ファンキー・ロンリー・ベイビーズ

清泪─せいな

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第43話 飛んで火に入るダブステップ 8

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 俯せに倒れる勝に黄色がナイフを振りかぶる。
 おい、と静止しようとする赤色の声。
 しかし構わず黄色は勝の背中目掛けナイフを振り下ろ──

 振り下ろそうとしたナイフを持った手が後ろから掴まれて、そのまま背中側に捻られる。
 痛ぇ、と黄色が声を上げるが捻る手に力が込められて、そのまま黄色の肩の関節が外れた。
 激痛に吠える黄色を背後から喉仏を潰すように首を掴んで黙らせて、そして僅かに持ち上げると投げた・・・

 目の前の黄色が一瞬のうちに持ち上げられ、投げられる。
 その光景に赤色が驚愕してると、その投げた主は間髪入れずに赤色の顔面を蹴飛ばした。

 白髪混じりのオールバックに、グレーのスーツ。
 紺のシャツに赤色のネクタイ。
 左頬には目の辺りまである大きな切傷の痕があり、左目は白く濁っていた。

 しっかりと磨かれた光沢ある茶色の革靴で赤色のチンピラを蹴り倒すと、二度三度と踏みつけた。

「オイ、佐山。ダセェことになってるじゃねぇか」

遊川ゆかわ、さん・・・・・・」

「情けねぇ、こんなヤツら相手に気絶しそうになってんじゃねぇか。オイ、しっかりしろ、クソガキ!」

 遊川と呼ばれた男はそう言って、俯せに倒れる勝の身体を足で持ち上げひっくり返す。

「どいつもこいつも情けねぇ」

「どいつも、こいつも、って?」

「佐山、テメェと、うちの若いモンってこったよ。そこらのチンピラに襲撃されて遊び半分に身ぐるみ剥がされたなんて、本家に知られちゃ赤っ恥だ」

 遊川はそう愚痴を溢すと、ゆっくりと先程投げ飛ばした黄色へと歩み寄る。
 勝は痛む身体を無理矢理起こして、その遊川を静止しようと手を伸ばした。

「遊川さん、やり過ぎんなよ、アンタ」

「ハ、やり過ぎんなよ? 誰に指図してんだ、佐山」

 遊川は振り返りもせずそう答えると、アスファルトに頭を擦りつけ肩の痛みにもんどりうつ黄色の頭を踏みつけた。

返し・・示し・・がこの世界じゃ必要なことだって、テメェも知ってることだろ? 佐山、あぁ!?」

 頭を踏みつけられもがく、黄色。
 動かない右腕、遊川の足を掴もうとする左手。
 遊川は足を上げてその手を避けると、三度と続けて黄色の頭を踏みつけた。

「アンタはやり過ぎなんだよ、遊川さん。殺しかねねぇ」

「ヤクザ襲って、腕一本鼻一個で済むなんて舐められたら終いだからな。一人二人山に埋められようが、海に沈められようが、そういうもんだってわからせねぇとならねぇ」

 黄色の動きが止まって、トドメとばかりに遊川は顔面を蹴飛ばした。
 黄色の身体が駒のようにアスファルトの上を回転して滑っていく。
 遊川の怪力に、人間業じゃねぇ、と勝は呟いた。

「とはいえ、若いモンの返しに俺がいちいちでしゃばるってのも格好がつかねぇと組長オヤジに言われてよぉ。あとは他のモンに任せるとするか。なぁ、そこの赤いの!」

 赤いの、と言われ勝は身構えたが、声をかけられたのは何とか立ちあがり一人逃げようとしてる赤色のチンピラ。
 仲間を置いて逃げようとした背徳感か、遊川に呼ばれた圧による恐怖か、赤色のチンピラは立ち止まって振り返ってしまう。
 それが間違いだった。

 一、二。
 二歩の助走から大きく跳躍した遊川は、身体を水平に錐揉み回転させあっという間に距離を詰め、赤色の顔面を蹴飛ばした。

「ホントに人間業じゃねぇよ、アンタ」

 何処の道場で何の武術を学んだらそんな芸当が出来るのか。
 遊川と初めて会った時から、勝にとってそれは最大の疑問であり、我流だよとはぐらかされ答えてはもらえなかった。

 遊川ゆかわ陽治ようじ
 千代田組若頭。
 千代田組の最大武力にして、本家である東條とうじょう会に一目置かれる男。
 勝が初めて遊川と出会った時も、こうして超人的な暴力で敵対したものを倒していた。
 東條会傘下の同列組織とのシマ争いも、銃や刃物を使わずに身一つで制したとも聞く。

「俺もこうしてたまには身体動かせねぇとよ、なまっちまうって組長オヤジには言ったんだが歳を考えろだなんて言われちまってな」

 蹴飛ばした赤色の様子を確認すると、遊川は携帯電話を取り出して事務所へとかけた。

「ああ、朝礼で報告のあった三人、のしといたから後で拾っといてくれ。場所は──」

 ヤクザが朝礼で報告なんて何処かの企業かよ、と勝は思ったが看板隠して色々とフロント企業として商売をしてそうなのでその流れなのかもしれない。
 組織として連絡をまとめた方が運営がしやすいのだろう。
 組織的な上下の関係性も含めると会議だ打ち合わせだとその頻度はサラリーマンと変わらないのかもしれない。

「俺のことは報告しないのか、遊川さん?」

 電話を切った遊川に勝は問いかける。
 電話の報告内容はチンピラ三人のことだけ。
 森川八重、組長の娘を連れ去っている男として挙げられた勝のことは報告しなかった。

「わかってていちいち聞くなよ、佐山。テメェのことは組長オヤジが泳がせてんだ。誘拐犯だなんて捕まえる気はねぇよ」

「じゃあ、なんで俺を誘拐犯として組員に探させてんだよ?」

「誘拐の話は偶然お前らを見た組員から出た話でな。俺は大体の状況からテメェのことだと、ピンと来たからな、少し利用させてもらった」

 はぁ?、と眉をひそめる勝に、遊川はちょっと待てと手で制する。
 真っ昼間の街中、ヤクザとチンピラの喧嘩沙汰。
 いつ警察に通報されて駆けつけられるかわからない。
 この場を離れるぞと遊川は手で指示する。

 近頃もっぱら無能と評される警察が駆けつけるのが先か、数日無能をさらけ出し続ける組のものが駆けつけるのが先か。
 ちょっとした賭けだな、と遊川は不敵な笑みを浮かべた。
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