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【第十話】メンヘラカフェ
しおりを挟む「これ、最近コンカフェで流行ってるやつですね」
「どこ行ったの?」
「セ」
「セ?」
「……セクシー淫魔のメンヘラカフェ」
「性癖全部ぶっ込んできたなあ」
乾いた笑いは強かに地面へ落とされ、冷えた視線だけが頬に突き刺さった。営業先の希望で行ったのだが、興味がなかったかと言えば嘘になる。
期待したほどのセクシーさがなくとも、名前から性的なサービスを想像したのだろう。額に筋を浮かべた一色はやや乱暴に理人を押し倒し、貪るような口付けを与えた。
「んぅっ、お願い、舌は挿れないで……っ! 勃っちゃう、勃っちゃうから!」
「抜きまくった後なのに元気だね」
「もう潮しか吹けません」
「いいこと聞いた」
「やめてやめてやめて」
『お待たせいたしました。本日のゲームはティック・タック・トゥです。こちらのメイド様と行っていただき、勝てばクリアです』
絶妙なテンポで滑り込んできたアナウンス。オンエア前の撮り逃しは避けたいのか、叩き込むような早口で説明がぶち込まれる。
「はぁっはぁっ……狙ったようなタイミング」
「空気読んできたな」
『……お二人はお付き合いされていらっしゃるのでしょうか?』
「まさか」
「んなわけないじゃないですか」
見当違いな憶測は蹴り飛ばし、理人は唾液の伝う首筋を拭った。
目が覚めてから床に就くまで頻繁にメッセージを交わし、週末もなんだかんだ理由を付けては一緒にいる。オフィスで何度か「付き合っているのか?」と問われたことがあったが、答えはいつも変わらない。丁寧、かつ簡潔な否定。胸の奥に押し込んだ疚しい感情など微塵も出さずに笑い飛ばす。
あんな付加価値の塊のような人間に愛を強請れるのは、人生を極めた聖人君主か、身の丈を知らない愚か者だ。世知辛い現実社会に無償の愛は存在せず、何を得るにも対価が求められた。いくら胸が高鳴ろうと、嫉妬に胸が焦がれようと。代償を意識した途端に一気に気持ちが冷めていく。特に相手が同性となれば、社会からの風当たりも強い。
――もう愛を得るための努力はしない。
それがあの日、消え去った命の前で交わした約束だった。
乱れた髪も整えると一色の手を引き、理人はテーブルの方へと歩み寄る。
――ティック・タック・トゥ。コンカフェでは客が先攻であり、猫の駒を利用する。おそらくこちらも同じルールなのだろう。ブゥンッとそれっぽい音を立てて動いた駒は、プレイヤーである理人の前に並べられた。
「これどうやって遊ぶの?」
「猫ちゃんと魚を交互に置いて、縦、横、斜めのどれかに自分のマークを三つ並べれば勝ち、いわゆる丸バツゲームですよ」
「勝率はどのくらい?」
「やったことないんですか? 大概は挑戦者が先手になるので、ミスしない限り負けることはありません。チェキ売るためのゲームですからね」
客を飽きさせないマーケティングの一環、つまりは出来レース。ゲーム自体に意味があると言うよりかは、キャストとの時間を楽しむことが目的だった。
案の定、ゲームは五分と経たずして終了し、結果発表のポップな画面が表示される。引き分けの理人と勝利を得た一色。二人はそのままソファに腰掛け、発砲音と共に飛び散った鮮血をスクリーン越しに見つめた。スピーカーから垂れ流される、男の唸るような叫び声は、役者魂を感じさせるほどに生々しい。
「演出凝ってますね、予算枠広がったんでしょうか」
「……そうだね」
手渡された水を飲み、理人はダラダラと肉片のようなものを滴らせる映像を凝視した。暫しの沈黙の後、時刻表示へと切り替わった画面が、何事もなかったかのように時を刻み始める。
「これっていつまで続くんですかね」
「さあ、わからないなあ」
「運営さん、俺、来月は会社の社員旅行があるから参加できませんよ」
「土日挟んで行くのは珍しいね」
「ふふっ、今回は京都なんです」
「やんちゃしちゃ駄目だよ」
「痴漢系ヘルス気になってたんだけどなあ」
さすがに制裁を与えられたばかりのため、浮ついた行動は控えたい。
こつんっと一色の肩に頭部を凭れさせ、理人は天井を見上げる。大きな鏡に映った白い部屋は憎らしいほどに清潔で、息を詰まらせた。血の気が引く速度に合わせて聞こえてくる電車の走行音。それが幻聴だとわかっていても、身に染みついた恐怖はどこまでも付き纏う。
「大丈夫だよ、理人。君が眠るまで一緒にいるから」
影を拭い去るような囁きは、その心中を察してのものだったのか。冷えた指先に暖かな人肌が重なる。
瞼を閉じた一色に並び、理人もそっと目を伏せて、触れ合った指先から感じる強かな鼓動に耳を澄ませた。
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