ファンキー・ロンリー・ベイビーズ

清泪─せいな

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第42話 飛んで火に入るダブステップ 7

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 待てと言われて待つヤツなどいない。
 よく言われる追われる側の返し言葉を勝は頭に浮かべていた。
 後ろから追いかけてくる三人組が怒声のように待てと吠える。
 この状況は昨夜から何度目かの状況だった。
 走って逃げてどうにか撒けたらどこかに隠れる。
 いい加減うんざりするような繰り返しだった。
 そして、その繰り返しを今回はすんなりとは行えそうになかった。

「森川、お前この辺ですぐ駆け込める頼れそうなところあるか?」

「へ?」

「無けりゃ最悪もう交番でもいい。事情の説明はうやむやにして暫く匿ってもらえ」

「え、何言ってんの、勝?」

 勝が突然足を止め、追いかけてくる三人に向かい振り返った。

「ちょっと、アイツら追いついてくるって、逃げなきゃ!」

「そうしたいのは山々なんだけど、そろそろ体力の限界みたいなんだよなぁ」

 脇腹を抑えて立つ勝の後ろ姿に、八重はその言葉の意味を察した。
 昨日昼間に出会ってからボロボロの怪しい男である勝のその日の道程は聞いていた。
 クスリの売人をしているチンピラ二人を倒したあと、取引場所と思われるキャバクラに乗り込んで見張りを倒し、中では勝の二回りほど大きな男と戦った。
 そのあとは不意打ち気味に謎の男にボコボコにされて、八重と会ってからは複数回チンピラ撃退劇をこなした。
 そんな勝の身体は見た目もさることながら、見えざる部分も含めズタボロなのだろう。
 ゲームや漫画みたいに時間が経てば驚異的な自然回復で大丈夫、というわけにはいかない。
 勝は超常的な能力のあるスーパーヒーローというわけじゃない。

「そ、それじゃあ病院行かなきゃ」

「そんな場合じゃないだろ。ったく、いいから、森川、思いつくとこに駆け込め、いいな?」

「し、勝はどうするの?」

「どうするの、ってそりゃ足止めに決まってるだろ」

 勝はそう言って歯を食い縛り、追いかけてくる三人に向かって走り出した。
 八重もそれを合図に勝とは逆に向かって走り出した。

 勝は助走をつけて高く飛び上がる。
 追いかけてくる三人のうち真ん中の若者の顔面を勝の飛び蹴りが吹っ飛ばす。
 痛みに軋む身体が勝の着地を不格好なものにする。
 足を滑らし、体勢を崩す勝の頭上背後を青い背広を着たチンピラのハイキックが空振る。
 チッ、と舌打ちが聞こえ今度は下から黄色い背広を着たチンピラの膝蹴りが勝の顔面を狙って突き上がってくる。
 蹴り飛ばしたチンピラは赤い背広。
 信号機三人衆。

 黄色の膝蹴りを勝は両手で押さえ、力を込めて押し返す。
 バランスを崩し前のめりになる黄色の胸に勝は頭突きを食らわす。
 そのまま背後に立つ青色から距離を取ろうと黄色を押し倒すため手を伸ばすが、それより先に背後から青色に勝は腕を捕まれ羽交締めにされる。
 青色は抵抗する勝を必死に取り押さえるが、そこに仲間のフォローは来なかった。
 胸を強打され涙目で嗚咽を我慢する黄色。
 顔面を蹴飛ばされアスファルトに倒れる赤色。
 倒れた姿がアスファルトに書かれる止まれという文字のれの部分に重なっていた。

 くそっ、と悪態をつく青色。
 勝は身体を前のめりに曲げると反動を生かした頭突きを青色の顔面にぶつけた。
 簡単にほどける羽交締め。
 勝は直ぐ様振り返り、青色の腹に押し込む形の前蹴り。
 車通りの少ない車道から歩道へと押し飛ばされる青色。
 ガードレールに引っ掛かり背中から後ろに倒れた。
 歩道に後頭部をぶつけ、ごん、と鈍い音を鳴らす。
 痛そうだ、と勝は目を細めた。

 青色の痛そうな音にようやくやる気を取り戻した黄色が、胸ポケットからナイフを取り出す。
 本人の持ち物か、元々の服の持ち主の持ち物か。
 黄色の構えからして、そこそこにナイフの使い方には馴れているようだ。
 人を傷つける為のナイフの使い方。
 踏み込み迫る黄色。
 左から右、水平に薙ぐ鋭利な銀閃。
 勝は身体を反らしてそれを避けると、ナイフを持つ手を下から叩くために掌底を振り上げる。
 黄色は器用にナイフの持ち手を逆手に持ち変えると、今度は右から左へと薙ぐ。
 勝は掌底の一撃を取り止め、再び身を反らして銀閃を避けた。
 ナイフを持つ腕を絡めるように、今度は掌底を真っ直ぐに顔面へ向かい打ち込む。
 顔面を捉えようとする寸前、踏み込んだ足を払われて絡めた腕を逆手にとられ振り投げられる。
 やる、と黄色を誉めつつ勝は横転して受け身を取った。
 屈んだ姿勢になった勝に間髪入れず黄色の膝蹴りが襲う。
 両手を構え防御に出るも、膝蹴りの勢いは殺せず手の甲が鼻を押し潰す。

 もういい加減粉々に折れたかもな。
 昨夜からの蓄積された痛みがここぞとばかりに甦り、激しい痛さに顔面の感覚が鼻に集中する。
 奥から血が噴き出そうとするのがスロー気味にわかる。
 膝蹴りに打ち抜かれ、背中側に反れていく勝の身体。 
 身体が浮かび上がるような感覚は、直ぐ様背中を押される衝撃によって欠き消された。

 倒れていた赤色がいつの間にか起き上がっていて、身体を低く構え駆け出して低空タックルを勝の背中にぶつけていたのだ。
 反れた背骨がグギッと音がして、押し飛ばされた勝はアスファルトに俯せに倒された。
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