【完結】賞品は四人目 〜セッ◯スかデスゲームしないと出られない部屋に取引先の社長と閉じ込められたけど、運営が手緩い~ 【衝撃のラスト】

桐ヶ谷るつ

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【第十一話】自己否定

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 短い秋を挟んで訪れた寒風は鈍雲を呼び、憂鬱な気分を寄せ付ける。営業部のホワイトボードに描かれた縦グラフを見据え、理人は鼻梁に皺を寄せた。

 赤いペンで塗り潰された数字。それがそのまま自分の価値に直結する。学生の時はテストの点で篩に掛けられ、就活時は出身大学で選別された。会社に入れば毎月のノルマに追い立てられて、秒単位で値札を張り替えられる。この身にはいつまで数字が付き纏うのだろう。金を生み出せるうちはいい。いつか精魂が尽きて、立つこともできなくなれば一気にガラクタへと転落する。

 自己承認力が欠如した生産性のない身体に、需要はあるのだろうか。貰い手がいたとして、その愛を素直に受け取ることはできない。ガチガチにこびり付いた自己否定が戯言だと嘲笑う。欲求と拒絶が混在する心。複雑に入り乱れたそれらは本人の意図せぬところで溢れ出し、歪な辛苦を垂れ流していた。

「隈がすごいことになってるな」
「稀に見る濃さだろ? 記念に写真撮ったところだ」

 手渡されたスマホに映った半目ピースの自撮り写真。見せられた者からすれば同情を引くどころか、どん引きだ。やつれた顔に加えて、瞬きの回数も過多。横に並んだ樹は理人の手元から缶珈琲を抜き取り、代わりに水を押し付ける。

「冗談言ってる場合じゃないだろ、こんなんばっか飲んでるから寝れないんだよ」

 カフェインは即効性があるものの、依存性があり過剰摂取は中毒に繋がった。少々強引だったかと窺い見た顔は青白く、壁に掲げられた数字へ釘付になったまま。いつもなら飛び交う批判すら述べる余裕がないのだろう。

 樹は理人の手を引き、人気のない談話スペースへと連れ込んだ。ソファに沈み込んだ身体が跳ね起きるよりも早く横へ付き、充血した瞳の上を覆う。

「少し寝ろ」
「これからミーティングなんだって」
「午後からだろ、五分前に起こしてやるから」
「プレゼンの用意があるんだよ」

 慌てて起き上がろうとするが、意識はすでに半分ほど飛び掛けている。理人はふらふらと頭を揺らしては、睡魔を拭おうと強めに目元を擦り上げた。揺れた視界とぼやける思考。振り切るように立ち上がった身体は大きく左へ逸れ、棚に備えられた雑貨を弾き飛ばす。

「わ、悪い……っ」
「悪いと思うなら、素直に言うことを聞いてくれ」

 大口を叩いた傍からこの醜態。樹の腕の中へと傾れ込み、体勢を立て直そうと突いた手はなにかのボタンへと触れる。ぱっと点灯したのは、部屋の奥に設置された壁掛けの薄型テレビ。小さなシグナルに反応したそれは音量MAXまで高められ、爆音で昼のワイドショーを流し始めた。

「はあ……朝からずっとこのニュースばっかだよな」

 理人の身体を支えたまま手を伸ばし、樹はテーブルに置かれたコントローラーで音量を調整する。ついでに電源を落とすはずが、先ほどの衝撃のせいでボタンがイカれたらしい。カラカラと金属片が転がる音に重なり、強かな舌打ちが落とされた。

「新人グラドルがもう脱いだのか?」
「違うって、もっと他のジャンルも見ろって言っただろ」

 苛立ちを含んだ声色に当てられ、ちらりと盗み見た顔は珍しく苦渋を晒していた。一体どれだけ胸糞悪いニュースなのかと、視線を動かしたところで理人は身を強張らせる。スクリーンの中でこちらを見据える男。その顔は先日あの白い部屋で見た男のものと重なった。腫れぼったい一重瞼が印象的で、なによりも左頬についた大きめのホクロは見間違えようがない。

「こいつ、刑務所の中で異状死したらしいよ。お前も知ってるだろ? 六年前に起こった無差別襲撃事件の男。当時未成年で顔が出なかった奴」

 獣が唸るような温度感で発せられた言葉。事件とは部外者である彼にすら怒りを抱かせるほどの事件だったのだろう。ぎゅっと締められた腕が胸に食い込み、理人の肺を圧迫する。

「俺らがまだ学生のころの話だ、大学で使う線だったからよく覚えてる」

 歯軋りの音が聞こえてくる横で、理人は目を大きく見開いたまま硬直した。静電気が走るように小刻みに揺れ始めた指先。ひゅっと冷えた空気に狭まった気管は、これから訪れる辛苦を予知していた。

 無意識に右手が何かを求めてシャツを手繰り寄せる。冷えた指先は誰を探していたのか。血の気が完全に消え失せた表情に、いち早く気が付いた樹が肩を叩くも、大きく開かれた瞳孔はすでに目に映るはずのない景色を追っていた。




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