幸福の花束を

天空

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ミセバヤ失う私はホトトギス

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「こんな素敵な場所で結婚出来たら一生の思い出だよー」

 目をキラキラさせてあちこち歩き回る渋染さん。

「あんまりウロチョロすると迷子に」

 って、こんな狭い空間で迷子? まるでこの壁の絵の先にもずっと深海が続いてると思うほど僕はこの絵の世界に引き摺り込まれてた様だ。

「それじゃあそろそろ町田さんから伝えて欲しいって言われてた1人に1つの5つの仕事について話そうかな」

「そうだった! ここって本当に5人しか職員が居ないんですか?」

「そうよ、何なら普段から居る人数はそれより少ないわね」

 5人ですらギリギリ所の問題じゃないのに、そんなの絶対に不可能だ。どうせ実は外から人を雇ったりしてるんだろ。

「是非聞かせて下さい」

「まずは町田さんの仕事ね、彼女は受付、入り口の清掃、それに電話対応や営業何かの一般業務の担当ね」

「1人の仕事としては多すぎませんか?」

「何だかんだギリギリなのは本当だからね。それに担当って言っても主戦でやってもらってるだけで、私も分担してるから」

 僕としては早く色んな仕事を覚えたいから構わないが、普通に考えたら結構ハードだな。

「次に私はリーダーね、式の進行のセトリなんかの仕事の取りまとめだったり、採用とか給料とか、他の仕事の補助なんかも全部やってるわ。まぁこれは私がここのオーナーだからってのもあるんだけどね」

「そうなんだ! じゃあこの式場は青園さんが建てたんですー?」

「そうなるわね」

「すごーい! 青園さん社長って事?」

「えぇ、そうよ」

 落ち着いた貫禄のある人だとは思ってたが、小さい式場とはいえまさか社長だったとは。

「次に料理人。分かるとは思うけど、料理を考えて提供する人ね。ここの料理人は凄腕だから折角だしお昼に何か作ってもらいましょうか」

「え、良いんですか?」

「食べてみたい!!」

「今日はどうせ暇してるから大丈夫よ。オーナーとして仕事を振らないとだものね」

 凛とした顔が一瞬だけ少しイタズラっぽくふわっと柔らかくなった。

「……? ちょ、ちょっと待って下さい。1人に1つって事は料理人も1人なんですか?」

「えぇ、勿論そうよ」

「料理人なんて何人も居ないと料理の提供間に合わなくないですか? あっケータリングとかで他の所から増援してるんですか? そうですよね?」

「うん。私もそうした方が良いって言ったんだけど、1人じゃなきゃ嫌だって聞かなくてね。まぁちょっと常識の外れた人は居るのよ」

「いくら何でもそんなの……」

「ま、色々あるのよ。さて、気を取り直して次はデザイナー。この式場のデザインもそうだし、このチャペルの深海を描いた人ね、まぁ今日は特に仕事ないから来てないんだけど」

「もう、何から突っ込めばいいのやら……」

 いくら小さい式場だからって1人に1つの仕事なんて無茶だ。

「本当皆優秀で助かってるわ。さて最後の1人がクリーナーね。この式場全体の清掃を担当してるわ」

「それならまだ……いや大変ですけどね」

「えーうち掃除苦手~」

「これが案外大変なのよね。さて、大まかな括りはこれで終わりね。じゃあ次は実際にその仕事を見に行こっか」

「はーい!」

「あ、すいません。先にお手洗い行ってもいいですか?」

「ええ、ここで待ってるからゆっくり行ってらっしゃい」

 仕事にやりがいか、だからってこの広さをたった5人で。

 手洗いの鏡に自分の顔が写った。いつもの仏頂顔だ。

「いらっしゃいませ」

 口の端を指で引っ張って言ってみる。

 仏頂面な死んだ眼に三日月の口が張り付いていた。

「キャラじゃないな」

 チャペルの話をしてる時の青園さんは自分の自信作を見せびらかすみたいに自信満々で、楽しそうで、僕には眩しすぎた。

 渋沢がお手洗いから出ると、中庭に白い服を着た子供がしゃがんでいた。

 子供? さっき話してたお客さんの子供かな? まぁ何でも僕には関係ない。わざわざ話しかけるなんて非効率……。

「ねえ、君、そんな所で何してるの?」

 全く、キャラじゃない。

 しゃがんで白い服の少女に話しかけるも、ガラス越しにエントランスを覗いたままじっと動かない。

「何覗いて、あれは町田さん? なんだあれ。ねぇ」

 渋沢が少女の肩を叩くと、ピクンと体を震わした。

「いつの間に!? いや、それより……おい坊主。今の見たか?」

 何か切迫した顔で振り返った少女はその幼い容姿とは裏腹に汚い言葉を使って僕を睨んだ。

「坊主って、失礼だな。今のってさっきのの事だよね? だったら見てたけど、どうやってやったんだろうね。ってそんな事より君は一体誰なの? お客さんのお子さん?」

「そうか、見てたか」

 少女がゆったりとこちらを向いて立った。そこで僕は少女が着ていた服が丈の合わない白衣だと気がついた。

「ごめんな」

 そんな僕の気付きは梅雨知らず、少女はそのままの自然な仕草で懐から透明な親指程の小瓶を取り出すとその蓋をキュポンと開けた。
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