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44:ミリアの突撃
しおりを挟む「……マクミラン家に謝罪……。そこで…………ミリアが迷惑……挿げ替えてしまえば良い」
「私が、謝罪?」
偶然父親の執務室を通りかかったミリアは、微かに開いたままになっていた扉から漏れ聞こえてくる話に歩みを止める。
「ヘンティー小父様と、お父様。何を話しているの?」
もう少し近づこうとしたが、二人が会話を止めてしまい、ミリアもその場を後にする。
(私がマクミラン家に謝罪に行くってどういうこと? 私が何をしたっていうの…………もしかして、最近食事が美味しくないのって。アリシア様のせい?)
どんどんと食事の質が低下しているのは、アリシアのせいに違いない。少しジュリウスに近寄っただけで、ここまで嫉妬に狂うなんて。なんて浅ましい人間なのだろう。
カッとなったミリアは、感情的になったままマクミラン家へアポなしで乗り込むことにした。
◇
「アリシア様を呼んでください!!」
マクミラン邸門扉前で、ミリアは大声で叫ぶ。門番は困ったように眉を下げ「アポは取っておられますか」と尋ねた。
当然そのようなものは取っていなかったが、自分が会いに来たのだからアリシアが会わずに追い返すなど許されない。
「アポなんて取ってるわけがないでしょう! 早くアリシア様を呼んで!」
アリシアがバッカス家に圧力をかけている現状を辞めさせなければならないと。喚きたおすミリアに、門番はほとほと困り果てていた。令嬢を力ずくで押さえつける訳にもいかず、顔近くで甲高い金切り声が響き、頭痛までしてくる始末だった。
「なんだ、煩いな」
どうにか帰ってもらおうと試行錯誤していた門番たちだったが、剣の訓練でもしようと外へ出て来ていたアリシアのもとまで騒ぎが届いてしまう。
元凶がやっと現れたと、ミリアは目を吊り上げた。
「一体どういう事なんですか! どうして、こんな風に我が家に圧力をかけるのですか!!」
「圧力? 一体何のことですか」
不審に思い首を傾げるアリシアに、ミリアは苛立ったように歯を食いしばる。
「私が、毎日貧相な食事を食べなければいけないのは、あなたが我が家へ圧力をかけているからでしょう」
少しジュリウスにすり寄ったくらいでここまでやるだなんて、なんて陰湿な女だと、ミリアは門扉に手をかけ、喚き散らした。
バッカス家への圧力は、アリシアが誘拐されたからであり、アリシアのあずかり知らない所で当主が決定した事だ。アリシアには伝えられておらず、知る由もないことで罵られても困る話だ。
「何故私がバッカス男爵令嬢の家に圧力をかける必要があるのですか?」
「私が、ジュリウス様に声をかけたのが気に入らないからでしょう! 嫉妬でここまでするだなんて、なんて女なの!」
「私が、どうして貴方に嫉妬する必要があるのです? 公衆の面前で、恥ずかしいだろうに、私だけを愛して、私しか見えていないと言ってくださったのに。貴方に嫉妬して圧力をかけるような真似するはずがないでしょう」
悠然と笑ったアリシアは続ける。
「それに、貴方という女性は学習力のない女性ですね。私のジュリウスに名前で呼ぶなと言われたのを忘れてしまったのですか? 第一、婚約者がバッカス男爵令嬢のことを歯牙にもかけていないのに、私が気にするわけがないでしょう」
圧倒的勝者の笑みを浮かべられ、ミリアはぎりぎりと歯を鳴らした。
「じゃあ、どうしてヘンティー小父様がマクミラン家に謝罪にいけなんて言うのよ!」
「…………ヘンティー小父様?」
急に出てきた第三者の名前に、アリシアは眉間に皺を寄せオウム返しする。
「そうよ、ヘンティー・デッポット男爵よ! お父様と会話しているのを聞いたんだから」
「デポット男爵とバッカス男爵が、どんなお話を? なにか勘違いなさっているのでは?」
「私が勘違いなんてするわけがないでしょう! た、確かにちょっと聞き取りにくかったけど、マクミラン家に謝罪、ミリアが迷惑、挿げ替えるって聞こえたのだから!!」
きゃんきゃんと喚くミリアに、アリシアは考え込むようにミリアを凝視した。
(挿げ替える。挿げ替えるってなんだ? マクミラン家に謝罪とミリアが迷惑だけなら、彼女の言う通り、侯爵家が出てくる前に下手に出ておこうという意味に聞こえるが。挿げ替えるが分からないな)
顔を真っ赤にして唾を飛ばすくらい興奮しているミリアが、嘘を言うとは思えない。きっと確かにそう聞いたのだろう。
さて、どうしたものかと考えながら、アリシアはミリアに声をかけた。
「バッカス男爵令嬢。肝心なことをお忘れのようですが、侯爵家とはいえ、成人前の小娘が男爵家へ圧力を加えるだけの権力があろうはずもありませんわ。なにかの間違いだと思います、一度家へ帰って御父上に詳しく聞いてみてはいかがかしら。私も父にバッカス家へ何かしたか尋ねてみますわ」
人が集まり恥をさらす前に帰れと、真綿に包んだような言葉で伝えると、ミリアは渋々と言った様子でマクミラン家を後にした。
残されたアリシアは踵を返し、ジークが居るであろう執務室へと向かい、この事を話すことにしたのだった。
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