人はそれを愛と呼び、彼は迷惑だと叫ぶ。

槇瀬陽翔

文字の大きさ
168 / 184

人はそれを愛と呼び、彼は迷惑だと叫ぶ。

しおりを挟む
ここは一体どこだろうか?


なんて、俺はぼんやりとした頭で考える。その理由は数分前の出来事が思い出せないでいたから。


「じゃぁ、先に行くからな」
俺はそう幸永に声をかけてから職員室を後にしたんだ。幸永が珍しく担任に捕まったので、俺は先に戻ることに決めた。

1人で廊下を歩いていて、数人の生徒に声をかけられ返事をしながら生徒会室へと向かって歩いていた。歩いていたはずなんだ…。

だが、気が付いたらここは生徒会室ではなく見知らぬ場所。それに後ろで腕も縛られてるし、ズキズキと頭が痛む。


誰かに拉致られたか?


なんて思った。じゃなきゃこんな状況は起きないはずだから。


捕まったからと言って騒ぐ気もない。騒げば余計に状況は悪化するだろうし、もしかしたらあいつが動いてるかもしれないからだ。


あいつ、菊池侑司が風紀のやつらを使って動いているかもしれないからだ。


あいつはいつも俺の知らない所で俺のことを見てる。そして、頃合いを見計らって助けに来るのだ。一体どんな手を使ってるのかわからないけど、ピンチになると必ずあいつが現れる。


だけど…


今回は無理かもしれないと思う。


ここが本当にわからないからだ。こんな場所あったのか?って思うような場所。そもそもここが学園の中とは言い切れないからだ。誰かに拉致られて閉じ込められたそれだけしかわからなかった。



どれだけ時間がたったのだろうか?



「まったく、毎度毎度どんな手を使ってこんな場所見つけてきやがんだ」
なんて、少しだけ疲れた顔と声で現れた男に驚いた。
「いやぁ、でもぉ~それを簡単に見つけちゃう委員ちょ~は何者~?」
「あっ、それは俺も思う」
男の後ろから出てきたのは男の右腕と左腕的存在。


「俺にも企業秘密があるからお前らでも教えねぇよ。さて、お姫様、大丈夫ですか?」
俺の傍に跪きそんなこと口にする男の顔には疲労が見え隠れしている。
「ごめん」
もごもごと口の中で謝れば
「手の縄を切るから動くなよ」
そんなことを言われた。いつになくキツク縛られた縄は簡単に解けないと解釈して切ることにしたのか、それとも解くより切った方が早いと判断したのか、わからないが俺は素直に頷いた。両手、両足に縛られていた縄は切り落とされ俺は軽々とお姫様抱っこをされることとなった。流石にこれには驚いた。
「ちょ、菊池ぃ、歩けるって」
抗議の声を上げるが
「梅ちゃ~ん。大人しくしとこうねぇ~」
「会長の身の安全のためですから」
鍋谷と二村に言われて思い出した。涼しい顔してこの男、実はかなり怒ってるんだということに…。じゃなきゃ、わざわざお姫様なんて言わないはずだ。
「熱の上がった身体で歩けるわけがねぇだろ」
菊池のその言葉に
「へっ?」
変な声出しちまった。鍋谷と二村も驚いた顔してる。
「色んな意味でお前は拒絶して身体が悲鳴上げて熱が出てんだよ。だから、この後お前また数日寝込むぞ」
溜め息交じりに言われた言葉に俺自身も溜め息をついた。

「どっかケガとかしてねぇか?」
歩きだしながら聞かれた言葉に
「わかんねぇ。気が付いたらここにいたし…」
素直に答えた。本当にわからなかったからだ。
「頭はケガしてるみてぇだから取り敢えず保健室に行くぞ」
菊池はそういい終えると無言のまま部屋を出た。

出て俺は驚いた。


だって部屋の前に風紀の奴らに捕まってる大量の人。


「き、菊池…これ…」
そこまでいいかけて俺は唇を噛み締めた。菊池から溢れる殺気は外で捕まってる奴らに向けてのモノ。
「人を殺めない程度に怒りを抑えるのもうたいへ~ん。委員ちょ~ったら超本気で殺っちゃいそうだったもん」
「忠告を無視するコイツらが悪いのはわかるんですけどね。さすがに前科もちにはさせれませんからね」
鍋谷と二村が溜め息まじりに言う。俺は菊池の胸に顔を埋めて服を掴んだ。

「なんでだよ!梅村!」
「俺は、俺たちはお前が好きなんだ!」
「なのになんでだ!」

後ろから悲痛な叫びが聞こえる。

「るさい、うるさい!俺のかまうな!干渉するな!いい迷惑だ!俺には必要ない!」
俺は俺に言い寄って来るやつら全員に向けて拒絶の言葉を叫ぶ。


本当にいい迷惑だ。俺にかまうな!干渉するな!俺は菊池がいればいい。


「その状態で叫ぶなバカ」
溜め息交じりに言われてムッとしながら菊池を睨めば
「熱が上がるってことだバカ。お前1週間も休む気か?」
呆れながら言われた言葉についうっかり頷いた。いや、それでもいいかもって思っちまったんだい!
「ありゃりゃ。これは梅ちゃんが完全に壊れちゃったねぇ~」
「記憶が戻ってから色々ありすぎましたからね。そうなってもしかたないですね」
鍋谷と二村がそれはしょうがないとブツブツ言っていた。
「おいバカども。今後、梅村陽葵に二度と近づくな、触れるな、声をかけるな。そんなことをすればお前らの命はねぇってこと覚えとけよ」
菊池はさらっと恐ろしいことを言ってのけて他の風紀委員の奴らに指示をしてその場を後にした。


その場所を離れていく菊池の腕の中で俺は意識を失ったのだった。



Fin

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...