神滅の翼カイルダイン

冴吹稔

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tutrial:来たりて、また還らず

裁きの光槍

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 敵の渉猟械ストラトヴァンダーを前に、俺は額に走る激痛にうめいていた。
 操縦籠の天井中央から細く鋭い光が照射され、俺の皮膚に何かを焼き付け始めたのだ。

「かっ、カイルダイン! これは何だ!?」

(あ、少しだけ我慢してください。私とあなたの共鳴関係を確定させるための最終同期処置です)

「な、なるほど!? だが目の前には敵が……それに完全械態マキシマとやらはちょっとの間しか使えないんじゃないのか」

(あんな粗悪品のまがい物、本当は別に完全械態でなくても倒せます。こっちは必要な儀式です。優先度が上です。痛いのは最初だけ、これでずっと一緒です)

 カイルダインの思念は末尾のほうでなにやら暗い喜びをたたえ、微妙に邪悪な響きを帯びたものとして知覚された。

「なんだか、男としてはあまり言われたくないセリフが混ざってるような!」

(はいはい、済みましたよー。佩用者は痛がりですね。ではあれをブッ飛ばしてください)

 そういわれても、いささか戸惑うが――

 前方の渉猟械は、先程までなかなかの太刀さばきで執拗な打ち込みを続けてきたが、いまやこちらは空中にある。剣はとどかない。

星幽光翼アストラルウィングは展開持続中。まずはアレの動きを止めましょうか)

「そうだな、だがどうやって?」

(足を破壊します)

 
 その声とともに、俺の右手の中に棒状の光が出現した。某映画シリーズでおなじみのライトセーバーのような感じだ。熱も何も感じず手にダメージも来ないところを見ると、これはこの籠の中に投影された、実体のないイメージであるらしい。

(……『欺陽槍ソアル・ランサー』といいます。完全械態マキシマでなくても使える投擲武器ですが、一本ごとにわずかずつ、この械体の『霊力』を消費します。よく狙って投げてください)


「投槍か……? この手の運動は得意じゃないんだが、まあやってみるか」

 映像の中の遊猟械に視線を向け、その膝のあたりを凝視すると、画面がズームしてその部分がアップになった。えらく便利だ。

「よし……食らえ! 欺陽槍ソアル・ランサーッ!!」

 狭い場所だが軽く助走をつける感じで、槍を投げつけるモーション。画面の中では渉猟械の膝に物質化した光の槍とでもいった物が刺さり、械体を地面に縫いとめた。

(佩用者、お見事です! さあ今こそとどめを! 完膚なきまでに! バラバラに! 粉みじんに! ギタギタに!)

 カイルダインの思念に、文字にできない荒い息遣いが混じった。やや引き気味になりつつも、俺は自分でできない動作をカイルダインに命じる。

「じゃあ直接殴りにいくか――急降下だ!」

(佩用者! 素敵です! 最高!)

「うおらああああーーーッ!!」

 先に接地した右足を後ろに、左足で思いっきり踏み込んで右ストレート。空中からダイブした運動エネルギーまで乗せた、完全なタイミングでのインパクトが渉猟械の首の付け根に撃ち込まれた。そのまま腰と肩、肘を回して突き抜ける。
 装甲と内部機構が紙のように引き裂かれ、カイルダインのマッシブな右拳が敵の背中側へ突き出し、引き抜かれた。


 渉猟械ストラトヴァンダーがゆっくりと仰向けに倒れていく。

(佩用者、もう一声! 今度は縦割り、縦割りでお願いします!)

「ッしゃあああ!」

 俺の腕の動きにシンクロして、カイルダインの手刀が一閃。それは崩れ落ちつつあった敵の械体を縦真っ二つに両断した。
 
 ……一つ分かったことがある。カイルダインを動かすには常に一定以上のテンションで自分が行おうとする動作を完全に自覚し、強固なモチベーションを持っていなければならない。

 言い換えれば、ノリノリでなければならないのだ。 

 そしてカイルダインは操縦者をノセるのが妙に巧い。冷静に聞くと何やらかなり危ない言動なのだが、こうも高揚感を露わに、嬉しそうに反応されるとついついその気になる。俺のほうで自制しないとまずそうだ。

 遊猟械から高熱を発する物体が地上に転がり、械体から吹き出した蒸気で映像がさえぎられる。爆発したりはしないようだが、その様子は断末魔を思わせた。

(今度は――)

「ストップ! こいつはもう機能を停止しているんじゃないのか? 制限時間5タルンなら、もっと有効に使うべきだ」

(それもそうですね。では、あの有象無象をひとまとめに殲滅――する前にお連れ様を拾い上げますか)

「……まともな判断もできるんじゃないか」

(佩用者、さりげなく地味にひどいです)

「その妙にゴアな方向へ傾斜した過激なもの言いを抑制すれば、評価を改めよう」

(済みませんでした。近親憎悪的なものをあの械体に感じて取り乱しました)

「まあ分からなくはないけどな。で、パキラはどこだ――」

 操縦籠クレイドル内壁の映像面に、方向指示らしい矢印が出る。そちらへ方向転換すると、丘の斜面に銀色の球体が輝いているのが見えた。

(あの斥力球リパルシブグローブの中です)

「さっきちらっと言ってたやつか。指示しなくてもパキラを守ってくれてたんだな、ありがとう」

(いやあ、それほどでも)

 100mほど空中を移動して着地し、斥力球に手を伸ばす。傍らの地面に掌を横たえると、銀色の輝きは消え、パキラの姿が現れた。

「パキラ、こっちだ。手の上に!」

 彼女が地面からカイルダインの掌に移動すると、ゆっくりと腕が持ち上げられていく。

(動作読み取りに影響が出るので、操縦籠には収容できません。少々手狭ですが、右肩の貨物庫カスケットへ入ってください)

「喋った!?」

 パキラの声に驚愕がにじんだ。

完全械態マキシマ解除まで残り2タルンです。どうします?)

「そうだな……あの流賊たちをどうするかはパキラに決めてもらうか。俺はたまたま今日ここに居合わせただけだが、彼女はいうなれば当事者だ」

 流賊たちは確かに許しがたい悪事を重ねて来たことだろう。だがここは21世紀の日本より、はるかに過酷な世界のように見える。自然災害や戦争などでやむなく居住地を離れ、無頼の生活に身を投じたものも少なくないはずだ。
 そう考えると俺の倫理観で彼らを一方的に裁くことは、どうしても不当だと思えたのだが――


 カイルダインの思念と俺の声は、伝声管らしきものを通じて貨物庫のパキラにも伝えられている。その経路を伝わって操縦籠内へ、彼女の返答が聞こえてきた。

「……頭目ラワジートだけは、絶対に殺して。ここから3千タラット南東に野営地があるわ。そこで酒浸りのはずよ」

 それだけ絞り出すように告げると、彼女は沈黙した。

「よし。カイルダイン、その場所まで飛べ」

(制限時間ぎりぎりですが何とか)

 操縦籠に映し出される大地がズームアウトし、とてつもない速度で後方へ流れ出す。廃墟を取り囲んだ流賊たちがゴマ粒のように小さく見え、今や彼らは算を乱して逃げまどっていた。

「釘くらいは刺しておくか……カイルダイン、俺の声を拡大して地上へ届けられるか?」

(もちろん。お安いご用です)

「よし、ならば……」

――お前たち! もう悪事は止めろ。いいか、俺はいつでも見ているからな!

欺陽槍ソアル・ランサーを一本、大地に向けて撃ち下す。岩の上に光の槍が突き立ち、恐慌をきたした騎雉キジが乗り手を振り落すのが見えた。徒歩の男たちが地にひれ伏し何かに祈るのも。

(よし……祈る対象があるのなら、改心する機会もあるだろう)

 ごく自然に湧き上がるその思いに、俺は自我の中に溶け込むもう一人を感じた
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