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45:デポット家の困窮
しおりを挟むトントンと重厚な扉を叩くと、中から聞きなれた声が聞こえる。入室の許可が出たため中に入ると、にこやかな顔をした父親に出迎えられた。
「お父様、ご機嫌麗しゅう。気になる話があったのでお伺いしました」
「やあ、アリシア。気になる話とはなにかな?」
カリカリと軽快な音を鳴らして動いていたペンを置き、ジークは話を聞く体勢に入った
アリシアは、ジークにミリアとの会話を報告した。
「というわけで、デポット家がバッカス家に訪れていることと、何についてかは分かりませんが、挿げ替えるという話をしていたみたいです」
机に肘をついたジークが「……挿げ替える、か」と呟いた。
「マクミラン家に謝罪に行き、ミリアが迷惑をかけたと謝罪を挿げ替える。我々がバッカス家にかけている圧力は、アリシアが誘拐されたからではなく、ミリア・バッカスがジュリウスに唾をつけようとしたから。こんな所だろうね」
ジークは、バッカス家にヘンティー・デポットが頻繁に出入りしていると、間者から報告がきていることから、裏にデポットが居るのだろうと思案していた。
「ゴロツキへの尋問からデポット家の名が出なかったことを思うと、ヘンティーはコーザへ協力をしているだけで、主犯ではないのだろう。しかし、コーザに協力するだけのメリットがあるのだろうね。デポット家へも間者をやり、情報を待とうか」
デポット男爵家へも間者をいれ、詳しい情報を待つことにした。
◇
「やはり、デポットが絡んでたか」
間者から、泥酔させたコーザから「ヘンティーの言う通りに誘拐した」という証言が取れたと報告があった。
椅子に背を預け、ジークは深い溜め息を吐く。
「あそこの家は男ばかりの家で、バッカス家はジュリウスが欲しい。利害が一致したか。あわよくばアリシアが手に入るチャンスを得られる、もし失敗しても困るのはバッカス家だけで、デポットは無傷でいられる。なんなら親切顔をして自分の息がかかった者をバッカス家に送り込めば、バッカスは自分に頭が上がらず、バッカス領を陰からデポットの良いように操れる、と」
狐のような男だと、ジークはもはや簡単すら覚えた。とはいえ、マクミラン家に情報を掴ませてしまったのだから詰めが甘いというべきか。
デポット男爵家へも圧力をかけるべきだろうと、ジークは手配を行うことにした。
◇ ◇ ◇
「ああ、鬱陶しい」
ヘンティーは、苛立たしげにグラスをテーブルに置いた。バッカス家へマクミラン家からの圧力が始まってからというもの、コーザの情緒は下降の一途を辿っており、常に情緒は不安定だった。そのため、バッカス家を操るために商人や知者を紹介してからも、コーザの精神状態は多少安定した程度で、なにかあったら、いや無くともヘンティーへと泣き言が届くのだった。
最近の泣き言は、マクミラン家に謝罪に言ったが、「なにも謝られるようなことはしていない。なんならお宅のお嬢さんに謝罪を頂いたから必要ない」と軽やかに突っぱねられたと言っていた。その度にぴーぴー喚くコーザを宥めるのに、ヘンティーは神経を使っているのだった。もう、役に立たない幼馴染を切ってしまおうかと愚考するくらいには。
「たく、娘が娘なら、親も親だ」
きゃんきゃん喚く小娘と、ピーピー泣く親。遺伝子のなんと強いことかと、ヘンティーはグラスに入ったワインを一息に呷った。
大息を吐いたヘンティーの耳に、扉がノックされる音が聞こえる。
「入れ……ベックか、一体どうしたんだ」
ヘンティーのもとを訪れたのは、家令のベックだった。
「それが、先ほど、我が家と取引のあったグレン商会とライク商会から相次いで、今月いっぱいで取引を打ち切りたいと連絡がございまして……。商会の恥なのでと理由は説明してくれませんでしたが」
「なんだと?」
ヘンティーの背中を、薄ら寒い何かが駆け上がっていた。マクミラン家がデポットまでたどり着いた?いや、そんなはずがない。大丈夫、まだ焦るようなときではないと、ヘンティーは震えそうになる我が身を抑えた。
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