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第三章 化け物
156.「なんだったら私と一緒に来る?」
しおりを挟む「そういや春哉ってなんであんな死にたがってたんだ?奴隷だったからだけじゃないだろ。あとこれ食べていい?」
暗い話になったついでに気になってたことを聞いてみたら「え」と呟いた春哉が呆れながら笑った。
「好きに食べて。桜って時々凄く無神経っていうかずかずか踏み込んでくるよね」
「気になって」
「まあ別にいいけど。僕は召喚されるまえ癌を患っていて余命1年って言われてたんだ」
「え?」
驚きすぎて齧った林檎が口から出そうになった。
慌てて口を抑えるけど春哉の表情は変わらないまま。
「母さんも父さんも僕を生かすために働いて働いて──弟は幼かったのに両親に甘えることも出来なくてさ。僕のせいで家族が壊れていくのを見てたら早く死んでしまえたらいいのになーって思うようになったよ。病室で寝っ転がってまったく同じ日をずっと見続けてるとなんのために生きてるのか分からなくなってくるんだ。あの世界で自殺しなかったのは皆が僕を好きでいてくれて……頑張ってくれてたことも知ってるしね、僕も皆が好きだったから。だから皆の為に死ぬまで生きようって思ってたのにさ、召喚されて使えるようになった治癒魔法で僕の癌は簡単に治ってしまった。もうあの世界に僕はいないからいつかした僕の願いは叶ったけどさ、僕たちはなんのために頑張ってきたんだって思っちゃったね。僕のすべてを否定された気がした──だからもうどうでもよかったんだ」
「……そっか」
甘い林檎のはずなのに苦く感じてしまってうまく笑えない。
春哉は「もう終わったことだけど」と首を振る。
「サクはなんでこの世界に来たの?」
「いや、気がついたらだけど。ああ成程」
この世界に召喚されるのは前の世界に未練を持たない奴らか恨んでいる奴らだ。春哉が自分のいない家族の姿を願ったように私にも何かあったのか聞いてるんだろう。だけど生憎そういった話はない。
「私は普通に高校生活送ってたよ。今年召喚されたアイフェって子がいるんだけどその子と一緒に出掛けようとしたら時間が止まったように周りが動かなくなったんだ。そのあと私だけ身体が消えていって気がついたら召喚されてた」
「今年召喚された子と知り合い?それって凄い偶然……偶然なのかな?」
「え?」
「だってそれってどれだけの確立だと思う?知り合いが召喚されたって話少なくとも僕は聞いたことがないし……あれ?」
春哉が疑問に首を傾げた瞬間、私も沸いた疑問にドキリとしてしまった。
「知り合いどころか大地と初代勇者空は兄弟だよね」
「召喚されたとき春哉はどこにいた?」
春哉と顔を見合わせて黙る。大地の証言で召喚の時間軸がおかしいのは分かった。
だけど場所はどうだろう。
「瀬尾病院」
「え、あ!そうか春哉の名字って瀬尾……え、すげえでかい病院じゃん」
「ということは知ってるんだ?!」
「隣にクリームパンが有名な店があるとこだろ!」
「そうそれそれ!」
こんな話が出来るとは思わなくて春哉と一緒に大笑いしてしまう。瀬尾病院の近所の話で盛り上がって涙まで浮かんでしまう。ここまで笑えたのは久しぶりだ。
「え、じゃあお前学校どこだったんだよ」
「西高」
「流石にそこは違うか、私は東高……となると時間軸はズレてるけど召喚される場所は限定されてるのか?」
「地図書いてみる?」
「書こ書こ」
春哉が紙を持ってきてくれたから羽ペンにインクをつけて2人して懐かしい話をしながら地図を作ってみた。私が召喚された場所と瀬尾病院がある場所を含めた結構大きな地図だ。
「戻ったら大地にも聞いてみよ。まあ、分かったところでだけど」
「そういや大地元気?」
「うるせーぐらい元気」
「それはよかった」
「……なあ、私の付き人だったミリアとか大地の付き人だったリューイが今どうしてるか知ってるか?というよりフィラル王国関連で知ってることある?」
地図を丸めて四次元ポーチに収納してたら悩むように俯いていた春哉が私を見て謝る。
「ごめん。僕は目が覚めてからすぐこっちに移動したからそれほど知ってることはないんだ。彼女たちのことは分からない。知ってるのはフィラル王国が勇者サクを失って傾いた威信を少しずつ取り戻しつつあること、呪いを解くために各地で魔物と戦っていたとされる勇者たちがフィラル王国に集っていること、勇者たちがフィラル王国住民だけじゃなくてオルヴェン全員に存在をアピールし始めたこと、勇者サクの遺体捜索に勇者と傭兵を使っていることぐらいだ。知っていてほしいのは笹山さんがフィラル王国の魔物討伐第一人者として魔物狩りをしてて……彼女は殺されることはないだろうけどこう、前の僕みたいに色々どうでもよくなってるみたいでフィラル王国の命令をなんでも聞いてるから気をつけて。翔太も最近おかしいんだ。ずっと魔力が無いとか魔法が使えないって叫んでたのに最近ずっと機嫌がいいらしいんだよね。桜の悪夢にかかってるのか発狂してる人と似た症状があるんだ」
「翔太が?」
「うん。ずっと独り言を言って笑ってるって」
「普通にヤバイな」
「うん」
翔太も勇者召喚に力を貸してたから多分呪いの影響かな。それは言わずに1人頷いていたら春哉はまだ話を続けた。先ほどよりも声のトーンは低い。
「あともう気がついてるかもしれないけどミリアやリューイたちはこの国の誰かの奴隷で、王の華って呼ばれてる」
「王の華……?」
「そう。ごめんね僕も探ろうと思ったんだけど……あ、誰か来たみたいだ」
遠くで春哉を呼ぶ声が聞こえてきて春哉はドアのほうを見る。もうそろそろ私も戻ったほうがよさそうだ。帰りはあの道を通らず転移でさくっと帰ろう。その場合ジルド達に転移したことがバレるけどしょうがない。
そんなことを思っていたらドアのほうを見ていた春哉が私を呼んだ。その声が焦っていたからすぐに顔を起こせば、先ほどまで普通のドアだったところに真っ暗な空間が存在していた。ここに来るときにみたものと全く同じ暗い道。
「あれ何?」
「……なんだろうな。私もよく分かってないけどあの道を通ってここに来たんだ」
「どうやって出したの?」
「知らない」
やっぱりこれは闇の者で私に憑いてるのかもしれない。帰ろうと思ったら現れるなんて言ったら良いかもしれないけどいまいち信用しきれない乗り物だからな……。
「あ、春哉。魔法でなんか作れねえ?」
「え?」
「今度こっちに来るときは春哉の魔力を目印に転移しようと思って。あると便利なんだよね」
「それって急に転移してくるんだよね?何があっても知らないよ?」
「……気をつける?」
方法はないけど一応警告に頷けば春哉が1個でいいのに10個ぐらいのビー玉をくれた。水色のビー玉は随分軽い。
「それは恵みの雫って言って食べるか潰して傷口にかければあっという間に傷が治るよ。水色になってると魔力が貯まってる証拠でこれには僕の魔力を貯めてるから問題ないでしょ?桜は治癒魔法が苦手みたいだからうまく使って。来てくれたら補充してあげる」
「分かった。サンキュ」
これは便利なものを貰った。やったねと四次元ポーチにしまっていたらさっきよりも近いところから春哉を呼ぶ声が聞こえてきた。このままドアが開いたらこの道は消えるんだろうか。少し興味あるけど諦めて道に向かう。
「慌ただしくて悪い。また今度ゆっくり会おう」
「そうだね」
「春哉お前気をつけろよ。やっぱりどう考えたってお前がこの国でしてること危ないわ。なんだったら私と一緒に来る?」
手を伸ばしたらパチパチ瞬いた眼が私を見て嬉しそうに笑った。
「止めとくよ。僕も人を殺しちゃってもう後には引けないんだ」
「ん?最後の最後で凄いカミングアウトでびっくりしてる」
「ははっ、ごめんね。クラリスだよ」
クラリス。
春哉が奴隷だったときの主人だ。
「……そっか」
「そうだよ。だから僕も王の華のことを調べようとしたけどもう分からないんだ」
「春哉」
ごめんねと笑う手を握れば再会したときのように握り返されたあと手放される。
「僕はここに残る」
「……そっか」
「さよなら桜またね」
春哉の別れの言葉を最後に私は動いていないのに視界が徐々に黒く塗りつぶされる。真っ暗な道が勝手に動いて私を飲み込んでしまったみたいだ。
微笑み浮かべる春哉は諦めた表情じゃなかった。なのに今はそれが何故だか悲しくて真っ暗になってしまった世界のなか泣いてしまいそうにる。真っ暗な道の先にはなにも見つけられない。私はどこに帰ろうとしたんだろう。
──帰る?ああそうだ、ジルドから借りた部屋に早く戻らないと皆が起きてしまう。
思い出せたから辺りを見渡せば真っ暗な世界のなか光る場所を見つけた。そこに向かって走り続けて──
「リーシェ姉ちゃんやっと帰ってきた!」
「……ただいま」
すっかり明るくなった部屋のなかベッドに座って足をブラブラさせていたリヒトくんが笑う。私は眠い目を細めながらリヒトくんの頭を鷲掴んだ。
「次もしああいう危ないものを使うときは前もって教えてくれる?」
「えーなんでリーシェ姉ちゃん怒ってんのー?リーシェ姉ちゃんが勝手にどこか行っちゃったんでしょ」
「私はずっとリヒトくんの手を握ってましたけど。リヒトくんが私を置いていったんでしょ」
「え~……あっ!リーシェ姉ちゃん怖かったんだ。ごめんね僕が置いてっちゃったんだよね」
急にお兄さん面して微笑むリヒトくんに私も笑いかける。
「いだっ!リーシェ姉ちゃんひどいや!」
「知らん」
頭を小突けばリヒトくんが大声出して抗議してくる。私も大人げなく譲ろうとせず子供みたいに言い争って。
「リーシェ様っ?リーシェ様、ドアを開けて下さい。どなたかいらっしゃるんですか?子供の声が聞こえるんですけど」
失敗したと思ったときにはいつも遅い。
ドアを叩くトゥーラの声を聞きながらリヒトくんを見れば「いーっ」と舌を出してきた。とりあえずリヒトくんの頬をつねっておく。
さて、どうしようか。
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