私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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殿、ご乱心!?

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 真田は、今の事態をどう解決して良いか考え込んでいた。
 蓮司の私室のドアの前で呆然としていた。ドアノブを回すがビクともしない。当たり前だ。

***

 五分前。

 真田は、ほとんど立ちながら蓮司の胸に抱かれている美代を見る。目がトロンとした美代の様子から、もうすでに寝るのは時間の問題であった。真田は、伊勢崎を呼び出して、帰りの車を用意しようと考えていたのだ。

 その時、蓮司が真田を引き止める。

 「真田、松田にこれらの食事を片付けさせることを言ってくれないか? あ、でもあのバースデーケーキはまだ取っておいてくれ。美代はまだ手をつけてないだろう」

 松田を呼ぼうと厨房へと足を向かせ、厨房に顔を覗かせている間だった。数分の話だ。

 「わ、わかりました」

 ちょっとの間だった。
 ものすごい勢いで、別館に走り去る男がいた。足音が玄関ホールに響く。
 ハッと真田が、その走り去る革靴が出す音の方向を顧みる。

ーーま、まさか? 蓮司会長がご乱心?

 走り去る蓮司会長が見えた。そして、その腕の中にはどう考えてもぐうぐう寝ている美代の髪の毛が覗いていた。

 蓮司が、

 「俺は美代に嫌われていないらしい!」
と言いながら、あの別館の蓮司専用の私室に、美代を抱き抱えたまま入り込んでしまったのだ。

 あっという間の出来事だった。

 実はこの別館の蓮司専用の私室は、ある種のパニックルーム(非常事態時の避難所)仕様だった。外からの侵入を一切出来ないように、大原の最高のセキュリティー技術を駆使した部屋なのだ。

 「ここまで来て、これか……あの、はにかみ顔にまんまと騙されたな……」

 この部屋にアクセスできるには、あの男しかいない。蓮司の私室の前の超合金で出来た頑丈な扉の前で真田は頭をかかえていた。このドアが作動してしまっている事を考えば、蓮司会長があのボタンを押した事が明確にわかる。至急、携帯を自分内ポケットから出した。が、ダイアルボタンを押す前に、着信音が鳴る。誰が電話をしてきたか見た真田は、その目を見開いた。

 「蓮司様……これは一体!?」
 「真田、許せ。今日は俺は美代とベットを共にする」
 「!!!!蓮司様、美代様、きっと激昂しますよ。どう考えてもまだ相手の承諾を取っていないではないですか?」
 「大丈夫だ。何もしない。約束する」
 「すみませんが、そのお言葉全く信用できません。だったら、なぜこんなことを?」

 まるで誘拐犯を諭すような役割になってしまい、真田も気持ちが複雑だ。

 「美代が、初めて、俺のことを嫌いじゃないって言ったんだぞ。こんな嬉しいことないではないか?」
 「かと言って、まだ美代様はシラフではなかったですし、もしかして、かなりの可能性で、明日には何も覚えていないこともありますよ」
 「そ、それでも、いい。俺が全部責任を取る。今晩だけ、見逃してくれないか?真田?」
 「……蓮司様、私はこのガードを破ることはできません。きっと今連絡しようと思っていた山川も無理でしょう。何たって、蓮司会長が自ら設計したものですからね。あの山川自身もどこまでシステムを知っているか怪しいものですよ」
 「ふっ。真田。さすがだな。お前の読みは大体あってるぞ」
 「でも、私は美代様の安否が心配です。私は、美代様を当主の次期夫人としてお仕えしています。ですから、旦那様がご乱心と有れば、それなりの処置をこちらでも考えなくてはならないのです。蓮司様」
 「……わかっている。お前の忠誠心とその明晰さ。他の者には変えられない」
 「蓮司様……」
 「今晩だけ、俺に時間をくれ。お前だって男だ。わかるだろう? 」
 「で、でも」
 「惚れた女を自分の寝台の上で見る幸せを俺にくれないか?」
 「蓮司様、ご覚悟あるんですか?」
 「……大丈夫だ。捕まえてみせる」
 「もう一度、お聞きしますよ。女性は逃げ出したら、とことん逃げますからね。特に美代様のような方、全くどういう反応になるか、私には予測不能です」
 「真田。絶対に美代を傷つけない。それだけは、約束する。そして、絶対に捕まえてみせる。離しはしない」

 もう、ここで自分ができる事は何もないような気がした。確かに暴走蓮司は手に負えないが、今、ここで蓮司が強行手段を取るという事は、よほどの覚悟としか思えなかった。

 その後、何かお互いに少し言葉を交わした蓮司と真田は、電話を切った。
 念の為、もしやと思って、その頑丈な扉を開けてみようとするが、ビクともしない。

「傷つけないと約束しながら、鳥籠に閉じこめる。鍵をしっかりかけてか……」

ーー美代さま、どうぞ無事にお会いしたいですね。はー、長い夜になりそうだ。

 真田は仕方が無さそうに、携帯をまた取り出した。




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