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事実は小説より奇なり?

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 なんとも形容のしがたい、あの腰がくだけるようなリュークのキスで失神してしまった私は、気がついたら元聖女の部屋のベットに寝かされていた。

 目が覚めたのが約三十分前。
 日もかなり暮れているようだった。

 なぜなら、起きたすぐ横を見たら、久我山くん、もとい鬼の委員長がその横に正座していた。
 縄は胴体に縛られたままだ。

 しかも、リュークが椅子に座りながら、じっと彼を睨みつづけていた。

「さ、サキ、起きたか? す、すまない。具合はどうだ? そのの格好を脱がそうと思ったが、脱がせなかったんだ」

 リュークが申し訳なさそうに話す。

 その言葉を聞いて、よく自分の体を見たら、自分は首から下がパンダのままだった。

 だが、自分は脱げない意味をその時はよくわかっていなかった。

 隣に正座をして、居心地が悪そうにしている久我山が気になって、なぜ自分がパンダの着ぐるみが脱げないのかよく考えられなかった。

 あの委員長が、顔を引き攣らせながら、豪華な絨毯がひかれている所に直に座らせられいる。

 そして、一番気になったのは、そんな彼を…この国の総大将が、睨まれたらどう考えても、冷や汗が出てくるような眼光で凝視しているのだ。

「ごめん…本当に……」

 久我山はリュークの眼光のせいなのか、ひたすら自分に謝っている。

 自分の意識が戻ったことを理解した久我山が、ボソボソとこの世界について、彼が知っている限りの知識を話し始めた。

 どうやら、この世界、何か彼の創造小説となんらかの関係があるものだとわかってきた。
 このこけしちゃんと言われている自分が、この異世界で絶世の美女だと思われているのも、どうやら、この久我山の話の世界観をそっくりと受け継いでしまったせいらしかった。

 エント、アマイくん、シモンとか、殿下とか、リュークは設定内のキャラらしいが、レオさんたちは設定外らしい。

 しかも、アマイくんのパパ! アマイモンは、久我山くんが読んだ伝説の本の悪魔のキャラらしい。

「俺、、まじ…お前の見た目がさぁ、なんて言うのか、地味なんだけど、味があるっていうか……みんなお前の良さがわかってなさそうだったから、ちょっとなんか悔しくてさぁ」

「な、なにそれ、悔しいって。委員長っと全然関係ないでしょ?」

「──だから、お前みたいな古典的な顔がモテる世界があったら、面白いだろうなっと思ったんだ…」

「なっ!」

 何かマイナーなキャラを全国区に広めたいというような言い方だ。
 だが、全ての説明がある程度つく。

 この世界が自分を美少女扱いと、ありえない設定は、この委員長の好みからきていたとは…全く想定外だが、理屈に合うのだ。

「い、委員長が、余計なことするから!! こんなところで私は!!」

「余計なことって、まあそうかもしれなけど、お前はちょっと自分も過小評価しすぎて、時々、イライラするっていうか」

「な、何それ!!」

「いつもお前、って否定的なわりには全てに前向きだろ? 今回もみんなが嫌がる実行委員の手伝いを引き受けて、俺なんかの言うことを聞いてくれて…」
「だって、委員長、有無を言わせないでしょ?」
「……バカだな。お前。無視するっ手もあるだろう?」

 唖然としてしまう自分がいた。

「お前が、あんまり普通でない境遇で育ったのも知っている。でも、それを感じさせないくらい、お前といるとなんだか幸せな気分になるんだ。信じられないくらい、前向き過ぎるだろう? 俺、何度か感動しちゃったんだよ。この学園祭だってさぁ、最初は開催が危ぶまれるくらい、みんなやる気なかったじゃん。めんどーとか、受験が忙しいとかさぁ。でも、お前がやろうっとみんなを説得してくれてさぁ…。俺の言葉なんて、きっとみんなは聞いてくれなかったと思う。お前の損得を考えないお気楽な性格だったから、学園の生徒たち、みんなが聞いてくれたんだよ。俺は奇跡だと思ったよ。……だから、なんだか、お前が聖女とか女神として扱われてもいいんじゃないかと思ったんだ…」

「な、何それ!!お気楽キャラって…褒められている気がしないよ」

「褒めてんだよ、まじで。ただ、この世界は、俺の妄想っていうか、創作だったんだ」

「じゃあ、やっぱりもう一度聞くけど、リュークも久我山の設定キャラなの?」

「多分、でも、実はちょっと違う気がする」

 黙ったままリュークと目線が合う。
 彼も驚きながらも、自分たちの話を聞いていた。

「はっきり聞いていいか? 片山……」

「お前、まだ処女バージンか?」

「え?」

 バシッと殴りたかったけど、ベットの上で殴れない。
 その代わり、リュークの氷のような表情と、その青光りをする切れそうな刀が、久我山の肩の隣にあった。

「りゅ、リュークさん?」

 久我山の目が踊っていた。

「サキに、失礼なことを言うな」

 リュークの剣の切れない方の刃を押しやり、久我山が言葉を繋げる。
 
  久我山も結構度胸がある男みたいだ。
 それとも、リュークの性格を熟知している自信からきているのだろうか?

 それでも、不要な諍いが嫌だと思った私が、リュークにお願いして、抜刀していた剣を元の鞘に入れ戻してもらう。
 本人はとっても不服そうだった。

 久我山が続ける。

「い、いや、本当に大事なことなんだ。俺の話では、聖女のつながりを保つために、その、俺の…妄想、いや、なんだ…その話を盛り上げる為にだな、お前のを…」

 久我山が言葉を終える前に、リュークが久我山を睨んだ。

「──してない!」

 リュークが叫んだ。

「な、何? え、リュークが…何をしてないの?」

「──俺はそんな不埒なことはしていない…」

 リュークが顔を赤らめて、下を向いていた。
 
「……そうだよな。あのキスぐらいで腰を抜かしているお前を見て……それはありえないと思った」

 男二人が勝手に話を続けていく。
 
 その会話の中心が、女としての、かなりなプライベートなだ。
 どう突っ込んでいいのかがわからない。
 しかもひっきりなしに、久我山とリュークの会話が、自分がリュークとしたとか、しないとかの話になっている。

 ただ、わかっていることだけを自分は叫んだ。
 悔しいのだ。
 ここで自分の抜きに、なぜ自分のそんな恥ずかしいことを話さなきゃいかんのかと!
 ただここで、深く考えるよりも、口で大きく叫んでいた。

「そ、そうよ!! リューク何もしてない! や、やってないわよ!」

 
 久我山の目が見開いた。
 しかし、なぜかこの時、もっとリュークの動向が開き、こちらをキッと見据えてきた
 

 こ、怖い、目つきが!!


「待て、サキ、俺やっていないと言ったが……他の奴とはしたのか?」

 久我山とリュークの視線が痛い。
 いや、リュークのなぜか殺気だった目線の方がもっと怖い。

「な! ど、どうして、こうみんな、恥ずかしいことを言わせるの!」

 寝台の上のベットカバーで顔を隠した。

「サキ…答えてくれ!」

 馴染みのある低音の艶のある声が自分を責める。

「も、もう!! 誰ともやってない!!! 」

 自分が降参を言わんばかりの言葉を吐く。


「「……」」

 
 リュークの大きなため息が聞こえた。

 その後、何も言葉が聞こえない。
 恥ずかしさと気まずさが胸を過ぎる。

 誰かが寝台の横に座ったのがわかった。
 マットが沈んだからだ。

 でも、リュークだとすぐわかる。
 その大きな手が真横にあったからだ。

「すまん。ちょっと血がのぼった。悪かった。お前が悪いことは何もない」

 目の前に、彼のプラチナの髪の毛が光って見えた。

 リュークの顔が優しく微笑んでいた。

「サキ、お前の貞操の話をしていたんだ」

「わかるよ。してないよ。だれとも…」

「……」

「でも、お前の貞操のことより、よく考えたら、俺はもっとひどいことをしたな」

「え?」

「俺は、お前を殺したんだ…」

 涙目のリュークがこちらを見ていた。
 自分もなぜかその事実をすっかり忘れていた。
 確かに、なんどもリュークにそんなニュアンスで謝られたのだ。

 理由は聞かされていなかった。

 訳を知らないのに、彼を恨まない理由。

 それは、ただ、彼を信じていたと言ってもよかった。
 自分が死んでいても、死んでいなくても同じことだった。

「本当にすまなかった」

 リュークが頭を垂らして、肩を震わせながら、また謝り始めた。

 もう何度、この人に謝られたのだろうか?と思ってしまう。

 今まで、どうしても出てこなかった言葉はするりと喉から漏れた。


「どうして、私を殺したの?」


 ただ、自分はその答えを明確に期待してはいなかった。
 相手はあのリュークなのだ。


「…すまない。サキ」


 彼はただそれしか言わない。
 下を向いたままだ。

 自分もなんて言っていいかわからない。
 この自分がよく知っている、いつも無口で不器用なひとは、もっと理由を聞いても、これ以上、きっと何も言わない。


「リューク……お願い」


 そう懇願しても、リュークは何も話さない。
 まるでそれを予想していたかのように、久我山が話に割って入ってきた。

「それについては…俺が説明するよ」

 久我山がリュークに哀れんだ視線を送っているようだった。
 ただ送られた本人の目には全く届いていないみたいだ。

 項垂れているリュークに言って、途中から久我山を椅子に座らせた。縄もようやく外させた。

 久我山が大きく伸びをしながら、詳しく説明し始める。

 知っていることもあったけど、衝撃的だった。
 
 この世界での異変、空気に溜まる悪の気を吸収する聖女という役割。
 今までの聖女はその体に取り込んだものの種類と年月に比例して、とてつもない苦痛を払いながらこの世を去っていったこと。
 そして、殿下やシモン神官、リュークたちの葛藤と決断。
 久我山はリュークの秘密にしていたことまで説明した。シモンから聞いてはいたが、彼が世話になった乳母が聖女であり、その女性の壮絶な死を知っているからこそ、聖女の扱いに苦しんだことを説明する。しかも、リュークは殿下の説明があるまで、その聖女のフィルターとしての役割を全く知らなかったことまでわかった。

 時々、久我山の説明をずっと聞いていたリュークが「なぜ、お前はそんなことまで知っているんだ!」と時々声を張上げるが、私と久我山がその言葉を制する。

 久我山はちょっとにこりと笑って「やっぱりリュークは今まで、俺が説明したこと、全部は理解していないようだ」と呟いた。

「でも、片山、本当に君は、彼らに愛されたんだ。だから、やっぱり殺されたんだよ」
「え?」

 リュークを見たら、彼の眉間にシワがよっている。
 言いたいことがあるけど、言えない感じだ。

 久我山が続ける。

「この世界は俺の話と似ているが、全てが一緒じゃない。それが君の本当の力なんだなと、今更だけど、感心しているよ」

「どういうこと?」
「事実は小説より奇なりっていうけど、本当にそんな気がするよ」

 久我山はただニコッと笑って、それ以上は説明しない。
 
「これ以上、君に苦痛を味わって欲しくなかった彼らの決断だったんだよ。でも、まあちょっと女神に期待しちゃった人たちもいるけどね」

 久我山がちろっとリュークを見るが、彼はまだ放心状態のようだった。

 でも、久我山の説明を聞いて自分的には嬉しくなった。

 殺されて嬉しいって本当に変な話だ。

「俺、嘘言っているかい? リューク…総大将?」

 久我山が何も言葉を言えないリュークに話しかけた。

「……う、嘘はない。全て真実だ。信じられない。クガヤマ、君は本当はこの国の…」

「違うよ。俺はじゃない。話はもう方向にいっているんだ」

 久我山がちょっと残念そうに微笑んだ。


 また目線があったリュークが「すまん」と言ってきたので、もうまた頭にきて、こう返事を返した。

「ありがとう。リューク。


 リュークがガバッと立ち上がり、寝台にいる自分を抱きしめてきた。
 
「サキ、サキ、サキ!!」と耳元で囁かれながら、体が動けない。

 何か強烈なフェロモンを振り撒くリュークを体全体から感じた。
 強く抱きしめられて過ぎて、うまく声が出ない。
 もしかして、またキス攻撃が始まっちゃうの!!と危惧していると、こほんっとわざとらしい咳をして、久我山が言う。

「まあ、そのハグでもわかるけど、きっとその奇の部分を作ったのは、そのプラチナ頭の男だと思うよ…彼は君をきっと…」
「く、クガヤマ!!」

 リュークが唸った。

「な、なに? 、自分で言いたいのかな?」

 久我山の言葉にリュークが野獣が威嚇するかのようにまだ唸っている。
 

 ちょっとよくわからないが、なぜかリュークと久我山の立場が逆転しているかのようだ。

 自分が言葉に戸惑っていると、久我山が「あ、あのさ、そんなことよりも、俺たち、もっと考えなくちゃいけないこと、なくねえか?」と言い出した。

「え? 何?」

「溜まりだよ。溜まり! それ、きっと今の片山なら直せるよ。俺もするしさ」

 リュークと私、久我山が顔を見合わせた。





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