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25:アンナへの通達
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「先生! どうでしたか、ジュリウスは剣を握れるようになりますか!?」
部屋から出てすぐ、待機していたらしいアンナが声をかけてくる。
「おや、御母堂。丁度良かった、詳しく話をしたいので、別室に案内していただけますか?」
応接室へと移ったサリアとアンドレは、ソファーへと腰掛ける。メイドがお茶の用意をするため一礼して去って行った。
「では、結論から。ジュリウス様は、この家ではなく、精神的健康に良い場所へ生活の拠点を移すべきであると愚考いたします」
「で、出て行かせろというの!?」
「そうです。ジュリウス様からは、貴女達家族への愛が伝わります。しかし、毎日が楽しいかという問いに、彼はあまり楽しくなかったとお答えになった。自分の体が弱いことで、家族に心配をかけ、他人に馬鹿にされるような原因となっていることを、心苦しく思っていらっしゃる」
狼狽えるアンナの言葉を肯定し、アンドレは淡々と伝える。
「そんなこと、ジュリウスが気にするような事ではないわ! 親が子供を心配するのは当たり前の事ではないの!」
「ええ、当たり前のことです。その当たり前が出来ない親がいる中、当たり前の事だと言ってのける貴女様が、良い母であることも、私は理解しています。しかし、親の心子知らずとはよく言ったものですね。ジュリウス様は、そうは思っていない。彼にとってこの家は、愛すべき家族がいる場所であり、自分を、そして、家族を苦しめる場所でもある」
アンドレは言葉を濁さず言い切った。
「さきほども申し上げましたが、私は人が病気にかかる原因として環境的要因があると思っています。その内、食事、生活環境、外力、患者の精神的健康、これらが全て適切に提供されているとは言えない状態にありました」
「そんなはず……! きちんと食事を提供していたわ、虐待まがいの事なんてしてない!」
「ええ、正しく理解しています。きちんと、家族と同じものを提供なさっておいででした。ジュリウス様は牛肉のワイン煮が好きだと話してくださいましたから。しかし、味付けが濃いとも仰った。人は本能的にバランスを取ろうとするものです。ご婦人に訊くなと言われそうですが、夏場汗をかいた時に、自分の体を舐めたことがありますか? 私はあるのですけれど。しょっぱいんですよ。
それって、人の体を構成するものの中に、塩が入っているって事だと思いませんか? そうでないなら、何故、汗が塩辛いのだと思いますか? 私は人が生きていくうえで、塩は必要不可欠な物の一つなのだと思っています。だったら、動くことをほとんどせず、汗をかかないジュリウス様と、体を動かし剣を振るご家族とが、同じだけの塩を必要としていると思いますか? きっとジュリウス様には必要ない。だから、味が濃い、塩辛いと感じることによって、自分が必要な物をバランスよく取り入れようとしている。それが生きるうえで必要な事だからです」
「これでは、適切な食事を提供しているとはとても言えない」とアンドレは言う。
「たとえ、今後適切な食事が提供なされたとしても、この場所が辛く苦しいものであるという事実は変わらない。それに、ジュリウス様が生活の拠点になさっているこの離れは、使用人が少ないですね」
「え、ええ。うちの使用人にも、ジュリウスを馬鹿にする者がいたから」
「だからこそ、手入れが行き届いていない場所がありました。幸いジュリウス様の部屋は汚れておらず、埃一つありませんでしたが。さて、ここで、どうして人間という生き物は掃除をするんだと思いますか? 掃除をせずとも、死んだりしませんよね?」
「不快だからでしょう?」
「ええ、不快だからです。では、何故、人はそれを不快に感じるのでしょうか。動物を埃だらけの部屋に入れて放置しても、彼らはきっと気にしないし、掃除をしようとしたりしませんよ。ということは、それらが人間にとって害のあるものであると、本能的に理解しているからではないでしょうか。まあ、これはただの仮説なのですけど」
アンドレは、何の根拠もないことだと肩をすくめる。
「この離れは人が少なく、手入れが行き届いているとは言えない。これでは、適切な生活環境を提案しているとは言い難い。外力と精神の健康は言わずもがなです。御母堂、どうかジュリウス様にとって、健康的に過ごせる場所に生活拠点を移してください」
自分達がジュリウスを苦しめる要因の一つを担っていると知って、アンナはがっくりと肩を落とした。
「分かった、すぐにジュリウスの生活拠点を移せるように手配するわ。場所については少し考えさせてちょうだい。夫と話し合う必要があるから」
アンナの返答に、アンドレは満足そうに首肯した。
部屋から出てすぐ、待機していたらしいアンナが声をかけてくる。
「おや、御母堂。丁度良かった、詳しく話をしたいので、別室に案内していただけますか?」
応接室へと移ったサリアとアンドレは、ソファーへと腰掛ける。メイドがお茶の用意をするため一礼して去って行った。
「では、結論から。ジュリウス様は、この家ではなく、精神的健康に良い場所へ生活の拠点を移すべきであると愚考いたします」
「で、出て行かせろというの!?」
「そうです。ジュリウス様からは、貴女達家族への愛が伝わります。しかし、毎日が楽しいかという問いに、彼はあまり楽しくなかったとお答えになった。自分の体が弱いことで、家族に心配をかけ、他人に馬鹿にされるような原因となっていることを、心苦しく思っていらっしゃる」
狼狽えるアンナの言葉を肯定し、アンドレは淡々と伝える。
「そんなこと、ジュリウスが気にするような事ではないわ! 親が子供を心配するのは当たり前の事ではないの!」
「ええ、当たり前のことです。その当たり前が出来ない親がいる中、当たり前の事だと言ってのける貴女様が、良い母であることも、私は理解しています。しかし、親の心子知らずとはよく言ったものですね。ジュリウス様は、そうは思っていない。彼にとってこの家は、愛すべき家族がいる場所であり、自分を、そして、家族を苦しめる場所でもある」
アンドレは言葉を濁さず言い切った。
「さきほども申し上げましたが、私は人が病気にかかる原因として環境的要因があると思っています。その内、食事、生活環境、外力、患者の精神的健康、これらが全て適切に提供されているとは言えない状態にありました」
「そんなはず……! きちんと食事を提供していたわ、虐待まがいの事なんてしてない!」
「ええ、正しく理解しています。きちんと、家族と同じものを提供なさっておいででした。ジュリウス様は牛肉のワイン煮が好きだと話してくださいましたから。しかし、味付けが濃いとも仰った。人は本能的にバランスを取ろうとするものです。ご婦人に訊くなと言われそうですが、夏場汗をかいた時に、自分の体を舐めたことがありますか? 私はあるのですけれど。しょっぱいんですよ。
それって、人の体を構成するものの中に、塩が入っているって事だと思いませんか? そうでないなら、何故、汗が塩辛いのだと思いますか? 私は人が生きていくうえで、塩は必要不可欠な物の一つなのだと思っています。だったら、動くことをほとんどせず、汗をかかないジュリウス様と、体を動かし剣を振るご家族とが、同じだけの塩を必要としていると思いますか? きっとジュリウス様には必要ない。だから、味が濃い、塩辛いと感じることによって、自分が必要な物をバランスよく取り入れようとしている。それが生きるうえで必要な事だからです」
「これでは、適切な食事を提供しているとはとても言えない」とアンドレは言う。
「たとえ、今後適切な食事が提供なされたとしても、この場所が辛く苦しいものであるという事実は変わらない。それに、ジュリウス様が生活の拠点になさっているこの離れは、使用人が少ないですね」
「え、ええ。うちの使用人にも、ジュリウスを馬鹿にする者がいたから」
「だからこそ、手入れが行き届いていない場所がありました。幸いジュリウス様の部屋は汚れておらず、埃一つありませんでしたが。さて、ここで、どうして人間という生き物は掃除をするんだと思いますか? 掃除をせずとも、死んだりしませんよね?」
「不快だからでしょう?」
「ええ、不快だからです。では、何故、人はそれを不快に感じるのでしょうか。動物を埃だらけの部屋に入れて放置しても、彼らはきっと気にしないし、掃除をしようとしたりしませんよ。ということは、それらが人間にとって害のあるものであると、本能的に理解しているからではないでしょうか。まあ、これはただの仮説なのですけど」
アンドレは、何の根拠もないことだと肩をすくめる。
「この離れは人が少なく、手入れが行き届いているとは言えない。これでは、適切な生活環境を提案しているとは言い難い。外力と精神の健康は言わずもがなです。御母堂、どうかジュリウス様にとって、健康的に過ごせる場所に生活拠点を移してください」
自分達がジュリウスを苦しめる要因の一つを担っていると知って、アンナはがっくりと肩を落とした。
「分かった、すぐにジュリウスの生活拠点を移せるように手配するわ。場所については少し考えさせてちょうだい。夫と話し合う必要があるから」
アンナの返答に、アンドレは満足そうに首肯した。
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