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初デート? でもすでに窮地です。
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前エピソードに相当脱字がございました。
いつもながらのことですか、申し訳ないです。
*****
小洒落た人気レストランはかなり混んでいた。
本当は二名だったはずの予約を取り替えたのはもちろん、レオさんだ。
最初の予約はこの目の前の男だったはずだ。それを根回ししてくれたのがレオさんだった。
予約が変わっていたことに驚いたジンが、少し眉を寄せた。
こちらをちろっと見られたが、無視をした。
きっと彼のことだ。
予約の変更ができないと言って、この二人をかえすことでも考えていたのだろう。
ははは、ザマーミロ。
この監禁趣味男め!
ちなみに、ここのレストランの女将はパンティの小部屋の常連さん。
だから、元下宿先のレオさんの頼みは快く引き受けてくれた。
ゆっくりと帽子をとって席につく。
Uの字状のテーブルのコーナー席はふかふかのシートだった。
そして、両サイドにガッチリとマテオくんとエリカちゃんが陣取った。
明らかにちょっと残念そうな顔をしているジンがいる。
先ほど、勢いでいただいてしまった花はエリカちゃんの座っている横に置いた。
これで、花束が壁となって、奴はこちらに近寄れない。
ふふふ。
花たちには罪はないが、これで隣に座れないぞっと、にまっと笑みが出そうになる。
でも、なぜ人目がある席じゃないのかが不思議だったが、なんとなくマニアのレオさんの意図がわかって少しゲソっとなる。
きっと美少女って勘違いしているレオさんのある意味、気遣いでしょうね…っと感じた。
目の前の男をメニューごしに盗み見る。
悔しいがこの鬼畜、カッコいい。
いつもは周りのいかつい騎士団に囲まれているせいで目立たないが、こうやって少しおしゃれしている襟付きのシャツにジャケットを被るとかなりの逞しいイケメンだとよくわかる。
身体つきもやはり騎士団所属だけあって、そこらに歩いている男たちよりはるかに洗練され精悍ささえ滲み出している。
鼻筋はすうっと通っていて、ちょっと鼻のトップが愛嬌のある犬みたいに丸みを帯びている。
でもそれは悪くない感じだ。
明るめの茶色の髪はいつもなら洗いざらしなのに、今日はちょっと後ろに流している。
さっと目線が合ってしまい、焦って下を向いてメニューを見る。
「どれでもいいよ。サキさんの好きなもの選んで…」
ああ、これがあのいつもなんだか騒がしい男なのか?と思うくらい、全ての彼の言葉が何か甘い囁きを持って響いてくる。
くらっとしそうな自分に言い続ける。
ええ、ええ、片山咲、流されやすい人間です!
よくわからないが、リューク助けて!!と思う。
身を引き締めて、呪文のように頭の中で唱えた。
監禁、監禁。
レイプ、レイプ。
「大丈夫? そんな眉間に皺が寄っちゃうくらいに、悩んじゃうの?」
どうやら、真剣に悩みすぎて、眉間に力が入っていたようだ。
だが、問題は私の皺ではない。
何か蕩けちゃっている目の前の鬼畜さんだ。
本当なの?
これがあの落ち着きのない、あのジンなの??
それくらいに先ほどから、彼の視線が甘いし、熱いし、何か怖いのだ。
「じゃー、これとこれと、これと、あとこれも!!」
そこに無邪気な声でマテオくんがメニューを見て言う。
よかった。
この二人を連れてきて大正解だった。
「うーん、じゃあ私はセットにしようかな?」
エリカちゃんも元気に答える。
二人の大量の注文にジンが不機嫌になるかなと思って見上げると、なぜか最高の微笑みがかえってきた。
「あ、嬉しい。やっとサキさん、俺と目を合わせてくれた。嫌われていると思った。さっきも目線を外されちゃったし……」
「き、嫌いです!」
やっと言えた。
だが、ジンは一向に構わないようだ。
「そうだよね。友達を脅して、このデートをしてもらっているんだからね。わかっている。負からのスタートだって」
「……」
「──いいんだ。だって、ああでもしなきゃ、君には永遠に会えなかった……はずだし」
その髪の毛を搔きわける仕草がなぜか少し色っぽい。
しかも、こちらを向いている目線が何かかなりキテいる!
「そうじゃなかったら、まさか騎士団の宿舎に忍び込んでくる女を……みすみす見逃さないよ」
「!!!」
体が固まっている自分にジンは容赦無く話し続ける。
わかっている。
本来ならパンティさんごと、騎士団から尋問を受けるべき立場になっていたはずだ。
「ごめん。脅かすつもりはないけど、そうでもしなきゃ、君はどっかに行ってしまいそうだったし」
「……」
図星すぎて何も言えない。
「でもこうやって可愛らしい友達を連れてきてくれたんだ。感謝しなくちゃ…」
ちろっとジンがまだメニューで騒いでいるエリカとマテオくんを見て微笑んだ。
嫌な予感がする。
マテオくんが「お手洗いに行きたい」と言ったので、エリカちゃんも一緒に行くと言った。
少し心配そうな目を自分に向けるエリカちゃんに「大丈夫だから」という視線を送る。
ジンが「オレッてそんな信用ないかな?」というので、自分を含む三人が軽蔑の視線を送ったのは、当然の行為だったと思う。
「あの友達にも危害加えたら、本当に嫌うどころか、軽蔑しますから!」
この男にははっきり言わないとわからない方な気がした。
エリカちゃんが、お手洗いに言っている間に忠告した。
「……まさか、俺もそこまで悪じゃないよ。でも、サキさん、身元を隠したい割には、隙があり過ぎるんだけど……」
「俺、一応、騎士団だよ? しかも、俺、ちょっと上の方なんだ。多分、パンティさんもよくわかっていないみたいだけどね。ほら、俺ってちょっと騎士団ではおちゃらけたキャラなんだよね」
「?」
「あ、意味がわかっていないみたいだね」
「どういうこと?」
「騎士団の上層部には、特権があるんだ。城下に住む人たちの住民記録帳にアクセスできるんだ」
「──え? 住民記録帳って、ま、まさか……」
「もちろん、警備とかもあるし、あと、もしここで戦争が始まった時に、どれだけの住民を避難させるかとか、有事の際の目安になるんだ──」
住民記録帳とは、こちらの世界の所謂、住民票みたいなものなのだろうか。
家族構成とか、どこに住んでいるとか、年齢や性別など書いてあるらしい。
「つまり、さっきのエリカさんとマテオくんがどこの誰かって調べようと思えば、わかるってこと……」
「!!!!!」
「大丈夫。しないよ。まあもしかしたら、覗いちゃうことはあるかもしれないけど」
同じじゃねーか!!っとJKならぬ言葉遣いが出そうになった。
でも、ああ、このこともあったのかも、とも思った。
レオさんとの話の途中で、エリカちゃんとマテオくんに猛烈にせがまれて、もう騎士団の騎士でも堂々と付いてくると言っていたレオさんだったのだが、ジンっていう騎士の見た目について話していたら、彼が一瞬に青ざめたのだ。
「え、ジンって騎士、まさか雷火のジンじゃないでしょうね……」
「なにそれ、ネーミングが中二病っぽいんだけど」
「なんですか、チュウニなんとかって。 いや、でも、ますます俺、行かない方がいいです。後からついて行きますよ。邪魔したら、殺されかねないかも……」
「な、なにその雷火のジンって何よ? あのおちゃらけチャラ男がそんな大層な名前を持っていたの?」
「いや、俺もあんまり知らないんですけど、刀の腕はすごいらしいです。それこそ雷火のごとくに素早く驚異的で……しかも、彼は上官クラスです」
彼は上官らしく顔を見て名前を覚えるのが得意かもしれないから、自分の顔を見て、レオさんが門番と気がついたら、すぐにもっと探りを入れてくるはずだから、自分がサキさんの隣についていくのはまずいと言ったのだ。
その後、どうやって食事をしたのかよく覚えていない。
ただ、飲み込んだと言ってもよかった。
最後のデザートと一緒の紅茶は、正直飲めなかった。
今までは飲めていたのに、何かよくない思い出、つまり殺されちゃった思い出と一緒に、目の前の男にどう接していいか迷ったからだ。
レストランを出た。
マテオくんははしゃぎながら、ジンに騎士団の様子を聞いている。
なんだかんだ、やはり騎士団は子供の憧れでもあるのだ。
エリカちゃんが、耳元で囁く。
手元に紙を渡された。
「これ、サキちゃん、確認してね。私たちは頭に入っているから、大丈夫だから」
ああ、これか。
この範囲からズレるなというレオさんからの忠告だ。
どうやら赤丸で囲まれているところは、危ないらしい。
そんなにゴロツキがいるだろうかっと思って、その紙をちらっと見た後、ジンにここは行かない方がいいんじゃないっと言おうとしたが、先にマテオくんが走り出して、それを追いかけるの先になり、タイミングを逃し、その紙をポケットにしまい込む。
「あ、あれ食べようか?」
もうお腹がいっぱいなのに屋台のアイスクリーム屋をジンが指で差し示す。
示された方を見たら、完全に本来のミッションを忘れたマテオくんがアイスクリームの店に釘付けなのだ。
周りには客なのか、ただの見物なのか見分けがつかない子供たちがウロウロとしている。
「ちょっと、マテオったら!!」とエリカちゃんが怒って、彼についていく。
「なかなか騎士団では出ないんです、アイスって。どう? サキさん」
「え? お腹いっぱいです」
「あ、マテオくんは? エリカさんはどう?」
ジンの言葉に二人の目は輝いていた。
どうやら、屋台なのだが、アイスクリームは珍しい食べ物で、最近この王都に来たらしいということだった。
しかも、子供のお小遣いで買うのには、お値段がちょっとお高いらしい。
「……す、少しだけなら、いいかな」とちょっと恥じらいながらも、嬉しそうなエリカちゃん。
「僕もちょっとだけなら、食べたい」
マテオくんは目を煌かせた。
二人が目の前のアイスクリームのショーケースに目が釘付けになっていると、ポンっと金貨一枚をお店の主人にジンが渡す。
「あ、あの旦那、これだと額が大き過ぎて、お釣りがありませんよ」
とアイスクリーム屋の親父が言う。
「釣りは取っておいてくれ。だが、この辺にいる子供たちで食べたい子たちに食べさせてくれないか?」
驚いた主人が、周りに声をかける。
「おーい、この兄さんのおごりだ。お前たちも食べるか?」
すると、周りにただジトーッとアイスクリーム屋を見ていた子供達が、わーーと言って集まってきた。
エリカちゃんとマテオくんが焦りながらも列に加わる。
おお、鬼畜にしては、いい行為じゃないかと自分もジンの気前のよさに感心していた。
「本当にサキちゃんも食べないの?」
マテオくんが聞いてくるが、首を振る。
ああ、二人とも、どのアイスにするか釘付けだった。
どんどんと人の噂が広まり、無料アイスクリームと言う店主の言葉に大きな人だかりが出来てしまった。
もうマテオくんもエリカちゃんも人だかりに混じって見えない。
すると、体がふわっとしたと思ったら、ジンに抱きかかえられていた。
「え?」
「ごめんね。サキさん、俺、我慢できないわ」
ええええ?
「なに???」
人間焦ると叫び声も出ないということを初めて実感いたしました。
今度は抱かれていた体勢から、ジンに担ぎ込まれた!
お姫様だっこではない。
まるで荷物扱いだ。
「二人きりになりたい……」
「え、だめ!!」
だめ、この男!
さすが雷火のジンと言われるだけあって、走るのもめっちゃ早かった。
いや、ばか咲!
そんなことに感心している場合か!!
監禁コースだぞ!!!
ジンの肩に担がれた私は、わーーっと声を出すことも忘れるほどに、ジンの走りの凄さに度肝を抜かされた。
いつもながらのことですか、申し訳ないです。
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小洒落た人気レストランはかなり混んでいた。
本当は二名だったはずの予約を取り替えたのはもちろん、レオさんだ。
最初の予約はこの目の前の男だったはずだ。それを根回ししてくれたのがレオさんだった。
予約が変わっていたことに驚いたジンが、少し眉を寄せた。
こちらをちろっと見られたが、無視をした。
きっと彼のことだ。
予約の変更ができないと言って、この二人をかえすことでも考えていたのだろう。
ははは、ザマーミロ。
この監禁趣味男め!
ちなみに、ここのレストランの女将はパンティの小部屋の常連さん。
だから、元下宿先のレオさんの頼みは快く引き受けてくれた。
ゆっくりと帽子をとって席につく。
Uの字状のテーブルのコーナー席はふかふかのシートだった。
そして、両サイドにガッチリとマテオくんとエリカちゃんが陣取った。
明らかにちょっと残念そうな顔をしているジンがいる。
先ほど、勢いでいただいてしまった花はエリカちゃんの座っている横に置いた。
これで、花束が壁となって、奴はこちらに近寄れない。
ふふふ。
花たちには罪はないが、これで隣に座れないぞっと、にまっと笑みが出そうになる。
でも、なぜ人目がある席じゃないのかが不思議だったが、なんとなくマニアのレオさんの意図がわかって少しゲソっとなる。
きっと美少女って勘違いしているレオさんのある意味、気遣いでしょうね…っと感じた。
目の前の男をメニューごしに盗み見る。
悔しいがこの鬼畜、カッコいい。
いつもは周りのいかつい騎士団に囲まれているせいで目立たないが、こうやって少しおしゃれしている襟付きのシャツにジャケットを被るとかなりの逞しいイケメンだとよくわかる。
身体つきもやはり騎士団所属だけあって、そこらに歩いている男たちよりはるかに洗練され精悍ささえ滲み出している。
鼻筋はすうっと通っていて、ちょっと鼻のトップが愛嬌のある犬みたいに丸みを帯びている。
でもそれは悪くない感じだ。
明るめの茶色の髪はいつもなら洗いざらしなのに、今日はちょっと後ろに流している。
さっと目線が合ってしまい、焦って下を向いてメニューを見る。
「どれでもいいよ。サキさんの好きなもの選んで…」
ああ、これがあのいつもなんだか騒がしい男なのか?と思うくらい、全ての彼の言葉が何か甘い囁きを持って響いてくる。
くらっとしそうな自分に言い続ける。
ええ、ええ、片山咲、流されやすい人間です!
よくわからないが、リューク助けて!!と思う。
身を引き締めて、呪文のように頭の中で唱えた。
監禁、監禁。
レイプ、レイプ。
「大丈夫? そんな眉間に皺が寄っちゃうくらいに、悩んじゃうの?」
どうやら、真剣に悩みすぎて、眉間に力が入っていたようだ。
だが、問題は私の皺ではない。
何か蕩けちゃっている目の前の鬼畜さんだ。
本当なの?
これがあの落ち着きのない、あのジンなの??
それくらいに先ほどから、彼の視線が甘いし、熱いし、何か怖いのだ。
「じゃー、これとこれと、これと、あとこれも!!」
そこに無邪気な声でマテオくんがメニューを見て言う。
よかった。
この二人を連れてきて大正解だった。
「うーん、じゃあ私はセットにしようかな?」
エリカちゃんも元気に答える。
二人の大量の注文にジンが不機嫌になるかなと思って見上げると、なぜか最高の微笑みがかえってきた。
「あ、嬉しい。やっとサキさん、俺と目を合わせてくれた。嫌われていると思った。さっきも目線を外されちゃったし……」
「き、嫌いです!」
やっと言えた。
だが、ジンは一向に構わないようだ。
「そうだよね。友達を脅して、このデートをしてもらっているんだからね。わかっている。負からのスタートだって」
「……」
「──いいんだ。だって、ああでもしなきゃ、君には永遠に会えなかった……はずだし」
その髪の毛を搔きわける仕草がなぜか少し色っぽい。
しかも、こちらを向いている目線が何かかなりキテいる!
「そうじゃなかったら、まさか騎士団の宿舎に忍び込んでくる女を……みすみす見逃さないよ」
「!!!」
体が固まっている自分にジンは容赦無く話し続ける。
わかっている。
本来ならパンティさんごと、騎士団から尋問を受けるべき立場になっていたはずだ。
「ごめん。脅かすつもりはないけど、そうでもしなきゃ、君はどっかに行ってしまいそうだったし」
「……」
図星すぎて何も言えない。
「でもこうやって可愛らしい友達を連れてきてくれたんだ。感謝しなくちゃ…」
ちろっとジンがまだメニューで騒いでいるエリカとマテオくんを見て微笑んだ。
嫌な予感がする。
マテオくんが「お手洗いに行きたい」と言ったので、エリカちゃんも一緒に行くと言った。
少し心配そうな目を自分に向けるエリカちゃんに「大丈夫だから」という視線を送る。
ジンが「オレッてそんな信用ないかな?」というので、自分を含む三人が軽蔑の視線を送ったのは、当然の行為だったと思う。
「あの友達にも危害加えたら、本当に嫌うどころか、軽蔑しますから!」
この男にははっきり言わないとわからない方な気がした。
エリカちゃんが、お手洗いに言っている間に忠告した。
「……まさか、俺もそこまで悪じゃないよ。でも、サキさん、身元を隠したい割には、隙があり過ぎるんだけど……」
「俺、一応、騎士団だよ? しかも、俺、ちょっと上の方なんだ。多分、パンティさんもよくわかっていないみたいだけどね。ほら、俺ってちょっと騎士団ではおちゃらけたキャラなんだよね」
「?」
「あ、意味がわかっていないみたいだね」
「どういうこと?」
「騎士団の上層部には、特権があるんだ。城下に住む人たちの住民記録帳にアクセスできるんだ」
「──え? 住民記録帳って、ま、まさか……」
「もちろん、警備とかもあるし、あと、もしここで戦争が始まった時に、どれだけの住民を避難させるかとか、有事の際の目安になるんだ──」
住民記録帳とは、こちらの世界の所謂、住民票みたいなものなのだろうか。
家族構成とか、どこに住んでいるとか、年齢や性別など書いてあるらしい。
「つまり、さっきのエリカさんとマテオくんがどこの誰かって調べようと思えば、わかるってこと……」
「!!!!!」
「大丈夫。しないよ。まあもしかしたら、覗いちゃうことはあるかもしれないけど」
同じじゃねーか!!っとJKならぬ言葉遣いが出そうになった。
でも、ああ、このこともあったのかも、とも思った。
レオさんとの話の途中で、エリカちゃんとマテオくんに猛烈にせがまれて、もう騎士団の騎士でも堂々と付いてくると言っていたレオさんだったのだが、ジンっていう騎士の見た目について話していたら、彼が一瞬に青ざめたのだ。
「え、ジンって騎士、まさか雷火のジンじゃないでしょうね……」
「なにそれ、ネーミングが中二病っぽいんだけど」
「なんですか、チュウニなんとかって。 いや、でも、ますます俺、行かない方がいいです。後からついて行きますよ。邪魔したら、殺されかねないかも……」
「な、なにその雷火のジンって何よ? あのおちゃらけチャラ男がそんな大層な名前を持っていたの?」
「いや、俺もあんまり知らないんですけど、刀の腕はすごいらしいです。それこそ雷火のごとくに素早く驚異的で……しかも、彼は上官クラスです」
彼は上官らしく顔を見て名前を覚えるのが得意かもしれないから、自分の顔を見て、レオさんが門番と気がついたら、すぐにもっと探りを入れてくるはずだから、自分がサキさんの隣についていくのはまずいと言ったのだ。
その後、どうやって食事をしたのかよく覚えていない。
ただ、飲み込んだと言ってもよかった。
最後のデザートと一緒の紅茶は、正直飲めなかった。
今までは飲めていたのに、何かよくない思い出、つまり殺されちゃった思い出と一緒に、目の前の男にどう接していいか迷ったからだ。
レストランを出た。
マテオくんははしゃぎながら、ジンに騎士団の様子を聞いている。
なんだかんだ、やはり騎士団は子供の憧れでもあるのだ。
エリカちゃんが、耳元で囁く。
手元に紙を渡された。
「これ、サキちゃん、確認してね。私たちは頭に入っているから、大丈夫だから」
ああ、これか。
この範囲からズレるなというレオさんからの忠告だ。
どうやら赤丸で囲まれているところは、危ないらしい。
そんなにゴロツキがいるだろうかっと思って、その紙をちらっと見た後、ジンにここは行かない方がいいんじゃないっと言おうとしたが、先にマテオくんが走り出して、それを追いかけるの先になり、タイミングを逃し、その紙をポケットにしまい込む。
「あ、あれ食べようか?」
もうお腹がいっぱいなのに屋台のアイスクリーム屋をジンが指で差し示す。
示された方を見たら、完全に本来のミッションを忘れたマテオくんがアイスクリームの店に釘付けなのだ。
周りには客なのか、ただの見物なのか見分けがつかない子供たちがウロウロとしている。
「ちょっと、マテオったら!!」とエリカちゃんが怒って、彼についていく。
「なかなか騎士団では出ないんです、アイスって。どう? サキさん」
「え? お腹いっぱいです」
「あ、マテオくんは? エリカさんはどう?」
ジンの言葉に二人の目は輝いていた。
どうやら、屋台なのだが、アイスクリームは珍しい食べ物で、最近この王都に来たらしいということだった。
しかも、子供のお小遣いで買うのには、お値段がちょっとお高いらしい。
「……す、少しだけなら、いいかな」とちょっと恥じらいながらも、嬉しそうなエリカちゃん。
「僕もちょっとだけなら、食べたい」
マテオくんは目を煌かせた。
二人が目の前のアイスクリームのショーケースに目が釘付けになっていると、ポンっと金貨一枚をお店の主人にジンが渡す。
「あ、あの旦那、これだと額が大き過ぎて、お釣りがありませんよ」
とアイスクリーム屋の親父が言う。
「釣りは取っておいてくれ。だが、この辺にいる子供たちで食べたい子たちに食べさせてくれないか?」
驚いた主人が、周りに声をかける。
「おーい、この兄さんのおごりだ。お前たちも食べるか?」
すると、周りにただジトーッとアイスクリーム屋を見ていた子供達が、わーーと言って集まってきた。
エリカちゃんとマテオくんが焦りながらも列に加わる。
おお、鬼畜にしては、いい行為じゃないかと自分もジンの気前のよさに感心していた。
「本当にサキちゃんも食べないの?」
マテオくんが聞いてくるが、首を振る。
ああ、二人とも、どのアイスにするか釘付けだった。
どんどんと人の噂が広まり、無料アイスクリームと言う店主の言葉に大きな人だかりが出来てしまった。
もうマテオくんもエリカちゃんも人だかりに混じって見えない。
すると、体がふわっとしたと思ったら、ジンに抱きかかえられていた。
「え?」
「ごめんね。サキさん、俺、我慢できないわ」
ええええ?
「なに???」
人間焦ると叫び声も出ないということを初めて実感いたしました。
今度は抱かれていた体勢から、ジンに担ぎ込まれた!
お姫様だっこではない。
まるで荷物扱いだ。
「二人きりになりたい……」
「え、だめ!!」
だめ、この男!
さすが雷火のジンと言われるだけあって、走るのもめっちゃ早かった。
いや、ばか咲!
そんなことに感心している場合か!!
監禁コースだぞ!!!
ジンの肩に担がれた私は、わーーっと声を出すことも忘れるほどに、ジンの走りの凄さに度肝を抜かされた。
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