた男が耳を引っ張り引きずっていく。

「ほら、今日はゲーセン行くんでしょ?」

「ちょ、痛いって! ゲーセンはいつでも行けるけど彼女に会えるのは今日だけかもしれんやん!」

「いや、仲良くなったっつーから付き合ったのに、全然じゃん。そんなんじゃお前の親父と一緒の泥棒になっちまうぞ。ごめんね~お出かけ楽しんでね、ほらスマホ見てないでお前も行くぞ」

 そう言うと茶髪は金髪を連れ、私たちに背を向け片手を振りながら去っていった。

「先輩に不躾に近付くなんて、この私が許しませんよ!」

「まぁ、悪気はないのよきっと」

 歯を出して猫の様に威嚇する町田さんをまぁまぁと少し震えた声で宥めた。

「もう、とりあえず先輩が無事で良かったです。さっあんなのは忘れてショッピング行きましょう!」

「そうね、今日は町田さんとの約束だものね。っとと」

 ベンチから立ち上がる時、少しだけ足が縺れてしまった。

「やっぱり、あいつら締めてきます」

「大丈夫よ! ほら、もう行きましょ」

 それを見た町田さんが金髪達の方へ向かおうとするのを阻止する為、手を掴んで駅に向かった。

 電車に揺られて数駅、降りた駅の前、都市開発に乗じて建てられた大きめのショッピングセンターが目的地だ。

 ショッピングセンター内のアパレル店に入ると、あちらこちらで、冬服のマネキンが自分が1番美しいと主張するように立っていた。

「先輩見てくださいよこれ! めっちゃおされじゃないですか?」

 私が久しぶりのアパレルにたじろぐ一方、町田さんは手慣れた手付きであちこち見て回って、白いワンピースを手に戻ってきた。

「ほんと、綺麗な服」

「似合いますよ! 絶対!」

「ちょ、ちょっと! これ私が着るの!?」

「はい!」

 そのまま更衣室に押し込まれてしまった。

 今日は上着を買いに来た筈じゃなかったのかしら。

 まったく。と口の中で溢して、私は触れるのも躊躇う純白のワンピースに袖を通した。

「どう、かな?」

「女神……」

 更衣室のカーテンをめくって出てきた私を見て開口一番に口を押さえてそんな戯言をぽそっと言った。

「女神って」

 私は髪を手櫛で梳かして顔を背けた。

「冗談も程々にね」

「冗談なんてとんでもない! ただ思ったことを口にしただけですよ」

「そっか、ありがとう。そろそろ恥ずかしいから着替えてくるね」

 私はワンピースから着替えて更衣室から出た。

「あっ先輩、上着こんなのとか、どうですか?」

「今日は連れてきてくれてありがとうね」

「え?」

 町田さんの目がまん丸に広がった。

「あっ、ごめんね遮っちゃって。でも勇気を出して誘ってくれたと思うから感謝しないとって。それに町田さんとこんな所に来れると思ってなかったから、嬉しくて」

 顔が段々と熱くなってくるのを手で仰いで冷やす。

「いえいえ! こちらこそありがとうございます!」

 冷たい町田さんの手に掴まれてブンブンと振られて、赤く染まった私の手が肌色を取り戻していった。

「よ、よかったらまたどこか一緒に行きませんか?」

 私の手を掴んだまま小さな声で町田さんが言った。

「勿論、町田さんが良いなら」

「是非!」

 町田さんは顔がくっつくほどぐいっと近づいてきた。

「あっ、すいません!」

「ふふ、良いじゃない。何だか友達みたいで、それ町田さんが選んでくれたんでしょ?」

 私は離れる町田さんの手から紺色のコートを取って言った。

「そうですけど、気に入らなければ全然……」

「何言ってるの、折角選んでくれたんだし、私もこれとっても良いと思うしこれにするわ」

「本当ですか! 良かったぁ」

「じゃ、次は町田さんの番ね」

「え、私は別に———」

「そう言わずにほら、これなんか似合いそう」

「嘘ですよね? ちょ先輩!?」

 今度は私が猫耳の付いたパジャマパーカーを手渡して町田さんを更衣室へ押し込んだ。

 さて、他には何を着せようかな。メイド服とか、チャイナドレスなんかも良いかもしれないな。

 私は更衣室の前で悪戯に笑って、私は学生時代の青春を取り戻すように色んな服を町田さんに着せていった。

「色々買っちゃったね」

 膨れ上がった紙袋を持って2人で店を出て時計を確認すると丁度17時を回った所だった。

「そうですね。まぁ私のは外では着れませんが……」 

「猫耳可愛かったし全然式場に着てきてくれて構わないのよ? 明日とか」

「む、無理ですよー! 明日とか特に無理ですよ!」

「まぁ明日は専門生も来るものね、気を引き締めないとよね」

 充実した疲れから出たため息を空に逃すように見上げると、空はうっすらと茜色に染まっていた。
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