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真実の一歩手前で

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 トントンと見覚えのある慣れ親しんだドアを叩いた。

「どなた?」

 中から聞き慣れた声が聞こえた。

「私!」

 自分が答えるよりも早くバンッと勢いよくドアが開いて、エントが自分の身を腰から引いていなければ、多分ドアがただでさえ低い目立たない鼻を直撃していただろう。

「──っサキちゃん!!!!」

 エリカちゃんが自分を抱きしめた。
 
「無事だった!! よかった!」
「え、エリカちゃーん!!」

 彼女の「早く入って!!!」と言う言葉にそくされて中に入る。
 ガタッと音がして、今度は席を立ち上がったレオさんとマテオくんに囲まれた。

 うえーーん。
 みんな、もう私の家族だった。

「サキさん!! 大丈夫でしたか!! え、この人は?」

 レオさんが明らかに狼狽しながら、エントにどう対応していいのか迷っている。

「あ! この人は…あの時の……もしかして王宮に全部バレたんですか?」

 エリカちゃんも、マテオくんも、そしてレオさんもジロジロとこの枯葉色のマントに身を包む怪しげな男を凝視している。

「違うの!! 全然違うの! この人はエント。元殿下の従者なんだけど、今は実は私についてくれてるの」

「「「!!!!」」」

「で、殿下の直属の従者がサキちゃんの手下になったの?」

 エリカちゃんが聞いてきた。

「いや手下っていうほどでは……」
「──下僕です。私はサキ様の下僕になりました」

「げ、下僕!!!」
「ねえ、下僕って何? 兄ちゃん」
「う、うーん、何だろう。マテオにはまだ早いな、知るのは…まあ要するに使いっぱだな」
「ああいじめっ子がよくお使いに人を使うやつ? でもサキちゃんはいじめっ子じゃないよ」
「まあそうだな。でもエントさんが付いてくれてここまで来たってことは?」
 
 何をどう説明すればいいのかわからなかった。
 でも、自分が元聖女ということはやはり伏せたまま、自分が何か女神と勘違いされて王家に捕まりそうになったところをリューク大将が逃がしてくれたとまで説明した。

「リューク大将が……サキさんを?」

「うん」
「それはきっと何か深刻なことが王家に起こっているのかもしれません」

 レオさんが深刻な表情をする。

「どういうこと? 兄さん」
「よく神頼みは最後の望みっていうだろう? 何かが起こっていて、きっと王宮では対応できないんだ。だから最後の神頼みってことだよ。そんな不確かなこと、普通は皆しないだろう? 特に国家を司るものが……」

「──多分、それは溜まりのことだと思います」

エントが先ほどまでずっと黙っていたのだが、話し出した。

「サキ様はご存知ないかもしれませんが、前聖女様が召喚された時、この世界はある毒素に覆われつつありました。それを解消するために、あの聖女様が召喚されたんです」

「え? 何それ」

 自分の声が漏れていた。

「俺も初めて聞いた、そんな話。病気って聞かされていたから…」

 レオさんもちょっとびっくりしている。

「全ての聖女はその世界の浄化の膜なんです。学者によっては器という人もいます。だから、今までの聖女はその器の許容量ギリギリまで使われるんです」

「そうか、だから全ての歴代の聖女はみんな短命なんだ!」

 レオさんが合点したように手を打った。

「ちょっと待ってよ。何それ、私、初めて聞くんだけど!!」

 自分の唾でさえ飲み込めないぐらいに動転していた。
 でも、これが何か全ての元凶なのかもしれないと思ってきた。
 レオさんがまさかこの私がその元聖女だとは知らずに話し出した。

「俺、昔の文献をちょっと読んだ時、ちょっとおかしいと思ったんですよ。なぜ福音の象徴である聖女様が何でいつも短命なのかなって……」
「あの短命ってどのくらいなの?」
「うーん、短くて3年ぐらいです。長い方で5、6年という人もいたようです。でも前回の聖女様はもっとも短命で約一年未満でしたね」

「俺もよく知りませんが、前回の聖女様の場合、何かその寿命をわざと短くしたような細工をしたと聞いています」

 エントが爆弾発言をした。

「「「「!!!!!」」」」

「エント、それ聖女暗殺ってことでしょ? そんな国家の秘密、私たちに言っていいわけ!?」
「サキ様、今はあなたが私の永遠の主人です。嘘は言いません」

 話の深刻さを考えてか、レオさんが妹と弟に話しかけた。

「お前たち、ちょっとあっちへ行ってろ……それと今聞いた話し、誰にも言うんじゃないぞ」

 レオさんが以前にもなく厳しい顔でエリカちゃんとマテオくんを他の部屋にやる。

 そのあと、ちょっと暗くなって静まり返った部屋で、三人が黙り込んだ。
 その沈黙を破るようにエントが話す。

「それでも、サキ様、あれをされるんですか?」
「ちょっと待って……今、すごい考えているの」

 どういうことだろうか?
 
 自分が器として召喚されたのはよくわかった。
 だから、よく竜と対峙した時もものすごく疲れたことを覚えている。
 もしかしたら、お笑いの要素もあるけど、体ごと何かを吸収していたのかもしれない。

 うん、そうかもしれない。

 それで、何で小細工されて寿命を短くされたのだろうか?

 もしかして、今女神と呼ばれて勘違いされていることと深く関係しているのではないだろうか?
「レオさん、その聖女の器とかの話って、知っていた?」
「いや、そんなの俺は初耳です。聖女の生まれ変わりの話は唄で聞いたことがありますけど、子供騙しみたいな唄だし、ただ聖女様は竜の襲来を抑えてくれて、国を豊かにするものだと聞いているだけです」

 そうなんだ。
 だったら、あの変な溜まりとか、器とかは王家にしか知らないものなのかもしれない。

「ねえ、エント。殿下は何で、女神をいたの? 何かを期待していなければ、そんなこと思いつかないよね」

「ああ、この前の殿下の説明を覚えていますか?」
「うん、少しだけど」

「昔からの唄もありますけど、召喚した聖女様が、この世界に何か深いを持っていれば、その慈悲が形となって現れて、女神としてまた降臨してくれるかもしれないという伝説があるんです」
「!」
「でもそれがどういう形で、どういった聖女様の繋がりで来るのか色々、説が混乱していて、それぞれの神官やその宗派によっても考え方が全く違っていて、皆どれが本当の伝説の姿なのかわからないのです」
「それで、殿下もエントの感を頼ったってこと?」
「多分、そうだと思います」

「何それ」

「サキさん、本当にあなたは女神でないのですか?」

 レオさんが真剣な顔をして聞いてくる。

「レオさん、あなたが一番知っているでしょ? 私、何も出来ないって……。あのパンダの格好で、エセ占いしか出来ないって…」
「エセ占いって……。貴方の占いはみんなのためになっています」
「でも、女神の規定にはあっていないんだよね。占いだけじゃー」

「サキ様、別に証明する必要はないんです。この国を去る事も出来ますし、あんな自分勝手な人たちのことは忘れても大丈夫ですよ」

 エントがそうアドバイスをした。

 そうかもしれない。

 勝手に聖女として召喚されて、器として、まるで人体実験のように扱われた。
 好きな人にも裏切られ、信頼している人たちからも騙されて、ちょっと心に穴が空きそうだった。

 でも、何かが違うっていっている。

 恨みとかそういうのではない。
 何か心にフックのようなものが引っかかっている。

 そのとき、エントの言葉を思い出した。

「さっきエント、なんて言ったっけ?」
「自分勝手な人はほって置くですか?」
「違う!!」
「もっと最初の方!!」
「溜まりですか?」
「そう、それ!!!」
「それはなんなの?」
「サキ様も一回踏み入れそうになりましたよね。あの渦の中は時空や全てを超えた混沌が存在する空間です」

「レオさんも知っていたの?」
「ああ、俺らはあれは穴ぼこって呼んでいる。本来なら、この国に現れなかったのだけど、昨年から不明者が出て、何人かそれを目撃したものが現れて、あの区域は今封鎖になっているんだ」

 その説明を聞きながら、何が自分の中に引っかかってるのか考えた。
 沈黙をしてる間にエントがボソッと話し出す。

「神頼みをする王家など、本当に意味があるのでしょうか」

 それが自分の心の中にスパークをつけた。
 カチッと火花がちるような感じだった。

 そうだ。
 さっきからそれが気になっていたのだ。

 私は……。

「エント、貴方今まで神様にお願い!!って思ったことある?」
「──何ですか? いきなり」
「ある? ない?」
「正直に申し上げます。人間どもが信奉している不確かな存在の神にはありません。そんなこと、バカバカしくて出来ません。サキ様にお願いするのなら別ですが……我々には我々の信じるものがあります」

「そうだよね。半精霊のエントはないかも!」
「レオさんは? ある?」
「──俺ですか。そりゃーありますよ。俺たちの両親が事故で亡くなった時に、神様!!って思いました。あと、マテオがもっと小さかった時にちょっと大病になって、もうやばいっと思った時に、お願いしましたよ」

 そう、そうなんだ。

 もう自分の力とか、どうにもならないとき、私でさえも、思ってしまうんだ。

 あのどう考えてもそんなものに頼りたくなさそうな性格の殿下が、そこまで神頼みっというのは、よほど深刻で、きっとリュークなんかも、自分の命にかえてでもその問題と取り組みそうだった。

 何かがぞっとした。

「わかった。私の方針が決まりました」
「どうするんですか? サキさん」

 まず、最初にエリカちゃんへのワンピースをレオさんに返した。

「私、やっぱりエントに前、お話していた通り、騎士団にパンティさんとして戻ります」
「え?」

 レオさんが唖然としている。
 わかるよ。
 そういう反応が返ってくると思っていた。

「ダメですよ! サキさん、今それどころじゃ」

「ううん、それが一番いいと思うの」
 
 自分の言ったことに自分で納得して腕を組んで頷いた。

「でも、サキさん、貴方がこのサキさんとバレたら、また捕まって、リューク大将の言う通り、監禁になりますよ!」


「うーん、そうなんだけどね。二つ心に引っかかるのよ!」
「何ですか、それ」

 レオさんが不思議そうな顔をする。

「私ね、前向きじゃないとやっていけないの。後ろ向きの人生っていやなんだ」
「?」

「だから、あの野郎どもは絶対もっと何かを隠している。それも、きっともうドロドロのぐちゃぐちゃの深刻なこと。それが何か探る!」
「え、でもサキさん、女神じゃないのに、探って助けられないじゃないですか!!」

「ま、そうだね、でもね。ちょっとの経験があるからさ、それが何かの役に立つじゃないかな~!って思うし、それに……」
「それに何ですか?」
 レオさんが質問する。
 でも、その間、エントの目が見開かれていた。

「サキ様、貴方は……もしかして…」

 エントの驚いた顔に対して、返事の代わりにニコッとする。
 エントも何か心に決めたようだった。

「なんかね、その溜まりがこの国を襲っちゃったら、マテオくんだって、エリカちゃんだって、危なくなる。その情報を得るにはあそこに戻るしかないと思うの、私」

「でも……」

 レオさんは不安そうな表情をしている。
 わかっている。本来の目的はそうじゃなかった。
 
 アマイくんを見つけて、さっさと帰ろうと思っていたのだ。

 でもでも、自分の関わりを持った人々を置いて、ここをどう立ち去れというのだ?

 しかも神頼みしか残されていない道なんて…。
 少し微笑みながら、また話した。
 これは率直な気持ちだった。

「あとね、パンティさん、今の騎士団に必要なんじゃないかなっと思うの」
「!!!」
「みんなちょっと病んでるんだよね。騎士団のメンバー……」

 ちょっと柄にもなく、ウィンクをした。

 レオさんが赤面しながら、

「それ、ずるいです!!!! サキさーん!!!」

とか言いながら、悶絶している。
 
 その後、レオさんは頭を抱えながら、「そんなサキさんの笑みなんか直視したら、俺は…俺は…反対できない!!」とか騒いでる。

 うーーん、こういうマニア系の男がターゲットで女神の力の証明なら、一発で合格していたのになっと思った。

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