私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

たまる

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時の人

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 クリスマスが近づいていた。
 すでに歩美のお腹は大きくなり、幸せのお母さんの顔になっていた。

 真田の難聴も健在で、蓮司の甘い言葉も全て変わりなく、美代はまだ大学の2年生という立場で、学業に勤しんでいた。

 今日は歩美ちゃんを呼んで、鍋パをするんだと、るんるんと帰ろうとする。
 七瀬くんも、あとで来ると言っていた。
 まだ彼女ができないと言っているが、実は彼が何回も他の女の子から告白されているのを見かけたことがある。

 でも、彼は一言いうだけだった。

 「うーん、なかなかお前を超える奴がいないんだよ」
 
 ちょっと大人な男になってきた七瀬の言葉にちょっとドキッとしてしまう。
 そんなキザなセリフを言えるような男だったっけ?と考える。
 知らない間に赤面していたようで、隣の七瀬にボコんっと頭を叩かれる。

 「おい、人妻になったんだ。そんな顔するなよ。お前、分かってないけど、まだお前たちの結婚、秘密だよな。もし公になったら、お前にもハイエナのような輩が来るぞ。そういう奴を対処するためにも、もうちょっと毅然した態度とんねえっと……やべえぞ。死人だすぞ」
 「な、何よ。死人って、私、人殺さないから!!」

 「ばっか、お前が殺すんじゃねーよ」

 七瀬がお前の旦那に決まっているだろっと思うがその言葉は飲み込んだ。
 蓮司がどれだけ美代のことになると鬼になるか知っているからだ。

 「いいから、男の誘惑には毅然としろ! 今までは歩美がいたから、なんとかできたけど、まさかあの歩美が真田さんとこんなことになっているとは夢にも思わなかったけどな……まあ歩美らしい選択だよな。真田さんっていうのが……。ああ、そうだ。もう一回いうよ。とにかく気をつけろよ!」
となぜか七瀬にめっちゃ怒られている。

 「はーーい、わっかりました!!」

 すると、校門を出てすぐに一斉にフラッシュライトがいっぱい自分に浴びさせられた。

 「あのあなたが土屋美代さんですか?」
 「あの超高圧力型水圧装置の実用新案権を無償で提供されたという!!」
 「ご存知ですか? 米国の雑誌が出している今年影響を与えた百人の中に日本人女性として、初めてトップテンに入られましたよ!」
 「まだ現役女子大生というのは、初めてです!コメントをお願いします」

 七瀬も美代も唖然として、このフラッシュライト攻撃を浴び続けていた。
 何だよ、これっ!!という七瀬が、思わず美代を庇おうとして、美代の手を引こうとした。

 だが、それはある男の手によって遮られた。

 「七瀬。いつもナイトのお役目ありがとう。でも、触るのは君の範疇外だ……」

 バリトンの低い声が耳元でした。
 すると、後ろから、すっと手を誰かに引かれた。

 そこにはニヤッと蓮司が立っていた。
 黒のスーツをモデルのように着こなし、立っている様は、それだけで報道陣を黙らせる力があった。

 「おい、これは私の妻だ。取材は大原を通してからにしてくれ」

 蓮司の低い声が響き渡る。
 今度は取材陣の声がざわざわとしだした。

 「おい、この男、誰だ!」
 「まさか!! 大原って!!」
 「あの大原財閥の御曹司だよ!」
 「えええ、あの大原財閥の総裁か?」

 「おい、大スクープだ!!」

 蓮司が七瀬に言う。

 「悪いが鍋パーティーはちょっとキャンセルだな」
 「わ、わかりました。でも、これって」
 
 二人の男の困惑とは別に、美代は、
 「え、鍋パ、キャンセル? え、本当? し、ショック!」
と、喚いていたが、そのまま伊勢崎の待つ車へと連れて行かれた。

 次の日の朝の番組はこのニュースで持ちきりになった。
 美代は1日で時の人となった。

 「今年影響を与えた百人の中でもトップ10に入ったのは、日本の現役女子大生! しかも、大原財閥の総裁の結婚相手!!」

 テレビでは美代が受け継いだあの超高水圧型の装置の特許は、世界的に電力不足を解消する画期的な技術であり、その本来なら計算すれば、何千億円の、いやそれ以上の経済効果を与えるものだった。
 自分の権利を主張すれば、もちろん、美代の手に多額の使用料が入るはずだったのに、それをで手渡した美代の英断がテレビで放送され続けられた。

 しかも、あのアメリカ人のジェフが、インタビューに答えている。
 美代の決断が、多くの命を救うと。
 もしこれが有償なら、技術は大手に取られて、世界に広がるまで、長い時間がかかったことだろうと話している。
 だが、美代が自分に全ての権利を投げ出した英断のため、これから、かなり早いスパンで今まで病院などが設立できなかった地域にも、安定した電力の供給のお陰で、ある程度の設備が整えられるだろうとコメントしていた。

 そのニュースを朝ごはんと身重な妻と一緒に真田は見ていた。

 最近は遅番にしてもらい、十時ごろの出勤にしている。
 歩美をきちんと見てから、出ていきたいのだ。

 出産を予定している一月と二月はすでに光希に代役を頼んでいる。

 このニュースをまだ聞いていなかった歩美は、朝の七時のニュースを見ながら、固まっていた。
 箸に挟んでいたタクワンが落ちそうになった。

 「なにこれ!」
 「……そうですね。すごいことになりそうですね」
 「え、なにその塩対応……もしかして、もう知っていたの?」

 無言の真田が下をむく。
 歩美に一度、昔の女について嘘を言ったら、とんでも無いことになったのを経験したので、真田は基本的に歩美には嘘はつけない。
 嘘の代償が、歩美を失うことになることを考えるだけで、震えてしまうぐらいに怖くなるからだ。
 だから、こうやって言えないことは、彼は下を向いて、だんまりになる。

 「……まさか、これ、仕組んだの?」
 「いや、そういう言い方は……」
 「まさか、これってってこと?」
 「……」

 
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