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サキ、レオさん達にホロっとする
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結局、すぐに約束の日の週末になった。
リュークは相変わらずパンティさんには甘々で、騎士団のみんなも同じくパンティさんにメロメロで……ある意味通常運転でこの週末を迎えた。
ただ違った点は、今週は結局ロアン殿下とシモンは全く小部屋に現れなかった。あの急な用件が長引いているようだった。
リュークとちょこっと話をしたが、あんな慌てている殿下は初めて見たっと言っていた。
だが、詳しいことはリュークでさえもまだ教えてもらえなかったらしい。
あんまり大事にならないといいなっと思う。
これからリュークも殿下の様子を見に行ってくると言っていた。
さあ、そんなリュークと別れて外泊許可をもらった私は、なにも荷物を持たずに、レオさんの家にいこうと宿舎の門をくぐった。
すると、もうエリカちゃんとマテオくんが待っていてくれた。
ちょっと嬉しい。
一度彼らのうちに寄ってから、支度を済ませていくべきだと言うことになった。
レオさんがダイニングで待っていてこのコースで回ってくださいと言ってきた。
「なんで?」
と聞いたら、恐ろしい答えが返ってきた。
「……あんまりサキさんを驚かしたくないけど、市井の一部は危ないところがあるんです。まあジンさんも王立騎士団員だから大丈夫だと思いますが、でも、騎士様って、ほら、俺達と違って世間慣れしていない人もいるから……」
「……うん、なるべくこれに沿うように行こうってジンに言う」
「あ、それと……」
なぜか、レオさんがエリカちゃんとマテオくんを部屋か追い出す。
「大人の話だから、ちょっと出ていろ……」と言っていた。
「あの二つの大事な話をしましょう。よく聞いてください……」
「……うん」
「あの図書館の本、もしかして誰かに見られていたのかもしれません」
「……!」
「教えたページに差し入れましたか?」
実はあの後、何度かやりとりをレオさんとしていた。
デート? なぜか、そういう話しの流れになって、場所とか時間とかをレオさんに教えていたのだ。
だけれど、あの監禁の話はまだ出来ていない。
「…うん、なんで?」
「指定したページと違ったから…」
「え?」
「ページ39にしたよ」
「そうですよね。俺も最初メモがないのかと思ったんです。でも、違うページからぺろっと出てきたので焦りました」
「いや、きちんと言われた通りにしたもん」
「たぶん、誰かが”パンティさん”を跡をつけているかも……しれないです」
「!!!!」
レオさんはどんどんと話を続けていく。
ただ私は呆然として聞いているだけだ。
まさか付けられていたとは思わなかった。
背筋にぞっとするものが走る。
「ジンさんは、すでにあなたが名前が違う人だと知っている……」
「ごめんなさい。でもまだサキって言っていないし…」
「他の誰かに怪しまれていないですか?」
「え?」
パンダにメロメロな騎士団のメンバーがもしかして、ストーカーになった可能性はある。
「もしかして、パンダが好き過ぎて、跡をつけてきちゃったとか?」
「それだったら、まだいいですが…」
「あ、でも殿下にちょっと怪しまれたかも……」
「え? 殿下ってもしかして」
「……ロアン殿下です」
「すごい。パンティさん、ロアン殿下に拝謁したんですか?」
「……」
「それは、聞いていませんでした」
「え、まあ、まだ一回だけだったし……」
まさか昔からよく知っていますとは言えなかった。
だからカウンセリングで起こったことだけを話した。
「…サキさん、殿下に膝枕……したんですか?」
「…え、まあ、不可抗力というか、本当に恐れ多いのだけど…」
「なんだか、殿下に妬いちゃいますよ」
「え?」
「でも、気をつけてください。あまり気に入られ過ぎると、身を拘束されますよ」
「え??」
「俺、気が付いたんです。ロアン殿下って、一度気に入ったものは絶対に離さないような主義ですよ」
ゾクッと首筋に寒いものが走った。
なんだと? ロアン殿下も監禁系の粘着型なのか?
なんで? と聞いてみると、あのロアン殿下のリューク大将に対する執着は凄いと言う。
きっとわざわざ聖女の専属護衛だったリュークを『リーダー不在』の僻地に飛ばしたロアン殿下には、彼の策謀すら感じたっとレオさんは言う。
それに、確かに殿下はエントだってずっと手放さない。
シモンだって何かパンティさんに執着していた。
あのザック大尉も何か自分に惚れているような素ぶりだ。
どうしていいのかわからない。
容疑者が多すぎる。
ああ、すでに自分が何かに取り囲まれているような気がした。
「でも、大丈夫。オレも、エリカも、マテオもサキさんの味方ですから……」
「レオさん……」
「ああ、もう一個の要件は、あのジンさんとの面談です。それでどうだったんですか? あのジンっていう騎士の様子は?」
仕方がなく内容を少し箸折って、レオさんに説明する。
だんだんと冷静だったレオさんの顔色が青くなり、フルフルと震えた。
「つまり、ジンって騎士は、貴方を無理やり抱いた挙句、監禁したいとまで述べたと?」
うんっと言おうとしたら、後ろでガッチャーンと皿が落ちる音がした。
エリカちゃんがお茶を運んできてくれたようだったのだが、話を聞き驚いてお盆を落としてしまったらしい。
「に、兄さん!!」
「え、エリカ、聞いたのか?」
「聞きました。な、なんて下劣な……。卑怯です」
「確かに、騎士といっても一皮むけばただの男だ」
「兄さん、貴方がついて行くべきです!」
「エリカ、俺もそうしたい。でも、あちらが納得しないだろう。しかも俺は騎士団でもないただの下級の衛兵だ。あちらが、王立騎士団の騎士として、下がれと言われたら、オレは下がるしかない」
「それだったら、私が一緒に行きます! 最初はそういう話でしたよね!」
「確かにそうだったが、やはりちょっと危ないと思って……」
そこへ突然の言葉でみんなが固まる。
「僕もいく! サキちゃん、守る! そのキチクバカヤロウから!!」
なぜかマテオくんが、ちゃっかりテーブルの下から顔をのぞかせていた。
流石、犬の弟だ。さっき出て行ったはずなのに、知らないうちにテーブルの下に隠れていたとは……。
あ、でも、まずい。
幼気な少年に悪い言葉を教えてしまった。
「マテオ、お前、出ていったと思ったら、こんなところに隠れていたのか……」
「だってサキちゃんは、もう家族なんだ! この周りのみんなもパンティさんがいなくなって寂しがっているよ!」
「マテオくん……」
「そうよ。サキちゃんはこんな見た目で、すっごいけど、中身は信じられないくらいの庶民派なんだから」
え、「こんな見た目で、すっごいけど」って、やっぱりそういうこと?
でも庶民派と言われて、ホッとする。
****
そして、お昼になり、待ち合わせのレストランの前にはもうすでにジンが花束を持って立っていた。
うーー、くそ。
見た目だけはいいやつだ。
しかも、あいつがちょっとそわそわしているのが分かる。
あんな劣情オンパレードの告白さえ聞いてさえいなければ、このデートらしきこの会合も、もしかして楽しめたのかもしれないと微かに思う。
え、人生初のデートが、この監禁趣味野郎っているのが、ちょっと萎える。
非常に萎える。
エリカちゃんの深い帽子を被り、あまり周りから顔が見えないような格好で向かう。
残念ながら、こちらには女子用のズボンがない。モンペみたいのあるのだが、外出に着ている人はあまりいない。
だから、仕方なく借りたワンピースだ。
本当なら浮浪者のような格好で行きたかったが、それはなぜかみんなに止められた。
かえって怪しすぎるっと言われた。
「どうも……お待たせしました」
ジンの目の前に行って話をする。
あちらがビクッと体を震わせて、「あっ、ゔっ」とか言っている。
どう考えても、自分に会えたことに感動して、ふるふると震えている様子だ。
頬も何気に高揚しているようだ。
そんなに感動をしているのなら、このまま逃して欲しいとさえ思う。
でも、あっちの態度が予想していたのと全く違うから、こっちがまるで肩透かしを食らったような気分だ。
顔をまだ赤くさせているジンが話し出した。
「あの、ありがとう。来てくれて。オレ、ずっと君に逢いたかった。パンティさんまで脅して君を呼び出して、ごめん」
いきなり謝られてちょっとどきっとする。
「あのいきなりでいいかな。名前教えてくれない?」
実は本当に迷った。
偽名を使えばいいと思った。
でも、それはやっぱり自分の気持ちが許さなかった。
私はやっぱり、咲なのだ。
どんな格好をしていようが……。
「……さ、サ…キ」
「え、ごめん、聞こえなかった。さ、き?」
「──サキです」
「ええ? もしかして、前の聖女様と同じ名前?」
「……はい」
「俺、ジンだから。正式名は長くて覚えられないと思うから、いいよ。ジンって呼んでくれて構わない。それにしても、あの聖女様と同じ名前かよ。まじ、すげーな。サキさんか……」
いや全然すごくない。
同じ人物だから。
ジンはあのパンティの小部屋で見せた鬼畜野郎と同一人物と思えないくらいに、素直で表情さえも優しげだ。
もしかしたら、最後の啖呵が効いたのかもしれないと思う。
だけれど、ジンはどうやら、ようやく私の後ろに控えている二人の影に気が付いたようだ。
「え? この人たちは誰?」という質問がジンの顔に浮かんでいた。
ちっていう音が聞こえた。
聞こえましたよ。
え、やっぱり貴方、鬼畜だわ。
完全に二人の邪魔者を見て、舌打ちしたよねっと思う。
エリカちゃんがニコニコしながら、ジンに話しかける。
「あの初めまして。エリカと言います。今日は何かサキちゃんが、騎士様とお出かけで美味しいものを奢ってくださるって聞いて……やって来ました。ありがとうございます」
「え?」っと言っているジンに、今度はマテオくんが、100パーセント疑いのないピュアな目線でジンを射る。
「騎士様。ありがとうございます。僕たち、あんまり外食なんてしたことないから、ものすごい嬉しいっです! いつも具が全然ないスープとパンだけなんです。だから、僕、嬉しくって!!!」
二人とも演技がうまい!
だって、エリカちゃんの作るスープ、具沢山だよっと思うが、この姉弟の芝居を横で見守る。
「あの貴方のこと、よく知らないし、いいですか? この二人連れてって……。嫌だったら、帰ります」
ジンが明らかに焦っていた。
自分と後ろの二人を見比べている。
そう。
レオさんに言われたのだ。
あちらはかなりサキちゃんにベタ惚れみたいだから、少しわがままを言った方がいいと。
だから、エリカとマテオを連れて行かなかったら、そのまま帰ると言えっと。
「わかった。もちろんだよ。サキさん。一緒に食事しましょう」
だが、その微笑に少し悪魔的なものが含まれていたなど、男性経験のない私は全くわからなかった。
リュークは相変わらずパンティさんには甘々で、騎士団のみんなも同じくパンティさんにメロメロで……ある意味通常運転でこの週末を迎えた。
ただ違った点は、今週は結局ロアン殿下とシモンは全く小部屋に現れなかった。あの急な用件が長引いているようだった。
リュークとちょこっと話をしたが、あんな慌てている殿下は初めて見たっと言っていた。
だが、詳しいことはリュークでさえもまだ教えてもらえなかったらしい。
あんまり大事にならないといいなっと思う。
これからリュークも殿下の様子を見に行ってくると言っていた。
さあ、そんなリュークと別れて外泊許可をもらった私は、なにも荷物を持たずに、レオさんの家にいこうと宿舎の門をくぐった。
すると、もうエリカちゃんとマテオくんが待っていてくれた。
ちょっと嬉しい。
一度彼らのうちに寄ってから、支度を済ませていくべきだと言うことになった。
レオさんがダイニングで待っていてこのコースで回ってくださいと言ってきた。
「なんで?」
と聞いたら、恐ろしい答えが返ってきた。
「……あんまりサキさんを驚かしたくないけど、市井の一部は危ないところがあるんです。まあジンさんも王立騎士団員だから大丈夫だと思いますが、でも、騎士様って、ほら、俺達と違って世間慣れしていない人もいるから……」
「……うん、なるべくこれに沿うように行こうってジンに言う」
「あ、それと……」
なぜか、レオさんがエリカちゃんとマテオくんを部屋か追い出す。
「大人の話だから、ちょっと出ていろ……」と言っていた。
「あの二つの大事な話をしましょう。よく聞いてください……」
「……うん」
「あの図書館の本、もしかして誰かに見られていたのかもしれません」
「……!」
「教えたページに差し入れましたか?」
実はあの後、何度かやりとりをレオさんとしていた。
デート? なぜか、そういう話しの流れになって、場所とか時間とかをレオさんに教えていたのだ。
だけれど、あの監禁の話はまだ出来ていない。
「…うん、なんで?」
「指定したページと違ったから…」
「え?」
「ページ39にしたよ」
「そうですよね。俺も最初メモがないのかと思ったんです。でも、違うページからぺろっと出てきたので焦りました」
「いや、きちんと言われた通りにしたもん」
「たぶん、誰かが”パンティさん”を跡をつけているかも……しれないです」
「!!!!」
レオさんはどんどんと話を続けていく。
ただ私は呆然として聞いているだけだ。
まさか付けられていたとは思わなかった。
背筋にぞっとするものが走る。
「ジンさんは、すでにあなたが名前が違う人だと知っている……」
「ごめんなさい。でもまだサキって言っていないし…」
「他の誰かに怪しまれていないですか?」
「え?」
パンダにメロメロな騎士団のメンバーがもしかして、ストーカーになった可能性はある。
「もしかして、パンダが好き過ぎて、跡をつけてきちゃったとか?」
「それだったら、まだいいですが…」
「あ、でも殿下にちょっと怪しまれたかも……」
「え? 殿下ってもしかして」
「……ロアン殿下です」
「すごい。パンティさん、ロアン殿下に拝謁したんですか?」
「……」
「それは、聞いていませんでした」
「え、まあ、まだ一回だけだったし……」
まさか昔からよく知っていますとは言えなかった。
だからカウンセリングで起こったことだけを話した。
「…サキさん、殿下に膝枕……したんですか?」
「…え、まあ、不可抗力というか、本当に恐れ多いのだけど…」
「なんだか、殿下に妬いちゃいますよ」
「え?」
「でも、気をつけてください。あまり気に入られ過ぎると、身を拘束されますよ」
「え??」
「俺、気が付いたんです。ロアン殿下って、一度気に入ったものは絶対に離さないような主義ですよ」
ゾクッと首筋に寒いものが走った。
なんだと? ロアン殿下も監禁系の粘着型なのか?
なんで? と聞いてみると、あのロアン殿下のリューク大将に対する執着は凄いと言う。
きっとわざわざ聖女の専属護衛だったリュークを『リーダー不在』の僻地に飛ばしたロアン殿下には、彼の策謀すら感じたっとレオさんは言う。
それに、確かに殿下はエントだってずっと手放さない。
シモンだって何かパンティさんに執着していた。
あのザック大尉も何か自分に惚れているような素ぶりだ。
どうしていいのかわからない。
容疑者が多すぎる。
ああ、すでに自分が何かに取り囲まれているような気がした。
「でも、大丈夫。オレも、エリカも、マテオもサキさんの味方ですから……」
「レオさん……」
「ああ、もう一個の要件は、あのジンさんとの面談です。それでどうだったんですか? あのジンっていう騎士の様子は?」
仕方がなく内容を少し箸折って、レオさんに説明する。
だんだんと冷静だったレオさんの顔色が青くなり、フルフルと震えた。
「つまり、ジンって騎士は、貴方を無理やり抱いた挙句、監禁したいとまで述べたと?」
うんっと言おうとしたら、後ろでガッチャーンと皿が落ちる音がした。
エリカちゃんがお茶を運んできてくれたようだったのだが、話を聞き驚いてお盆を落としてしまったらしい。
「に、兄さん!!」
「え、エリカ、聞いたのか?」
「聞きました。な、なんて下劣な……。卑怯です」
「確かに、騎士といっても一皮むけばただの男だ」
「兄さん、貴方がついて行くべきです!」
「エリカ、俺もそうしたい。でも、あちらが納得しないだろう。しかも俺は騎士団でもないただの下級の衛兵だ。あちらが、王立騎士団の騎士として、下がれと言われたら、オレは下がるしかない」
「それだったら、私が一緒に行きます! 最初はそういう話でしたよね!」
「確かにそうだったが、やはりちょっと危ないと思って……」
そこへ突然の言葉でみんなが固まる。
「僕もいく! サキちゃん、守る! そのキチクバカヤロウから!!」
なぜかマテオくんが、ちゃっかりテーブルの下から顔をのぞかせていた。
流石、犬の弟だ。さっき出て行ったはずなのに、知らないうちにテーブルの下に隠れていたとは……。
あ、でも、まずい。
幼気な少年に悪い言葉を教えてしまった。
「マテオ、お前、出ていったと思ったら、こんなところに隠れていたのか……」
「だってサキちゃんは、もう家族なんだ! この周りのみんなもパンティさんがいなくなって寂しがっているよ!」
「マテオくん……」
「そうよ。サキちゃんはこんな見た目で、すっごいけど、中身は信じられないくらいの庶民派なんだから」
え、「こんな見た目で、すっごいけど」って、やっぱりそういうこと?
でも庶民派と言われて、ホッとする。
****
そして、お昼になり、待ち合わせのレストランの前にはもうすでにジンが花束を持って立っていた。
うーー、くそ。
見た目だけはいいやつだ。
しかも、あいつがちょっとそわそわしているのが分かる。
あんな劣情オンパレードの告白さえ聞いてさえいなければ、このデートらしきこの会合も、もしかして楽しめたのかもしれないと微かに思う。
え、人生初のデートが、この監禁趣味野郎っているのが、ちょっと萎える。
非常に萎える。
エリカちゃんの深い帽子を被り、あまり周りから顔が見えないような格好で向かう。
残念ながら、こちらには女子用のズボンがない。モンペみたいのあるのだが、外出に着ている人はあまりいない。
だから、仕方なく借りたワンピースだ。
本当なら浮浪者のような格好で行きたかったが、それはなぜかみんなに止められた。
かえって怪しすぎるっと言われた。
「どうも……お待たせしました」
ジンの目の前に行って話をする。
あちらがビクッと体を震わせて、「あっ、ゔっ」とか言っている。
どう考えても、自分に会えたことに感動して、ふるふると震えている様子だ。
頬も何気に高揚しているようだ。
そんなに感動をしているのなら、このまま逃して欲しいとさえ思う。
でも、あっちの態度が予想していたのと全く違うから、こっちがまるで肩透かしを食らったような気分だ。
顔をまだ赤くさせているジンが話し出した。
「あの、ありがとう。来てくれて。オレ、ずっと君に逢いたかった。パンティさんまで脅して君を呼び出して、ごめん」
いきなり謝られてちょっとどきっとする。
「あのいきなりでいいかな。名前教えてくれない?」
実は本当に迷った。
偽名を使えばいいと思った。
でも、それはやっぱり自分の気持ちが許さなかった。
私はやっぱり、咲なのだ。
どんな格好をしていようが……。
「……さ、サ…キ」
「え、ごめん、聞こえなかった。さ、き?」
「──サキです」
「ええ? もしかして、前の聖女様と同じ名前?」
「……はい」
「俺、ジンだから。正式名は長くて覚えられないと思うから、いいよ。ジンって呼んでくれて構わない。それにしても、あの聖女様と同じ名前かよ。まじ、すげーな。サキさんか……」
いや全然すごくない。
同じ人物だから。
ジンはあのパンティの小部屋で見せた鬼畜野郎と同一人物と思えないくらいに、素直で表情さえも優しげだ。
もしかしたら、最後の啖呵が効いたのかもしれないと思う。
だけれど、ジンはどうやら、ようやく私の後ろに控えている二人の影に気が付いたようだ。
「え? この人たちは誰?」という質問がジンの顔に浮かんでいた。
ちっていう音が聞こえた。
聞こえましたよ。
え、やっぱり貴方、鬼畜だわ。
完全に二人の邪魔者を見て、舌打ちしたよねっと思う。
エリカちゃんがニコニコしながら、ジンに話しかける。
「あの初めまして。エリカと言います。今日は何かサキちゃんが、騎士様とお出かけで美味しいものを奢ってくださるって聞いて……やって来ました。ありがとうございます」
「え?」っと言っているジンに、今度はマテオくんが、100パーセント疑いのないピュアな目線でジンを射る。
「騎士様。ありがとうございます。僕たち、あんまり外食なんてしたことないから、ものすごい嬉しいっです! いつも具が全然ないスープとパンだけなんです。だから、僕、嬉しくって!!!」
二人とも演技がうまい!
だって、エリカちゃんの作るスープ、具沢山だよっと思うが、この姉弟の芝居を横で見守る。
「あの貴方のこと、よく知らないし、いいですか? この二人連れてって……。嫌だったら、帰ります」
ジンが明らかに焦っていた。
自分と後ろの二人を見比べている。
そう。
レオさんに言われたのだ。
あちらはかなりサキちゃんにベタ惚れみたいだから、少しわがままを言った方がいいと。
だから、エリカとマテオを連れて行かなかったら、そのまま帰ると言えっと。
「わかった。もちろんだよ。サキさん。一緒に食事しましょう」
だが、その微笑に少し悪魔的なものが含まれていたなど、男性経験のない私は全くわからなかった。
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