私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

文字の大きさ
136 / 200

蓮司のラブレター

しおりを挟む
 マチ子達が残っていたゲイバーの店内に曲が流れる。

 『抱きしめて彼女のぬくもりを思い出したい。
 この切ない想い、どうしたら
 君に届くのだろう?
 
 きっと一目惚れなんだ。
 信じられないと思うけど。

 もう周りの景色が色褪せて、
 自分の立ち位置さえどこだかわからない。

 車窓から、君に似た姿を探してしまう。

 Only you....

 君に会いたい。

 怒っている君も、
 拗ねてる君も、
 困るぐらい可愛いんだ。
 
 自分の想いが抑えられない。

 肌をもっとすり寄せ合えば、この熱が君に伝わる?

 白いシーツの波間であたためあえば、君は感じてくれる?

 You are my one and only……

 全てをあげる、君に。
 全てから守ってあげたい、君を。

 My darling もっと近づいて……。
 My sweet princess……体温を感じるくらい。

 起きてプリンセス。

 唇で気がついて……。

 マイ プリンセス……

 君を本当に愛してるって。

 眠り姫、もう逃げないで。

 My beautiful woman 

 僕の腕のなかで
 おやすみ』


****


 あのミュージカル仕立てのドタバタ劇『眠ていた森の姫』での愛のバラードがマチ子たちのいるゲイバーに流れた。マチ子がテスト用に作ったものを自分の携帯に入れてあり、それをブルーツゥースで店内に流したのだ。歌はもちろん潤が歌っている。

 「な、なに!! この甘々歌詞! マチ子先生のやつなの?」

 戻ってきたジャスティンが、あの男は誰だと騒ぎ始めたので、うるさいので、今自分がやっている仕事を聴かせるからと、手始めにこのミュージカルの一部を聴かせたのだ。もちろん、このゲイバーのママも大歓迎で、この音楽を聴きたかったようで、よろこんでいる。
 ただし、正直これがいい手段だったかどうか、マチ子にも判断が危ぶまれた。
 でも、この歌詞がまさか本当に蓮司から美代へのラブレターだとは、誰も知らない。
 マチ子以外は。
 
 まあ本当はもうちょっとがあからさまで、蓮司に「これは、いくらなんでも、子供とかくるかも知れないから、無理だわ」と言って、歌詞をすこし削ったのだ。

 だって、「ああ、君がベッドで許しを乞うぐらいまで、虐めて啼かせたい」って。まずいでしょ。いや、もっとまずいヤツもあったな、とマチ子は思い出し笑いをしていた。

 「でも、これって蓮司会長がプロデュースなんでしょ?」
 余計な事をゴージャスミツコが言う。先ほど、あの超フェロモン垂れ流しの大男が、あの大原財閥の総裁、大原蓮司だとみんなに教えたのだ。

 まあもちろん、お姉のみんなは騒いでいた。
 「美代ちゃん、すごい人が彼氏なんだね」
 「ちっちゃいのに」
 「純白の乙女なのに……」

 みんな論点が完全にズレている。

 『なに? さっきの男のプロデュースなの? なんだ、全部マチ子がやったのかと思った。嘘つくなよ、マチ子』
 『うるさいわね、もうあの男のことは忘れなさい!あんたこそ、の関係で、日本語喋れるだなんて、ウソつくんじゃないわよ。どうやって、スラム街で育ったスターが、父親の仕事で日本なんかにくるのよ』
 『……いいじゃん。その方が聞こえがいいでしょ?』

 すでにブロードウェイであったときのジャスティンは、日本語がペラペラであった。マチ子が、なぜそんな上手なの?と話しても、彼はただ微笑みながら、
 「うーん、秘密。昔、素敵な日本人の女性にあったんだよ」
と言うだけだった。

 マチ子がジャスティンにたっぷりと酒グラスに注いだ。

 「もう今日は私が奢るから飲みなさい」

 お姉様達の喜びの悲鳴の中、ジャスティンはなにかを思い出したかのように、グラスの中の液体を飲み干した。


****


 憂いのある表情で、男は腕の中で眠る愛しい人を見つめた。

 愛の言葉が足りなかったのだろうか?
 もっと優しくささやき、彼女の髪を撫でればよかったのだろうか?
 やっとこの唇も、いまは見えないクリクリした愛らしい瞳も、全て俺の物と言いたいのに、なぜ愛人に成り下がるなどと言い始めるのだ。

 蓮司は車の中で美代を抱きしめながら自問する。
 彼女の肌の温かさが、そこに本当に彼女が存在するという安心感を与えてくれる。

 もっと欲しい。
 もっと熱が……。

 えられないのどの渇きを感じるように、漆黒の水のような流れの彼女の髪に静かに口づけをした。

 「なにが足りない? 美代。僕のものになるって決めてくれたんじゃないの?」

 いつもよりも全然弱気な蓮司が全身で深呼吸をしたかと思うと、ぎゅーっと、もう一度美代をきつく抱きしめた。
 あの婚姻届は実は、本気じゃなかった。
 いや、いつでも本気だ。
 でも、嫌がる美代を無視する気持ちは到底ない。

 あれをあいつの自身に渡して、いつでも俺の準備はできているんだと言いたかっただけなのだ。

 ただそれだけなのに……。
 ああ本当にどうしたらいいんだ。
 自分が自分でないようだ。

 ちょっと茶化しすぎたんだな。俺は……。

 わかった。

 お前がそういうことなら俺もやり方を考える。
 もっとお前が自分に自信を持って俺の妻になってくれるよう、色々手を貸すよ。
 でもな、美代。
 そんな自分に自信がないように話しているけど、意外とお前はすごい奴なんだ。
 ただまだ世間がそれを知らないだけだ。
 本当なら知って欲しくない。
 ジェラシーなんだ、それって。

 愛してる、美代。

 蓮司が、優しく彼女の唇を塞いだ。







しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜

沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」 中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。 それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。  だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。  • 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。  • 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。  • 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。  • オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。  恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。 教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。  「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」  鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。 恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!

処理中です...