幸福の花束を

天空

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ミセバヤ失う私はホトトギス

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「おっはよー!」

 渋染はスーツでビシッと決めた渋沢を見つけると、その軽くカールをかけられた橙色の髪を振りながら、その背中に勢いよく抱きついた。

「っ渋染さん、いきなり後ろからけしかけるのはやめてください」

 渋沢はずれた眼鏡を戻しながらジト目で訴えた。

「えーうちとオリーの仲じゃん!」

 背中からピョンっと飛び降り渋沢の前の前をぷらぷらと歩く。

「ただの腐れ縁です」

「なんだかんだ言って幼稚園からずっと一緒だよねー」

 くるりと振り返ってにこっと笑う渋染。

「ずっと、本当に……これまで全ての学校でクラスまで一緒で、しかも専門学校の職業体験まで一緒って、どういう確率ですか……」

「ほら、早く行くよー!」

「ちょっと、待って下さいって!」

 ぴょんぴょんと走る渋染さんに続いて僕は閑静な商店街を抜けていった。

「いらっしゃいませ!」

 入ってすぐ僕達の目に入ったのは、頭のてっぺんだけ茶色の金髪の職員さんと、海も怖気付く程美しい青色の髪をした女性の職員2人だった。

「あなたたちが専門学校の子たちね。職員の青園よよろしくね」

「はい、津雲ウェディングプランナー専門学校より参りました。渋沢しぶさわ 織部おりべと申します。本日はよろしくお願い致します」

 まさかここまで髪色の風紀が乱れてるとは思わなかったが、そんな人達相手であれ、礼を欠くのは僕の心情に反する。

 ここは渋染さんに手本を見せてやろう。
 そんな気持ちで行った彼の礼はどこに出しても問題の無いとても綺麗な礼だった。

「はーい! 渋染しぶぞめ 我愛羅があらでーす! ガーラちゃんって呼んでくださーい! これからよろしくお願いしまーす!」

 そんな渋沢の思いを一切無視した渋染の良くも悪くも自由で明るい挨拶は渋沢の感情を逆撫でするには十分だった。

「渋染さん! そんな挨拶じゃ失礼ですよ!」

 渋沢はずり落ちた眼鏡を戻して隣の能天気な横顔に叫んだ。

「全然大丈夫だよ! 私は町田向日葵今日2人に色々説明する担当だよ! よろしくね。二人ともとっても仲良しそうで良かったよ~」

 町田さんはその見た目に反しない大学生の様なラフさで僕達に挨拶してきた。

「二人とも何かあったらすぐ言ってね」

 逆に青園さんは落ち着いてて町田さんの明るさも相まって、その雰囲気に飲み込まれそうだ。

「はーい!」

「よろしくお願いします」

「それじゃ私は裏で仕事してるから、後は町田さん宜しくね」

「はい! お任せ下さい!」

 青園さんはそう言って受付の奥の扉からスタッフルームに入って行った。

「じゃあ早速問題です! ここの従業員は何人居るでしょう!」

 町田さんは青園さんが扉を閉めたのを確認すると楽しそうに人差し指を突き立ててそう言った。

「んー100人?」

「そんな居るわけ無いですよ。この大きさだったら全部で2.30人居れば多い方じゃ無いですか?」

「なるほどね。因みに~正解は!」

バッと町田が、手のひらを2人に向けた。

「5人です!」

「「5人!?」」

 2人綺麗にハモって驚いた。

「い、1日5人のサイクルって事ですよね?」

「ぶっぶー違うよー全職員合わせてたったの5人でこの式場は動いてるのです!」

 そんな2人の反応に満足したのか、胸を張ってそう言った。

「そ、それでまともに動くんですか?」

 僕は驚きでズレた眼鏡を直して質問した。

「これが動くんだよねギリギリだけどね。って事で実際にどんな仕事があるのか5つに分けて話していこうか、そっちの方が分かりやすいだろうしね、まずは——」

 プルルルル

 受付のカウンターから鳴り響く電話。

「なんというタイミング、ちょっと待っててね」

 僕達を中庭に面した席へ座らせて町田さんは電話に出た。

「お電話ありがとうございます。津雲花園フラワーガーデンです。はい……今からですか、分かりました。お待ちしております」

 詳しくは聞こえなかったが、声色を聞く限りあまりいい話ではなさそうだ。

「すみません先輩、今からお客さん来るみたいで、2人のこと任せても大丈夫ですか?」

 無線機にそう話して紙コップを2つ持って僕達の方に戻ってきた。

「ごめんねーちょっと急用入っちゃって、代わりに青園先輩が色々教えてくれるから! お茶でも飲んで待ってて!」

 僕達にそう紙コップを渡すと、接客準備に行ってしまった。

 そんな町田さんを遠巻きに椅子に座って見ていると、青園が奥から早足にやってきた。

「お待たせ。ごめんねドタバタしちゃって、ここじゃあれだし、折角ならチャペルの方に行きましょうか」

 僕達は青園さんに着いて受付を抜けると、十字に分かれている通路に出た。

「ここから、左は二階への階段と倉庫ね、お手洗いもこっちにあるから。右は厨房ね、チャペルはこのまま真っ直ぐに行くと着くわ」

「これが、チャペルですか?」

 大きな両開きの扉の奥は不気味なくらいに真っ青に塗りたくられていて、僕の知ってる真っ白なチャペルとはかけ離れた姿だった。

「わぁ! 凄い色ですねー!」

「ふふ、驚いたでしょ? この式場が他とは違うのはこのお客様に合わせた装飾なの」

「だとしてもこれは……いくらなんでもやりすぎでは?」

 たった1回の式のためにわざわざ壁に天井、床まで塗るなんてあまりにも。

「非効率的?」

「っ……はい」

 心を見透かした様にそう答える青園に言葉が詰まった。

「その通り私達からしたら数あるうちのたった1回の業務、当然面倒だし効率良くしたいわよね。だけどお客様からしたら人生で1回あるかないかの大舞台。そんな素晴らしい場所を作るんだから、たとえどんなに非効率でも思いっきり、素晴らしいものにしたいじゃない?」

「すっごく良い考え方! オリーそんな頭固くちゃだめだぞー? もっと非効率に生きないと!」

「……すいませんでした」

 反発することもなく、素直に青園さんに向け頭を下げた。

「いいのよ頭なんか下げなくて、むしろ疑問をぶつけるのは良いことなんだから」

「じゃあうちも質問! この部屋は何て言われてこんなに真っ青にしたんですか?」

「それはね、ここで式を挙げたお客様が初めて出会った場所に関係してるの。分かるかな?」

「うーん……あっ分かった! 初デートが水族館だったんでしょ、よく見たら魚っぽい絵とかもあるし!」

 渋沢が壁や周りの装飾を見るとただ青いだけでなく、所々に魚や海藻、ヒトデなどの海の生き物の絵や小物が結婚式という神聖な雰囲気を壊さない程度に、むしろ神聖さを増すように装飾されていた。

「惜しい、正解は深海よ」

「深海?」

「こうしたらより分かるかもね」

 そう言って青園さんは式場内のライトをカチッと消した。

「わぁ、きれい……」

 明かりの消えた式場内はステンドグラスの光のみが外から射して空気中の埃がキラキラと光り本当に深海に居るかと錯覚させるくらい綺麗だった。

「これは。相当凝ってますね」
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