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ヤドリギは芽を伸ばす
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あれから数日経ち、彼が来る日となった。
彼が来るのは午後だったが、私は午前からずっと落ち着かず、あまり仕事も進まなかった。
「青園ちゃん、大丈夫?」
朝一で来ていた木那乃が心配そうに伺う。
「大丈夫よ」
「すみません、川波ですが」
受付から彼の声が聞こえてきた。
スタッフルームとエントランスを繋ぐ扉を少し開き覗き込むと、少し成長しているが、確かに彼だ、他人の空似じゃ無かった。
その瞬間、不思議な懐かしさと共に胸が何者かに掴まれたみたいに苦しく、呼吸が浅くなっていった。
「お待ちしておりました。では、こちらへお掛け下さい」
「青園ちゃん、厨房でさっき中城さんが新作の味見お願いって」
スタッフルームに入って来た木那乃が私の隣に座って耳元で囁いた。
「でも、私彼に話さないといけない事」
「いいからいいからあっちは私がフォローするから、ほら、行って来なさい」
そう言って私の背中をポンと押して無理矢理厨房へと押し出した。
「ちょ、ちょっと、何か有ったら呼んでよ?」
カツン、カツン。
仕方なく厨房へ向かう私の足音だけが廊下に反響していく。
ロビーで彼と町田さんが式について話してるのが微かに聞こえて、足が浮きそうで倒れそうな感覚に陥る。
「あの」
「あっ! おねーちゃん!」
私が厨房の扉を開けると、腰目掛けて緑色の塊が突撃して来た。
「四葉ちゃん」
「よう青園、とりあえずこっち座んな」
「失礼します」
私が中城さんの隣に座ると、そそくさと私の膝の上に四葉ちゃんがちょこんと座った。
「鬼灯から聞いたが、私は反対だからな」
「頼りなくて申し訳ありません」
気分が沈んで、俯くと緑の頭が顔にぽふんと当たって、子供特有の甘い香りが鼻腔を抜けていく。
「はぁ、そう言う事言ってんじゃないよ」
中城さんは私の頭にポンと手を置いた。
「あんたが純粋に心配なんだよ」
そのまま私の頭を優しく撫でた。
「おねーちゃんだいじょうぶ?」
四葉ちゃんに顔を覗かれ、私は熱くなった目元を手で覆い隠した。
「大丈夫です。それより私、仕事しないと」
「あーそーだったね、じゃあ早速仕事だよ」
そう言うと中城さんは立ち上がろうとする私を片手で椅子に戻し調理場へ向かった。
「あの、そろそろ戻らないと」
「おねーちゃん! いっちゃ、め! だよ?」
四葉ちゃんは私の膝から一向に降りる気が無いらしく、むしろ私の手を掴んで離さない。
「四葉良くやった。さて、これがお前の仕事だよ」
中城さんは私の前に黄色い湯気の出たスープを置いた。
「これは?」
「何って見たまんまコーンスープだよ。鬼灯から聞いたろ? 味見しに来いって」
「あ、そういえば」
言われてたような、何だか今日はずっとぼーっとしてて正直あまり覚えてない
「ほら、冷める前に食べな」
「じゃあ、いただきます」
スプーンでスープを掬い、黄色くて少しとろっとしたスープを口へ運んだ。
「美味しい」
口に入ったスープは温かく、優しい甘さが舌と昨日から何も入っていなかった空腹の胃をじんわりと満たしていった。
「当たり前だろ?」
毅然とした態度で中城さんは料理をテーブルに次々と並べていく。
「あの、これは?」
「ん? 誰も味見用の料理が1つとは言ってないだろう?」
「でもこんなに、食べきれませんよ」
「いんだよ、元々3人用だしな、ほら四葉こっち座んな」
「はーい!」
中城さんは厨房横の倉庫から子供椅子を持ってきて四葉ちゃんに座らせた。
「よし、んじゃ頂きます」
「いただきます!」
そのまま流れる様に私を巻き込んで食事を始めてしまった。
「まぁ、何だ」
食事も終わって、四葉ちゃんを膝に乗せて頭を撫でていると、食器を洗っていた中城さんが声だけをこちらに返した。
「落ち着いたか?」
「はい、少し頭に血が上ってました」
「そうか、なら後はあんたの好きな様にやんな。それに私達花園の面々は従うよ」
その言葉を皮切りに胸の奥からブワッと何かが溢れてきた。
「中城さん」
「あーやめだやめ! こんなの私らしくない、さっさとケジメ、ツケてきな」
「はい、行ってきます!」
私は目元を乱暴に拭い、優しく四葉ちゃんを下ろすと、エントランスへ足音を鳴らして走った。
彼が来るのは午後だったが、私は午前からずっと落ち着かず、あまり仕事も進まなかった。
「青園ちゃん、大丈夫?」
朝一で来ていた木那乃が心配そうに伺う。
「大丈夫よ」
「すみません、川波ですが」
受付から彼の声が聞こえてきた。
スタッフルームとエントランスを繋ぐ扉を少し開き覗き込むと、少し成長しているが、確かに彼だ、他人の空似じゃ無かった。
その瞬間、不思議な懐かしさと共に胸が何者かに掴まれたみたいに苦しく、呼吸が浅くなっていった。
「お待ちしておりました。では、こちらへお掛け下さい」
「青園ちゃん、厨房でさっき中城さんが新作の味見お願いって」
スタッフルームに入って来た木那乃が私の隣に座って耳元で囁いた。
「でも、私彼に話さないといけない事」
「いいからいいからあっちは私がフォローするから、ほら、行って来なさい」
そう言って私の背中をポンと押して無理矢理厨房へと押し出した。
「ちょ、ちょっと、何か有ったら呼んでよ?」
カツン、カツン。
仕方なく厨房へ向かう私の足音だけが廊下に反響していく。
ロビーで彼と町田さんが式について話してるのが微かに聞こえて、足が浮きそうで倒れそうな感覚に陥る。
「あの」
「あっ! おねーちゃん!」
私が厨房の扉を開けると、腰目掛けて緑色の塊が突撃して来た。
「四葉ちゃん」
「よう青園、とりあえずこっち座んな」
「失礼します」
私が中城さんの隣に座ると、そそくさと私の膝の上に四葉ちゃんがちょこんと座った。
「鬼灯から聞いたが、私は反対だからな」
「頼りなくて申し訳ありません」
気分が沈んで、俯くと緑の頭が顔にぽふんと当たって、子供特有の甘い香りが鼻腔を抜けていく。
「はぁ、そう言う事言ってんじゃないよ」
中城さんは私の頭にポンと手を置いた。
「あんたが純粋に心配なんだよ」
そのまま私の頭を優しく撫でた。
「おねーちゃんだいじょうぶ?」
四葉ちゃんに顔を覗かれ、私は熱くなった目元を手で覆い隠した。
「大丈夫です。それより私、仕事しないと」
「あーそーだったね、じゃあ早速仕事だよ」
そう言うと中城さんは立ち上がろうとする私を片手で椅子に戻し調理場へ向かった。
「あの、そろそろ戻らないと」
「おねーちゃん! いっちゃ、め! だよ?」
四葉ちゃんは私の膝から一向に降りる気が無いらしく、むしろ私の手を掴んで離さない。
「四葉良くやった。さて、これがお前の仕事だよ」
中城さんは私の前に黄色い湯気の出たスープを置いた。
「これは?」
「何って見たまんまコーンスープだよ。鬼灯から聞いたろ? 味見しに来いって」
「あ、そういえば」
言われてたような、何だか今日はずっとぼーっとしてて正直あまり覚えてない
「ほら、冷める前に食べな」
「じゃあ、いただきます」
スプーンでスープを掬い、黄色くて少しとろっとしたスープを口へ運んだ。
「美味しい」
口に入ったスープは温かく、優しい甘さが舌と昨日から何も入っていなかった空腹の胃をじんわりと満たしていった。
「当たり前だろ?」
毅然とした態度で中城さんは料理をテーブルに次々と並べていく。
「あの、これは?」
「ん? 誰も味見用の料理が1つとは言ってないだろう?」
「でもこんなに、食べきれませんよ」
「いんだよ、元々3人用だしな、ほら四葉こっち座んな」
「はーい!」
中城さんは厨房横の倉庫から子供椅子を持ってきて四葉ちゃんに座らせた。
「よし、んじゃ頂きます」
「いただきます!」
そのまま流れる様に私を巻き込んで食事を始めてしまった。
「まぁ、何だ」
食事も終わって、四葉ちゃんを膝に乗せて頭を撫でていると、食器を洗っていた中城さんが声だけをこちらに返した。
「落ち着いたか?」
「はい、少し頭に血が上ってました」
「そうか、なら後はあんたの好きな様にやんな。それに私達花園の面々は従うよ」
その言葉を皮切りに胸の奥からブワッと何かが溢れてきた。
「中城さん」
「あーやめだやめ! こんなの私らしくない、さっさとケジメ、ツケてきな」
「はい、行ってきます!」
私は目元を乱暴に拭い、優しく四葉ちゃんを下ろすと、エントランスへ足音を鳴らして走った。
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