私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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深夜の訪問者

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 デートの前日の話。

 会長室に入るとすでに真田と矢崎がいる。

 「会長、関連会社の一つが敵対的買収が行われそうだと連絡がありました……。相手はあの…………」

 矢崎が概要を説明する。

 「なるほど、原因はある意味明らかだな……」

 「はい、そう考えるのが適当かと……」

 真田が答えた。

 「まあ、ある意味お前の予想が当たったな……」

  真田は眼鏡の位置を神妙な面持ちで直した。

 「あと、には連絡したのか? ヨーロッパにいるんだろう……? 元気にしているのか?」
 「はい、かなり前から連絡はしております。すでにで待機中です」
 「準備周到だな。わかった。報告ありがとう……」

 蓮司はまた書類とラップトップを睨んだ。

 「では、こちらも黙ってはいられない……。真田、お前はどうする? 家に帰るか? それともここに残るか?」
 「……正直、帰りたい気持ちもございます。でも、大原邸に忍び込んで連れ去ることはほとんど不可能に近い……。ただ長谷川によりますと、外出中のようで、警備だけはしっかりしていただいて……ですから、私はここで蓮司様を私なりのやり方でサポートいたします」
 「もう、腹を決めたのか?」
 「……恥ずかしながら……」
 「でも、まだ相手には了承をとってないだろう?」
 「まあそれも近日中には……」
 「そうか……わかった。では、相手の関連会社、資産、傾向、業績をまた洗い直す。矢崎……はこっちをやれ。真田はそのままお前の計画を進めろ……」
 「……わかりました」
 「畏まりました……」

 真田がちょっと目頭を熱くさせて声を出した。
 
 「蓮司会長……」
 「……なんだ、真田……」
 「ありがとうございます……」

 ふっと蓮司が微笑んだ。

 「馬鹿だな、真田……。それは全部がうまくいってから言え……。まだ歩兵が出ただけの状態だ。ただあっちがそれに乗るかどうかだ」

 蓮司が書類を睨む。

 「人間、パーフェクトなやつなどいない。会社という組織であれば尚更………たぶん、これを中心にやはりまとめるべきだ……」
 
 一つの名前を組織図から指差す。
 ルイス・カルダングループ総裁 アベル・ド・ロレーヌ。


 ****

 夕方になり、相手もなかなかのやり手でこちらのグループ企業で手薄に部分を攻めてきたことがわかる。やはり一社だけではなかった。明日の朝の新聞は、この調子では大騒ぎになる可能性がある。

 ある大原の傘下の貿易関係の会社はその株式の45パーセントが親会社である株式会社大原が持っている。そして、11パーセントは個人株主。残りの44パーセントがそのヨーロッパに起点を置くある国際的な金融機関だった。そこは資金繰りもいいし、長年からの付き合いであった。そこが大型株主であるというだけで欧州では信頼が取れる。そこがいきなり、この企業の株をルイス・カルダングループに売ると言いだしたのだ。それだけではない。
 同じような状態の傘下の会社が五つも同時に攻められた。
 まだこちらの顔を立てて、株を持っている会社が大原に連絡してくるだけ、マシだと蓮司は思う。

 そちらが正攻法なら、こちらのも同じようにしなければな……。
 蓮司の口角が上がる。
 紳士的な一面を最初は見せないとな……。
 
 真田の頼まれた一つはこれだった。

 「ちょっとヨーロッパの大企業と遊んでみませんか?」
 「……面白そうだな……」
 「では、ヨーロッパの情報源を一時、私に任せる許可を頂きたいです……」
 「つまり、光樹みつきをお前の直下にするのか?」
 「はい、その許可を頂きたいです……」
 「あと、もう一つ……ございます」
 「なんだ? 真田」
 「ブラック・シャドウを許可して頂きたいです」
 「…………そこまで、本気ということか?」

 その答えのように静かに真田が頷いた。

 「……わかった。それを許可する」
 「ありがとうございます……」

 過去を思い出しながら、蓮司は素早く指示を矢崎に出す。

 「マジですか? 会長? それって……でも、そんなこと出来るんですか?」
 「ああ、出来る……」
 「……会長、お手柔らかに……」
 「そうだな、お前にとっては、一大事だな……。真田。心象が悪くなるからな……」

 
****


 アベルはプライベートジェットで成田空港に到着した。
 普段ならそんな無駄遣いはしないのだが、これは彼にとっては一大事なことだった。
 個人用旅客機のゲートが出来てから、東京に来るのが本当に楽になったとアベルは思う。
 専用ターミナルでの入管の女性が親切な対応で、にっこりと笑顔で挨拶し質問をしてきた。
 『ビジネスでご滞在ですか?』
 『いや、完全に私用だ。大事なものを取り返しにきた……』

 ちょっと驚いたその職員が申し訳なさそうに答えた。
 『上手くいきます事をお祈り申し上げます……』
 『ありがとう。貴方もいい日でありますように……』

 その女性に微笑んだ。
 彼女は私の反応に驚いて頬を赤らめた。

 普通の反応だ。
 何故これがアユミに効かないか、よくわからない。
 アユミに認めてもらうために、今まで頑張ってきた。
 かなり早い年齢で父に認められ、今の場所を築いたのだ。

 もう頃合いだ。
 編入させてもいいし、フランスに連れて帰ろうと決心していた。

 着いたのは現地時間の夜10時を過ぎていた。
 本当なら歩美をとっ捕まえて、説教して、フランスにでも無理やり連れて帰ろうかと思った。でも、報告が先に入る。
 自分が飛行機に乗っている間に、新たなる事件が起きたようだった。

 「なに? オオハラがこちらの動きに気づいて逆買収する動きがあるだと?」

 しかも、買収しようとしている会社名を聞いて、血が頭に上る。
 まさか、これが目的であいつは歩美に近づいたのか? とさえ思う。
 蓮司がいま買収を仕掛けている会社名は二つに分類されていた。

 一つは親類が役員などをしている会社だ。あまり企業名も知られていない典型的な子会社だ。
 フランスの元貴族というは結構微妙な立場で、ほとんどが名前だけであったり、城を持っていてもその莫大な維持費を生み出すだけの能力が求められる。アベルの母も同じで、仕事はほとんど出来ないのだが、そこの役員として名を連ねており、業務はほとんど部下によってなされていた。
 だから、ちょっと経営の仕方が甘かった。
 まさかそこが狙われると思わなかった。
 誰が田舎にある農産物を扱う会社など欲しいのだ?

 安定した収入のための措置だった。
 株の持ち主も皆、それぞれが知り合いで売るような輩はいなかったはずだ。
 それなのに、なぜだ? 
 叔母も叔父の会社も同じように狙われていると報告が入る。

 また、新たな買収合併準備が進んでいるウェブ展開で急成長しているアパレル会社にも横槍が入れられていた。そこは経営難に苦しんでいたので、こちらからのアプローチしていた。そこには、こちらが取り入れたい若い世相の客の情報、人気なデザイナーやノウハウがあったからだ。

 それなのに今頃になって、全てその計画を白紙にしたいと言ってきたようだった。

 ありえない。
 探れっと指示を出したら、どうやら、あの日本のオオハラが資金提供を破格の条件で出してきたという。

 なんという図渦しい男なんだと腹を立てた。
 全面戦争という考えなのか?

 またその怒りをまた逆撫でるニュースが入る。
 歩美のに失敗したということだった。もっと先に連絡したかったらしいが、なかなか回線が繋がらなかったようだった。

 どうやら大原邸に帰って来てるようだったが、さすがに不法侵入するわけにはいかなかった。

 歩美を愛人としながらも、こんな仕打ちにするとは、ビジネスはともかく一発殴らなければ、気が済まない。
 こんな戦争状態なら、自分なら何処にいるっとアベルは考えた。

 自分なら自分の城にいるはずだ。
 温かいベットに寝ているはずはない……。

 どうやらオオハラ・レンジを甘く見ていたようだ。
 正直、少し笑いがこみ上げる。
 こんな手応えを感じたのは、若くして総裁の地位を確立するための裏工作には知って以来だ。

 ヘリコプターが苦手なため、車での移動となる。
 外でドアを開けて待っている運転手に行き先を告げる。

 「東京の大原株式会社の本社へ行け……」

 響く低い声でアベルは命令した。
 夜空の下、日本の空気は少し危険な甘い香りがした。


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